ラスト・シャンハイ(The Last Tycoon 大上海) 2013年10月16日 シネマート六本木 香港映画好きにとっては、これは豪華な映画だ。監督は娯楽映画のドン、バリー・ウォン。主演がチョウ・ユンファと来ては涎が出てきそうなくらい観たい映画。それで、やっぱり観てよかった。入場料の分、絶対に損はさせないというのがバリー・ウォンなのだから。 主人公チェン・ダーチーの若い頃の配役がホアン・シャオミン。地方から上海に出てきて、裏社会でのし上がっていくのだが、これがいい。いい顔つきをしている。 縄張りを巡っての抗争のシーンは、数対数の闘い。一方が竹の棒を持って襲い掛かれば、もう一方は刃物。このアクション・シーンは久々にゾクゾクした。これだよ、香港映画は。 成長してからのダーチーがチョウ・ユンファ。さすがに年を取って顔も変わったが、いい年の取り方をしている。いろいろな経験を経て、ここまでたどり着いたという、いい面構えのダーチーになっている。拳銃を撃つシーンも多い。思わず『男たちの挽歌』の二丁拳銃を思いだしてしまうが、これよ、これ。背筋をピンと伸ばして直立不動で片手を一直線に伸ばして拳銃を撃つ。カッコいいではないか。年を取ったら迷わない。オドオドしない。動き回らない。 チョウ・ユンファになってからのダーチーの腹心の部下が、またカッコいいんだなぁ。ナイフの達人で、ダーチーの昔の恋人イエ・ジーチウ(ヨランダ・ユアン)を陰でガードしていて、誘拐されそうになった彼女を助けるシーンの素晴らしいこと! 雨が降っている中での黒スーツの男たちを相手にナイフ一本で、全員を片づけてしまう。黒のスーツ、黒い傘、黒塗りの乗用車というこのシーンの見事な色合いは溜息が出る。 途中、『カサブランカ』の、飛行機で昔の恋人を脱出させるシーンを髣髴とさせるところがあるが、これもバリー・ウォンらしいサービスだろう。映画ファンなら思わずニヤリ。わかる人だけわかればいい。わからない人でも「いいなぁ」と思うだろうし。 とにかくサービス精神に富んだ映画だ。ノワール映画であり、戦争を描いた映画でもあり、そしてメロドラマでもある。誰が観ても面白いように作ってある。そしてクライマックスはこれまた香港映画お得意の京劇を出し、それに日本軍の弾薬庫爆破のスペクタクル・アクションを絡めてくる。もう、何本もの映画を一度に観たような満足感。そしてラスト・シーンときたら、1970年前後のアメリカン・ニューシネマを思わせるような終わり方。もう、ごった煮状態。 悪役として登場するフランシス・ン(ン・ジャンユー)もよかった。香港の役者さんは、たとえ二枚目でも悪役をこなす人が多いが、私が最初にこの人の映画を観たのが『欲望の街・古惑仔』だもの。あの狂犬のような役は忘れられない。 あまりに盛り込み過ぎの映画なので、もう一度DVDで観てみたいな。 10月17日記 静かなお喋り 10月16日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |