罪と罰 白夜のラスコーリニコフ(Rikos Ja Rangaistus/Crime and Punishment) 2015年1月9日 DVD 1983年、アキ・カウリスマキ、26歳のときの監督第一作。原作は言わずと知れたドストエフスキー。この有名な小説を私は読んでいない。あまり読みたいとも思わないけれど。この映画だって、去年の暮れから突然に好きになったアキ・カウリスマキでなかったら観なかっただろう。 原作は読んでないけれど、インターネットで得た知識からすると、原作を尊重しつつも、あくまでもアキ・カウリスマキ流の『罪と罰』に書き換えている。 主人公が人を殺すのは原作では高利貸しの老婆。それとその現場にたまたまやって来た老婆の義妹も殺してしまう。一方、アキ・カウリスマキ版では、主人公のフィアンセをひき逃げして無罪になった男を殺す。その現場にやってきたのはケイタリング会社の若い女性。この女性は主人公をその場から逃がす。若い女性は警察に通報。犯人を見たと言うが、のちに主人公が警察に疑われると、自分が見た人物は、この人と違うと証言する。 なにしろ原作を読んでいないからはっきりしたことは書けないのだが、アキ・カウリスマキ版はかなりロマンチックにしてハードボイルド。小津安二郎に影響を受けたという、どこか乾いた映像と人物描写。それでいてセンスのある音楽の使い方も、すでにこの第一作から表れている。一体誰が『罪と罰』にブルースやらジャズやらを取り入れようとするだろうか? アキ・カウリスマキを観たのは、『レニングラード・カウボーイ・ゴー・アメリカ』『真夜中の虹』『コンクラト・キラー』に続いて、これが四本目。第一作の時点でもう自分のスタイルを確立している。まだ四本目だから確かなことは言えないのだが、この監督、社会から阻害されちゃった人間を描くのが好きなような気がする。フィンランドでは受けなかったバンドが、いきなりアメリカに行っちゃう。そしてメキシコに流れていくなんていうのは極端だけど、『真夜中の虹』では最後に船でメキシコ密航を図るところで終わっていた。そしてこの『罪と罰 白夜のラスコーリニコフ』も偽造パスポートを作りストックホルムに逃れようとする。 しかし、主人公は気が変わって警察に出頭して、自分がやったと自白する。いつまでも待っていると言う女性に背を向け、「人間いつかは死ぬ。そして天国なんて無い」と告げるシーンは、ひたすらかっこいい。原作がどうなのか知れないが、もう見事なクライム映画であり、ハードボイルド映画にしてしまっている。 そして流れる音楽のよさ。アキ・カウリスマキの映画ではフィンランド語で台詞が進んでも使われる音楽のほとんどは英語。この不思議な取り合わせが、観ていてついついクセになって、もっと観たい、もっと観たいという気持ちにさせられるんだよなぁ。 1月11日記 静かなお喋り 1月10日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |