March.30,2008 詰め込みすぎの剥製

        フランス映画祭で観たもう一本の映画『死者の部屋』。リストラされた男ふたりがヤケ酒を飲んでクルマを運転する。ライトを点けずにしかも高速運転するという異常な行動だから、結果、人を撥ねてしまい殺してしまう。警察に届けようと相棒が言い出すが撥ねてしまった男の鞄に大金が入っていたことから、ふたりは男の死体を処分して金を横取りしてしまう。いったいこの大金は何だったのかというと、身代金。撥ねてしまった男は誘拐された自分の娘の身代金を持って誘拐犯に接触しようとしていた最中だったというわけ。

        誘拐犯の正体はふたりの女性で、しかもひとりは剥製マニアという異常ぶり。身代金受け取りに失敗してしまった誘拐犯は新たにまた少女を誘拐。この少女がまた糖尿病で定期的にインシュリンを打たなければならないというハンデを負っている。犯人は前の誘拐で奪われてしまった身代金奪回に男達を追う。警察は誘拐犯を追う。男達はそのうちに仲間割れを起こしているという、いささかゴチャゴチャしたストーリー展開の上に、捜査を担当している女性刑事が過去のトラウマを背負っているというややこしい設定。

        自動車事故で撥ねてしまった男が身代金受け渡しの最中だったという設定は面白いのに、いろいろゴチャゴチャ詰め込みすぎてしまったという印象は否めない。もう少し整理して編集すればもっと面白くなったろうにと思えた1本。残念!


March.20,2008 快適な環境で7つの夢

        映画館でフランス映画祭のチラシを手に入れて眺めているうちに、観に行きたくなってしまった。以前は会場が横浜だったので、行くのがやや億劫だったのだ。それが2年前から六本木に移ってきて観に行きやすくなった。会場になるTOHOシネマズはインターネット予約システムvitというのがあって、そこにアクセスみたら開催日が近いというのに、まだ売れ残っているのがある。話題作は売り切れだったが、それでもいくつか観たいと思った作品に空席があることを知った。予約は簡単。いくつかクリックをして申し込み。あとはクレジットカード決済。当日、劇場まで行って端末に購入番号を入力するだけ。

        試しに短編映画特集というのを申し込んでみた。今までどうもシネコンというのは好きになれなかったのだが、どうも食わず嫌いだっようだ。六本木TOHOシネマズのスクリーンは思っていたよりも大きいし、なにより映りがいい。古くからの映画館は何やらボヤッとした絵になってしまうところが多々あって、観ていてイライラしてしまうことがある。座席は座り心地がいい、とても高級な椅子だ。もっともこの座り心地の良さが災いして、寝不足が祟って最初のうちは熟睡してしまった。

『彼女の棲む場所(耐震)』
そんなわけで、映画が始まった途端から睡魔に襲われ気絶。内容はさっぱりわからなかった(笑)。

『エドゥアールのような幸せ者・・・』
いくらか睡魔も落ち着いてきたが、これもほとんど夢の中。大企業に就職した男のミュージカル。

『ソニー・ゾレイユ』
ここからようやく睡魔が去り、映画に集中できるようになった。街を走っている青年がいる。合鍵屋を探しているのだが、あいにくこの日は日曜日。どこの店も休みだ。彼がなぜ合鍵屋を探しているのかは、映画の終盤になって明らかにされる。東京だと24時間営業で鍵のトラブルを解決してくれるところがあるのだが、フランスにはまだないのだろうか? 青年とその家族は全員耳が異常に大きい。その風貌のために彼は女性にもてない。もうそろそろ結婚適齢期だというのに、どの女性も相手にしてくれないのだ。そんなときに、アメリカに住む若い女性から連絡がある。その女性も大きな耳に生まれついてしまったのだという。ふたりはやがて毎日のように電話をしあって愛を深めていく。ある日、彼女が何の連絡もなく突然にフランスへやってくる。慌てたのは青年。そして冒頭の合鍵屋を探して走り回るシーンに繋がるのだが・・・。ラストは笑えるが悲しい。

『橋』
人形アニメ。断崖絶壁の山の頂上に住む父と子がいる。隣の山とは橋で繋がれていたのだが、橋が落ちてしまい孤立した状態になっている。地上に降りるのは不可能のような状態。しかし、父子は狭い土地に畑を作り、牛を飼っていて牛乳には困らないし、鶏も飼っていて卵も手に入る。子供は下界に憧れるようになっていき、今の生活が退屈だと思うようになっていく。しかし父親は今の暮らしの方がいいと主張する。ある日、ふとした弾みに父親が死んでしまう。下界に降りる道をみつけた子供は山をおりてみるのだが・・・。台詞はひとつもない。観ているだけでわかるアニメだ。現代文明への批判が効いていて、面白かった。

『タクシー・ドライバー』
タクシーに異国の女性が乗ってくる。目的地まで行くと、その建物の営業所はお休み。彼女はしかたなく家に乗せて行ってくれと言う。メモにある住所まで乗せていくと彼女は「ここじゃない」と言い出す。自分の家の窓からは高架線の線路が見えたと言う。そこで運転手は彼女を乗せて街中を走り回ることになる。

『ティティ』
これが一番面白かった。小学校低学年くらいの少女がいる家庭。飼っていた二十日鼠がある朝死んでいた。父親はその死体をトイレに流してしまう。起きてきた少女は死んだ鼠を埋葬しなければと言い出す。まさかトイレに流してしまったと言えなくなってしまった両親は、少女が学校に行っている間に新しい二十日鼠を買って来て、それを殺して、少女に渡し埋葬させようとするのだが・・・。両親が新しく買ってきた二十日鼠を殺そうと四苦八苦しているところが面白いのと、短編映画らしいオチが面白い。

『屠殺場』
仲良く暮している若い夫婦。夫は食肉工場で働いているのだが、ある日右の手首を間違って切断してしまう。男は以降働く意欲を無くしてしまい、家でブラブラしているだけでなく、気がふれた行動を取るようになる。やがて妻の気持が夫から離れていく。これは辛い映画だった。観ているのが苦痛になってくる。救いがあるのはラスト・シーンかなあ。


March.17,2008 変化球の人、ジョニー・トー

        多重人格というテーマがあるが、ひとりの人間の中に複数の人格が存在するなんてことだけではなくて、人間は誰しも複数の人格が存在するものなのだと思う。一番身近に思えるのは、感情と理性。やりたいという感情と、やってはいけないという理性。ダイエット中だというのに高カロリーのスイーツを食べたいという欲望と、食べちゃだめだという理性。時に理性が欲望に負けて食べてしまったりする。映画などでは天使と悪魔という構図で捉えたりすることもある。

        ジョニー・トーが盟友ウァイ・カーファイと共同監督した『神探』(Mad Detective)は去年の東京国際映画祭で『マッド探偵』というタイトルで上映された。こちらも『鐵三角』と同じで、平日の昼間に上映されても普通の社会人は観られないだろうとスネていた作品だ。ようやく輸入DVDが入ってきた。

        神がかり的な能力で次々と難事件を解決する刑事バン(ラウ・チンワン)は、奇行が目立つようになり、上司の退官記念に自分の耳を切り落として渡し(ゴッホだね)、精神に異常をきたしたとみられ、刑事を退職する。

         引退したバンのところに、かつて二日間だけバンの捜査に加わった事があるという後輩ホー(アンディ・オン)が訪ねてくる。彼は18ヶ月前におきた警察内部の事件を捜査していて、バンに協力を要請しにきたのだ。ある夜窃盗事件の張り込みをしていたコウ(ラム・ガートン)とウォンは、怪しげなインド人の姿を見つけて職務質問しようとするが、相手は森の中に逃げる。ふたりはインド人を追うが暗闇の中で見失い、しかもウォンは行方不明になってしまう。以後、ウォンが所有していた拳銃が、コンビニ強盗や現金輸送車強盗や、雀荘強盗に使われ死人が何人も出る。事件に興味を持ったバンは、コウに疑惑の目を向ける。

        ここまでが、映画が始まって15分〜20分くらいだろうか。このあと、観る者を驚かせる映像が現れる。私は何が起きたのかわからないまま観続け、「ええーっ! これってそういうこと?」と気がついてディスクを巻き戻して観たほどだ。こういうところは映画館じゃなくてDVDで観る利点だ。あとはこの映像のことを書かなくちゃ、話を先に進められない。ネットにはもうみんな書いてしまっているので、いまさら私が書かないでもしょーがないのだが、やっぱりこの驚きはまっさらな気持で観て欲しいから書かない事にする。とにかく映画史の中でも、こんな映像表現をやったのはこれが初めてだろう。どこかユーモアのあるこの撮り方は本当に面白いんだなあ。ヒントは冒頭に書いた事と留めることにしよう。

        まったくジョニー・トーという人は、次から次へといろんなことを考えつく人で、どちらかというと直球というよりは変化球の人。アクション映画というよりは今回はサイコサスペンスなんだなあ。



March.11,2008 撥ねすぎだろ

        今どきジャンパーなんていわないぜ、今はブルゾンっていうんだよなんて思っていたが、ジャンプする人、ジャンパーだったのね。空間を一瞬にして移動することが出来る人。って、おいおい、それはテレポテイションだろ。日本では、そういう超能力のことをテレポテイションとかテレポート。そういう能力のある人をテレポーター。これは石ノ森章太郎の『サイボーグ009』を愛読してきた者には常識でしょ。それに只今人気のアメリカのテレビドラマ『ヒーローズ』のヒロはこの能力を持っている。それがなんで今更ジャンパーなんて名称にならなきゃならないの?

        それで主役のジャンパーが、あの『スター・ウォーズ』のエピソード2、エピソード3でアナキン役を演ったヘイデン・クリステンセン。彼は偶然に自分が空間移動が出来る能力を持っていると知ると、この能力をアメコミの主人公のように正義のために使おうとは思わず、銀行の金庫に移動してお金を盗みまくり、豪遊し放題。あららら、アナキンに続いてダークサイドに入っていってしまったのね。ところが、ジャンパーには天敵がいた。ジャンパーを抹殺することだけに生きているパラディンという種族。この連中は別に特殊な能力を持っているわけではないのだが、ジャンパーを倒すための秘密兵器をたくさん持っている。ふと疑問に思うのはなんでパラディンなんてのがいるのか、明確な説明が不足しているような気がするのだ。ジャンパーは地球や人類に危険な存在だから殺すってだけでは納得がいかない。そうまでしてジャンパーを殺す必要があるのか。パラディンたちは普段は何をして生計を立てているのかわからない。

        まあそんなことは抜きにして、映画を楽しめばいいのだろうけどさ。な〜んかね、しっくりこないんだわさ。


March.1,2008 狛犬さん、あっ、狛犬さん

        最近は観たい映画があるから行くというよりは、たまたま身体が空いていて、そのときにちょうど開映時間、しかも終映時間の都合もいいなんて時にしか映画館に行かなくなってしまって、そんなことだからたまたまそんな状況で「あんまり面白そうじゃないけど、入っちゃおう」ということもある。結果、悪い予感が見事に的中なんてことが多くてガッカリってことの繰り返し。

        『シルク』もそんな1本。なんなんだろうね、これ。時代考証にうるさい日本の歴史マニアが観たら卒倒してしまうだろう(笑)。どうも日本では幕末らしいのだけれど、そこへフランス人が密入国して、山奥の村に蚕の卵を買いに来る。船で入国する詳細が映像化されていなくて、おいおいそんなに簡単に鎖国中の日本に外国人って日本に入ってこれたのかという気がするのと、入国してから雪の山道を何日もかけて村までやってくるって、なんでそんな山奥までいかなくてはならなかったのか、さっぱりわからない。ほとんどこの日本って『大いなる勇者』の世界。山奥の日本人って未開のインディアンか?

        しかも何回もこのフランス人は日本に密入国することになるのだが、どうやら日本では当時たいへんなことになっていているらしいことが語られる。しかしどうたいへんなことになっているのかは具体的にはわからなくて、まあ幕末の政変期なんだろうなあというくらい。それが何回目かの来日で、村が何者かに襲われて皆殺しにあっている。これはどうも政治的な出来事ではなくて『七人の侍』みたいに野武士の一団に村が襲われたみたいになっているのだ。それって時代が違うだろう。

        なんだか今までにも何本もあったエセ日本世界映画のまた1本加わった作品のよう。まあ、有名な日本の役者が何人も出演しているから公開したんだろうけれど、またまた外国から変な誤解を受けそうだ。民家の玄関の前に狛犬が置いてある(しかも一頭だけ)なんてありえないって!


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