November.26,1999 ワンマン野郎がまたひとり 

        『ドニー・イェン COOL』に続いて、なぜかまたワンマン映画を見てしまった。制作監督原案主演ハーディ・マーティンス『カスケーダー』というドイツ映画。

        カスケーダーとは、ドイツ語でスタントマンのことらしい。もともとスタントマンのハーディ・マーティンス、兼ねがねスタント・シーンの使われる映画が少ないのに不満だったようで、それならと自分で作ってしまったらしい。CG一切無し。総て彼自身のスタント。今まで暖めてきたスタント・アクションのアイデアを、この一本に詰込んだらしくて、もうこちらもまたドニー・イェンに負けず劣らず、やりたい放題。

        フル・スピードで逃げるオートバイを、ゴーカートで追いかける(!)。しかも、街中から、Uバーン(地下鉄)の構内、果てはアウトバーンにまで。さらには、逃げるセスナ機をグライダーで追っかける(!)。ミニ・クーパーに乗って空を飛び、トラックに飛び移る。しかも本人傷ひとつなし。お前はターミネーターか?! こんなシーンが、全編続いていく。

        私には、このいくつものアイデアを聞かされた脚本家の胸中がよく分かる。こんなバラバラの[点]であるアクション・シーンを、どうやって[線]にしていくか。よっぽど才能がある人か、あるいは本人に向かって「このシーンは全体の流れに不用だから、切りましょう。」とか、「ここは、あまりに不自然だから止めましょう。」とか、ガンと言える人でないと、珍妙なものが出来あがってしまう。

        アクション・シーンをこなせ、尚且つ、制作監督までしてしまう先人に、ジャッキー・チェンがいる。彼のも、ほとんどがスタント・シーンのアイデアが先で、それに後からストーリーを入れていくスタイル。それが成功している時と、失敗した時の落差が大きい。しかし、ジャッキー・チェンのうまさは、肉体的[痛み]を表現する事がうまい点で、近く公開の『ゴージャス』など、大掛かりなアクションを減らして、いままでになく[痛み]を表現してみせている。『カスケーダー』には人間がいない。ターミネーターだけだ。

        ちなみに今、打っていて思いついた。個人のホームページなんていうものこそ、完全にワンマンのメディア。「おい、お前のページ、ちょっと暴走しているぞ。」と思われたら、遠慮せずに言って下さい。深く反省して、そのまま勝手にやらせていただきます。


November.24,1999 おいおい、誰かこいつを止めようとする奴はいなかったのか

        ドニー・イェンが、大勢の敵に拳銃を突きつけられる。絶対絶命だ。すると、ドニー・イェンはガクッと両膝を曲げる。と同時に、ズボンのポケットの中のデリンジャーで、敵のひとりの足を撃ちぬく。それからは、やりたい放題。敵のひとりから拳銃を奪うや撃ちまくり、近距離の相手には廻し蹴り。あっという間に、大勢の敵が倒されてしまう。

        『ドニー・イェン COOL』ドニー・イェン制作監督主演のワンマン映画だ。この手の映画は、見る前に注意が必要。ワンマン俳優のひとりよがり(卑猥な言葉ですが)になってしまう恐れがあるからだ。ドニー・イェンは、ひたすら自分をカッコよく写すことにのみ関心があるだけだとしか思えない。これをスタイリッシュな映像だと誉める人もいるようだが、私にはわずらわしくてならなかった。

        ストーリーなんて二の次。情を通じ合うことになる女刑事に対しては、最初はほとんどストーカー。しかも大量殺人の殺し屋。それがなんで、女刑事が会った途端にコロッとドニー・イェンにいかれてしまうんだ? やたら暗い映像と拳銃音が続くので、途中で頭が痛くなってきた

        自分で金出して作ってるんだから、なんでも有りじゃ困る。こっちだって、金だして見に来てるんだから。節度というもんがあるだろうが。


November.18,1999 長廻しは観客に不安を与る、怖い演出法だ

        もう見た人も多いだろうが、やっぱり『シックス・センス』の秘密はヒ・ミ・ツ。しかし、この秘密が、ネックといえばネックだ。実際、このために最後にくるまで、そうとう不自然な描写があったり、訳の解らない個所が出てきてしまっている。私など、不覚にも、途中ウトウトしてしまった。最近の広告、『怖い、感動した、もう一度見たい』でしたっけ? は納得のコピー。ラストにきて、今までの断片が急にまとまってしまう脚本は凄い。

        何はともあれ、この映画、怖く創られている。音で驚かすショッカーの要素はもちろんだが、ジワジワと怖い。たまたま今出ている、『キネマ旬報』を立ち読みしていたら、M.ナイト・シャマラン監督のインタビューが載っていた。この中で彼は、ポランスキーの『反撥』のロングテイクが気味が悪くて、それを『シックス・センス』で使ったと述べている。そういわれてみると、ホラー映画の中で、観客として一番不安になるのが、長廻しだ。適当にカットを変えてくれれば、そこにリズムが生まれ、息継ぎもできる。ところが、廻しっぱなしというのは見ていて辛い。具体的には、見ていない人のために書きにくいのだが、ひとりの人物をカメラが追って行って、突然、カメラに異様な人物、光景が飛び込んでくる演出。これを多用している。また、『シャイニング』の構図も参考にしたというが、これは子供の目線に持っていった、見上げるようなショットのことだろう。

        まだ見てない人、体調良くして、怖がって、感動して、二回見てきてください。

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