『下町の太陽』 初めて行くラピュタ阿佐ヶ谷。映画会社の試写室を思わせる小じんまりとした作り。座り心地のいい椅子。いいなあ。 今回は『歌謡曲黄金時代1960’s』という企画上映の一本。1963年の山田洋次監督作品る東京オリンピックの前の年。当時の日本の風景が映っていて、それだけでもおもしろい。 主演は倍賞千恵子。彼女のヒット曲『下町の太陽』に便乗して企画された映画らしい。しかしこれは興味深い映画だ。これは山田洋次が後に撮り続けることになる『男はつらいよ』シリーズの原型となる作品だと思われるからだ。 下町の石鹸工場で女工として働く町子が倍賞千恵子の役どころ。町子には道男という同じ会社で働く恋人がいる。道男は本社勤務社員試験に向けて勉強中。彼の夢は郊外の団地で家庭を持つことだ。 町子の家族は、おばあさん、おとうさん、高校生と中学生の弟という五人家族。おかあさんを早くに亡くした町子は一家のおかあさん代わりでもある。 高校生の弟は受験勉強中。一家はこの高校生のためにテレビを観るのも自粛している。そんなおり、中学生の弟が鉄道模型を万引きして捕まる。彼は鉄ちゃんなのだった。 鉄道好きな弟は、鉄工所に勤める良介(勝野誉)と仲良くなっている。この鉄工所に勤めている工員は不良だという噂がたっているのだが、映画を観る限りにおいては、けっしてそんな印象ではない。鉄道模型を万引きしたのは良介のせいだと思い込んだ町子は、良介と会う。良介は町子に一目惚れしてしまうが、町子はいい印象を持たない。 本社試験に受かる枠はひとりだけ。道男は、惜しいところで同僚の金子(待田京介)に敗れてしまう。が、金子が交通事故を起こしてしまい、それが元で金子は失脚。道男は本社社員の道が開けることになる。 道男は町子にプロポーズする。結婚して郊外の団地に住もうと。しかし町子はここで考え込んでしまう。この人と一緒になって下町を出ることが本当に幸せなんだろうかと。町子は良介のプロポーズに答えを出せない。 町子は『男はつらいよ』のさくらとどこか共通したキャラクターだ。『男はつらいよ』の寅次郎とさくらの関係は腹違いの兄妹。ふたりの両親はどちらも死亡している。寅次郎は妹のさくらをサラリーマンと結婚させたいと思っている。舞台は両作とも東京下町。『男はつらいよ』のさくらは兄の思いと反して印刷工と結婚することになる。『下町の太陽』の町子も、本社勤務のエリートサラリーマンとの結婚よりは、鉄工所で働く男に魅かれていく。 まさに、さくらの原型は『下町の太陽』の町子だったんだなあ。 2010年2月2日記 このコーナーの表紙に戻る |