April.9,2007 帰って来た男たち

        2月にジョニー・トーの『放・逐』(Exiled)が突然に観たくなって、輸入DVD屋で買いに行ったら品切れだったって事を書きましたが、その後、入手。リージョン・コード3。へへへ、でも、わがリージョン・フリーの中国製格安DVDプレイヤーなら大丈夫、ちゃーんと視聴できるもんね。



        見てよ、これ。DVDの裏ジャケの写真なんですが、もうこれだけでゾクゾクしてきたら、あなたも確実にジョニー・トー中毒患者です(笑)。左からフランシス・ン、ロイ・チョン、アンソニー・ウォン、ラム・シュー。全員がコート姿で鞄を持っている。ジョニー・トー・ファンなら、この面子を見て気がつくはずですが、この4人は、4人とも『ザ・ミッション 非情の掟』(The Mission 鎗火)のボティガード。実際、制作中は『鎗火2 放・逐』となっていたらしいから、やっぱりジョニー・トーとしても、その線を狙っていたんでしょう。でも、出来上がったものは『ザ・ミッション 非情の掟』を軽く超えてしまったと断言します。

        この4人がマカオにやってくるところから映画は始まります。上の写真は、そのシーン。4人はニック・チョンの家に向う。ニック・チョンは香港のボス(サイモン・ヤム)を暗殺しようとして失敗。各地を転々として疲れ果て、奥さん(ジェシー・ホー)と生まれたばかりの赤ん坊と一緒にマカオに戻ってきた。ところが情報は早い。さっそくサイモン・ヤムはアンソニー・ウォンにニック・チョンを始末しろとの命令。それでラム・シューを連れてやってきたというわけ。一方フランシス・ンは、そんなニック・チョンを救おうとロイ・チョンを連れてやってきた。ところが5人は昔っからの仲間という図柄なのだ。

        ニック・チョンが家財道具を積んだ小型トラックで引っ越してきたところを、アンソニー・ウォンとフランシス・ンが一緒に家の中に入る。さあ、3人による銃撃戦が始まる。薄暗く狭い室内で銃声と火花と煙が舞い上がる。おお、あのスタイリッシュなジョニー・トー節が帰って来たという感じ。赤ちゃんが泣き出してしまい、3人はとりあえず座って話そうじゃないかということになる。ところが気がつくと家具が何もない。トラックに戻って荷物を下ろし、お引越し開始。5人の男が協力しあってお引越しの手伝いをテキパキとするところは、一転、微笑ましくも楽しいシーンだ。ほぼ片付いたところで、フランシス・ンが中華鍋を振るってお料理。敵味方とはいえ、幼なじみが集っての会食シーンとなる。

        お腹がいっぱいになると、男たちはすっかりうちとけてしまう。ニック・チョンは逃走資金が尽き一文無し。なんとか金が欲しいと言い出す。それは翌日考えようと全員がソファなどに散って眠りにつく。

        さて、こうやってストーリーを最後まで追っかけていってもいいのだが、それでは今秋日本公開予定だというから、そのときまで楽しみにしている人たちの興もそぎかけかけないので、このへんにしておきましょうか。

        銃撃戦のシーンは全部で最初のものを含めて5回ある。このあと、レストランでの銃撃戦、闇医者の家での銃撃戦、金塊強奪シーンでの銃撃戦。金塊輸送車を襲うのが、このDVDの表のジャケットのシーンの直後。なんだか、日本の変身ヒーローものが闘う荒涼とした風景なんです。そのあと、畑が広がる場所で輸送車襲撃のシーンがある。



        しかし、なんといっても圧巻なのは、ラストのコロニアル風ホテルでの闘い。罠だとわかっているのに4人はホテルへと向う。これがかっこいいんだなあ。おそらく古くからの映画ファンだったら、サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』のラスト。敵地へ向っていく4人の姿を、これに被せるに違いない。

        死を覚悟している4人がホテルに入り、バーのカウンターからウイスキーを持ち出してラッパ飲みする姿が、どこか愛しくもある。そんな中にも遊び心があるのがジョニー・トー。酔っ払った4人はふざけながら証明写真撮影用のボックスで記念写真を撮る。そういえば冒頭の引越しのシーンでもみんなは記念写真を撮っていた。

        さあ、いよいよ銃撃戦の開始。『ザ・ミッション 非情の掟』で本筋と関係なく、ボディガードたちが紙くずサッカーを始めてしまうシーンを憶えているだろうか? サイモン・ヤムがフランシス・ンにレッドブルの空き缶を投げつける。すかさず、それを足で蹴り上げるフランシス・ン。それをロイ・チョンがヘディングで受け、ラム・シューがさらに蹴り上げ、そしてアンソニー・ウォンが天井近くまで蹴り上げた瞬間から銃撃戦が始まる。私はやはりサム・ペキンパーの『ゲッタ・ウェイ』を思い出した。ホテル内での銃撃シーンである。

        複雑な台詞もあまりなく、英語字幕で十分に理解できる内容。いやあ、久しぶりでスタイリッシュなジョニー・トーが堪能できる作品。ジョン・ウーなんかもあきらかにサム・ペキンパーの影響を受けていると思われますが、私はジョニー・トーの方が好きですね。なにしろ、ジョン・ウーにはない遊び心を持っている点が大きなポイント。

        秋の日本公開まで、待ちきれないでウズウズしてきたでしょ(笑)。


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