October.23,1999 この曲使いたかった気持ちわかるけど
このところ元気なドイツ映画が、また一本やってきた。『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』。もう死をまじかにした二人の男が、病室で酒を飲んでいるうちに、お互い今までに一度も海を見ていないという話になる。死ぬ前に一度でいいから海が見たい。病院を抜け出した二人は、車を盗んで海へ向かう。ところが、その車は大金を積んだギャングのものだったから、さあ大変という話。けっこうユーモラスで楽しめた。
ただ、どうも引っ掛かるのだ。この映画の題名にもなっている、そしてラスト・シーンで効果的に使われる、ボブ・ディランの作った曲のことなのだ。この曲は、サム・ペキンパー監督の『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』にディラン自身が出演し、さらに彼がこの映画の為に書いた曲である。
『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』で、『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』が使われたシーンは、私の記憶では、二ヶ所あったはずだ。ひとつは、ジェームス・コバーンのパット・ギャレットが、老保安官らと一緒に、ビリー・ザ・キッドの仲間を襲う。この撃ち合いで、老保安官が撃たれてとても助からない重症を負う。彼は、河に船を浮かべて暮らす老後を夢見ていて、その生活を手に入れる一歩手前だった。彼は河まで這って行く。そこに流れるのが『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』。
もう一ヶ所は、クリス・クリストファーソンのビリーが、知り合いの家に行く。ところが彼は保安官になっていた。家族ぐるみで食事をしたあと、男は「ケリをつけねばな」と言う。ふたり外へ出て、背中合わせになる。お互い、十歩歩いて、振り向きざまに撃ち合うという決闘だ。男は「1,2,3,4,・・・・」と数えながら歩いていく。ところが、ビリーは歩かずに振り向いて男を見ている。男は十歩歩く前に、八歩で振りかえり、拳銃を抜く。一瞬早くビリーの撃った弾が男に当たり、男は倒れる。ビリーは男に近づき「十歩じゃなかったな」と言う。すると男は、「ああ、数の数え方も忘れちまった」と答える。そこに流れるのが『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』。
ふたつのシーンに共通するのが、保安官が死んでいくシーンであること。しかも、かなり悲劇的最後であることだ。だからこそ、歌詞が、「ママ、このバッジをはずしてくれ。もう使い道がないから」で始まるのだ。2番目の歌詞は「ママ、俺のガンをはずしてくれ。もう撃つ事も出来ないから」だ。
つまり、この曲はかなり悲しい曲なのである。少なくとも、私はこの曲を聴くと、このシーンを思い浮かべてしまう。映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のラストには、この曲は辛い。『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』の二人の死は、それぞれ画面に登場して間も無く訪れてしまう。しかし、その二人の背負ってきた生涯というものが、くっきりと浮かび上がっていた。『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』の二人は、一時間半見せられても、その生涯が見えて来ない。その無軌道ともいえる、はしゃぎっぷりから、違う曲を持ってきた方がよかったのではないだろうか。もっとも、この曲をラストに使おうという発想が先だったのだろうが。
October.18,1999 『ヒーロー・ネバー・ダイ』は暗いけど面白い
正直言って、最初の部分は少々退屈した。レオン・ライとラウ・チンワンの対立した組織同士の殺し屋ふたりの、対立そして一転友情なんて、甘っちょろくて見てられなかった。ところが、組織同士が手を組むことで、この二人はかえって疎んじられしまう。ラウ・チンワンは、闘いの中で両足を失い、レオン・ライは一命を取り留めたが、組織の放った刺客に襲われる。それをかばったレオンの恋人は全身に大火傷を負ってしまう。
両足を失ったチンワンが組織に戻ろうとすると、組織の方は彼を放り出す。復讐を誓った彼が、組織のボスを殺そうとビルの屋根から車椅子のスナイパーとなるところは、スティーヴン・ハンター『極大射程』の敵役ロン・スコットみたいで、いい。
監督のジョニー・トゥは、やはりネオ香港ノワールの傑作『ロンゲスト・ナイト』を制作した人で、今回は満を持しての監督。気合が入っている。
October.15,1999 デビッド・マメットって知ってます?
13日の朝刊のテレビ欄を見てびっくりした。東京12チャンネルの午後1時から3時の『午後のロードショウ』は、当初この日は、『トイ・ソルジャー』を放映する予定だった。それが何があったのか、急に差し替えられていた。デビッド・マメット脚本監督による『スリル・オブ・ゲーム』だ。いそいそと自室に戻って、予約録画の設定をした。
デビッド・マメットの名前を知ったのは、今年5月だった。渋谷パルコ劇場で、三谷幸喜の推理劇『マトリョーシカ』をマチネで見た私は、その興奮のまま、生嶋猛とコーヒーを飲んで語らった。やっぱり三谷は、凄い才能だ。その後、どうしても家に帰る気にならず、[シネセゾン渋谷]で上映中だった『スパニッシュ・プリズナー』に、これといった予備知識もなく入った。これがまた面白かった。詐欺師の話なのだが、そうとは知らずに見たせいもあって、こちらもコロッと騙されてしまった。地味な演出ながら、ぐいぐいと物語のなかに惹きこんでいく力は、大した物だった。
帰宅して、『キネマ旬報』の4月下旬号をパラパラとながめていた。和田誠、三谷幸喜の連続対談『これもまた別の話』最終回の最後あたりに、ふと目が止まった。三谷が連載を振りかえって、こんなことを言っている。「デイヴィッド・マメットもやりたかったな。僕の一番尊敬する脚本家。去年『ザ・ワイルド』って公開されたじゃないですか。最近ビデオで見たんですけど、凄く似てるんですよ、『温水夫妻』に。また真似してるとか言われたらどうしようと思ってるんですけど。クマも出てくるし、驚きました」
一日のうちに見た、芝居と映画が不思議に結びついた。さっそくレンタル・ビデオで、マメットが脚本を書いた『ザ・ワイルド』を借りてきて見た。なるほど似ている。『ザ・ワイルド』は大自然の中で置き去りにされた三角関係の男同士が、力を合わせて脱出する話。『温水夫妻』は、大雪で身動きのとれなくなった田舎の駅で、やはり三角関係同士の男が、脱出しようとする話。
それからというもの、マメットが脚本を書いた映画の追っかけが始まった。ビデオで『アンタッチャブル』を見なおし、WOWOWで『噂の真相ワグ・ザ・ドッグ』を見て、『RONIN』に脚本家のひとりとして名前を連ねていると知ると、映画館へ見に行き、『オレアナ』が舞台にかかると、前売券を手に入れて見に行った。
しかし、それらは私が面白いと思った『スパニッシュ・プリズナー』に比べると、いまひとつ物足らなかった。それはやはり、自分で監督してないからなのだろう。そこに今回の『スリル・オブ・ゲーム』の放映である。これぞ、私の一番見たかった映画だ。87年の作品で、やはり詐欺師をテーマにしている。これだこれだ、一見地味な演出ながら、妙に惹きこまれるものがある。精神分析医の女性が、患者の治療の為と踏み込んでいったギャンブラーの世界で、詐欺の手口を見破ったことから、詐欺師達に興味を抱いていく話。
日本語吹替えだったが、これぞマメットという一本で、大満足だった。
October.10,1999 鮫と闘う映画はやっぱり面白い
アメリカでは賛否両論だったらしいけれど、レニー・ハーリンの『ディープ・ブルー』は私には面白かった。
『カットスロート・アイランド』『ロング・キス・グッドナイト』と、奥さんのジーナ・デイビスを使って撮った二本が、ひどく退屈で、もういい加減にしてくれと思ったせいもあるけれど、こんどのは息をつく暇もない面白さだった。『クリフハンガー』『ダイ・ハード2』のレニー・ハーリンが戻ってきた。
最初に語られる、状況設定の説明部分で、来るぞ来るぞとジラしておいて、研究員の一人が鮫に腕を食いちぎられるシーンから、話が連鎖的に進行していくのが、よく考えると都合良すぎるのだが、不自然さを感じさせないで引っ張っていかれる。
登場人物の誰が生き残り、三匹の鮫をどうやって倒すかは、ルール違反になるので、ここには書かないが、今まで『ジョーズ』シリーズで、倒し方をやり尽くした感があって、二番煎じになってしまっているけれど、しょうがないか。でも、やっぱり面白いですよ、この映画。
October.6,1999 見世物のお化け屋敷
またキャサリン・ゼタ=ジョーンズです。彼女が出ているだけで見に行こうと決心した『ホーンティング』ですが、もうがっかり。つまらなかった。
ヤン・デ・ポンって、たまたま『スピード』が壷にはまって面白い映画ができたけど、ドラマを演出する才能が乏しいのではないだろうか。『スピード』ではキアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックという、二大大根役者を使いながら、よくぞ面白い作品に仕上げたと感心したけど、『ツイスター』といい、この『ホーンティング』といい、単なる見世物映画。ドラマ部分が弱い。
見世物としても、よく出来ているとは思うけれども、金かけた割に、さっぱり怖くない。金かかってない『リング』の方がはるかに怖い。
キャサリン・ゼタ=ジョーンズなんて、まともに演技させてもらってない。彼女がイキイキして見えるのは最初の登場シーンだけで、後は何も彼女じゃなくてもいいという、演技に対する要求さだ。こんないい女優使っておいて、これはない。
もうヤン・デ・ポンは見るのやめようかな。
October.2,1999 決まりきったサーフィン映画だけど
『エントラップメント』で、キャサリン・ゼタ=ジョーンズを初めて見た。後悔しましたね。なぜ『マスク・オブ・ゾロ』を見なかったのか。そのセクシーさにうっとり。
『マスク・オブ・ゾロ』はいずれレンタル・ビデオ屋に行くとして、日本テレビの深夜に、彼女が出ている『ブルージュース』をオン・エアしていたので、録画して見た。彼女元はイギリスの女優で、これも95年のイギリス映画。今をときめくユアン・マクレガーも出ている。
ここでもキャサリンは十分セクシー。同棲中の主人公が、サーフィンに夢中で、さっぱり相手をしてくれないのに焦れている役どころ。こんな可愛い彼女がいるのに、サーフィンどころじゃないだろうと思うのだが、それではサーフィン映画にならない。
多くのサーフィン映画と同じで、伝説の大波に乗る話で、サーフィン好きの人以外は、あまり面白くないのではないか。彼女見るだけでも、見て損ないけどね。