ギリシャに消えた嘘(The Two faces of January) 2015年9月1日 新文芸坐 パトリシア・ハイスミス『殺意の迷宮』の映画化。今年の春に公開されたのだが見落としてしまい、新文芸坐でようやく拾うことができた。原作は読んでいないが、これはもう見事、パトリシア・ハイスミスの心理サスペンスの世界。観に来てよかった。 ギリシャでガイドをやっているアメリカの青年ライダル(オスカー・アイザック)。語学が堪能で卒業してからも、外国をウロウロして気ままな暮らしをしているらしいけれど、もうそろそろまともな生活を始めなくちゃと思っている男。ってこれ『太陽がいっぱい』の主人公にも通じる感じで、パトリシア・ハイスミスらしいなぁ。彼がある日街で見かけたのは、自分と同年配くらいのアラサー女性を連れた初老の男。「連れの女の方に興味があるんでしょ」とガールフレンドに言われるけれど、彼としてはその初老の男性が自分の父親に似ていることの方に興味を感じたよう。この初老の男はチェスター(ヴィゴ・モーテンセン)、アラサー女性はコレット(キルスティン・ダンスト)で、ふたりは夫婦らしい。 キルスティン・ダンスト。サム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズのヒロイン役。ブスだのなんだの酷い言われようをした人だけど、私は好きだったなぁ。もう30歳を過ぎて、いい感じのアラサー女性になっている。 ライダルとこの夫婦はひょんなことから親しくなって一緒に食事をする。どうやらこの夫婦は金持ちで、ふたりで世界中を旅行しているらしい。ところが、食事を終えて夫婦がホテルに帰ってくると、部屋に男がやってくる。この男は探偵。チェスターは小さな証券会社をやっていて、実は詐欺で出資者の金を持ち逃げして高跳びしていたというわけ。探偵は被害者から雇われていて、チェスターに金を返すことを要求する。そこで争いになりチェスターは探偵を殺してしまう。そこへ忘れ物を届けに来たライダルがやってきてしまう。隠しきれなくなったチェスターはライダルに死体の始末の協力を頼む。 さあここから、ライダルと夫婦の逃避行が始まるのだが、途中でライダルとコレットがデキてしまうものだから三角関係に。このあとはもうパトリシア・ハイスミス調全開の話になって行く。 学生時代に一時期、ギリシャに憧れたことがある。なんだか風光明媚で人ものんびり生きているみたいだし、ギリシャあたりでのんびり暮らせたらどんなにいいだろうと思った。それが今や、ユーロのお荷物みたいなことになっていて、かと言って貧乏生活は嫌だっていう国民性。いかにもって気がしますねぇ。でも学校を出たアメリカ人がブラブラしているって、わかる気がするんですよ。 逃避行の最期がトルコのイスタンブールというのもいいなぁ。西欧文明とアジアが交わるところ。アメリカ人にとっては、もうギリギリのところまで追いつめられたって感じじゃないですか。私は20年前に始めてヨーロッパ(ドイツ)に行って、帰りにイスタンブールへ寄ったのだけれど、なんだかホッとした気になった。アジア圏内に帰って来たという感じ。やっぱり私はアジア人なんだなあという思いを抱いたものでした。 よく考えるとストーリーは単純で、パトリシア・ハイスミスを知らない人は、「えっ、これだけの話?」と思ってしまうだろうが、三人の心理を深読みして行くと、実に面白い話で、これもトシを取らないとなかなか理解できないかもしれない。そろそろ人生に焦りを感じている三十路男。ついつい他人の金に手を出してしまい(ここでは描かれていないが、きっとかなり追いつめられていたんだろう)、世界を転々と逃げ回る男。金に惹かれたのか初老の男と結婚してしまったアラサー女性。でも目の前に同年輩の男が現れると、ついつい気になってしまう。そんな心理の綾が感じられて面白い。役者も演技しすぎず、とてもいい芝居ョしている。これぞ大人の映画ですね。 9月2日記 静かなお喋り 9月1日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |