風雲電影院

カラマリ・ユニオン(Calamari Union)

2015年3月19日
DVD
 1981年、アキ・カウリスマキの2作目。

 これはもう一筋縄ではない。ストーリーらしいストーリーが無い。そう言う意味では代表作の『レニングラード・カウボーイ・ゴー・アメリカ』に近い。街の向こう側には理想郷が開けていると信じた十数人の男たちが、そこを目指して旅立つ。街の中心部までは一緒に行き、そこからはある者たちは一緒に、あるものは別行動で、その理想郷を目指すことになる。彼らはとりあえず閉鎖されている地下鉄の駅へ行く。するとそのホームには地下鉄が停まっている。その列車に乗って中心部へ。ゾロゾロと降りて出口に向かうと、運転手が出てきて、そのうちの一人を射殺する。そのまま列車はまた動きだし行ってしまう。殺された男にもさして関心の無さそうな残された男たち。

 ここからは、この街の中心部からなんとかして理想郷に辿り着こうとする男たちの様子が描かれていくのだが、おそらくキッチリした台本など無く、即興に近い形で撮って行ったのではないだろうか? これだけの男たちがいても誰も彼も、その先に進めない。バスを買ってみんなで行こうとしてもバスを買う金がない。銀行に行って金を貸してもらおうとしても、ほとんどホームレスのような彼らにお金を貸してくれるわけがない。自動車を盗んで理想郷に向おうとする者がいるが、いつまでたっても車は街中をグルグルと回るばかりで、その外に出られない。とにかく金を稼せごうと仕事を始める者も出てくるが、結局はそのまま仕事に埋もれてここから出られなくなってしまう。殺されてしまう者もいる。それに自殺してしまう者もいる。洋服屋に入り、気に入ったネクタイを見つけ、それに合うスーツを買って(万引きみたいなものだけど)レストランでひとりで食事して、トイレでそのお気に入りのネクタイを使って首を吊ってしまう。こういった様子が、ただただ続いて行く。不条理の世界なんだけど、独特のブラックユーモアが漂い、まったく飽きさせない。

 音楽の使い方がいつもながらいい。ジャズ、ブルース、ロックなどがいっぱい詰まっていて、その選曲のセンスだけでも、さあて次に何が来るのかとワクワクしてくる。

 ほとんどの男たちは死んでしまうか、理想郷への旅を断念してしまうのだが、最後に残ったふたりがボートに乗って海に漕ぎ出していく。しかし残酷にも、その前途はあまり明るいものではない。

 取り残された男のひとりがギターを手にしてリフを刻みだす。すると隣のキーボードがそれに合わせだす。そこにベースとドラムが入って、歌いだすのは Stand by Me 。このなんともやりきれないラスト。アキ・カウリスマキという人は、人間賛歌のドラマなんて絶対に描かない。冷たく乾いた視線で、人間を見つめている。台詞も少ないし、登場人物に何かを語らせようともしない。アキ・カウリスマキってハードボイルドだよなと感じる。しかもまったく気取りが無い。人間を突き放すようなクールな視線。言葉なんかいらない。簡潔な描写だけで多くを語ってみせる。そして流れてくる良質の音楽。だからこそ、アキ・カウリスマキの映画ってクセになるし、何回でも観たくなる。

3月20日記

静かなお喋り 3月19日

静かなお喋り

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