風雲電影院

ハドソン川の奇跡(Sully)

2016年10月5日
109シネマズ木塲

 講談の神田松之丞が、パイロットになりたいと思う人の気持ちがわからないと言っていた。塩分の高い機内食を食べさせられ、常に何百人もの乗客の命を預かっているんだという重圧を感じて生きる人生なんて、いかにいい給料を貰おうが、美人CAに囲まれていようが嫌だ。それにいつハイジャック犯に銃を突きつけられるかわからないと言う。これってよく考えると、もっともな話だと思う。まあ、こっちは成りたかったとしても成れないけれどね。

 IMAX上映が終わってしまうと気が付いて、慌ててIMAXのスクリーンに観に行って正解だった。これはテレビ画面では面白さが半減してしまうし、できるだけ大きなスクリーン、いい音響のところで観てこそ価値がある。機長役のトム・ハンクスが墜落の夢を見るシーンなどは、やはり小さな画面ではダメだ。

 実際にあった事件だから、155人の乗客は無事だったのはネタバレでもなんでもないのだが、ふたつのエンジンが両方とも停止してしまい、管制塔からの飛行場に引き返せという指示を蹴ってハドソン川に着水させる。これがのちに問題になって、事故調査委員会から事情を訊かれる。ここのところかこの映画の上手いところで、見ている側にも、機長の判断はミスだったんだじゃないか、川に着水させるよりも飛行場に引き返して滑走路に着陸させた方が安全だったんじゃないかという気にさせる。トム・ハンクスの不安そうな表情がそう思えてくるし。でも、見ながら、やはり事件は管制塔や会議室で起こっているんじゃなくて、あくまでも現場で起こっていることじゃんという気がしてくる。

 そして調査委員会はシュミレーションをやってみせて、これは飛行場に戻ってもちゃんと着陸できたはずだという証拠を突きつけてくる。もう調査委員会の人間たちが全員鬼に見えてくる。あの場にいたのはあんたらじゃなくて機長じゃないの。あんたら、ふたつあるエンジンが両方停止してパニックにならないでいられるか? 例え飛行場に引き返せていたとしても、咄嗟の判断で川に着水させたのは現場の判断。それをチクチクと、ほんとにもう嫌な奴らだと思わせる。これがこの映画のテーマでもあるんだろうけれどね。

 それで結果的に、ハドソン川に着水させたことは正しい判断だってってことが証明されて、そうするとそれまでチクチクと機長を悪者扱いしていた調査委員会の面々が突然笑顔になって、「あなたの判断し正しかった」と笑顔になる。終わってみれば、この映画には悪い奴は誰もいなくて、あ〜、こりがアメリカ映画なんだなと思う。乗り合わせた乗客たちも文句言ってる人は誰もいなくて、ずぶ塗れになっても、デズニーランドかユニバーサル・スタジオのアトラクションを楽しんだって顔をしている。めでたしめでたし。

10月6日記

静かなお喋り 10月5日

静かなお喋り

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