エイプリルフールズ 2015年4月9日 TOHOシネマズ日本橋 古沢良太の脚本という事で、間違いなく面白いだろうと思って観に行った。古沢良太って人は『キサラギ』で世に出たころから、脚本の構成が見事で、うまい伏線の張り方と、アッと驚かせる展開と、実に巧みな脚本を書く人。ちょうどテレビの連続ドマ『デート』が終ったあとで、これもまあ実によくできた脚本だったので、期待は膨らむ。しかも題材がエイプリルフール、つまり嘘をテーマにした話とくれば、これは面白くならないわけがないではないか。 『エイプリルフールズ』は、4月1日に起こる、7つのエピソードをめぐる群集劇。7つのエピソードはお互いに関連しているところもあるという、いかにも古沢良太らしい構成。 結論から言うと、面白かったけれど、これ、メインになる偽医者(松坂桃季)とコミュニケーション障害の女(戸田恵梨香)のエピソードが、前半はいいのだけど、後半にあまりにも感動的に演出しようという作為が感じられて、ちょっと引いてしまったというところでしょうか。偽医者なのに、医学に関しては本を読んで勉強していたという二重の嘘という展開も面白いし、その場にいた人たちも妊婦を勇気づけようと思って、おそらく全員が自分たちの本当の職業を詐称するなんていうアイデアはウキウキしてくるような展開。それにしてはそのあとのシーンが長すぎるし、感動に持ち込もうという映画的作為が感じられて、あまり好きになれなかった。 でもやはり古沢良太の脚本の面白さは抜群。セカンドエピソードともいうべき、里見浩太郎と冨司純子の老夫婦のエピソードは、妻の余命がいくらもないことを隠しての最高に贅沢な1日をプレゼントすることという嘘と、周りの勘違いもあって皇族のふりをしてしまうという二重の嘘。これなどいい話だなぁと思う。きっと安直な脚本家だったら、このエピソードだけで一本の映画にして、観客をひたすら疲れさせるかもしれない。 3つ目のエピソードは寺島進のヤクザが鉄砲玉にされ、別れた妻との間にできた小学生の娘に会いに行く話。不器用な男だから本当の父親だとは言えず、誘拐して連れまわすということしかできないというのがおかしい。子供にメシをご馳走してあげようと思ってもラーメン屋ぐらいにしか連れて行ってあげる事しかできない。そこでメインエピソードの戸田恵梨香と交差するというのも上手い! 実にこれがあってからこそ、この2つのエピソードが大きく展開してしまうというのが面白い。この久人ぶりに会った娘というのが今時(?)の小学生で、「いたずらするならさっさっとして、私を帰して」と割り切るは、「女だったら誰だってできる仕事がある」なんて生意気なことを言うものだから、それならば現実を見せてやろうと性を売り物にした場所に無理矢理連れて行き、ショック療法指導。不器用な父親の不器用な教育。この話、好きだなぁ。寺島と子役がポンポンと台詞を投げ合うテンポのよさは『リーガルハイ』や『デート』にも通じるうまさ。古沢良太は短い台詞をリズムにして使う天才だ。このエピソードの寺島進オチも笑わせてくれた。こういう結末いいな。 あとの4つのエピソードは、上の3つに比べると小さいが、それぞれ面白い。さすがに古沢良太と思わせる。 「人生で一番大切なのは嘘をついてはいけないということ」と言われるのとは逆に「嘘も方便」とも言う。どちらも正しいとは言えるけれど、嘘をつくというのは、凄いエネルギーがいるということなんだよね。映画とは作る人の大きな嘘のカタマリ。その嘘を楽しみに行くのが我々で、古沢良太みたいな巧妙な嘘を形にする人は、たいへんなエネルギーを投入しているんだろうなぁ。それになら入場料を払っても構わない。 4月10日記 静かなお喋り 4月9日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |