御用金 2013年1月27日 テレビ放映DVD 1969年作品。公開当時、高校生だった私はロードショウには滅多にいかれず、二番館、三番館と言われた映画館に通っていた。これも、現在の[シネスイッチ銀座]が[銀座文化劇場]といっていた時代に観たのを記憶している。 高校生くらいに観た映画というのは、記憶の底にしっかり焼き付いているものらしくて、この40年以上前に観た映画をかなり細部まで憶えていた。最初の方で西村晃が路上で、三味線を弾かせた女性の脚に鮒を乗せ、それを居合で真っ二つにするところ。このシーンが始まった瞬間に思い出して、「そうだそうだ、このあと三味線の弦を斬るんだ」と記憶が甦って、その通りになると、人間の記憶って凄いなと感じた。悩の奥の奥に、ちゃんと保存されているんだなぁ。 この映画、テレビで『三匹の侍』なんかを撮っていた五社英雄が本格的に映画に進出した作品。フィルモグラフィーを見ると三作目らしいが、この『御用金』は当時、そういうことで話題になった。私もロードショウで観たいのをグッと我慢して、[銀座文化劇場]まで落ちるのを心待ちにしていた。ストーリーも解りやすいし、娯楽映画としてこんなに面白い時代劇は、当時ほかになかった。それでも私の当時の記憶では、映画評論家の反応はあまりよくなかったはずだ。「えーっ、こんなに面白いのに」と思っていた。娯楽映画を正当に評価しようとしない気運があったのかも。 黒澤明はこのころは『どですかでん』の撮影に入ったころで、もう娯楽時代劇を撮ろうとは完全に思わなくなっていた時期。そこへ現れた五社英雄は、黒澤の娯楽時代劇を継承しようと思っていた気がしてならない。クライマックスの仲代達也と丹波哲郎の対決なんて、当時私はまさにスクリーンに釘付けになった。雪の中での対決で、お互い手が凍り付いて刀がしっかり握れないから、手に息を吹きかける。それが妙にリアルに思えた。 まあ、ほとんど全篇雪の中でのシーンだが、観ている側も寒くなってしまう。それくらい寒さが画面から伝わってくる。この対決シーンに被さってくるのがお面を被って和太鼓を叩いている男たち。太鼓の力強いリズムが、睨み合っているふたりの気迫を盛り上げるこのシーンは、私も当時、片時も目が離せない緊張感に包まれた。 なにしろ鬼太鼓座が結成されたのも、この映画のあとのこと。ひょっとするとこの映画を観た若者たちが、あのシーンの太鼓に憧れて佐渡に集まったのかもしれない。 もっとも今観直すと、このシーン、いささか長い。観ていてダレてしまう。もう少し短くてもよかったんじゃないか? 1月28日記 静かなお喋り 1月27日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |