January.8,2000 アドビ・フォト・ショップ

「おい、店員、買いにきてやったぞ!」
「へいへい、いらっしゃいませ。何をさしあげましょう」
「あれだ、ほら『アドーブ・フォトなんたら』って奴だ。さっさとよこせ!」
「乱暴な人だね、この人は。へいへい、それでしたら、『アドビ・フォト・ショップ』のことで事でございますね。お使いのパソコンは、Macでしょうか、WINDOWSでしょうか? へいへい、WINDOWSでございますね。それではこちらになります。それではレジの方へ」
「おう、これかこれか、さっそく包んでくれ」
「へいへい、それでは、99800円に消費税で104790円になります」
「んっ? 何だって。店員、俺は数字に弱いんだ。昔っから算数、苦手でよ。頼むから漢字で言ってくれねえか」
「十万四千七百九十円でございます」
「・・・・・・・・。いけねえ、漢字も忘れちまったみてえだ。悪いけど、ひらがなで言ってみてくんねえ」
「じゅうまんとんでよんせんななひゃくきゅうじゅうえんでございます」
「なんだか、余計にわかんなくなってきたな。じゃあカタカナで」
「ジュウマントンデヨンセンナナヒャクキュウジュウエンデゴザイマス」
「いけねえ、俺は英語喋れなかったんだ」
「英語じゃありませんよ。どうするんです。買うんですか、買わないんですか?」
「買うよ、買うよ。だけどだな、店員、いいか、物には、それ相応の値段があるってもんじゃねえか。そりゃ、高えよ」
「これでも、現金正価よりお引きして売っているのでございますよ」
「あのな、寿司屋とかうなぎ屋に行ってみろよ。松、竹、梅とかよ、特上、上、並て別れてるじゃあねえか。俺は別に特上なんていらねえんだ。並でいいんだ。梅でけっこう。『フォト・ショップ』って奴の梅をくんねえ」
「そんなのは、ございません。『フォト・ショップ』は一種類でございます」
「・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・。あのさ、こうしねえか。これちょっと貸してくんねえか。一泊二日のレンタルでよ。インストールしたら返すからよ」
「そんなね、レンタル・ビデオ屋じゃあないんですからね。だめですよ」
「じゃ、当日返しで」
「できませんったら」
「・・・・・・・・・」
「どうなさいます。お買い上げになるんですか、ならないんですか?」
「買うよ、だけどだよ、そりゃあ、あまりに高えよ。どうだい、もう少し、安くならねえか」
「先ほども申し上げましたように、すでにディスカウントした値段がこれでございます。いか程のご予算なのでございましょうか?」
4790円
「えっ、何ですって? よく聞き取れませんでしたが」
だから、十万円をのけて、ただの4790円
「今度はまた、バカに大きな声ですね。だめですよ、お客さん、無茶言っちゃいけない。店内も混んでまいりました。お買いになるかならないか、もう一度、よくお考えになって、ご来店のほどを」
「待てよ、買うよ買うよ。買やあいいんだろ」
「へいへい、お買い上げいただけますか。お支払いは、現金で、それともクレジッット・カードになさいますか?」
「こちとら、江戸っ子でえ。本郷真砂町の生まれよ」
「何もそんなこと、聞いてませんよ」
「粋でねえ、店員だなあ。こちとら江戸っ子だから、宵越しの金は持たねえと言ってるんだ」
「へいへい、そうしますとクレジット・カードで」
「宵越しの金は持たねえくれえだ。支払い不能出しちまって、カードはとっくに銀行で止められちまってるわあ」
「ええっ、そんなあ」
「安心しろ、店員。 こんなこともあろうかと、給料前借りしてきたんだ。ほらよ、十万円だ」
「お客さん、あと4790円足りませんが」
「釣りはいらねえ、取っとけ。あばよ」
「そんな、困りますよ、お客さん。ああ、『アドビ・フォト・ショップ』持って、行っちゃった。くそー、塩まいて置こう」
「何か言ったか?」
「うわあ、帰ってきた」
「何か、オマケにくれるものはねえのか?」
「冗談じゃありませんよ。こんなに料金踏み倒しておいて、何も差し上げられません」
「ケチ!」
「あなたにケチと言われる筋合いはありません」
「けっ、二度とお前のところでは、買わねえからな。あばよ!」
「もう二度と来るなー! しかし、今日は厄日だなあ。あんな奴が来やがって。まてよ、これが本当のヤクビ(アドビ)・フォト・ショップ」

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