Augast.19,2007 アンドリュー・ラウ的アメリカ映画

        『インファナル・アフェア』三部作を撮り終えたアンドリュー・ラウは、やがて『傷だらけの男たち』を撮ることになる。この映画については先月書いた。その前に何を撮っていたかというと、まず日本の漫画を原作にして日本ロケをして『頭文字D』を撮る。ほとんどが香港の俳優さん。でも舞台は日本という不思議な映画だった。次に韓国の俳優を使いオランダで撮影した『デイジー』(私は未見)。そしてこれ、極めつけはアメリカで、アメリカの脚本家、アメリカの俳優を使って撮った『消えた天使』(The Flock)だ。

        もともと、アンドリュー・ラウという人は実態のわからない人で、デビュー作の『欲望の街』(古惑仔)シリーズの斬新な映像が持ち味かと思えば、『風雲ストームライダース』や『レジェンド・オブ・ヒーロー中華英雄』なんて古装物のワイアーアクョンで、「どうしちゃったの?」と思わせ、突然かの『インファナル・アフェア』ときたものだ。この三部作も、一作ごとにタッチが違う。な〜んかつかみどころがない人なんですねえ。

        で、『消えた天使』ですが、もうまるでアメリカ映画。アンドリュー・ラウが撮ったと知らなければ、フツーにアメリカの監督が撮ったとしか思わなかったでしょう。テーマも性犯罪者って、いかにもでしょ。

        くやしいから、無理にでもアンドリュー・ラウらしさを探すとしたら、やはり、ところどころでインサートされる誘拐された女性が暴行を受けているシーンかなあ。それと、エロル(リチャード・ギア)の内面を描く手法か。おそらく、アメリカ人の監督が撮ったら、もっと激しやすい主人公に撮ったろうけれど、ここでのエロルは静かに内向している。それが逆に不気味。性犯罪者に異常な憎しみを抱いていて、通り魔に見せかけて何もしていない相手をバットで滅多打ち。それでいて平然としているなんて、こういう感覚、アメリカ映画では今まで少なかったような気がする。アリスン(クリス・デインズ)が犯人に拳銃を向けて立ちすくむ姿を「もう終わったのよ。あなたの仕事は終わったのよ」と諭すところも、な〜んか東洋的な気がする。

        とすると、アンドリュー・ラウ、『インファナル・アフェア』が『ディパーテッド』としてどんなデキになるか予想して、「オレがアメリカで、アメリカ映画を撮るなら、こうするね」という証しだったんではないだろうかと思うのだけど。


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