風雲電影院

昭和残侠伝 死んで貰います

2015年2月22日
新文芸坐

 1970年、シリーズ第7作。別に高倉健の映画の熱心な観客ではなかった私だったから、これは二、三年後に名画座で観た。そのころにはもう名作だと言われるようになっていて、期待して観に行ったんだと思うが、それほどピンと来ないまま映画館を出た記憶がある。

 今回の新文芸坐の高倉健追悼特集で何十年ぶりかに観て、これは確かに良く出来ていると感心してしまった。

 まず、映画が始まってすぐに高倉健で画面に登場するのがいい。賭場のシーン。山本麟一が壺振りで、客の一人が花田秀次郎(高倉健)。壺振りがいかさまをやっているらしいと見抜いているが、完全には見抜けない。賭場を抜けだしたところで、山本らに囲まれ殴られる。うずくまっているところに雨が降り出す。大きなイチョウの木の下に這って行くところで音楽。ここで使われる主題曲が歌無しのインストロメンタルというところがいい。そこにクレジットタイトルが流れていく。

 クレジットが終ったところで藤純子。傘を差しかけてあげて手当してくれる芸者の卵の役。これがいいんだなぁ。そのあと高倉健が刑務所に入って三年後に出所したときには芸者さんになっている。芸者って設定はうまい! 凛としていいんだなぁ、これが。

 とにかくこの映画のいいところを上げようとすると、いくらでも出てくるのだけど、まず脚本が良かったんだろうなぁ。無理がないというか、隙がないというか。そしてマキノ雅弘としても会心の演出だったんじゃないかと思う。

 藤純子、すごくきれいに撮れてるし、かわいいし、それでいて芯が強い女というか、これはもうこの手の映画としては理想形でしょ。

 長門裕之もいい役どころだった。同じ入れ墨者同士で自宅から遠い銭湯に通っているという描写もいい。今なら「入れ墨の方、お断り」なんだろうけどね。

 最期の殴り込みも計算し尽くされている感じ。健さんが後ろから斬りかかられようとしているシーンなんか、思わず「健さん、危ない!」とか「健さん、うしろ!」とか、掛け声がかけやすいように撮ったような気がするし、こんなシャープな立ち回りは、意外とほかにはないような気がする。

 最後に警察に連れて行かれるシーンでのたくさんの傘の動き。ソッと高倉健の肩に布を羽織らせる藤純子の大げさでない表情。この抑制の効いたシーンがラストに相応しい。雨の日に出会って雨の日に別れることになるふたり。名シーンじゃありませんか。

2月23日記

静かなお喋り 2月22日

静かなお喋り

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