April.25.2009 圧倒的な面白さジョン・ウー版『赤壁』

        待望の、そう待望の『レッドクリフPartU』ですよ。だって『PartT』の終り方といったら、「ええーっ、ここで切れ場かよー」という続きを観なくちゃいられない終わり方だったものなあ。さらにPartUの映像がほんの少しだけ流れるなんて構成では、否が応でも「一刻も早くPartUが観たい!」という気にさせられてしまうではないか。

        で、観に行きました、当然。日本版は丁寧なことにPartTでの人物関係などを説明するイントロ付き。これがないとPartTを観ていないお客さんは戸惑ったろうし、観ていたお客さんも復習ができたはずだ。

        PartTの切れ場は絶対的多数の軍勢を率いた曹操軍を、孫権、劉備連合軍がその出鼻をくじいて勝利したところ。曹操軍の次なる手は水軍を持って連合軍の赤壁を叩こうとしているところで終っていた。白い鳩が膨大なる船を引いた曹操軍の船の中を飛んでいく。おおー、ジョン・ウーはやる気満々ではないかと思わせたラスト。その鳩がもっと大きな意味を秘めていたとわかるのはPartUを観ると納得するはず。孫権の妹尚香がスパイとして曹操側に紛れ込み、通信手段として鳩を使うわけという展開にはびっくり。でもねえ、女である尚香が男装して敵地の兵士に紛れ込み、女だと気づかれないのみならず、どうやって兵士になれたのかの説明は一切なく、そんなばかなこと、とは思うのだが、そのへんが中国、香港映画の大らかさか。

        戦闘シーンはPartTよりもさらに凄惨になっている。ただ観終わった後に残るのは、なんでこんなに人が死んでいかなくてはならなかったのかという徒労感。

        役者としては、私は曹操役のチャン・フォンイーに惹かれた。まあ悪役なんですが、画面をピリッと引き締めた感がある。まあ『三国志』自体、見方によっては曹操の方が正義ってこともあるのだけどね。

        史実と違うなんていう批判もあるようだけど、まあいいじゃないですか。それが映画なんだし、史実っていってもどこまでそれが正しかったなんて今やわかんないわけで。

        それにしても、『レッドクリフ』はアジア地区では大ヒットだったようで、よかったよかったという感じなのだが、欧米では公開したのかしら。面白いと思うのだけど、欧米人には中国人と日本人しか出ていない映画は興味ないのかねえ。


April.1,2009 ぎらぎらしていた時代

        学生時代は暇さえあれば映画を観に行っていた。試写会に当ればホールへ行ったし、試写会に外れても観たい映画はロードショウ館へ。お金の無い時には名画座に一日中入り浸っていた。土曜の夜ともなればオールナイトだ。その中でも池袋文芸座のオールナイトは面白い企画が多かったし、滅多に観られない映画を上映してくれたのでよく通っていた。そんな中でも、新東宝特集はうれしかった。これで新東宝の傑作、話題作、珍品を観る事ができた。

        そんな中でも記憶に残ったのが、ジェリー藤尾主演の『地平線がぎらぎらっ』。1961年作品。監督が土居通芳。六本木シネマートでこのほど[新東宝大全集]なる上映会が行なわれ、その中の一本として『地平線がぎらぎらっ』も上映された。懐かしいなあという思いに囚われて、いそいそと出かけていった。客席の年齢層はさすがに高かった。みんな懐かしんで観に来たんだろうなあと思われる。

        なんだか久しぶりにウキウキした気分で映画が始まるのを待っている自分がいた。文芸座の硬い椅子でもなく、オールナイト5本立てという過酷の条件でもない。座り心地のいい椅子、見やすいスクリーン。これから、35年ほど前に観た、あの傑作がまた観られるのだ。

        予告編無しで映画はいきなり始まった。画面いっぱいに[地平線がぎらぎらっ]のタイトル。モノクロ画面。そしてクレジットタイトルと共に、あの主題歌が流れ始めた。歌手はもちろんジェリー藤尾。♪ぎらぎら ぎらぎら あの地平線が呼んでいる そこにはおいらの 夢がある・・・・・。一度聴いたら頭にこびりついてしまう憶えやすく印象的な主題歌だ。実際、このタイトル・バックだけでなく、この歌は全編で何度となくジェリー藤尾によって歌われることになる。映画主題歌ベスト5をあげろと言われたら、私はこの歌を間違いなく入れるに違いない。

        何人かの男がそれぞれに犯罪を犯すシーンが描かれていく。これが今から観ると、やや何のことか解りにくいのだが、ようするに6人の男が刑務所に入れられ同じ雑居房に入れられる。房の中では、重い犯罪を犯してきた人間が一番格上扱いになっている。そこへ入ってきたのがジェリー藤尾。そんなルールを無視するので他の5人は黙っちゃいない。リンチにかけるのだが、そんなもの物ともしないのがジェリー藤尾。この映画の魅力は、このジェリー藤尾のキャラクターに尽きる。いや、実はこの映画の面白さは全てはジェリー藤尾だけだったと今回気づかされた。というのも、このあとジェリー藤尾扮するマイトが宝石強盗をして捕まったらしいという情報をかぎつけた5人の態度が豹変。刑務所を脱獄して、隠してあるダイヤモンドを山分けしようということになるのだが、面白いのは脱獄シーンまで。そのあとが案外つまらないのだ。こんなはずじゃなかったと思いながら最後まで観たのだが、こんなものだったんだなあ。

        結局、この映画はジェリー藤尾の強烈なキャラと、あの主題歌のみだったのかもしれない。それでも35年前に一度だけ観ただけなのに、主題歌をフルコーラス憶えていた自分は、きっとあの主題歌に夢中だったんだろうなあ。映画には盛んに[全学連]なんて言葉が出てくる。自分もきっといろかんな意味でぎらぎらしていたころだ。


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