September.22,2008 死ぬときは一緒だぜ

        映画館で同時代としてマキノ雅弘の『次郎長三国志』シリーズを観ることはできなかったが、東宝版、東映版共に、深夜のテレビ放映で夢中になって観たものだった。それこそ家庭用ビデオなんて普及していなかったころで、夜中遅くまで起きていて眠い目をこすりながら、それでも東宝版小堀明男、東映版鶴田浩二の活躍に胸躍らせていた。

        マキノ雅彦こと津川雅彦が、『次郎長三国志』をリメイクすると聞いたときにはびっくりした。なにも二度も叔父のマキノ雅弘によって映画化され、もう完成されてしまった『次郎長三国志』。もういじりようがないだろうと思ったからだ。しかも、何本もシリーズ化するわけではなく一本のみで完結させるというのはどういうことなのだろう。最初に浮かんだのは映画化されずに終わってしまった幻の東映版第10作『荒神山 後編』をやるのかと思ったのだが、そうではなかったようだ。

        キャスティングを知らされて納得したのは次郎長が中井貴一だということ。これはもう、これ以上の配役はないだろうということ。とにかく人望が厚いというキャラでなくてはならないのだから。お蝶が鈴木京香というのもいい。いい意味での日本的な女性を演じられる女優さんだ。そして子分たちだ。大政が岸部一徳。中井貴一が1961年生まれ、岸部一徳が1947年生まれということで、大政の方がはるかに年上ということになるのだが、次郎長一家の大番頭という風格で、これもぴったりだ。だから、人望があるというキャラがある役者が次郎長を演らないといけないのだ。桶屋の鬼吉が近藤芳正というのは意外だった。この人も1961年生まれ。中井貴一と同年の生まれだということを始めて知った。法印大五郎が笹野高史というのも意外。笹野は1948年生まれ。この人も中井貴一よりはるかに年上。もっと意外だったのが森の石松。温水洋一というキャスティングを誰が想像しただろう。そしてこの人が1964年生まれだということにさらに驚く。ええーっ、中井貴一より年下!? 東宝版森繁久弥、東映版長門裕之というイメージからすると思い切ったキャスティングだが、これが思いの外良かった。温水洋一らしい石松の登場だ。

         こうやって次郎長一家の子分のことを書いていくと、「弱そうじゃん」ということになるのだが、そこがまたいいのかもしれない。人間味があって愛すべきやつらの集り。それに対して悪役は凄いぞ。今回最大の悪役三馬政に竹内力! これが見事にはまった。『仁義なき戦い』の松方弘樹を思い出させるというか、あれよりも体格がいい分、凄みがある。黒駒の勝蔵が佐藤浩一だもんなあ。相手の方が強そうでしょ。敵の方が人数的にも圧倒的に多いし。

         それでも、中井次郎長の言う「勝手に死ぬなよ。死ぬときは一緒だぜ」の言葉に子分達がついて行くという心情にはグッとくるものがある。世のリーダーたるものこういう器量が欲しいですな。ねえ。あっ、そう・・・。


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