September.30,2005 しまった! 吹き替え版にするべきだった

        映画館で映画を観ることが少なくなってしまった。いまや、もっぱらDVDでの鑑賞がほとんど。理由はいくつかある。まず映画館に行こうとすると、それなりのエネルギーがいるということ。観たい映画のタイムスケジュールを調べて、電車で繁華街へ出る。目的の映画館に行き、チケットを買って、前の回が終わるまで廊下で待たされ、ようやく客席に入れる。席に着いてから、上映開始まで待たされ、携帯電話の電源を切れとアナウンスがあるから電源を切る。ようやく上映が始まると予告編はそれなりに楽しめるのだが、CMまで観せられるのには閉口する。いよいよ本編だと思うと、どうも暗闇でスクリーンを見つめていると睡魔が襲ってくるという癖があって、始まってしばらくは眠りの中ということも少なくない。さらに最近嫌なのが、全席指定制なる制度を採っている映画館が増えたこと。席なんて、映画館に入ってから自由に選びたい。座高が高い人が座った人の後ろになんか座りたくないし、ぺちゃくちゃお喋りをしながら見ている人の近くなんていうのも御免だ。だいたい全席指定で座ってみると、ガラガラの客席に、一部だけ人がいっぱいなんてことがある。これは不自然でしょ。

        そこへいくと、家庭でのDVD鑑賞は気が楽だ。いつでも好きなときに観られる。どんな格好をしていても観られる。寝っ転がって観るのもOK。途中で止められる事ができるのもいい。お腹が空いたら台所に食べ物を取りに行くことも可能。眠くなってきたら眠って、また続きを観ればいい。電話がかかってきても同じ。

        それでも、どうしても映画館で観たいと思う映画がある。ご存知ように香港映画好きの私は、まだ日本に入ってきていない新作香港映画を輸入DVDで観ることが大好きだ。広東語、英語字幕というハンディはあるものの、いち早く観られるのは魅力だし、永遠に日本未公開になってしまうのもある。そんな中でも『頭文字(イニシャルD)』は、日本公開が早いうちから決まっていたので輸入DVDは買わずに待っていた。そりゃあ、日本語字幕付きで観られた方がいい。

        『頭文字(イニシャル)D』は、字幕版、吹き替え版の二種類で公開された。どちらにしようか迷った私は、やっぱりいつものようにアンソニー・ウォンらの肉声が聴ける字幕版にした。ところが、映画が始まった途端に、これは大失敗だったことに気がついた。ヒロイン役で鈴木杏が出ているとはいえ、主演のジェイ・チョウは台湾人。他のキャストは全て香港人、スタッフも香港。ところが原作は、しげの秀一のマンガ。映画化に際して舞台を移すことなく、日本でのロケ。ジェイ・チョウは藤原とうふ店と書かれた車で登場する。映画はジェイ・チョウが、その車で帰宅する場面から始まる。日本のごく普通の田舎町の豆腐屋。二階建ての典型的な日本家屋。畳敷きの日本間でアンソニー・ウォンが酔っ払って畳の上で下着姿のまま寝ている。起こそうとしてもなかなか目を覚まさない。ようやく起きだして口にする言葉は広東語。そうなのだ。日本を舞台にした日本の話に広東語はおかしい。鈴木杏まで広東語だ、当然だけど。これはやはり日本語吹き替え版で観るべきだったのだ。

        日本という設定、しかも20代から30代の役者が高校生役という不自然さは、そのあとの公道ダウンヒル・レース・シーンになると、それほど気にならなくなってくる。それほどこのレース・シーンは迫力がある。どうやら原作の榛名山(秋名山になっているが、これは明らかに榛名山)のワインディング・ロードに、他の場所での撮影も組み合わせたらしい。私はもっぱらオートバイ派だったし、別に走り屋でもなかったから、ここに登場するハチロクやらRX−7やらという車に関する知識は皆無。それでも公道レースのスリリングさは抜群。とはいえ、映画の冒頭でテロップが出るように、実際に真似しちゃいけないよ。こういうのは、マンガや映画の中だけのことだからね。


September.7,2005 香港でもダイエットが関心事とは

        私が初めて海外旅行に行ったのは、1980年の2月。場所は香港だった。行く場所はどこでもよかったのだが、本音を言うと本当は行くのならタイかインドあたりに興味があった。同行のSは海外旅行経験が豊富で、よくアジア旅行の面白話をしてくれていた。そのSに連れて行ってもらえば、きっと楽しい経験が出来ると思っていたのだ。Sの都合もあって、出発日を2月初旬に設定した。やがてSから連絡が入り、なぜかこの時期は飛行機が満席で取れないと言う。取れるのは唯一4日間の香港パッケージ・ツアーだけだというのだ。最初の旅行でもあるし、パッケージ・ツアーでもいいかと思い、私はこのツアーに参加する形で香港へやってきた。

        現地に着いてみて、なぜどの飛行機もいっぱいで取れなかったのかという理由が明らかになった。ちょうど旧正月だったのである。私たちが到着したのは、いわば旧暦の大晦日だった。香港の街は普段以上に人で溢れかえっていた。映画館ではジャッキー・チェンの『ヤングマスター』(師弟出馬)が正月映画として封切られていて、映画館は満員の賑わいだった。そのエネルギーに圧倒されてしまった私だったが、食べ物が美味しいのにはもっと驚いた。Sと屋台に繰り出して海鮮鍋を突いた。あまりの美味しさに汁まで全て飲んでしまった。飲茶も美味しかった。酒屋の店先で飲んだビールも美味しかった。そして、どこへ行っても食事をする人でいっぱいだった。みんなかなりの量の食事をしている。香港の人は食べることが好きなんだなと思った。

        そのうちに面白いことに気がついた。香港では太っている人の姿が、ほとんどいないという事実だ。街を歩いていると、ほとんどの人がスリムな体型なのだ。あれだけの食事をしていて痩せている。これはきっと中国4000年の食文化の賜物に違いない。油を使った料理を食べても体に脂肪が付かない工夫がされているのではないか。いや、きっと食事中にガブガブ飲んでいるお茶に秘密があるのではないか・・・とか。

        まさか、そのあともリピーターとなって何回も香港に足を運ぶことになろうとは思わなかったし、こんなに香港映画が好きになるとも思わなかった。そうやって香港を訪問するたびに、太っている人の割合は少しずつ増えていったような気がする。街にはコンビニやファスト・フードの店が立ち並び、若い人の食習慣は変化していったに違いない。

        ジョニー・トウ監督が、リサーチの結果、今香港の人間がもっとも関心があるのがダイエットだとのリサーチから、アンディ・ラウ、サミー・チェンでコメディ映画『痩身男女』を撮ったのが4年まえ。そうか、香港でも今や肥満は大きな問題になっているのだ。

        バリー・ウォン制作、マルコ・マック監督の『痩身』(Slim Till Dead)は、ダイエットをテーマにしたサイコサスペンス。



        スリムクイーン・コンテストに出場した女性が、次々と誘拐されて、やがて餓死した死体が街に棄てられていくという事件が起こる。この事件を追う刑事がアンソニー・ウォン。次は自分なのではないかと不安にかられている女性にチェリー・イン。この映画のストーリーを説明するのはちょっと難しい。何か書くとネタバレになってしまいそうだからだ。犯人は誘拐してきた女性を一室に閉じ込め、食事を一切与えず、手錠と鎖で繋いでしまう。犯人の姿は画面に出てこないから、どんな人物なのかもわからない。果たして、犯人は誰なのか、目的はなんなのか。それらは映画のクライマックスで明らかにされることになる。

        それと同時に、アンソニー・ウォンの刑事の私生活が描かれていく。彼には妻がいるが、もう2ヶ月もセックスが無い。痴話喧嘩の仲裁という骨の折れる仕事をこなしてヘトヘトになって家に帰ってれば、妻はこの夜もセツクスを拒否。彼はコンドームを使うのが嫌いで、妻はピルを飲むが嫌い。どうやら、ピルは太るというのがその理由らしい。このあたりのやり取りは、深刻な描写ではなく、お色気コメディのような仕上がりになっていて、メインテーマであるサイコサスペンスの息抜きという感じ。

        そしてついに魔の手はチェリー・インに伸びてくるのだが・・・・。う〜ん、これ以上は書けないな。


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