February.14,2000 カバのひとつ覚え
「あっ、大家さん、何処へ行くんですかい?」
「何処に行くかって言ったって、あのカバ野郎のとこだよ。よしゃあいいのにホーム・ページなんて立ち上げちまって、画像がメチャクチャなカバのとこだ」
「ああ、あいつのとこですかい。しょーもねえ奴ですよね、あいつ。大家さんからも言ってやってください。何やらグラフィック・ソフト買い込んだらしいんですがね、今だに画像が直ってない」
「ああ、ほんとに面倒見きれない奴だ。けど、ほっとく訳にはいかねえからな、じゃあな、行ってくるよ」
「ええ、お願いします」
「ほんとに、あのカバときたら、うちの長屋の面汚しだ。しかも、あのホーム・ページのくだらないこと。あのカバ、思い込んだら一直線のカバだから、毎日毎日、更新しやがって、しかもそれがさっぱり面白くもないカバなことばかり書いてやがる。映画だの本だのブルースだの訳の解らないゴタク並べやがって、最近はB級グルメまで始めやがった。ああいうのを迷惑カバっていうんだ。―――プロバイダーもプロバイダーだ。あんなくだらないホーム・ペ−ジは追放してもらわなきゃ、いけねえ。―――おっ、ここだここだ。おいカバ、いるかい?」
「おいカバはないでしょうが大家さん。店賃(たなちん)の催促でしょう? 大晦日には耳を揃えて払う約束はしてましたがねえ、いろいろと物入りでしてねえ。もうちょっと待ってやってくださいな」
「そんなことは、どうでもいいんだ。今日顔を出したのは、またお前のホームページのことだ。画像が直ってないじゃないか」
「へえ、それでね、『アドビ・フォトショップ』ってえ、バカ高いソフト買っちまったもんですから、店賃が払えねえ」
「大家と言えば親も同様、店子(たなこ)といえば子も同様。相談してくれれば、いつまでも店賃は待ってやるよ」
「こんな変な顔の親は持った覚えはねえ」
「何か言ったか?」
「いえ、別に」
「それでだ、『アドビ・フォトショップ』はどうしたい?」
「それがね、まだ卓袱台の上に置いたっきりなんでさあ。開けてもみてねえ」
「どうして、そんなことしている。早く画像を直さねえか!」
「そんなに、がみがみ言わねえでくださいよ。今やりますから」
「ほら、箱から出してみな!」
「ええっと、こう開けてっと・・・・・・・・・ぎゃっ!」
「どうしたい、びっくりしたように飛び上がって」
「ふうぅ―――っ」
「何やってるんだよ、猫じゃあるまいし、何を威嚇しているんだよ!」
「大家さん、何なんですかい、この分厚い本は! しかも、何だかさっぱりわかんねえ、翻訳調の文章」
「まあ、取りあえず、インストールしてごらん。そうしないと、何も始まらないじゃあないか―――――何やってんだよ、お前は! 箒など持ち出してきやがって、何をツンツンと『フォトショップ』を突ついていやがるんだ」
「へえ、この野郎噛みついてくるといけねえから、試しているんでさあ」
「このカバ、ソフトが噛みついてくるかい!」
「ソフトクリームなら、こちらが噛みつきてえ。もっともあれは柔らかすぎて噛みつきようがねえが」
「何をカバなこと言ってるだ、早く、CD−ROMを入れな。――――――ようし、出来たじゃあねえか。あとはな、今までの画像ファイルを全部、[イメージ]から画像解像度を300から72に変更。そのあとで[別名で保存]から、JPEGおよびGIFで最適化。それを保存して、以前のは削除。サーバーにも以前のを削除して、新しいのを送りなおす。いいか、できるな!」
「えええっ、大家さん、今まで使った画像だけでもたいへんな数ですよ、それ、みんなやるんですかい」
「あたりまえじゃねえか。それもこれも、毎日毎日カバのひとつ覚えみてえに更新して画像使ってる、おめえが悪いんだ」
「えっ、更新って毎日やらなくてもいいんですかい?」
「あたりめえだ」
「そうですかい。あたしはまた毎日更新しなきゃいけないんだと、こう信じてた」