May.28,2001 商業演劇でも通用しそう

5月20日 星屑の会『クレイジーホスト・リターン』 (本多劇場)

        4年前の『クレイジーホスト』の続編ということなのだが、残念ながら私は前作を見ていない。これだけでも話は分かるように作られているようなのだが、やっぱり前作を見ておけばもっと面白かったろうになあと思う。

        どうやら前作は、中年ホスト4人組が店を辞めたところで終わっているらしい。舞台を新宿から札幌に移して、中年ホストたちはまだ頑張っている。三田村周三はマネージャーに転身したらしいのだが、小宮孝泰は筋肉ショウという芸を得意として見せている。身体にオイルを塗って[ギリシャ彫刻]のような肉体美を見せているつもりらしいのだが、さすがに歳は隠せない。上腕二頭筋、大胸筋、腹直筋・・・と見せていって、通勤、借金、黴菌、外出厳禁という風に繋がっていくところは、大爆笑もの。でんでんと渡辺哲は中世の甲冑を着ての[グラデュレーター・ショウ]で活躍している。でも、でんでんはどうやらすでにしてアルツハイマー気味。渡辺哲は、中年のホステス(どうやらオカマらしい)に惚れられて困っている。このホステス役が、何と有薗芳記。これがまた実にはまり役なのでびっくり。すごく女っぽい。この人、確かかつては暴走族役などで、コワモテのイメージだったはずだよね。

        食わせ者のイメージの社長役ラサール石井。真面目な料理人佃典彦。紅一点何か訳ありの料理助手に元宝塚の真乃佳世。そして稼ぎ頭の若手ホスト6人。そんなホストクラブに乗りこんでくるヤクザに元天井桟敷の海津義孝。

        これらのキャラクターを使って、見ていて誰でもが楽しめる喜劇に仕上がった。秋にもう一本、本公演を演って、来年の5月には明治座に進出するという星屑の会。明治座一ヶ月公演に充分通用するだろう。座長が風間杜夫と平田満のダブル座長になるらしい。これは『蒲田行進曲』以来の顔合わせ。楽しみだなあ。演目が『居残り佐平次』。佐平次が風間で、平田は何と清水次郎長。なあるほどなあ、次郎長となると子分役がズラーッと出ることになる。大政は渡辺哲ね。はたして石松は誰が演るんだろうか? 私は有薗芳記だと思うのだが・・・。今から配役を考えるだけでワクワクしてくる。来年5月、人形町翁庵もお忘れなくね。


May.23,2001 まだまだ知らない噺、多いなあ

5月19日 末広深夜寄席 (新宿末広亭)

        ボロが出ないうちに書いておくが、私が落語に最も夢中になっていたのは中学生時代。それが中学卒業と同時にだんだんと離れていってしまった。そのあとは、年に数回、落語会を覗く程度という生活だった。それがまた熱心に見るようになったのが、この二年くらい。30年くらいのプランクがある。ホームページでこのコーナーを作ってからというもの、ある意味で引っ込みがつかなくなってきたということもあって、異常なくらい見るようになってきたが、落語好きとしてはまだまだ初心者の段階だと告白しておこう。当然、私の知らない噺ってまだまだ沢山あるようだ。

        午後10時開演の毎週土曜夜の新宿末広亭。真打昇進が決まって、今日で三遊亭新潟が深夜寄席最後だというので、場内も100人近い入り。背の高い柳家喬之助の呼び込みに迎えられて、入口で500円玉を一枚差し出すと、チケットを切ってくれたのは、その新潟くん。

        入船亭扇治。「今夜は新作派のふたりがあとに控えていますから、ウカウカできません」。そうなのだ、今夜は新潟に加えて彦いちも演ることになっている。「値下げ競争で、今は牛丼が200円代で食べられる時代。この深夜寄席の500円というのも値下げしなければならないのではないかと・・・。と言ってももう、これはギリギリの値段。では入場料の代わりに質を上げればいいということになりますが・・・つまり・・・一生懸命やるということで・・・こう言っちゃうと、今までは違うのかと・・・」。ハハハハハ、言うほど泥沼にはまっちゃう。

        「サッカーくじが人気のようで、これに対抗して寄席くじというのを作ってみたらどうでしょう。[その日の代演は何人か?]とかね。[ネタを予想する]なんてのもいいかも知れない。こう言うと『それは無理だと』おっしゃるかもしれませんが、そうでもないんですよ。寄席の持ち時間はトリでもなければ、だいたい15分。例えば、さん吉、川柳、円歌と並んでいたとする。とすると、これはもうさん吉『優しさと思いやり』、川柳『ガーコン』、円歌『中沢家の人々』と埋まっちゃう」。川柳と円歌の噺は有名。ホント、最近この人たちはこれ以外の噺をしなくなっちゃった。でも、さん吉の『優しさと思いやり』って何? 私はまだ聴いたことない。今度聴きに行こうっと。

        で、扇治が始めたネタというのが、貧乏長屋に住んでいる男が、ひょんなことから一分というご祝儀を貰う。店賃なんて溜めるだけ溜めているから、これを大家に払ったところで焼け石に水。かといって仲間を集めて酒盛りをするには少ない。どうしようかと思っていると、そうだ富くじを買おうかと思いつく。一等の1000両は無理としても、二等の100両なら可能性がなくもないんじゃないか。「もし100両当たったらどうする?」と亭主が女房に訊くと「アタシは着物が欲しいねえ」と言う。帯まで買って締めて16両。「それじゃあ、オレも着物を作ろう。そうだな10両くらいするかな?―――待てよ、亭主のオレが10両で、お前が16両とはどういうことだ!」って喧嘩になる。そこへ大家さんが「何を喧嘩してるんだ」ってやってくる噺。これ、聴いたことないなあ。何て言う噺なんだろう。ホント、知らない噺まだまだあるんだなあ。

        さあて、次は誰が出てくるのかな?と思ったら、札が[花緑]と出る。ええーっ!? 何で真打が? 間違いだろ? と思ったら、本当に柳家花緑がワイシャツ姿で出てきた。手にカメラを持って。ニコニコ笑いながら客席をパチリパチリと記念撮影。場内大爆笑。何で出てきたんだあ? そこへ彦いちが登場。客席を背に撮ってくれというポーズ。それが済むと今度は、彦いちがカメラを受け取って花緑をパチリ。なあにやってんだか。でも、場内は大受け。「情熱大陸野郎でしたー!」と彦いち。遊びに来てたんだね、花緑さん。呼び込みの手伝いもしてくれていたそうで、いい関係だよね。新潟くんはじめ、こんど真打に昇進する人達も、この二つ目の会、遊びに来てあげて欲しいなあ。

        さて彦いちは、新潟くんとアメリカへ行ったときのことから話し始めた。新潟くん、ロスの空港を出て外の景色を見るなりの第一声が「随分アメリカナイズされているよなあ」だったとか。店でレンタカーを借りようとして、英語が頭に浮かんでこない。新潟くん、「えーと、えーと、あいあむ、あいあむ、あいあむ、あ、かー」って言ったとか、本当かなあ。酒を買おうとしたが、若くみられて酒を売ってもらえない。歳を言わなくちゃいけないと分って口をついた言葉が「あいあむ、さーてぃーん!」 すると隣で新潟くんも「みー、つー」。不審な顔の店員に、現地に住んでいる彦いちのオニイサンに通訳してもらう。ようやく納得してくれた店員に彦いちが「ひー、いず、まい、ぶらざー」と添えたら、新潟くんも横から「みー、つー」 何だかウソっぽい気もするけど、ありそうだよなあ。

        「今、国立演芸場で『林家木久蔵一門会』に出てきたところなんですがね、もう出てくるやつ、出てくるやつ、みーんなバカばかっかり。もう、バカ、バカ、バカ、バカ、それで最後に大バカー! ひととおり落語を演ってから、[バカ大喜利]。当然、喜久蔵師匠が司会だと思うでしょ? それが師匠、回答者の方に座ってるんですよ。仕方なくアタシが司会ですよ。それで[トンチ相撲]なんてやるわけですよ。ナニナニとナニナニが闘って、こういう決まり手でナニナニの勝ちってやつ。これが志ん朝一門会ならば、きれーな答えが出てくると思うんですよ。それがウチの一門バカばっかりですからね、何だか分んない回答ばっかり。「あっ、あのそれ、どういう意味?」と訊きたくなるようなフォローに困るのばっかり。師匠からして、「コオロギとバッタが闘って、バッタバッタとバッタの勝ち」なんてのですから」。ええっと、それで彦いちがどんなネタを演ったかっていうと・・・マクラが面白すぎて、肝心のネタのことを憶えてない。なんかジャッキー・チェンの息子の噺だったなあ。

        喬之助、客席を見渡し「なんだか、新宿末広亭というより、[なかの芸能小劇場]といった雰囲気ですね、今日は・・・」 「こんな時間に演って、お客さんが入るというのは新宿ならではですね。浅草なんて夜10時なんていうと誰も歩いていない」。そう、噺を聴いていると、外で酔っ払いが騒いでいるのが聞えてくる。静かにしてくれないかなあ―――って無理だろうなあ。ネタに入って、これまた知らない噺にぶつかってしまった。ふたりの噺家が吉原をひやかして歩いていると、呼びこみのニイサンが一円八十銭ポッキリでいいから上がっていってくれと言う。言われるままに上がると、長襦袢姿の大女の花魁がヤキイモ食べながら出てくる噺。なんだろう、これ。オチから推測して『足抜き』とかいう題名なのかなあと思って帰ったのだが・・・。実は翌日、フラフラとまた池袋演芸場へ行ったら、喬之助さんがさん喬師匠の千社札を配っていた。思いきって声をかけるたら、題名を教えてくれた。「あれは『徳ちゃん』っていうんですよ。ウチのさん喬師匠もよく演っていたんですよ」だって。知らなかったなあ。

        新潟は黄色とオレンジの着物で出てきた。「昔、カッコイイと思って作ったんですがね、どうもこれ着るとチベットのお坊様みたいになっちゃう。まるでダライ・ラマ」 今夜で卒業という感慨もあるのか昔話を始める。高座の回りを見まわし「最初にこの高座に座ったときは、床の間に掛け軸が掛かっているヘンな舞台で、なんだか銚子の民宿みたいだなあと思ったもんです」 「円丈師匠のところに入門して、最初に教わったのが『やかん』。これが憶えられないんですよ。それで『志ん生全集』を読んで演ったら、師匠に『何で円生の型で演らないで志ん生の型で演るんだ!』って怒られまして」 ネタは先週も中野で聴いた『ギロチンはじめて物語』。中世のフランスを舞台に「江戸の香りは、これっぽっちもありません」と言っておまながら、家に帰ると「おう、今けえったよ!」ってガラッと戸を横に引く動作が可笑しい。「真打になって、新潟から白鳥に名前が変わりますが、よく考えてみたら、これシラケ鳥って読めちゃう」とくさってましたが、いい名前だと思いますよ。羽ばたけ! 白鳥!


May.19,2001 酔っ払いのテンポ

5月13日 上野鈴本演芸場五月中席夜の部

        開演間際に、20人近くの団体が入ってくる。手に手に、おんなじお弁当とお茶を持って。お茶子さんが誘導するのに手間取って、なかなか幕が開かない。この団体さん、みんな60歳以上のお年寄り。ようやく席に着いたと思ったら、半分くらいはすぐにトイレに行っちゃった。5分遅れで幕が上がる。

        前座、三遊亭麹。「麹と書いて、[こうじ]と読みます。麹町のこうじでございます」。ふうん、『寄席演芸年鑑』の最新版にも出ていない。最近入門した人みたいね。それにしては、『手紙無筆』上手いじゃないの。頑張ってね。団体さん、弁当広げてお食事タイム。いいなあ、何が入っているか気になってしまう。

        古今亭菊若。「楽屋の符丁で、[スル]という言葉は、忌み言葉といって嫌われております。ですから、[すり鉢]は[あたり鉢]なんて言います。居酒屋さんで[スルメ]を[アタリメ]というのと同じです。じゃあ、[スリッパ]は何て言うかというと、[アタリッパ]・・・」。本当かなあ? 男が甚兵衛さんを尋ねてくる。「なんだい、何の用ですかな。えっ! 手紙をお持ちになってきた。それを早くお言いなさい。時間が無いんだから」。菊若さん、のっけから時間が押してしまってタイヘンだね。紹介状を持ってきた男にザルを売る商売を教えてあげる。「ざるやー、米あーげざる!」の呼び声で、縁起かつぎで株を買ったばかりという大家の旦那が「米あげとはうれしいね」と喜んで・・・。ははあ、『ざるや』ですか。ハナの出で演るには、縁起もんでいい噺を選びましたねえ。私の斜め後ろに若いカップルいて、オチが決まったところで女性が「上手いネ」と男性に囁いた。連れてきた男性は、きっといい気持ちだったろうなあ。

        次は曲独楽の三増巳也。「コマのミーちゃんと呼んでネ」と、膝をちょこんと曲げて挨拶した姿のカワイイこと! ミーちゃーん! 色っぽいよお! 「一本でも日本刀」の刃の上で独楽を回してみせるのが、ほんの小手始め。続きましては、輪ぬけのコマとござい! でも、「CDを貼りつけてみました」っていう独楽、何の意味があるのー? 三回に一回は失敗するという投げ独楽をきれーに決めてみせた。カーワイイなあ、ミーちゃん!

        明るい高座がまだ続く。古今亭志ん駒だ。この人、現れると怒涛のごとく笑いを取っていくから座が盛り上がる。このあたりから、ちょうど私の後ろにティーン・エイジャーのふたり組の女の子が座った。この子たちのよく笑うこと。『弥次郎』を猪のくだりの手前で切り上げて、踊りに。座布団を片付けにきた前座さんに「君は誰のお弟子さん? ふーん、馬生師匠。いい師匠に着いたね。あと10年もやれば立派な二つ目になれるよ」ってからかいもいつも通りらしい。踊りの前に、これまた相変わらずのアメリカの手旗信号ネタ。「これがA、これがB・・・・・・・・・・」で、Hはというと―――って両手を股間に。後ろのティーンエイジャーの女の子たちがキャッキャッと大喜び。いいなあ、こんなシモネタでもそんなに可笑しい? 自宅の茶の間では、両親前にして笑えないよね、こんなネタ。たっぷり笑っていってネ。

        「団体さん、よくいらっしゃいましたね」と古今亭円菊。団体さんの席は前から10番目くらいの正面。いい席だ。「どこから、いらしたんですか? はあ、落合ですか。では落ち合っていらしたんでか?」。団体さん、ちょっと照れくさそう。「下町には貧乏長屋なんてのがありまして、『醤油切らしちゃったんだけどなあ』 『じゃあ、ウチの使いなよ』 『味噌切らしちゃった』 『ウチの使いなよ』 『今夜、女房がいないんだけどなあ』 『じゃあ、ウチの使いなよ』」 うしろのティーンエイジャーの女の子がまたキャッキャッと笑う。町内の連中が集まって、好きな食い物は何かという話になる中、「ウサギが好きだね。ウサギは旨いよ」って言った途端に、場内は感付いてしまったよう。「先に言わないでね、寝ないで考えたんだから」って言って、♪うさぎおーいし、かのやーまー って照れて歌っているのがカワイイ。この人もう70歳越えているよね、確か。ネタは『饅頭こわい』。

        とにかく今夜のお客さんはよく笑う。円菊の『饅頭こわい』だって、どうやら後ろの女の子ばかりでなく、みんな知っている噺なのに爆笑が起こる。こういうお客さんばかりだと、演る方も演りがいがあるかもね。続く入船亭扇遊は『初天神』だ。「ねえねえ、おとっつぁん、連れてっておくれよう。ねえ、おとっつぁん、おとっつぁん、おとっつぁん。連れてっておくれよう。おとっつぁん、おとっつぁん、おとっつぁんてばあ」 「うるせえなあ、さっきから。おとっつぁん、おとっつぁんって。おとっつぁん売ってるのか、おめえは!」。よく笑う客層だと見て取ったのか扇遊も、爆笑噺を持ってきた。

        ギター漫談のぺぺ桜井。「きょうは、ほどほどの入りで・・・。先日なんてお客さん4人なんてことがあったんですから。出演者が20人。お客さん、入場料どうやって分け合うんだろうって心配してたらしい。お客さん一人だったとき、マジックの人なんてお客さん舞台に上げて、ふたりでババヌキやってた」なんて、『アルファンブラの想い出』を弾きながら、いけしゃあしゃあと語るのがいつものスタイル。かと思うと、『禁じられた遊び』を弾きながら『浪花節だよ人生は』を歌うなんて、どういう頭をしてるんだろうね、この人。「私だってね、音楽家に成りたかったですよ。でも音楽家には成れなかった。何故かっていうと、黙ってギターが弾けないの!」 「『一度、真面目に弾いてみたら』って席亭さんに言われて弾いたこともあるの。弾いてみせたら、『へえ、真面目にも弾けるんじゃない』って。マトモに弾けたら、こんな商売やってない!」 「それでは最後の曲『さよなら』」ってイントロらしきものを弾きだして、ボツっと「さよなら」と呟いてお辞宜をしたら、盛大な拍手がきた。シクシクと鳴きながら楽屋へ帰って行った。別にいなくなるのがうれしいんじゃないんだよ。

        初音家左橋。「雅子様のご懐妊、森首相の解任と、おめでたいことが続きますね」と駄洒落をかまして、「雅子様へのプロポーズ、『私が一生お護りします』ってカッコよかったですね。私が女房に言ったプロポーズの言葉っていいますと、『チューリップを育てよう』。きょとんとしてましたがね、求婚(球根)って理解してもらえなかったみたい」。ついつい碁に夢中になって帰りが遅くなった若旦那の半七、親父さんに締め出しをくってしまう。ふと見ると、隣のお花ちゃんも帰りが遅くなって締め出しをくってしまっている。半七が仕方なく霊岸島のオジサンのところへ泊めてもらおうとすると、お花ちゃんもついて来てしまう。『宮戸川』の一席ですね。早合点の伯父は、半七が女性を連れてきたものだから、早飲込みの大喜び。「いいから、いいから、万事、オジサンに任せなさい! 二階に上がって寝ちまいな。ただし、布団は一組しかないからね。うふふふ。どうしたい。早くお行きよ。早くしないと、アタシがその子と二階へ行っちゃうよ! どうしたいバアさん。ヤキモチ焼くんじゃないよ。テメエの骨焼く歳だろうが!」 これから、ふたりで二階に上がって、ひとつ布団で離れるようにして寝ていると、雷が鳴って・・・。うふふふふ。後ろの女の子たちも受けている。

        桂文生は、結婚式風景を長々と話だす。「新婦さんが美人のときほど披露宴は静かでしてね。反対に新婦さんが美人とは言えないときほど賑やか。男性の出席者も美人だと「あんな美人もらいやがって」となると静かなのに、美人でないと「あいつは、あの程度」ってんで盛りあがる。女性も「アタシのが上よ」てんで盛り上がる」。本当かなあ。「出席者のことを[カラスの軍団]というそうで、真っ黒の格好をしてきて、出てきた料理を時間内に食い散らかす」。「祝辞の長い人がいますな。シュクジっていうくらいだから、縮辞にしてもらいたいもの。長いのは弔辞(長辞)」。結婚式風景の漫談で終わるのかと思ったら、『高砂や』が始まった。オチが面白かった。普通、『高砂や』の残りの歌詞が分らなくて、「たーすけーぶねー」で終わるところを、この人のは、隣にいた機転のきく女房が「こんれいに、ご容赦」とやる。へえー、こんな型、初めて聴いた。

        仲入りに入ったら、団体さん全員がお帰り。ありゃありゃ。寄席はこれからが面白いのに・・・。

        奇術、アダチ二世。「きょうは、私、やる気ですよ。きのうはやる気なくて、喋ってばかり」って、さっそくレコードの色が変わる手品。ほかの人のホームページ見たら、おんなじこと言ってたから、いつものセリフなのかも。最前列のお客さんにカードを選ばせて、そのカードを風船の中から取り出す手品。「はい、あなたの選んだカードは何でしたか?」 「クラブの5!」 そこへ「ミツバの5だったぞ!」の声。「ミツバ? スペードの5のことかなあ。では、クラブかミツバかスペードの5が出たら、ご喝采! シマらねえなあ」

        吉原朝馬が、また結婚式の司会の話を始めた。中入り前に文生が結婚式のことを話したばかりなのになあ。結婚式の司会は噺家さんのアルバイトとして誰でもやっていること。自然とネタが多くなるのかなあと思っていると、「それが結婚生活も長くなると、『朝出した 粗大ゴミが 夜帰る』なんて言うようになる。定年を迎えて、何か趣味を兼ねて身体にいい事をしようってんで、登山をなさる方も増えているようで。登るときはいいんですよ。下るときに、前を歩いている旦那の背中を押したくなる。やるんなら霧の濃い日がいいですよ」。でもって、ネタが『鮑のし』って、結婚を上げたり下げたり、どうなってんのかね、ハハハハハ。

        待ってました! キョンキョンの出番だよ! 柳家喬太郎。「噺家なんて不安定な職業でして、こちらに20日まで出させていただきまして、そのあとは・・・27連休・・・かな?」 ウソでえ。いつものツカミなのだが、この人くらいの売れっ子がそんなに仕事がないわけない。きょうのネタは、ほほう『反対車』ですね。先日見たたい平版は、本人疲れちゃってて『土管飛びは勘弁してくれ』って逃げちゃったけど、喬太郎は土管飛び三連発。座ったままでジャーンプ!

        漫才は、大瀬うたじ、ゆめじ。「大阪の人は不眠症の人が多いんですってね。大阪府民(不眠)って言って」 「へえ、大阪の人が不眠症なんて初めて聞きましたね」 「だからあ、これはシャレなんだってえ」 冗談好きな人と冗談を解さない人とのトンチンカンな会話っていう、いつものパターンなんだけれど、可笑しいんだよなあ、この人たち。トリの前には邪魔にならずに、しかもしっかり笑いを取る。いいなあ、こういう漫才も。

        トリは金原亭馬生。「志ん生師匠が酒が大好きだったことは有名な話ですが、天丼を食べに行って酒を天丼にかけて、天茶だって言って食べてたもんです。呑む上に、よく食べてましたね。そこへいくと先代の馬生という人は、酒を飲むだけで食べなかった。それで早死にしたんでしょうね。地方の落語会に出て、お弁当が出ると手をつけないで酒を飲んでいる。『お前、おあがりよ』ってくれるものだから、アタシはいつも弁当ふたつ食べてた。小さん師匠もよく酒を呑みますが、あの方もよく食べますね。中華料理食べに行って、散々呑んだり食べたりしたあとで、『仕上げに、チャーハンとヤキソバ!』ですからね」といったマクラをふって『猫の災難』へ。う〜ん、先日聴いた小三治の『猫の災難』のデキがあまりに良かったので、ちょっと見劣りしてしまう。志ん生をはじめとする、古今亭のテンポのよさは大好きなのだが、こういう噺になると、小さんのスジを引いた剣道流の静かなるテンポくずしの話し方の方が合っている。テンポのいい酔っ払いよりも、小さん流のゆったりじっくり型の酔っ払いの方が面白い。

        ちょっと不満も残ったけど、馬生の噺を聴いているうちに、酒が呑みたくなってきた。午後9時。鯛の刺身はもう売ってないだろうなあ。あっ、回転寿司が開いている。「オニイサン、鯛を一皿ちょーだい! えっ? 鯛は置いていません? 隣の猫が持ってっちゃったんじゃないの? 何を言ってるんだか、わかんない? ごめん。もう帰って寝ます」


May.14,2001 実力ついたね、新潟くん

5月12日 第12回唐茄子屋落語会 2001年新潟旅立ち (なかの芸能小劇場)

        今秋真打昇進する三遊亭新潟が二席演る間に、立川志らくが一席挟まるという構成の落語会。円丈の弟子の新潟は昔から好きで、あまり落語に行かなくなっていた私でも新潟の文字を見ると行ってみたい気にさせられたものだ。いよいよ真打ちかあ。

        前座、立川こらく。「いつもこのくらい、お客さんが入ってくれていればいいんですがね。よく前説で携帯電話の電源を切ってもらうように話をするんですよ。『携帯電話、PHS、アラーム時計など、音の出るものは電源をお切りください』ってね。先日なんて、お客さん2人なんてことがありましてね、『電源を入れて、お友達を呼んでください』」 ネタは『金明竹』 頑張ってね。

        新潟一席目。『ギロチンはじめて物語』。中世のフランス、ルイ14世の時代をなぜか江戸落語風にした、ギロチンという死刑方法発明秘話。ウソでえ−! 新しい死刑方法を考えろと命令されたピエールが、モンマルトルの長屋のご隠居(なぜか錬金術師にして殺人鬼)に相談に行ったりするが、いい案が浮かばない。息子のセバスチャンを連れて街を歩いているとアップルパイ屋が通りかかる。「なんだか、しなっているリンゴだね。椎名林檎」。現代的なギャグをポンポンと入れながら、快調に噺を進めていくテンポは以前よりもずっと良くなっている。

        このアップルパイのくだりから、ギロチンという死刑方法を思いつくという展開にはひっくり返った。オチは伏せておくが、ちゃんと伏線が張ってあって感心した。以前の新潟って、なんだか行き当たりばったりのような噺が多くて、聴いているあいだは面白いのだけど、はたして「何なんだったろう、これ」というのにぶつかって、落ち着かない気持ちになったことがあったのだけど、物語の構成力が付いてきたような気がする。テンポのよさは師匠の円丈より上で、これは円丈師匠ウカウカできなくなってきた。

        志らくは、お得意にしている、映画を江戸時代に持ってきて演ずるシネマ落語。もう40本ほど作ったそうだ。この日は『ライムライト』。チャップリンねえ。これは随分と昔に一度だけ見ただけから、もう大分忘れちゃってるなあ。確か、足が動かなくなったバレリーナがガス自殺を図るのを、偶然に老道化師のチャップリンが助けて、バレリーナの足が動くように世話を焼いてやる話だったよね。これを志らくは、先代の桂文楽の十八番『景清(かげきよ)』で演るという。

        身投げしようとしている若い女性を、元幇間で今ではクズ屋に身を持ち崩している男が助ける。訊けばこの女性、芸者さんだったが目が不自由になり、世をはかなんで自殺しようとしたと言う。「そんなことをしちゃあいけない、観音様に100日間のお参りをしてみたらどうだ。それで目が見えるようになるかもしれない」と、一緒にお参りを始めるが・・・。『ライムライト』の名文句「人生で大切なものは、勇気と創造力、それに少しのお金だ」などを入れながら、噺を進めていく。

        志らくのシネマ落語を聴くのは、これが初めて。う〜ん、何と行ったら言いのだろう。不思議な落語を聴いちゃったという印象ですね。『景清』は、目の見えなくなった木彫り職人が観音様に願かけて100日もうでする噺で、視点があくまで目の見えない男に立ったものだったはず。それを観音様もうでを薦めた知り合いの旦那が、「短気を起こしちゃいれないよ」と諭す側として、あくまで脇役として登場していた。これが志らくの『ライムライト』だと、目の不自由な芸者さんと、元幇間のふたりの視点があり、どっちが噺のスジなのか分散してしまって、座りが悪いような気がする。何も無理に『景清』に組み込まなくてもよかったのではないかという気がするのですが・・・。

        新潟二席目。「これ、普通の寄席では出来ない噺なんですが・・・」と始めたのが『天使がバスで降りた寄席』。オチまで言って、頭を下げてから「どうか、この噺の内容はご内聞に・・・」と言っていたこともあるので、具体的に詳しくは書かないことにする。新宿スエピロ亭を舞台に、実在する噺家、実在する芸能プロダクションなどを出して展開する爆笑噺で、新潟は汗を拭き拭きの大熱演だった。惜しいなあ、この噺の内容が書けなくて。良く出来た噺の中に、現在の寄席演芸場、寄席芸人、大手芸能プロダクションが抱えている状況に対する風刺をテンコモリにして、面白おかしく盛り込んである。ある意味での問題提起にもなっている。

        一席目と同じく、構成力が格段とアップしている。オチのつけかたも、ちゃんと上手く考えられているので、オチがきれいに決まるので、つい「おお!」と声が出てしまう。この日のクスグリで個人的に一番受けたちゃったのが、「何っ! それは核弾頭の発射ボタンをアライグマに持たせるようなものじゃないか!」 「う〜ん、怖いけど、何だかカワイイ」


May.10,2001 漫才もコントも実力あり、キャイ〜ン

5月6日 キャイ〜ンLIVE2001 〜ビデキ(任紀)の妹コンテスト〜 (紀伊国屋サザンシアター)

        漫才やコントを演る若手コンビは、ほとんどテレビを活躍の場にしているものの、そのテレビでの使われ方は、はっきり言ってバラエティー番組の道化役。持ちネタの漫才やコントなんて要求されない。果たして彼らはそれで満足なんだろうか? 漫才やコントを演ることは、あくまでテレビ・タレントになるための手段で、テレビの人気者になったら漫才やコントはどうでもいいのだろうか? 漫才から出発してテレビ・タレントになってしまったように見えた爆笑問題や浅草キッドが、しっかりと自分たちの漫才を続けている姿を、この2、3ヶ月で確認できてちょっと安心した私だったが、果たしてコントから出発した連中は、どう思っているのだろう。

        何回も書くように私はテレビのバラエティー番組をほとんど見ていない。だからキャイ〜ンというコンビがテレビで活躍していても、詳しい事は知らない。でもどうしても気になる。彼らの舞台があると知って、これは一応チェックしておきたくなって出かけることにした。

        まず最初は漫才だった。天野の突っ込みにウドがボケる。すかさず天野のドツキが入る。「世の中、今、癒し系が流行っているようですね」 「そう、人の食べているものが、ついつい欲しくなっちゃうの」 「それは、いやしい(卑しい)系だろ!」 「ケイシー高峰ね」 「それは、いやらしい系!」。話が癒し⇒ペットと発展し、さらに⇒電子ペットと発展して行く。「電子ペットもどんどん進化していきますからね。やがて電子犬、電子猫に変わって電子猿が登場するでしょうね」 「日光電子猿軍団ができたりして」 「それは頭のいいペットができそうですね」 「そう、猿軍団だけに、反省もできる」とキメて引っ込んだ。へえ、オチまでちゃんと用意してるんだ。

        漫才の出来としては、まずまずという感じだったが、どちらかというと話が散漫な印象。ちょっと期待はずれだったが続く1本目のコントが面白かった。舞台の奥に設置された大きなモニターに、[ウドネット鈴木のウキウキショッピング]というタイトルが出る。これは、テレビショッピングの収録風景をテーマにしたコント。びっくりしたのは、てっきり突っ込み役に徹しているのかと思っていた天野が、ここではボケに回っていたこと。設定としては、ウドが司会をしているテレビの通販番組に、ある有名人の親の七光りで出演が決まった息子(天野)がゲストとして出ているという風景。

ウド「庭木のお手入れはいかがでしょうか? 高い木に手が届かなくてお困りではないでしょうか? そんなときには、この高枝切りバサミ! ほら、このように4mまで伸ばせて、とても便利!」
天野「オレ、マンション暮らしだもん。そんな木ないもん。せいぜい、このくらい。オレの頭のあたりかなあ」
ウド「そんなときは、こうやって先っぽのハサミだけ取って、チョキンと切れば・・・・ちょっと、ちょっと、それじゃあ通販番組にならないでしょう! おたくにも高い木が植わっていることにしてくださいよ!」
天野「はいはい、わかりましたよ、頑張ってウソをつきます」
ウド「高い木の枝を切りたいときには、この高枝切りバサミ。おたくにも高い木があるんじゃないですか?」
天野「そう、うちには8mの木があるんだ!」
ウド「えっ!? 8m? この高枝切りバサミは4mまで伸びますから・・・? あとは、あとは・・・ジャンプして・・・」

        こんな調子で真面目に商品を宣伝しようとするウドに、天野がちょっかいを入れるというパターンで、36型フラットテレビ、羽毛かけ布団、健康運動器具、低周波治療機と続いていく。これは面白い! ボケと突っ込みの立場を逆転したのが新鮮だったし、このコンビ、コントのテンポを熟知しているような気がする。『爆笑オンエアバトル』あたりに出ている新人クラスとは雲泥の差がある。もうコントではベテランの域なのだろう。

        つづく2本目のコントも面白かった。今度は、テレビにはあまり出た経験のないものまねタレント(ウド)が、『オールスターものまね王座決定戦』というテレビ番組に出演することになり、その楽屋での弟子(天野)とのやりとり。ドライリハーサルでウドが演ったネタが動物の物真似というもので、古すぎて、しかもヘタすぎて使い物にならない。天野が、最近の歌手の物真似はできますかと、平井堅らの物真似を披露。これは、もう天野のひとり舞台。

        動物のものまね以外に何もネタが思いつかないままにカメラリハーサルの時間。「それじゃあ、『もし、ナニナニがナニナニだったら』というパターンでものまねをやってみたらどうですか?」のアドバイスにカメリハの前に立ったウド、「では、もし蚊がハエだったら」とか「もしも一億円当たったら」と、話にならない。

        「いいですか、テレビでは、まずツカミですよ。それと女性に受けるようなネタがいいんですよ」とのアドバイスで再びカメラの前へ。袖で天野が見ている。

ウド「まずはツカミから。エイエイ」(と空を掴むまね)
天野「あ〜あ、逃がしちゃったよ」
ウド「ええっとね、女性に受ける物真似を演りまーす。まずは慎吾ママ・・・・・アバヨー」
天野「おいおい、アバヨーじゃなくてオッハーだろうが!」
ウド「女性が好きと言えば、子猫。(口笛でホトトギスの鳴きまねをしようとするが音にならない)」
天野「それは、江戸家子猫だろうが」

        漫才の2本目。これは最初のものよりも、ずっとまとまっていてデキがよかった。テーマが防犯グッズ。

天野「カード犯罪が多発してますね。よくキャッシュ・カードに暗証番号入れますでしょ。誕生日を暗証番号にしている人がいますけれど、これじゃあ分っちゃいますから止めた方がいいですよ。歴史上の大きな事件があった年なんかを暗証番号にするとかね」
ウド「ボクなんかね、徳川家康で暗証番号を覚えてますからね」
天野「徳川家康が何をやった年だあ」
ウド「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」
天野「それのどこに数字があるんだよ!」
ウド「カードはよくないですよ。私は今こそ現金の大切さを訴えたい。現金を大切にする会を作って、会員カードを発行しているくらいです」

        3本目のコントは、無人島のサバイバルケ゜ームの最後の生き残り、スーザン(ウド)とアマノ(天野)が、100万ドルをかけて闘う話なのだが、これは正直言ってちょっと見ていてダレてしまった。

        漫才とコントの間に挟まる、ビデオでの『ヒデキの妹コンテスト』のコント風のものがあったが、これはテレビでやりそうな悪ふざけのようで、あまり気に入らなかった。それにしても、盛りだくさんの2時間半。よくふたりだけでこれだけのことが出来たものだ。キャイ〜ン、なかなかの実力を持ったコンビと見た。


May.6,2001 二つ目さん、みんなハリキッてますね

4月28日 鈴本早朝寄席 (鈴本演芸場)

        ゴールデン・ウイーク。落語を聴きに行きたいけれども、後半は沖縄旅行が控えている。何かと物入りだよ。ちょっとオアシが心もとない。安く落語を聴くことはできないだろうか? そうだ鈴本の早朝寄席へ行って来よう。二つ目さんが勉強を兼ねて、昼席が始まる前に演っている低料金の落語会だ。

        日曜午前10時から始まるこの落語会、以前にも何回か行ったことがあるのだが、いつもガラガラ蛇。でも、二つ目さん一生懸命だ。その姿が気持ちいい。と、500円の木戸銭を払って中へ入ったら、ありゃま、けっこう入っているじゃないの、お客さん。ざっと5〜60人いる。二つ目だけの会でこれだけ入れば、いい方じゃないかしら。しかもまだ朝の10時。

        まずは、去年の暮に二つ目に昇進したばかりだという金原亭小駒が高座に上る。「前座のうちは、師匠(金原亭伯楽)のところに毎日通うんで、定期券なんていうものを買いまして電車に乗っておりましたが、二つ目になった途端に定期券はいらなくなっちゃった。それで、回数券を買ったりプリペイドカードを買ったりしたんですが、どうも交通費が高くつく。それで、なんとか安くあげられないかと50ccのバイクを買ったんですよ。これで寄席に行くようになったんですが、よく考えるとバイク購入代金のことを思うと、電車賃よりも高くついたんじゃないかと・・・」とマクラをふって、お金を出すのが大嫌いで食うものも食わずに金を溜めこんだケチ兵衛さんが、三人の息子に自分が死んだらどんな葬式を出すかと訊く『片棒』へ。贅沢な葬式を出そうとする息子に「お前が死ぬ前には、アタシは絶対に死なないからな!」と、ケチ兵衛さん元気元気。確かに長生きしそうだね、ケチ兵衛さん。

        先日演った『たらちね』は途中で野次が入ったりで、本人も納得がいかなかっただろうデキで終わってしまった五街道佐助だったが、この日の『花見小僧』は会心の出来だったろう。『おせつ徳三郎』の上にあたる部分で、大店の主人が娘のおせつと使用人の徳三郎の仲を感付き、ふたりの共をして花見に行った小僧さんに、そのときの様子を聞き出す話。なかなかこまっしゃくれた頭の働く小僧で、主人思わず「こいつ、何か陰に隠れて悪い事をしているんじゃないだろうな」の勘ぐりも当然か?

        次は受付でチケットを売っていた春風亭朝之助の出番だ。前のふたりがちょっと熱演しすぎたのか、あとの出番が大きなネタをかけるのか、ちょっと時間が押してしまったようだ。「間に入った者は、時間を調整して話すというのがルールであり技術でして・・・。彦六の正蔵師匠が、前の人が押して5分しかないのに『饅頭こわい』を始めまして、いきなり『お前は何がこわい?』 『おれは饅頭がこわい』ってところから入りまして、びっくりしたことがあるそうですが・・・」と、『後生鰻』に入った。信心深いご隠居さんが鰻屋の前を通りかかると、今にも職人が鰻を裂くところ。「殺生はいけません。お前なんか、ロクに献血にも行かないくせに!」。一銭払って鰻を買いうけ、前の川にボッチャーン。初めて聴く人でもこの噺のオチは見当つくと思うけれど、この滑稽噺、バカバカしくて大好き。

        トリをとったのが三遊亭金八。高座に座るなり、「池袋の方にも朝やる二つ目の会があるんですがね、ここは大師匠が、終わったあとにひとりひとり噺を直してくれるという、ありがたい会なんです。先日は小三治師匠が見てくれまして、ひとりひとり丁寧に直してくださいました。アタシは何を言われるだろうと思ったら、『出は一流だね』とおっしゃるんですよ。『褒めるのはそこだけ』。只今、小三治師匠に一流だとお墨付きを頂いた出をお見せいたしました」。鈴本は楽屋から座布団のあるところまで、まだ距離がある。新宿末広亭だと座布団まで三歩半だって。

        噺に入ったと思ったら、がまの油売りの口上を立て板に水で、まくし立てた。その見事なこと。これは『がまの油』だなと思っていたら、ははあ『高田の馬場』の方ですか。がまの油を売っている男の前に武士が現れて「親の仇!」と切り口上。「では日を改めて、明日、高田の馬場で!」と分れる。翌日、高田の馬場は黒山の人だかり。ところが、いつまで待っても仇討ちは始まらない。なかなか始まらない仇討ちを待ちうける人々の退屈した描写が冴える。「日延べしたんじゃないかい?」 「まさかあ、セコな噺家の余興じゃないんだから」

        外へ出たら、昼の部開場を待つ列が出来ていた。ゴールデン・ウイークは寄席も稼ぎどき。こちらは、おとなしく帰って沖縄旅行の準備でもしますか。


お詫び 以下の文章を、長崎くんの立場をCDのレコーディング・プロデューサーと誤認して書いてしまいました。長崎くんの今回の立場は、ポカスカジャンのキャラクターを使用したテレビ番組のプロデューサーということでした。詳しくは、CAGE`S TAVERNの長崎くんの文章『ポカスカジャンの曲はボツじゃないですよ』をお読みください。長崎くん、ポカスカジャン、および関係者の皆様にお詫び申し上げます。

May.2,2001 飛ばしてるねえ、PSJ!

4月28日 3バカビートだポカスカジャン! (R`sアートコート)

        今回は私以外にも、生嶋、安渕、そしてポカスカジャンの次回のCDのレコーディング・プロデューサーでもある長崎くんまで交えての鑑賞だ。4回興業の3日目。この日は最終日にあたり、全部新ネタ2時間のものを2ステージをこなすんだそうな。しかもそのあとは、そのまま[新文芸座]にてオールナイト・ライヴ出演までひかえている。これはセーブして演るのかなと思っていたら、最初から最後まで2時間飛ばしまくった。ちなみにネットを見ていると、このオールナイト・ライヴは昼間からのハシゴ組を考慮して、昼間のネタは一切やらなかったというから偉い!

        リーダーのノンちん(大久保乃武夫)のトークが冴える。「今までのぼくらのライヴというと地べたにギュウギュウ詰めに座らせて、アンケートには『尻が痛い!』というようなクレームばかりでしたが、今回はついに椅子席でーす! ここ、分り難かったでしょ? この会場知らなくて、最初に下見に来た時、会場の人に訊いてみたら、『ここはですね、ペギー葉山やデュークエイセスが・・・』っていうんで、『おおっ!』と思ったら、『リハーサルに使うとろころです』だって。リハーサル以外で使うのは珍しいそうで・・・。場所も新大久保。私、大久保もNew大久保として生まれ変わったつもりで、新ネタ新曲でお届したいと思いまーす!」 ふと見るとノンちんのバケツドラムが替わっている。「前のバケツドラムはブルーサンダーと呼んでいましたが、新しいドラムの名前は・・・シンドラー・・・」

        「今回のテーマは演歌です」と言って始まったのが、[童謡を演歌歌手に歌わせたら]という企画。ものまねで、五木ひろしの『犬のおまわりさん』、森進一の『お腹が減る歌』、森昌子の『山の音楽家』、細川たかしの『海』、都はるみの『むすんでひらいて』・・・と続々とこなしていく。これは思えばコロッケが得意としている企画。「コロッケ入っているんじゃないの?」のノンちんの突っ込みに、「メンチって名前で営業しようか」と省吾。見当がついちゃったのは、八代亜紀の『雨降り』。『雨の慕情』の♪雨々降れ降れもっと降れ から童謡の♪ピチピチ チャプチャプ ランランランになるところ。私も雨の降る日って、この二曲を頭の中でごちゃ混ぜにして歌っている。最後は氷川きよしの『山口さんちのツトムくん』。「おそらくみなさん、気がついていると思いますが、最後のところ一緒に歌ってください」 ♪山口さんちのツトムくん、このごろ少しヘンよ・・・・・・・・・あーとーで、つまんないな・・・ はい、ご一緒に! 「♪やだねったら、やだね」の場内大合唱。

        ちょっと低調かなあと思ったら、今度は演歌をアレンジを変えて演ってみるというコーナーへ。都はるみの『北の宿』をアフリカン・ミュージックで演る。なんだか寒いイメージの曲が赤道直下の汗ばむ音楽に変身。演歌というと、圧倒的に北のイメージが強いが、この手でどんどん南に持っていってしまう。吉幾三の『酒』をレゲエに、『おら、とうきょさ行くだ』は玉ちゃんお得意の津軽ボサ(津軽弁で歌うボサノバ)にしてしまう。省吾がメキシカンハットを被って北島三郎の『函館の女』をジプシーキングス調に変えれば、つづいて『与作』をビートルズの『ヘイ! ジュード』のメロディーで三人で熱唱。『ヘイ! ジュード』のクライマックス、♪ラーララ ラララーラー ヘイ! ジュード の部分に差し掛かると、乗りに乗りまくり。♪ラーララ ラララーラー ヘイヘイヘイ トントントン ノンちんが高音でポールよろしく♪ジュダジュダジュダジュダ と入れると客席は興奮と爆笑に包まれた。こういうところに持ってくると、この人たちは乗りがいい。

        こうなると、次はノンちんはドラムセットに座り、省吾がウッドベースを持ち出し、玉ちゃんはエレキギターの本格的なスリーピース。玉ちゃん、細川たかしの『北酒場』をブルースで演ると言う。エレキをかき鳴らし、「おい省吾、ブルースとは何か知ってるか?」 「う〜ん、ブルースとは・・・、ブルースとは[悲哀]かなあ」 「いいか! ブルースとは感じることなんだ」と、もう、ひとりでノリノリ。これ、ブルースっていうのかどうか? ジミヘンばりのギターを披露してくれる。このあと長いセッション風のステージに突入。玉ちゃん乗りすぎて、他のメンバーに「長いよ!」と言われるが、この人たちのこういうセッション風のもの、もっと長く見てみたいものだなあ。

        トドメが『親父の海』を三人でゴスペルにして歌う。だんだんと興奮してきて、踊りながら狂喜(狂気)の世界に突入していくのがエキサイティング。おいおい、三人とも飛ばしすぎじゃないの? 「これは新手のダイエットだねえ」 「ほんと、痩せる、痩せる」 このコーナーのシメは、新曲だという『猫よありがとう』。癒し系ミュージックだと言うのだが・・・、長崎くんに訊いたら「ボツ!」。あとでみんなで話したのだが、1番の歌詞を「猫よありがとう・・・」という具合に置いておいて、次に「犬よありがとう・・・」 「ワニよありがとう・・・」 「ライオンよありがとう・・・」 「ゴジラよありがとう・・・」という具合にエスカレートさせていったら、面白いコミックソングになるんじゃないかと思う。いかが?

        ここで次のコーナーに入った。開演前に客席に配られて書かされた[ポカスカジャンのメンバー]への質問を読み上げて、即興で歌にして答えるという[質疑応答ライヴ]。まったく即興で作っていくのだが、彼らを見ていると実に簡単にドンドン作れていくのが見事。特にこういうことを演らせると、やはり省吾が上手い。「省吾さんの悩みってなんですか?」の質問にも、「じゃあ、玉ちゃん、サンバをちょっと弾いてみて」と頼む。「えっ! 悩み事にサンバでいいの? 明るいやつ?」 「そう、明るいの」 玉ちゃんがギターでサンバを弾きだす。♪右足の付根が シンシンと痛む じっとしていても痛む プリン体っていったい何のことだ ビールも肉も卵もいけないなんて 誰かなんとかしてくれ その原因は・・・痛風! へえ、省吾くん痛風なんだあ。若いのに身体気をつけてね。

        「『浅香光代様、お金はいつ返すのですか?』 浅香光代はウチのメンバーじゃないけど、これって、あれを演れってこと?」。これは省吾のお得意のネタ、浅香光代のものまねだね。サービス、サービス。「じゃあ、『あんたのバラード』流して」 玉ちゃんが演奏する中、省吾大熱演 「♪あんたに言われたかないけどね・・・今更返せったってね コツコツ返していくしかないじゃないか」 浅香光代になりきって舞いながら歌う歌う! 客席側に降りて見ていたノンちん、「やっぱり、この人上手いわ」 最後はテレビのものまね番組で演ったというノンちんの阿藤海、省吾の浅香光代、玉ちゃんの中尾彰による『ツイスト・アンド・シャウト』。やっぱりこの人たち洋楽の方がノリがいい。

        ここで着替えの間、新曲だという『枝豆ウナセラデ』のテープが流れる。長崎プロデューサーに訊いてみたら、これも「ボツ!」とのこと。鬼だね、このプロデューサー。

        燕尾服に着替えた三人の次のコーナーは、ビート(リズム)を使った実験音楽。マーチングビートで演った『オバQマーチ』やビートたけしの『剣の舞』などが披露されたが、なんだか楽器を使わない分、私にはテンションが下がってしまったように思われた。新3バカ大将だと、省吾のアホの坂田、ノンちんの志村けん、玉ちゃんの山下清でラベルの『ボレロ』を演ったのだが、これはやっぱり一番徹しられる省吾の坂田が目だってしまう。♪あっ、やっとせのこらせ が妙に『ボレロ』に合っているから不思議。『うどん屋ジャズ』も面白かったのだけど、もうひと工夫欲しかったかなあ。ペースがダシダシダシダシ(出汁)、ドラムがバシ、バシ、バシバシ(箸)と演るのは面白いのだけど、三人がもう少しジャズ音楽としてまとまると、もっと面白くなりそう。

        最後のコーナーはクラシック・メドレーを流して、三人がそれに合わせてスラップスティックを演るというもの。音をスリッパやジャム缶の蓋でひっぱたいたり、うがいの水で表現したり、これはもうスパイク・ジョーンズの世界。かつてクレイジー・キャッツも散々演ったこと。面白いとは思うけれども、それ以上のものは感じられなかった。彼らには、もっと他のことで勝負して欲しいんだけれど。

        アンコール3回の中では玉ちゃんの得意ネタ、『津軽ボサ』のつづき『津軽ボサα』が面白かった。これどんどん長くなりそうだけど、12番まで作りたいんだって。

        出口で、全員にプレゼントだというCDを受け取る。プレイステーション2のソフト『東京バス案内』の宣伝用のCDらしい。『恋するバスガール』という曲を前乗りガールズ(池田さやか、鷲見麻由美)と一緒に、ポカスカジャンが発車ボーイズという名前で5人編成で演っている。「長崎くん、こんなの知ってた?」 「いや、今初めて知った」 「これは今度のCDに入るの?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」

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