October.29,2001 [袁]の字の出し方
「おい、カバ公、いるかい!?」
「あっ! こりゃあ、大家さん」
「大家さんじゃねえや、随分とタナチンため込んだもんだなあ!」
「すいません。ご無沙汰しちゃって」
「ご無沙汰って、正月以来じゃねえか。何やってたんだよ。このコーナー、忘れちゃってる人だって多いだろうによ、もう」
「すいません。ついつい落語に夢中になっていたりして、こっちが留守になってしまっていました。タナチンも払わずじまいになっていてすみません」
「まあ、それはいいとして、何やってんだ? ははあ、またロクでも無いホームページの更新かい?」
「ええ、それがね、今、困っちゃってるんですよ。噺家に柳家小袁治っていう人がいるんですがね、この[袁]という字が出ないんですよ」
「ふむふむ、珍しい字だな」
「[えん]って読むんですがね、素直に[えん]とタイプして変換キーを押しても、[袁]という字は出てこないんですよ。近い字だと、[猿]って字がありますがね。サルって意味ですよね。でもケモノヘンが邪魔なんです」
「ほほう、カバ公もしばらく見ないうちに、大分パソコンが分かってきたじゃないか。そうだなあ、どうしたら[袁]が出せるかなあ。そうだカバ公、お前、香港映画が好きだったな。[袁]のつく役者がいなかったかな」
「[袁]のつく役者・・・・・っと、あっ! アニタ・ユンだ! 『つきせぬ思い』 『君さえいれば 金枝玉葉』のショート・カットの女の子。彼女の漢字読みが[袁詠儀]だ」
「そうだな。他にも、殺陣師がいたろ?」
「そうそう、武術指導のユェン・ウーピンが[袁和平]と書くんだった! ジャッキー・チェンの出世作『蛇拳』 『酔拳』の殺陣をやった人だあ! それにリー・リンチェー(ジェット・リー)を復活させた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズの殺陣も彼によるものだっけ」
「さすが、香港映画ファンのカバ公だ、よく知っているな」
「てえことは、何ですかい? [あにた・ゆん]と打って、変換キーを押せば[袁]という字が出てくるというわけですかい?」
「そんなバカな。相手はスクエアなパソコンだぞ! そんなものは出てこない」
「大家さん、[スクエア]なんて難しい言葉使っちゃって、分かってるるんですか?」
「知ってるとも。クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』で、ユマ・サーマンがジョン・トラボルタをエスコートしてレストランに行くシーンで、四角く画面を切るシーンがあったろ。そこに英語字幕では[SQUARE]と出るんだ。日本語字幕では[四角四面]だったがな」
「それって、あっしが『風雲電影院』に去年の7月に書いたやつじゃないですか」
「そうだったかな。とにかく、そんな名前では変換はきかない。中国人には[袁]という苗字が多いんだ。歴史上の人物で、[袁]という名前のつく人物を思い出してごらん。それを入れると、案外出てくるものだよ」
「歴史上の人物ねえ。そういうのは、とんと分からねえ」
「そうだな、袁世凱で入れてみたらどうだ。中国語読みでは[ユァン・シーカイ]だろうが、日本語読みでは[えんせいがい]になる。中国の清の時代の将軍だ」
「えんせいがいねえ。じゃあ、入れてみますよ。えんせいがい―――っと。そして、変換キーを押して・・・・・・あっ、大家さん、[袁世凱]って変換しましたよ」
「そうか、そうか。そしたら、[世]と[凱]を消してしまえばいいんだ」
「なあるほど。こりゃあ、うまくいった」
「ところでカバ公、タナチンのことだがな・・・・・・ありゃ、逃げちゃったよ。おーい! カバ公! 戻っておいでー!」
「大家さん、すいませーん! 大晦日には返しますから、待ってくださーい!」
「しょーがない奴だなあ。[猿]のケモノヘンを取りサルことが出来て。[袁]になったんだ。サルものは追わず」