January.11,2006 『ディック&ジェーン 復讐は最高!』(Fun with Dick & Jane)

        新宿で暇を潰さなければならなくなって、ちょうど時間がピッタリだったというだけの理由で、これを上映している映画館に入ってしまった。土曜の最終回、763席という大きな劇場にお客さんが数十名ほど。

        ジム・キャリーという俳優はアメリカで受けているのだろうか? まったく個人的な好みでしかないのかもしれないが、私はどうもジム・キャリーという役者が苦手だ。だからなるべく観ないようにしていたのだが、今回も観ていてゲンナリしてしまった。ジム・キャリーを初めて観たのは1994年作の『マスク』。このときは、なんとも騒々しい役者だというくらいの印象しかなかった。私としては相手役のキャメロン・ディアスの魅力に気持ちが奪われていたから、ジム・キャリーはうるさい役者だくらいにしか映っていなかったのかもしれない。これがきっかけでジム・キャリーの出演作は、その後も続々と日本公開されていくことになる。次に観たのが確か『エース・ベンチュラ』だったと思う。これも、騒々しい男というくらいの印象だったが、その演技が私には鬱陶しく感じられた。

        私が決定的にジム・キャリーが苦手になったのが『マスク』と同じ年に制作された『ジム・キャリーはMr.ダマー』。こういう人の迷惑を省みずにやりたい放題にふざけまくる映画に、私は気分が悪くなってきた。ようするにジム・キャリーの笑いは悪役でしかありえない笑いなのだ。だから決してヒーローとはいえない『マスク』ができたのであり、続く『バットマン・フォーエヴァー』でもバットマンを相手にする悪役。1996年の『ケーブル・ガイ』を観たときに、ようするにこの人は悪役としてしか映画に出られないのではないかと思うようになっていた。そのころからジム・キャリーの映画は観ないようになっていた。なにやら善人を演じているらしい『トゥルーマン・ショー』でさえ、嘘くさく感じられてしまい観る気にならなかった。

        そして久しぶりに観てしまった『ディック&ジェーン 復讐は最高!』。なんだろね、これ。途中まではいいのだよ。勤めていた会社が、社長の策略で計画倒産。ディック(ジム・キャリー)は失業することになる。なんとか再就職をしようと、いろいろな会社を回るが仕事が見つからない。やがて生活費は底をついてしまう。問題なのはここから。ディックは妻のジェーン(ティア・レオーニ)と強盗を始めるのだ。始めた当初は失敗続きで、このあたりの描写は楽しめるのだが、強盗が成功し始めてからのジム・キャリーの表情は私には耐えられなくなってきてしまった。映画なんだし、喜劇なんだから強盗をしちゃいけないなんて倫理的なことは言わないが、ジム・キャリーが演ると、「そんなことは正当化できないでしょ」という気分になってくる。

        話は、会社の金を持ち逃げして悠々自適に毎日を送っている元社長から金を取り戻す方向に向うのだが、そのころには、こちらの気分は引いてしまっていた。

        なんていうのかなあ、ジム・キャリーの笑いには品が無いんだなあ、きっと。この品の無い笑いを面白がれるかどうかがジム・キャリーを好きになれるかなれないかの差なんだろうけど、もしジム・キャリーがアメリカで大人気なんだとしたら、アメリカ人って品のない人たちの集りだということにならないかい?


Janeary.2,2006 『拳鬼』

        年末に石橋雅史さんのご出演なさった映画やテレビ・ドラマをまとめてダビングしてもらったので、このところはこれらを片っ端から観ている。元旦に観たのは1995年のVシネマ『拳鬼』。石橋さんが東映の空手映画に盛んにご出演になっていたのは、1973年の『ボディガード牙・必殺三角飛び』から始まって、1977年あたりまで。石橋さんは1933年のお生まれだそうだから、このころの石橋さんは40歳から44歳といった時期に当たる。身体の切れもよく、ところどころでスタントマンも使ってらしたようだが、ほとんどの格闘シーンはご自分でなさっていた。

        さて『拳鬼』は、1995年の作品。今から10年も前とはいえ、石橋さんはもう62歳ということになる。さすがに格闘シーンではアップのところだけ石橋さんで、引きのところはスタントだ。それでもどうしてどうして60代とは思えないほどの動きだ。

        原作は今野敏の『拳鬼伝』。映画は4人のヤクザ者の前に立ち塞がった老人が、それぞれ一撃で相手を倒してしまうところから始まる。これがもちろん石橋さん。1人は即死、3人は重症で病院に担ぎ込まれる。事件を捜査する刑事は、素手で殺したという手口から空手を使う人物が犯人だと推理する。そこで整体師をやっている阿部寛の元を訪れ、入院中の男の様子を診て貰う。阿部は、これは八極拳の使い手によって受けた傷だと見破る。実は阿部には嫌な過去がある。昔、空手をやっていた阿部は、同じ道場の仲間と闘っているうちに相手を過失致死させてしまったのだ。それで空手を辞め、今では整体師になっているというわけ。

        阿部が死亡させてしまった相手は、周永伯という八極拳の使い手を尊敬していた。やくざ社会で、‘蝙蝠’という名の殺し屋が暗躍していると知り、阿部はこの犯人が周ではないかと思う。やくざの組事務所で阿部はたまたま‘蝙蝠’と遭遇し、彼と闘うことになる。激しい闘いの末、阿部は‘蝙蝠’に重症を負わされてしまう。この空手シーンは見ものだ。もちろんスタントは使っているが、かなりの部分を石橋さんが演っておられるように思われる。血反吐を吐いて倒れた阿部が‘蝙蝠’に言う。「周・・・永伯。 そうなのか? あなたが周永伯なのか?」 「誰だ? やくざではないな。なぜ私の邪魔をする」 「あなたは、なぜあんな事をする。あなたの拳は人を殺すためのものではないはず」 「私は周永伯ではない。周永伯はもう死んだ」 立ち去ろうとする石橋さんに、「待ってくれ!」 このあとの石橋さんの台詞がいい。「お前の拳は血の臭いがする。私と同じ臭い。人殺しの拳」

        後半に入って、なぜ周永伯が‘蝙蝠’という名の殺し屋になっているのかがわかる仕掛けになっている。気がつくと相手を殺すつもりで空手をやってしまう阿部と、殺し屋になってしまった周永伯との最後の闘いも見せ場になっている。

        1995年といえば、阿部寛は、つかこうへいの『熱海殺人事件・モンテカルロイリュージョン』の只中にある。一皮剥けた時期だといえる。この阿部寛の演技もいいが、やはり石橋雅史さんの存在感は凄い。62歳の石橋さんが、それよりも上の年齢の老人を演じている。歩き方ひとつとっても、ひょこひょこと歩くさまなど、いかにも役を作りこんでいる感じではないか。この辺が、格闘家である前に役者である石橋さんの凄いところなのだ。


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