この台本は、ネット上の演芸好きの集まり、熊八MLの2004年新年オフ会用に、ミツワセッケンさん、くりさんに当てて書いたものです。当日は、くりさんの都合がつかなくなり、実際には上演されませんでした。せっかく書いたものですから、ここに残しておきます。
熊八新年会2004年用漫才台本
『新婚ハワイの夜』
セッケン 「三つの輪セッケンです」
クリ 「クリです」
セッケン 「ぼくたち、夫婦漫才です」
クリ 「違う、違う! 誤解されたらどうするんですか!?」
セッケン 「違いましたっけ?」
クリ 「当たり前じゃない! (客席に向かって)みなさーん、勘違いしないでくださいねえ」
セッケン 「そうなんですよ、みなさん、ぼくたちはこれから夫婦漫才になるところなんです」
クリ 「ちょっと、ちょっと、さっきから人に誤解されるようなことばかり言わないでくださいよ!」
セッケン 「そうでしたね。誤解されるようなことばかり言ってごめんなさい。ふたりはこれから末永く愛し合う関係になるのでした」
クリ 「何言ってるんですか! あのねえ、あたし、これでも人妻ですよ!」
セッケン 「そうなんだよね、クリさんは実は結婚していねんだよね」
クリ 「そうよん。私はこれでも人妻なのよん」
セッケン 「(歌う)♪あーいしーても あいしても あああー 人の妻」
クリ 「なに人妻の浮気の歌なんて歌ってるのよ。そんな気持ちの悪い歌、歌わないでください!」
セッケン 「大川栄策の『さざんかの宿』。演歌はやっぱり日本人の心だねえ。(歌詞を読み上げる)くもりガラスを手で拭いて あなた明日が見えますか 愛しても愛しても ああ人の妻 赤く咲いても冬の花 咲いてさびしい さざんかの宿 ・・・いいでしょ。旅館で浮気をしている女の心が見事に描かれているじゃないですか」
クリ 「はっきり言っときますけどね、私は浮気なんかしていません! そ・れ・に、あたしは、セッケンさんに何の興味もありませんからね!」
セッケン 「キツー」
クリ 「だいたいですね、セッケンさんとあたしとじゃ、親子くらいの歳の差があるじゃないですか!」
セッケン 「・・・・・(呆然とクリを見る)」
クリ 「何ですか?」
セッケン 「親子ってことはないだろう? クリさんて、歳いくつ?」
クリ 「まあー! レディに対して失礼じゃないですか! ・・・・・いくつに見えます?」
セッケン 「そうだなあ、歳の頃なら26.7、ひょっとすると、もう30は過ぎているのかなあ。これで案外47.8、化粧を落とせば52.3、ことによると、そろそろ還暦・・・・・」
クリ 「『浮世床』みたいなこと言わないでください! あたし、こう見えても18よ」
セッケン 「(呆然とクリを見て)サバ読みすぎ」
クリ 「気分はまだティーンエイジャーなの! いいじゃないですか、何歳だって。そういうセッケンさんは何歳?」
セッケン 「いいじゃない、そんなこと、どうだって」
クリ 「セッケンさんとあたしは、どう見たって、つりあわないくらい歳が違います! あたしとセッケンさんが並んで歩いたら、援助交際だと思われるわよ」
セッケン 「援助交際って流行っているんですってね。それも最近は携帯電話の出会い系サイトが舞台になっているとか・・・・・
セッケン、クリ、上手端と下手端に別れる。
セッケン 「(携帯電話を取り出してメールを打っている仕種)タクヤと言います。当方、インターネット・ビジネスで成功を収め、有り余る金と時間を持っております。これからは、将来に希望を持っている若い女性に資金を援助したいと思っています。私はよく、名前どおりキムタクに似ているといわれます。メールをお待ちします。ピッ。よしと」
クリ 「(携帯電話の待ち受け画面を見ている)へえー、この人、凄いじゃない。青年実業家でキムタク似ですって。うふっ、メールしちゃおうかなあっと。
(メールを打つ仕種)タクヤさん! うふっ、あたし 19歳の女の子、マロンでーす。ハートマーク。 今、カレシが他の子と浮気しているのがわかって別れちゃったところです。グスン。泣き顔マーク。こんな私をなぐさめてくれませんか? あたし、将来は看護婦さんになりたくて、今、専門学校に通ってまーす。ところが授業料が足りなくて困っているの。ヘルプしてくれると助かるなあ。ちなみにあたし、みんなからは後藤真希に似ているって言われるわ。ハートマーク。ピッ。よしと」
セッケン 「モー娘。にいたゴマキ似の女の子かあ。いいなあ、よし。
(メールを打つ仕種)マロンちゃん、始めまして。看護婦さんに成りたいんだってね。ぶっちゃけ、感心だなあ。それじゃあ、月五千円ずつ援助してあげようか? タクヤ。ピッ。よしと」
クリ 「まあ、五千円ですって? 青年実業家が聞いてあきれるわね。しみったれた奴ねえ。
(メールを打つ仕種)あたしの通っている専門学校は、授業料、毎月五万円なの。もう少し援助してくれないかしら。マロン。ピッ」
セッケン 「(メールを打つ仕種)全額出してあげるのは君のためにも良くないなあ。じゃあ、月一万円でどうかな。タクヤ。ピッ」
クリ 「(メールを打つ仕種)一万円では包帯も買えないわ。四万五千円でどう? マロン。ピッ」
セッケン 「(メールを打つ仕種)それでは二万円。タクヤ。ピッ」
クリ 「(メールを打つ仕種)それじゃあ、体温計も買えないわ。四万円でいかが? マロン。ピッ」
セッケン 「(メールを打つ仕種)二万一円」
クリ 「(メールを打つ仕種)それじゃあ、注射器も買えないわ。三万五千円でいかが? マロン。ピッ」
セッケン 「(メールを打つ仕種)二万二円」
クリ 「(メールを打つ仕種)それじゃあ、メスも買えないわ
(携帯電話から目を離してセッケンを睨みつけ)って、メスで一度ぶっ刺してやろうか!? 何で一円単位で上げてるのよ!!」
セッケン 「クリさん、クリさん、あなたは今、マロンちゃんなんだから。こっちに直接言ってどうするの。携帯でメールを打ってくださいよ
(再び携帯でメールを打つ仕種)それでは1月12日の2時に逢いましょう。ピッ」
クリ 「(メールを打つ仕種)どこで逢いましょうか? マロン。ピッ」
セッケン 「(メールを打つ仕種)巣鴨の、とげぬき地蔵の前で逢いましょう。タクヤ。ピッ」
クリ 「(セッケンを睨みつけ)あたしたちは、ジジババか!?」
セッケン 「クリさん、クリさん。あなたは今、マロンちゃんなんだから。こっちに直接言ってどうするの。携帯でメール打ってくださいよ」
クリ 「(メールを打つ仕種)目印は何にしましょうか? マロン。ピッ」
セッケン 「ぶっちゃけ、是非、看護婦さんの制服で来て欲しいなあ。タクヤ。ピッ」
クリ 「(セッケンを睨みつけ)コスプレ・マニアか!!」
セッケン 「クリさん、クリさん。あなたは今、マロンちゃんなんだから。こっちに直接言ってどうするの。携帯でメール打ってくださいよ」
クリ 「(メールを打つ仕種)私、今、和服に凝っているの。○○○(当日、高座で着ている着物の柄)を着ていきますわ。マロン。ピッ」
セッケン 「(メールを打つ仕種)これはまた偶然ですね。ぶっちゃけ、私も和服、大好きなんですよ。私も和服で行きます。タクヤ。ピッ」
セッケン、クリ、上手端と下手端で、お互いを捜している仕種。だんだん中央に向かって近づいてくる。
セッケン 「おかしなあ。ゴマキに似ている和服姿の女の子って見えないけれどなあ」
クリ 「おかしいわねえ。キムタクに似ている和服姿の男の人なんて見えないけれどなあ」
セッケン、クリ、うっかりお互いにぶつかった仕種。
セッケン 「あっ、どうもすみません」
クリ 「すみません」
セッケン、クリ、お互いの顔、服装を、まじまじと見て、
セッケン 「あの、ひょっとしてゴマキに似ているマロンちゃんて、あなた? (再びクリの顔を見つめ)ゴマキというよりゴボウマキ」
クリ 「あの、ひょっとしてキムタクに似ているタクヤさんって、あなた? (再びセッケンの顔を見つめ)キムタクというよりキムチとタクアン」
セッケン 「(素に戻り)こういうことがありますからね、くれぐれも注意していただきたいものですが・・・・・」
クリ 「(まだコントのまま)それじゃあ、先にお約束の三万円」
セッケン 「えっ!?」
クリ 「あらいやだ。三万円ということでお約束したじゃありませんか」
セッケン 「(懐から手ぬぐいを出し、見えないお札を出す仕種)はい、それじゃあ、これで」
クリ 「あらいやだ。ちゃんと本物のお札でくれなくちゃあ。(観客に)ねえ、みなさん、そうですよねえ」
セッケン、いやいや懐から財布を取り出して、一万円札三枚を取り出す。
クリ 「(ひったくるように三万円を取り上げ、観客に)みなさーん、二次会の資金、セッケンさんから三万円いただきましたあ」
セッケン 「ちょっと、ちょっと、クリさん、クリさん」
クリ、お札を懐に入れてしまう。
クリ 「さあ、次行きましょう」
セッケン、自分の三万円が気になって仕方ない仕種
クリ 「どうしたんですか? 早く次のコーナーに行きましょうよ」
セッケン 「(しかたなく)私たち、お互い別の人と結婚しているわけですが、ところでクリさんは新婚旅行、どこへ行きました?」
クリ 「私は○○○○でした」
セッケン 「そうですか。私は○○○○でしたね。いやあ楽しかったなあ、あの時は。そうだ、ふたりで新婚旅行のことを思い出してみませんか?」
クリ 「いいですね、やってみましょうか」
セッケン、クリ、足踏みをしながら歌う。「♪あーあー 憧れの ハワイ航路」
セッケン 「(口の前にマイクを持つ仕種)アテンション・プリーズ、アテンション・プリーズ。こちら機長の三輪。人からは魅惑的なミワ、見分ける能力のあるミワ、見渡す限りのミワなどと呼ばれております」
クリ 「そんなにセッケンさんがいたら、気持ち悪い!」
セッケン 「ひとつ、顔と名前だけでも憶えて帰っていただきたいと思いますが」
クリ 「売れてない噺家じゃないんだから! 第一、これは機内放送で、顔は見えないの!」
セッケン 「道で会いましたら、遠慮なく、ミワリンと呼んでください」
クリ 「キョンキョンじゃないんだから。早く先に進みなさいよ!」
セッケン 「当機は只今、無人島上空を通過中。あっ、漂流した人が島から手を振っています。可哀想ですが、見て見ぬふりをして通過しましょう」
クリ 「助けてあげなさいよ! どこかの管制塔に連絡するとかして!」
セッケン 「当機は只今、シチリア島上空を通過中。まもなくオアフ島のホノルル空港へ到着します」
クリ 「シチリア島といったらイタリアでしょうが! 何考えてるんですか!」
セッケン 「失礼いたしました。当機は只今カウアイ島上空をマッハ3の速度で通過中」
クリ 「こらこら、それじゃあオアフ島に下りられないでしょうが!」
セッケン 「現地の気温は零下25℃」
クリ 「ハワイといつたら常夏の島でしょうが! なんで零下25℃なのよ!」
セッケン 「今年はハワイも異常気象で、この夏は冷夏だそうです。それで冷夏で25℃」
クリ 「そのシャレが言いたかったわけ!」
セッケン 「天気は雪」
クリ 「なんでハワイに雪が降るんですか!?」
セッケン 「それは柳家喬太郎に訊いてください」
(機内放送ネタはここまでで、ここから新婚旅行ネタに入る)
セッケン 「ほら、ここがホノルル空港だよ。あっ、レイを持ったムームー姿の女の人が立っている! ウェルカム・レイをかけてくれるんだね。
(架空のハワイの女性に)お嬢さん、素敵ですね。ボクと結婚しませんか?」
クリ 「何で新婚旅行に来ているのに、ハワイの女性にプロポーズしているんですか!」
セッケン、クリ 「♪カイマナヒーラ カイマナヒーラ」
セッケン 「ほら、ワイキキの浜辺が見えてきたよ」
クリ 「うわあ、浜辺は人でいっぱい。これじゃあ湘南と変わりないわね」
セッケン 「しょうなんです」
セッケン、クリ 「♪カイマナヒーラ カイマナヒーラ」
セッケン 「ほら、あれがダイヤモンドヘッドだよ」
セッケン、クリ 「(ベンチャーズ『ダイヤモンドヘッド』のサビの部分で、スイムで踊りながら歌う)
♪小さい秋 小さい秋 小さい秋 小さい秋 みーつーけーた テケテケテケテケ」
セッケン 「ほら、こんなにパームツリーが並んでいる!」
クリ 「パームツリーって何?」
セッケン 「椰子の木のことだよ」
クリ 「あっ、椰子の実が落ちてる。(拾う仕種)ココナッツ・ジュース飲みたーい」
セッケン 「貸してごらん。ココナッツは硬いんだよね。割ってあげよう」
セッケン、クリからココナッツを受け取るや、ココナッツをクリの頭にぶつけようとする。
クリ 「何するのよ!」
セッケン 「クリさんの頭はダイヤモンドヘッドで硬いから割れるんじゃないかと思って」
セッケン、クリ 「♪カイマナヒーラ カイマナヒーラ」
クリ 「ハワイは初めて?」
セッケン 「(鼻をこすりながら加山雄三のポーズで)よせやい、ぼくはこれでも学生時代は若大将って呼ばれていたんだぜ」
クリ 「それじゃあ、せっかく海に来たんだから泳ぎましょうか?」
クリ、平泳ぎで泳ぐ仕種をする。セッケンは『お嫁においで』を歌う。
セッケン 「♪もしもこの海で 君の幸せ見つけたら すぐに帰るから ぼくのお嫁においで・・・・・」
クリ 「ちょっと、ちょっと、なんで泳がないのよ!」
セッケン 「カナヅチなんだ」
クリ 「どこが若大将よ!」
セッケン、クリ 「♪カイマナヒーラ カイマナヒーラ」
セッケン 「ほら、ここがノースショア。サーフィンのメッカだ」
セッケン、クリ、『太陽の彼方』をスイムで踊りながら歌う。
「♪乗ってけ乗ってけ乗ってけサーフィン 波に波に波に乗れ乗れ 踊れ踊れ踊れサーフィン 太陽の彼方 太陽の彼方 テケテケテケテケジャーン」
クリ 「どうせサーフィンなんてやったことないんでしょ」
セッケン 「(サーフィンボードを持っている仕種)ほら、これがぼくのサーフィン・ボードだよ。ぼくが伝説のサーファーと呼ばれているのを知らないのかい?」
クリ 「伝説はいいから、早く波に乗りに行きなさいよ。ウィキウィキ! ウィキウィキはハワイの言葉で、早くってことよ。ウィキウィキ!」
セッケン 「チッチッ(人差し指を振る仕種)。悪いけどぼくはこんな小さな波は乗らないんだよ。ビッグウエンズデーと呼ばれる大きな波が来ないと乗らないのさ」
クリ 「えっ! きょうは結構高い波が来ているじゃない!」
セッケン 「いや、きょうはまだ火曜日だ」
セッケン、クリ 「♪カイマナヒーラ カイマナヒーラ」
クリ 「さあ、きょうは水曜よ。波も高いし波に乗ってきたら? これぞ待ちに待ったビッグウエンズデーでしょ」
セッケン 「うん、きょうは水曜だけど、祭日だから休みなんだ」
クリ 「何それ? きょうは何の日でしたっけ?」
セッケン 「海の日」
クリ 「海の日くらい、海に入りなさい!」
セッケン、クリ 「♪カイマナヒーラ カイマナヒーラ」
セッケン 「デューティーフリー・ショップで買い物しようか?」
クリ 「そうね」
セッケン 「ハワイといえばマカデミアンナッツ。みんなへのお土産に買って帰ろうか」
クリ 「そんなの日本の量販店の方が安いわよ。
(店員に)すみませーん、紙袋だけ10枚くださーい」
セッケン、クリ 「♪カイマナヒーラ カイマナヒーラ」
(ここから、セッケンのひとり漫才風のコーナーに入る)
セッケン 「(『君といつまでも』を歌う)♪ふたりを 夕闇が包む この窓辺に 明日も素晴らしい 幸せが来るだろう・・・。
(クリの顔を見て)しわ寄せだなあ。ぼくは君の顔を見ているときが一番しわ寄せなんだ・・・。熊八メンバーは寄席が大好きなんだ・・・。いいだろう?」
クリ、このあとに舞台の端に移動。
セッケン
「新郎 『日が暮れてきたね』
新婦 『そうね』
新郎 『夕日がきれいだなあ』
新婦 『あたし、お腹が空いてきちっゃた』
新郎 『そうだね、きょうはふたりとも、よく遊んだしね。じゃあ、食事に行こうか?
レストランを予約しておいたんだ。ええっと、確かこの辺のはずだったけど・・・・・。ああ、あったあった。レストラン・カウカウ。ホノルルで一番人気のあるレストランなんだよ。ガラガラ(引き戸を開ける仕種)』
新婦 『なんで、引き戸なのよ』
ウエイター 『いらっしゃいませ、何をさしあげましょうか?』
新郎 『あっ、ウエイターさん、この店の名前、カウカウっていうけれど、ここはステーキハウスなわけ?
COWって牛のことだよね』
ウエイター 『カウカウとは、ハワイの言葉で、食べるという意味でございます』
新郎 『じゃあ、ぼくは料理をお金払って買う買う』
ウエイター 『えへん』
新婦 『ちょっとお、そんなダジャレ言わないでよ』
ウエイター 『私どもの店は、シーフードがお勧めになっておりまして、あそこの水槽からお魚を選んでもらうようになっています』
新郎 『ふうん、それじゃあね、ぼくはそのロブスターを貰おうかな。アルフレッドフィットチーネにして。バターと生クリームたっぷりで。(新婦に)君は何にする?』
新婦 『あたしは、そんなにカロリーが高くないものがいいなあ。あなた、決めてくださらない?』
新郎 『それじゃあ、カロリーの低いものというと・・・・、刺身がいいか。その極彩色の魚、何ていうの?』
ウエイター 『フムフムヌクヌクアプアアと申しまして、ハワイ州の魚。州魚でございます』
新郎 『じゃあ、それをこちらの女性に、それを刺身にして。甘酢あんかけをかけて』
新婦 『何よそれ!』
新郎 『美味しかったね。少し散歩でもしようか。ハワイの言葉で散歩するは、ホロホロ。きれいな言葉だね、ハワイの言葉って。じゃあちょっとホロホロしようか。気持ちいい夜風も吹いているし。『旅の夜風』って曲知らないかい?』
新婦 『何よそれ』
新郎 『愛染かつらの主題歌じゃないか。作詞・西條八十、作曲・万城目正。霧島昇とコロンビア・ローズのデュエット。さあ一緒に歌おう』
(『旅の夜風』を歌いだす)『♪花も嵐も踏み越えて・・・・・ どうして一緒に歌わないんだよ』
新婦 『あなた、いつの時代の人よ。そんな歌知らないわよ』
新郎 『そうかい? 柳亭市馬なんて1961年生まれなのに、高座で懐メロ歌いまくっているぜ』
新婦 『そんな人と一緒にしないでよ』
(『旅の夜空』を歌う)『♪花も嵐も踏み越えて 行くが男の生きる途 泣いてくれるなホロホロ鳥よ』
新婦 『ホロホロ鳥って、それが演りたかったわけ』
(続きを歌う)『月の比叡を ひとり行く チャンチャカチャンチャンチャン』
新婦 『月、きれいね』
新郎 『うん、きれいだね。うううん。でも結婚式のウエディングドレス姿の君の方がずっときれいだったよ。こうやってふたりで砂浜を散歩していると、ふたりはラクダに揺られた王子様とお姫様みたいだね』
新婦 『ねえ、風が冷たくなってきたんじゃない?』
新郎 『うん、海風が冷たくなってきたようだね。それじゃあ、ホテルに帰ろうか。大切な君の体が心配だしね』
(『旅の宿』の節で)「 ♪ムームーの君は ハイビスカスのかんざし マイタイカクテルのグラス 傾け もう一杯いかがなんて 妙に 色っぽいね・・・・・」
セッケン 「(舞台端で聴いていたクリを呼ぶ) クリさん、協力してよ。これからいいところなんだからさ」
クリ、セッケンの隣に並ぶ。
セッケン 「やっとふたりっきりになれたね。もっとこっちにお寄りよ、ねえったら。・・・・・ぼくたち幸せになろうね」
クリ、次のセッケンの台詞の最中に、ソロソロとセッケンから離れていく。
セッケン 「子供、大好きなんだ。いっぱい子供作ろうね。野球チームが出来るくらい子供を作りたいなんて言っていた芸能人がいたけど、これからはサッカー・チームだ。そうだ、サッカー・チームが出来るくらい子供を作ろうよ、いいだろ」
と、隣にいるはずのクリに抱きつこうとするが、クリはいなくて空振り。
セッケン 「クリさん、なんでいなくなっちゃうの」
クリ 「ちょうどいいところでございますが、お時間でございます」
セッケン 「それでは、最後に『阿波踊り』の『ぞめき』でお別れいたしましょう。踊りたい方はご自由にどうぞ」
セッケン、クリ、三味線を手にして弾く。
チャンカチャンカチャンカチャンカ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「♪踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん
えらいやっちゃえらいやっちゃ よいよいよいよい」
ほどよいところで、
クリ、客席に一礼して、三味線を弾きながら楽屋へ向かって行く。
それに気がついたセッケン、
セッケン 「クリさん、ちょっと待って! (客席に一礼して) クリさん、クリさん、あの、さっきの三万円、返してくださいよう」