風雲電影院

人斬り

2013年2月8日
テレビ放映DVD

 1969年作品。『御用金』のすぐあとで公開された、これも五社英雄監督作品。『御用金』が面白かったので、期待して観に行ったのを憶えている。しかし「すげえ!」とは思ったが、『御用金』が娯楽時代劇だったのに対して、『人斬り』は暗かった。映画館をスカッとした気分で出られなかった。だから、当時の私としては、もう一度観たいとは思わなかった。

 こうして40年以上経って観直してみても、やはりその時の感想は変わらない。暗くて重たい。『三匹の侍』の五社英雄が、ずっと娯楽時代劇を撮り続けてくれると期待していた私は、なんだかがっかりしてしまっていた。黒澤明がやはり娯楽時代劇を撮らなくなってしまったように、五社英雄も結局は芸術映画に行きたいのかなと思って寂しい思いがした。実際このあと、東映で女性文芸映画を撮るようになっていってしまったわけで、このあとチャンバラ映画を撮ることはなかった。

 しかし『人斬り』がつまらないかというと、そんなことはなく、緊迫感の漂うすごい映画だ。スカッとした殺陣は影を潜め、陰気でごつい、現実的な殺陣が映し出される。夜のシーンが多いこともあって、よく見えなかったりするのだが、かなり凄惨な殺陣。迫力があるのだが、とにかく暗い。

 主人公の岡田以蔵役は勝新太郎。腕は立つが、頭はあまりよくなく、いいように使われ、やがて死んでいく。これは『兵隊やくざ』シリーズの大宮貴三郎のキャラクターが思い出される。大宮はあくまで明るいが、こちらは暗い。大宮には不満のやり場をなだめる有田上等兵という、上の者がいたが、岡田以蔵には、こういう人がいない。上はすぐに冷酷な武市半平太である。救いようのない袋小路に入って行ってしまう以蔵。辛い映画だ。

 この映画は三島由紀夫演じる田中新兵衛の割腹シーンでも話題になった。翌年、私の通っていた高校の不良生徒が国語の時間にトランジスタ・ラジオをイヤホンで聴いていて、三島由紀夫が自衛隊市川駐屯所で割腹自殺をした知り、それを先生に告げたことから、授業が突然三島由紀夫の話になってしまったのを思い出す。さらに後に私はRCサクセションの『トランジスタ・ラジオ』を聴いても、この時のことを思いだすようになっていった。

 あとは、当時人気絶頂だったコント55号が出ていること。凄い忙しい生活をしていたころで、萩本欽一はその忙しさの中でも、この年『手』を撮っている。私も並木座に観に行った。

 そんな時代だった。1969年という年はまた、ウッドストックがあった年でもあり、私はロックに夢中になり、アメリカのニューシネマも動き始めていた。観ていて、そんなことばかり思い出してしまった。

2月9日記

静かなお喋り 2月8日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置