January.25,2008 硬派で真面目なボンド

        『007/慰めの報酬』がようやく日本でも公開された。欧米での公開から二ヵ月半後というわけで、ベルリンさんの方がずっと前に観ている。しかも詳しく書いているので、そちらの方を参照していただきたい。

        ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドの2作目。好きですよ私、ダニエル・クレイグ。何しろ硬派であるのが変わっている。今までのボンドってとにかく女たらし。ところがクレイグのボンドはどこか真面目なのだ。前作『カジノロワイヤル』でも、当初は単なる女たらしだったのが、真剣に相手を愛し始め、それが元で傷つき、彼女も失ってしまう。そして復讐心に燃えたところで映画は終わっていた。おいおい、ミッションにそんな私情を入れていいのかよと、突っ込みを入れたくなるほどだったが、それでいて、その行動は常に沈着冷静。どこか硬派。

        今回も、ねんごろになっちゃう女性も出てくるが、こちらはお遊び。しかしあまり映画の中では重要ではない。今回のボンドガールは、今までとはひと味違うカミーユ(オルガ・キュリレンコ)。これがいいんだなあ。母と姉を殺された復讐を誓い標的に近づいて行く。そこにボンドがからむわけだが、別に彼女と寝ちゃうわけでもなくて、お互い別の相手を殺そうと追っているのだが、なんだか、同志!って感じ。ラストで復讐を果たしたカミーユが「だからどうなったというの」という虚脱感に襲われているというのもお決まりだけれど、そんな彼女と「じゃあな」とばかりに別れるボンドもかっこいいではないか。これでスパッと別れるというのは硬派だぜと思っていたら、どうやら次回作でもカミーユは登場するらしい。まあ、それはそれで楽しみではあるのだけど。

        それに、歴代のボンドの中ではダニエル・クレイグのボンドが一番強そうな気がする。『カジノロワイヤル』ではアフリカの工事現場での追っかけがあったけれど、今回は屋根の上の追っかけ。また、前作のクライマックスが大量の水だったのに対し、今回は火の中。クレイグ・ボンドは例え火の中水の中、どんなアクションもこなす。カーチェイス、走っての追いかけ、飛行機、ボート、なんでもござれだ。

       ダニエル・クレイグ版ボンド、いかしてますぜ。押忍!!


January.12,2009 アメコミの楽しさてんこ盛り

        1作目は日本であまりヒットしなかったようだけど、2作目『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』も苦戦しているような気がする。開映20分前にチケットを買って入口に行ったら、係員に「そちらに並んでお待ちください」と言われのだけど、誰も先客いないじゃん。私ひとり。そのあとポチポチ私の後に列ができたけれど、列というほどのことでもなし。前の回のお客さんが出てきたけれど、それもほんの少数。開場して中に入って席について、開映直前になってもお客さんはパラパラ。どうして日本ではこんなに人気が無いんだろう。全米No.1ヒットの文字が虚しい。

        それでもこれは面白い映画だった。アメコミの悩めるヒーローのラインナップの中でもこれは凄い。もう様々な問題てんこ盛り。まず敵が人間達の暴走をこれ以上許せないと思っているエルフ族の王子ヌアダ。これが実にカッコイイのだ。アクションが香港のカンフー映画の乗り。香港映画ファンはこの動きを観るだけでも観に行った価値あり。そしてその双子の妹ヌアラ。どちらかが傷を負うともう片方も同じところが傷つくという設定。これが進むにしたがい効いて来る。このヌアラ王女に惚れてしまうのがヘルボーイの仲間エイブ。

        ヌアダの人類に対する攻撃が始まる。ヌアダは狂暴な生物トゥース・フェアリーをニューヨークのビルに放つが、ヘルボーイたちの活躍で退治する。しかし、街の人々はヘルボーイの醜い容貌を見て、彼を攻撃する。

        ヘルボーイは、猫とビールが好きでなかなかオチャメな設定になっているが、とにかく短気。それを新登場の仲間ヨハンにたしなめられたりするところも面白い。

        人類滅亡のために最強の軍団ゴールデンアーミーを復活させようとしているヌアダ。それを阻止しようとするヘルボーイはヌアダとの闘いの途中で重症を負ってしまう。ヌアダの槍の破片がヘルボーイの心臓近くに刺さり、抜けなくなってしまうのだ。ヌアダを追うヘルボーイたちは、その槍の破片を抜くことができるという者と出会う。それは死の天使。破片を抜いてやってもいいがと、そのあと驚愕の事実を打ち明ける。それは・・・書かない方がいいだろう。是非観て驚いて欲しい。物語を構成する究極の選択なのだから。

        そして、そのことは、このあとのシーンにも絡んでくる。ヌアラ王女に恋したエイブもこれまた究極の選択を迫られることになる。

        ラストも衝撃的だ。これからヘルボーイたちはどうなってしまうのだろうという終わり方。続編はあるのだろうかという思い。案外またヘラヘラと彼らは戻ってくるような気もするのだけど。


January.3,2009 パニック映画だけど、みんなそれほど真剣でないのがいい

        2日続けて錦糸町TOHOシネマズへ。これも昨年見逃してしまっていた『ハッピーフライト』。このところ矢口史靖の新作が公開されると一週目には必ず観に行っていたのだが、今回は公開一ヶ月半も経ってからの鑑賞。夜一回だけの上映も無理からぬところだけど、ロングランしてくれているのはうれしい。

        『ウォーター・ボーイズ』 『スウィング・ガールズ』と高校生の部活ものが続いたところで、今度はどうするのだろうと思っていたら、旅客機もの。脚本を書く前に相当取材をしたようで、それがやや詰め込みすぎのように盛り込まれている。最初は、ようするに取材したものをそのまま映画にしただけのような印象があったのだが、それも観ていくうちにそれほど気にならなくなっていて、物語に引き込まれていく。誰が主人公というわけでもない群像劇なのだが、次第に日本初の航空パニック・ムービーになっていくところは見事。

        ANAが全面協力とあって、それほど飛行機の恐怖を描く事はできないというハンデの中、よくぞものにしたと思う。毎回登場の悪ガキも今回も健在で引っ掻き回しているし、登場人物が自己中だったり、ドジだったりで笑わせるのもいつものこと。

        航空パニック映画を観ると、飛行機に乗るのが怖くなるというのとは逆で、「ああ、ANAに乗ってみたい」と思わせるのが凄い。矢口史靖の映画って、登場人物たちがそれほど真剣に生きていないのがいい。なんとなく、人生こんなものさと飄々と生きている。そんなにマジになってどうするのって気になってくるんだなあ。


January.2,2009 今年のファースト・ムービーは

        仕事がら大晦日は毎年仕事。それも一年のうちでもっとも忙しい日。全てが終わって部屋に戻ったときには夜の11時を回っていた。『ブレイブワン』のDVDを観ながら年が変わり、そしていつの間にか眠り込んでいた。起きてからもう一度、意識を失うところまで戻して鑑賞した。年をまたいで観たこれが今年のファーストムービー。

        元旦は映画の日でもある。1000円で観られるのだ。インターネットでTOHOシネマズ錦糸町のvit予約をして、午後から出かける。以前は銀座で映画を観ることが多かった。金券ショップでチケットを買ってから映画館に行く。安くチケットが買えるという利点があるのが魅力のひとつだったが、それよりも映画館のチケット売場の行列をスルーして入場できるのがよかった。それが全席指定の映画館が増え、前売チケットを持っていてもチケット売場に並ばなければならなくなった。これが嫌だったのだ。その点、vitのシステムはうれしい。インターネット予約をしておけば、チケット売場の行列を横目で見て、vitの発券機に暗証番号を入力するだけ。クレジットカード決済だから現金もいらない。

        というわけで、今年の映画館でのファースト・ムービーは『ウォーリー』に決めた。本編上映前に恒例のピクサーの短編映画の上映。今回は『マジシャン・プレスト』というマジシャンと助手のウサギの話なのが、これがスラップスティック・アニメ。次々とギャグが盛り込まれていて、もっと観ていたいくらい。というか、『ウォーリー』を観たあとに引き続き残って、これを観たいくらい。でも定員入替制じゃあ、そういうわけにもいかない。『モンスターズ・インク』を観に行ったときも『フォー・ザ・バーズ』だけ何回も観たいと思ったものだった。昨年、ピクサーのショート・フィルムを集めたものがブルー・レイで出たときは、「待ってました」と即購入したくらい。

        さていよいよ『ウォーリー』上映開始。無人と化した地球でお掃除ロボットのウォーリーが、せっせと片づけをしている。こういう人間以外の物を動かす技術は、それこそピクサーが最初に創造した電気スタンドと同じで、感情を吹き込まれている。お得意芸だろう。ウォーリーにいたっては音楽にも感情を示すようになっている。この導入部のウォーリーだけしか出てこない描写が思っていた以上に長く描かれていて、それがまったく飽きが来ないのだから見事としか言いようがない。

        映画の第二段階は、イヴとの出会いだ。これがおっかないロボットで、気にいらないものは全て破壊してしまう。ウォーリーもガタガタ震えているのだが、それでも初めて出逢った相手に興味津々。砂嵐が襲ってきたのをキッカケに自分の家に招待するウォーリー。どうやらウォーリーは男、イヴは女というふうに捉えられるのだが、友達を家に招待したときに自慢の物を次々と披露したがるのは人間社会の子供そっくりではないか。ここのところが、ウォーリーひとりだったときの描写が伏線になっていて、それが生きてくるのがいい。途中、Bobby McFerrinDon’t Worry, Be Happyがかかるのがご愛嬌。

        驚いたのは、このあとで人間が出てきたこと。宣伝ではひたすらウォーリーとイヴの部分ばかりを強調していたので、こういう話になるとは思わなかった。その人間というのが・・・いや、言わないでおこう。これから観る人のために書かないでおこう。

        ともあれ、今年最初に観る映画としては選択に成功したと思う。とてもいい気分になれた。正月映画はこうでなきゃ。



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