July.15,2007 ハリウッド・リメイク絶対反対

        今年のゴールデンウイークに輸入DVDで『傷城』を観たのだが、どうも英語字幕では微妙なところが理解できないところがあって、このコーナーに書くのをためらっていた。どうせ2ヶ月もすれば日本公開が決まっていた作品でもあるので、映画館でもう一度観てからでもいいかと思っていた。それで、観て来ました。邦題『傷だらけの男たち』。監督が『インファナル・アフェア』のアンドリュー・ラウとアラン・マック。



        傷だらけの男たちとは、主演のトニー・レオン扮するヘイと。金城武扮するポンのこと。全編を通してみると、なるほど二人とも心が傷だらけになってしまうことがわかるのだが、どうなんでしょう、このタイトル。「傷ついた二人に愛を呼び戻した、殺人事件」というキャッチ・コピーも、ラスト・シーンまで観るとなるほどとうなずけるところもあるのだが、「愛」なんて言葉をキャッチコピーに使って女性客を呼ぼうという配給会社の意図が見えてしまい、なんだかなあ〜。

        映画は、2003年のクリスマス・イブに始まる。ジャズ・ヴォーカルで『サイレント・ナイト』が流れる中、ヘイとポンの二人の刑事がバーで待機している。上司であるヘイがポンに声をかける。ポンは下戸なのだが、周りに悟られないように飲めない酒のグラスを手にしている。やがて外で張り込んでいた刑事たちから通報が入る。女性を殺している連続殺人鬼がターゲットを車に乗せて走り出した。車で追う刑事たち。ポンも車で後を追う。途中、反対車線で車が爆発炎上しているシーンが入るが、これが最後の方になって伏線となっている。

        犯人の家に突入する刑事たち。犯人の身柄を確保するが、被害者の女性はすでに身体をカッターナイフで切られて負傷している。それを見たヘイは犯人を殴りつける。それも執拗に。ここがかなり暴力的なシーンで、なんでここまでやるかと思わせるのだが、ヘイの持つ悪に対する憎悪が表れている重要なシーンだ。犯人を逮捕してポンが帰宅してみると、恋人(エミー・ウォン)がリストカットして自殺している。

        物語は突然「3年後」というタイトルが出て、飛んでしまう。ヘイはお金持ちの娘と結婚している。いわゆる逆玉ってやつ。一方、ポンは警察を辞めて私立探偵なんてことをやっているが、恋人の自殺のショックからか飲めないアルコールに手を出して、今やいっぱしのアル中。ところが、やっぱり金城武にアル中役は無理だったようで、どこか健康的な万年青年の顔が覗いてしまい、ミスキャストのような気がしてしまう。ポンは恋人が自殺した夜に来ていたというバーに入り浸って、恋人がなぜ自殺したのかを毎日考えている。この自殺の理由は、後半になってわかるのだが、英語字幕でわかりにくいのだろうと思っていたら、日本語字幕で観ても今ひとつわかりにくい。

        ここで、ヘイの妻スクツァン(シュー・ジンレイ)の父チャウ(ユエ・ホワ)が襲われ、惨殺された上に、金品を奪われるという事件が起こる。画面はヘイが犯人のひとりであることを最初から捕らえている。ここでもヘイの暴力性が、これでもかと描かれており、単なる物取りではない怨恨であることがわかる。

        事件は仲間割れと死んだ二人の犯人が見つかり、決着してしまう。しかし納得のいかないのがヘイの妻であり、チャウの娘であるスクツァン。彼女は探偵になっているポンに捜査を依頼する。

        日本語字幕で観ても、まだいろいろと不明なところがあり、謎解きもなんだかすっきりとはわからないところがあったのだが、まあ、それはいいのかもしれない。それにしても、ラスト近くなって、ヘイとポンの心の傷がどんどん深くなっていくあたりが、いかにも『インファナル・アフェア』のスタッフだなあと思う。

        いくらかでも救いがあるとすれば、ポンと行きずりの関係から発展していくビールのキャンペーンガールのフォン(スーチー)の明るさか。

        日本版のポスターは、どうも気にいらない。どうも香港のポスターに手を加えたらしいのだが、絶対に元になった香港版の方がいい。背を向き合った香港版の方がデザイン的にもいい。しかも、日本版は元の写真をイラストに変えているらしくて、金城武の顔があまり似ていなくて、しかも表情がとてもイヤだ。ねっ、下の香港版の方が誰が見たっていいと思うでしょ。これに較べると、日本のは昔、映画館の前に置かれたイラスト看板みたいだ。



        早くもまたデュカプリオでハリウッドがリメイクするという。もう目に見えるようですね。静かに重く傷ついていく香港版に対して、ハリウッドはまた派手なアクションと騒々しいやり取りで、この映画を描こうとするに決まっているんだもん。アジアの無常の心なんて、やつらは絶対に理解できない。


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