ハートカクテル・ドラマスペシャル ノックをしなかったサンタクロース 人魚がため息をついたテーブル 2012年12月24日 三日月座BaseKOMシネマ倶楽部 テレビドラマだが、シネマ倶楽部で上映されたので、ここに書いておく。 わたせせいぞうのマンガを日本テレビが単発ドラマ化したもの。『ノックをしなかったサンタクロース』は1987年に、『人魚がため息をついたテーブル』は翌1988年に放送されている。主演はどちらも三上博史と鈴木保奈美。 テレビからのビデオ録画での上映で、当時のテレビCMも入っていて、放映当時の時代が垣間見られたのも楽しかった。 『ノックをしなかったサンタクロース』は、函館出張を命じられた三上博史が仕事が長期化してしまい、クリスマスイヴの夜には東京で鈴木保奈美とデートするはずの約束が果たせなくなってしまう。ようやく仕事を片づけて飛行場へ向かうが東京への最終便はもう出てしまっている。彼女に謝ろうと、いつも彼女に電話している公衆電話ボックスで電話をしても相手は留守。失意に暮れた三上が電話ボックスを出ると、そこに鈴木保奈美が微笑んで立っている。 まだ携帯電話が無かった時代。ドラマとしてはこっちの方が画になりますなぁ。 ビデオにはJR東海のシンデレラエクスプレスのCMが入っていた。新幹線と飛行機という違いはあるが、最終便ということでは共通していている。 『人魚がため息をついたテーブル』は、その続編の形を取っている。こちらは横浜が舞台。やはり仕事に追われる三上。鈴木保奈美と会っている時間もなかなか取れない。クリスマスイヴの日も残業になってしまい、ようやくの思いで仕事を片づけて、待ち合わせのバーに行ってみると彼女はいない。時刻はもう12時を回っている。失意の三上が横浜埠頭で佇んでいると、そこに彼女が立っている。腕時計の針を一時間遅らせて。 今から観ると、ちょうどトレンディ・ドラマがブームになる直前みたいな時期のドラマなのかもしれない。 クリスマスイヴには若いカップルがレストランで食事してホテルにお泊りなんて、訳の解らない習慣が出来たのは、このころからだっのかも。私が20代のころにはそんな風習は無かった。私が知らなかっただけかも知れないが。それはもしかして、こういうトレンディドラマの影響なのだろうか? 原作になった、わたせせいぞうのマンガは面白がって読んでいたが、読んでいた当時も、「なんだかなぁ」という気がしていたことも確か。若いいかにもな、そこそこ金にも不自由していなくて、一流会社に勤める男と、オシャレな職種に就いている女のカップル。ふたりはルックスもよくてスラッとした体型。スマートな都会ライフを楽しんでいるように見える。それに読者は憧れたんだろう。 そこにCM界も攻勢をかける。今回上映されたビデオにもちゃんとスポンサーのCMが入っているが、自動車、化粧品、ワープロ(パソコンも少し)、電化製品、そしてタバコ。一弾となってオシャレな物の購入意欲を煽ってくる。みんなそんな生活に憧れて買わされていたんだよな。このころは、まだまだタバコがオシャレなものだった。ドラマの中でもみんな吸ってるし。 そして先にも書いたJR東海シンデレラエクスプレスだ。山下達郎の『クリスマス・イヴ』をBGMに持ってきたのは、今から思うと確信犯なのではないか。このあたりから、若いカップルはクリスマスイヴにはデートしなくてはならない。さらには、クリスマスイヴにデートしないやつはモテないやつといったような、とんでもない誤解が若者の間で蔓延してしまう。この少しあと、クリスマスイヴの翌朝に渋谷のラヴホテル街に迷い込んでしまった私は、恥ずかしそうな素振りもなく寄り添って歩くカップルの群れを見て、「ああ、もう日本は終わりだ」と思ったものだった。 マスコミが総がかりで作り上げたようなこの幻想は、若者たちから購買意欲を湧き立たせるのではなく、ほとんど大多数の若者たちには逆に勤労意欲を無くしてしまったのではないだろうか? わたせせいぞうが描くようなカップルなんて世の中にはそんなに存在しない。 このドラマの主人公の職業が奇しくも広告代理店勤務だというのが、そもそも裏があることに気付かなくちゃいけなかった。広告代理店は大学卒業者の就職希望職種のトップだ。企業の業績を上げるためのイメージ作りの手伝いをする仕事。こういった連中にかかっては、一般人に購入意欲をかきたたせて夢を抱かせるなんて朝飯前だ。 話を元に戻すと、ごく限られた若者。つまり一流企業に勤めてスマートに仕事をこなすかっこいい男や、オシャレな仕事についている美人の女は、それこそ社会のほんのひと握り。ほとんどは自分の容姿にも少しコンプレックスを持ち、安い賃金で汚れ仕事をこなしている。クリスマスイヴだからといって仕事を休むわけにもいかず、デートに誘う相手も、豪華ディナーを食べられるレストランにも縁が無い。それが大多数の人の人生だというのに、マスコミに乗せられて深く考えることをしないバカな若者はいじけたクリスマスイヴを迎えることになる。 今の若者たちの引き籠りとか、勤労意欲の低下は、こんな夢と幻想ばかり抱かせる広告代理店を中心とした作られたイメージが原因の部分があったのではないだろうか? ドラマの話から逸れてしまったが、クリスマスイヴにこのドラマを観て、そんなことを考えてしまった。 12月25日記 静かなお喋り 12月24日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |