January.23,2008 復活! ミスター・ビーン

        NHKで放送されたテレビ版『ミスター・ビーン』は大好きで、よく観ていた。これぞイギリスの笑いという感じで、日本のお笑い番組など逆立ちしても敵わないというくらい面白い番組だった。ローワン・アトキンソン演じるミスター・ビーンのキャラクターは、ほとんど喋らない。かといって無口というのでもない。そう、サイレント映画の喜劇の線を狙っているようだ。ただし、他の人物は喋る。そこにサイレント映画から抜け出してきたようなローワン・アトキンソンのミスター・ビーンが絡むと、抱腹絶倒な笑いが生まれる。今は亡きピーター・セラーズの笑いにも通じる類の笑いとでも言うのだろうか。ピーター・セラーズのクルーゾー警部から台詞を奪ってしまった笑い。

        それを何を勘違いしたのか、1997年にハリウッドで作られた映画版ミスター・ビーン『ビーン』はつまらない出来だった。ミスター・ビーンがイギリスからアメリカへ渡る話なのだが、なんとミスター・ビーンは喋ってしまうのだ。これではテレビ・シリーズで築き上げたキャラクターが根本から崩れてしまった。しかも、ハリウッドらしい薄まった笑い。つまらないメッセージまでが盛り込まれているという白々しさ。がっかりして映画館を出た記憶がある。

        それから10年。ローワン・アトキンソンは再び映画で戻ってきた。『Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!』 もうタイトルからして観る気が失せる邦題だ。これでは一昔前の安っぽい喜劇のタイトル。いかにも初笑い客を呼び込もうとしているようなネーミングではないか。あまり気乗りがしないものの、久しぶりにミスタ・ビーンが観られるという理由だけで出かけた。しかしこれが大当たりだった。

        ストーリーはといえば、カンヌ旅行の懸賞に当ったビーンがロンドンからパリへ飛行機で渡り、そこからカンヌを目指すロードムービー。原題が『Mr.Bean’s Holiday』。つまり休暇旅行ネタ。フランス語がわからないという設定が功を奏した。私はピーター・セラーズの『パーティ』を思い出してしまった。パリ到着直後から、言葉がわからないという状況ギャグをいくつも見せておいて、ビーンがカンヌ行きの列車に乗れなくなってしまうことから始まるロードムービーの形で、ギャグを繋げて笑いっぱなしの1時間30分に仕立て上げた。

        とにかく笑いたい人は、悪い事言わないから観に行って欲しい。徹頭徹尾スラップスティック・ギャグがギッシリ。一瞬も目が離せない。ラストでちょっと感動のようなものがあるが、それは映画にまとまりをつけようとしたものだろう。ビーンが副賞で貰ったビデオカメラを回しながら旅を続けるというのがミソで、それが最後に効いてくる。しかも最後の最後まで。クレジットロールのあとにオマケの映像もあるから、途中で帰っちゃうと損するよ。


January.12,2008 何回繰り返せば気が済むのか

        よりによって、新年最初に映画館へ観にいったのが『勇者たちの戦場』(Home Of TheBrave)。何も正月から観に行くような映画ではないとは思うのだが、なぜかこれになってしまった。

        冒頭のイラクでの戦闘シーンでまず、お屠蘇気分は吹き飛んだ。もちろん私は戦争の現場を経験しているわけではないが、かなりの迫力で迫って来る。民間人のために医療品輸送の任務を受けた部隊が、ある街に入っていくとゲリラの待ち伏せに遭う。援軍に助けられるものの、死亡してしまう者、重症を負ってしまう者も出る。

        そんな彼らの帰国後の話がこの映画の主題。観ているうちに、かつてベトナム戦争からの帰還兵を扱った数々の映画を思い返していた。『ローリング・サンダー』『ディア・ハンター』『ランボー』『7月4日に生まれて』・・・。そして、アメリカという国はなんて同じことを繰り返しているんだろうという思いにかられてしまった。

        ウィル(サミュエル・L・ジャクソン)は軍医としてイラクへ行くが、帰国後はアル中になってしまう。う〜ん、『スター・ウォーズ』のジェダイの騎士メイス・ウィンドウがこんな姿になってしまうなんて。自分の息子に「この戦争は間違っている」と言われて「お前に何がわかる! 俺は実際に戦場にいたんだ」と怒鳴る。ヴァネッサ(ジェシカ・ヒール)は右手を無くして義手をつけて体育教師に復帰するが、満足に動かない自分の身体に苛立ちを募らせる。トミー(ブライアン・プレスリー)は以前勤めていた銃砲店で再び働こうとするが、もう別の人物が店員となっていて職に復帰できない。ジャマール(カーティス・ジャクソン)は恋人のもとへ行ってみると、付き合いを拒否されてしまう。

        こういう現実を見せられてしまうと、戦争に行って得をしたと思える人物なんているのかと思えてくる。アメリカはいつになったら気がつくのだろうか。そしてこんな映画がまた作られ続けていくのだろうか。

        戦場の現実と、帰国後に受けた冷たい視線。それでアル中になってしまうウィルは、医師としてどうかと思うのだが。

        子供を置いて志願して、右手を無くしてしまったヴァネッサ。志願の理由はわからないが、子供を置いてまでイラクに行ったのは何故なんだろう。帰国後も幼い子供を育てながら体育教師の仕事をしなければならないというのに、何故? 子供はどうなるのだ。

        帰国してみたら恋人がつれなくなっていたので荒れてしまうジャマールの行動はもっと不可思議。恋人が働くレストランに拳銃を持って押し入り、恋人に復縁を迫る。もう犯罪者じゃん。トミーの説得に応じ警官隊が取り囲むレストランから自首して出ようと立ち上がったところ射殺されてしまう。そりゃ、拳銃を持ったままで立ち上がれば射殺されるでしょうよ。戦争に行った人間とは思えない軽率な行動でしょうよ、これは。

        戦場で戦友を亡くしてしまったトミーは、現実世界に結局適応できない。仕事につく気にもなれない。そんな彼はまた戦場に戻っていく。これでいいのか? 本当にいいのか? こんなラストでいいのか? 問題は何も解決できてないではないか。再びそんな思いにかられる。これからもまた戦争後遺症の映画は次々と作られ続けていくことになるのだろうか?


January.7,2008 なんたってジョニー・トーでしょ!

        去年の東京国際映画祭は、別枠で香港映画祭を設けてくれるサービスぶり。しかも、ジョニー・トー監督の『マッド探偵』と『鉄三角』がかかかると知り狂喜したのも一瞬。上映が平日。しかも真っ昼間。こんなの観られる人って特殊な人しかいないでしょ。奈落の底に突き落とされた気分。それで待ちましたよ、輸入DVDが出るのを。『鐵三角』(Triangle)は、香港での公開が11月だというので輸入DVD屋に入荷したのが、昨年の暮。暮の忙しいのに観ている暇なんてあるわけないじゃん。

        ということで、ようやく正月に観ることができた。『鐵三角』は、ツイ・ハーク、リンゴ・ラム、ジョニー・トーが三分の一ずつをリレー形式で撮るという企画。ストーリーは決まってなくて、前の人が撮った後を受けてストーリーを作っていく。

        一番手はツイ・ハーク。ルイス・クー、サイモン・ヤム、スン・ホンレイの3人は飲み屋で知り合った者同士。3人ともお金が無い。そこへ謎の老人が話しかけて来る。立法府の地価に財宝が眠っているという。3人は協力して、この財宝を手に入れようとする。このへんのアドベンチャー要素がいかにもツイ・ハークらしい。

        財宝をあっさりと手に入れてしまう3人。ツイ・ハークからバトンタッチされたリンゴ・ラムは、サイモン・ヤムの妻が浮気をしているという設定を膨らませる。彼は前の奥さんを交通事故で亡くしている。新しく娶った妻は前妻とそっくり(ケリー・リン二役)。だがその関係はうまくいっていない。妻は警察官(ラム・カートン)と長いこと密会を続けている。ついにキレたサイモン・ヤムがラム・カートンを拉致。廃工場に連れ込み、妻を呼び出して、ラム・カートンに暴行を加える。そのあとの財宝のローブをケリーに着せてのふたりのダンス・シーンは綺麗だ。

        この隙に、ラム・カートンは財宝のローブと共に、クルマに乗って工場を抜け出す。そのときに、スン・ホンレイは手をナイフで刺され、ケリーはクルマに撥ねられてしまう。後を追おうとする4人。だが特にケリーは重症らしい。病院に行こうとする者と、追跡をしようと言うものに分かれたクルマはロータリーをグルグル。そこに自転車に乗った警官の姿。ここからがおそらくトリのジョニー・トーの出番だ。「待ってました!」

        ここからが凄い。まさにジェットコースター。4人の乗ったクルマはパンクしてしまい、道路上に停まってしまう。そこへあらわれたのがラム・シュー(この怪演に注目あれ!)。パンク修理を請け負うと言う。これはあきらかに道路に釘などをあらかじめ蒔いておいて、走ってきたクルマをパンクさせて金を儲けようといういう魂胆がミエミエ。ここで意外なことが起こる。重症だと思われたケリー・リンが何事もなかったように起き上がる。スタスタと歩くと物陰に停められていたクルマの前に。それはラム・カートンが乗ってきたクルマだった。このクルマもパンクさせられていたのだ。ケリー・リンが重症だという前の展開だと都合が悪いので、実は何でもなかったということにしたらしいのだが、都合よすぎ。また彼女の性格付けがここからガラリと変わってしまうのがおかしいのだが、そんなのひっくるめて、でもそんなの関係ない!

        修理ができたら呼ぶから村の家で待っていてくれと言われて、家まで行く4人。そこには案の定、ラム・カートンの姿が。ローブを新聞紙に包みレジ袋の中に入れているところを目撃する。さあて、しばらくすると外が暗くなる。4人はガラクタを新聞紙に包み別のレジ袋に入れる。袋をすり替えてしまおうという作戦だ。ところがそこに現れたのが黒社会の人間たち。そんな中、家のブレイカーが切られて真っ暗闇。そこへ、豆の入ったレジ袋を持ったラム・シューがやってくるは、天井裏に隠してあった拳銃入りの複数レジ袋が落下するはという事態に。これら全てのレジ袋が乱れ飛びのドタバタした展開になっいく。このあたりかなり笑える上に、登場人物の立ち位置がいかにもジョニー・トーというか、かっこいいのだ。ラストの草原での死闘もいかにもジョニー・トーといえる演出で楽しい。

        3人の監督が撮ったとあって、ついつい比較してしまうのだが、ツイ・ハーク、リンゴ・ラムはやはり撮り方が古いなあと、ラストのジョニー・トー監督部分を観てしまうと思えてしまう。まあ、話を無理矢理自分のフィールドに持ち込んだという気がしないでもないのだけど。

        話は落ち着くところに落ち着いてエンドロール。でも、最初にばら撒いた伏線を使いきってないんじゃないかという疑問が残るのだけど、それはまた、日本公開日本語字幕版を待つっきゃないか。


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