January.26,2003 『名字なき子』〜『松竹映画版・道具屋』に唖然!!

1月18日 立川流演芸会 (横浜にぎわい座)

        前座は快楽亭ブラ坊『平林』。頑張ってね。

        いきなり立川志の輔である。「馬鹿と利口は紙一重なんて申します。これは、紙一重だから頑張ろうということでしょうか? ・・・ただ、これだけは言えます。利口というのは移りません。側に利口がいれば何年かすると馬鹿が利口になっていたなんてことはありません。しかし、馬鹿は移ります」と、『親の顔』へ。NHKでテレビ放送されたり、ビデオにもなっている志の輔のお得意の新作。テストで5点を取った子供とその親が学校に呼び出される。先生を前にして三者会談がなされるのだが、子供の答案用紙の回答が、あまりにユニークなので先生は、その親に会ってみたくなったのだろう。本当は0点だったのだが、名前が書けていた分、オマケで5点にしたという先生の言葉を聞いた父親、「バカ、もっと大きく名前を書け! そうしたら、もう2点くらいくれたぞ!」 土台、この親子は思考回路が尋常でないのだ。なにしろ、学校から呼び出しが来たと父親が人に相談すると、「それは親の顔が見たいということだろ」と言われる。すると返す言葉が「ハワイへ行ってみたい・・・とは違うのか?」 志の輔は実にひん曲がった理屈を作り出すのがうまい人で、何回も書くようだが、これはやっぱり師匠立川談志の影響だろう。それが嫌味にならないで、とぼけた味わいになるのが、この人の強いところ。作中の先生ばかりでなく、観客の方も翻弄されてしまう楽しさがある。

        「私もタマちゃんですけどね」と太鼓持ちの悠玄亭玉八による幇間芸の数々が始まる。「お座敷に呼ばれるたときは、正座しっぱなし、酒飲みっぱなしですが」、今回は立ち芸で素面のお勤め。三味線を弾きながら粋曲を披露してくれる。「♪私の商売葬儀屋でござる〜」 「人からお金を貸してくれって頼まれちゃってましてね・・・」 「♪貸そう(火葬)か、どうしよう(土葬)か 迷ってる」 ようよう! 三味線の曲弾きもたいしたもの。大相撲の櫓太鼓を三味線で弾いてみせたのには、大拍手。しっかりとした芸になっているではないか。屏風芸の『幇間腹』は、玉八版では『幇間尻』。最後は手踊りの『深川』。お座敷に呼ぶと高いんだろうなあ。

        立川談慶『粗忽の釘』。粗忽者が打ちつけた釘が、どうやら長屋の隣の家に打ちぬけてしまったらしい。落ちついて話をしなけりゃいけないと話出す、女房との馴れ初め話。どうやら気があるらしい今の女房の脇の下に手を突っ込んで、毛を引っこ抜くなんて、これって今で言うセクハラすれすれ!?

        私の子供時代は、まだまだ紙芝居全盛だった。紙芝居屋が来ると、親にねだってお小遣いを貰い、自転車の荷台に紙芝居の箱を乗せた紙芝居屋のおじさんのところへ駆出して行ったものだ。一番安いのがソースせんべい。これといって味もないウエハースのようなものに中濃ソースをかけてくれてサンドイッチにして食べさせてくれる。これを食べながら毎日、紙芝居を眺めていた。この芸能を今でも継承していてくれる梅田佳声の出番だ。「紙芝居だよー! お年玉もらったかーい! お金持っといでー! 飴買わなきゃダメだよー! 八代亜紀も言ってるだろ? ♪あめあめくれくれ もっとくれー・・・ってね」 何も買わなかったけど、ちゃーんと木戸銭払ってるもんね。こうして始まったのが『ライオンマン』。サーカスの調教師がライオンを愛してしまって、そのライオンとの間に生まれた子供がライオンマンって何? 子供だから騙せた設定(笑)。私が遭遇した紙芝居屋のオヤジというのは無愛想と決まっていたのだが、佳声さんの紙芝居は陽気。ギャグを散りばめながら進めて行く。魔法使いの人食いばばあの手が少女にかかる。「何で牛肉を食べないの?」 「人間の方が安全だから」 こんなサービス精神の旺盛な紙芝居屋は、私の子供時代にはいなかったぞー!

        トリは快楽亭ブラック。「毎日、仕事しないで遊んでばかりいちゃいけないよ」とおじさんが話し始めたところで、これは『道具屋』かな? と思ったのだが、与太郎と思しき人物はシナリオライター志願の青年。実はシナリオを書上げたのだと言う。ありゃりゃ、これがブラックの有名な『名字なき子』かあ。『シャボン玉ホリデー』のおかゆコントをベースにした、とてもネットでは書けないネタ。ヒヤヒヤしながら聴いていると、『道具屋』に戻った。「そこにあるノコ見せてみな」 「・・・数の子ですか?」 「バカヤロウ、道具屋に数の子があるか!」 「・・・のこにある?」 「それがウィットのある洒落だとでも思っているのかあ! ノコギリだよ! こっちへよこせ。・・・うーん、焼きが甘いようだな」 「サッカリンでも入ってますか」 「そんな昭和二十年代のクスグリ言うなあ!」とこの男、怒りが収まらないようで、「世の中、腹の立つことがたくさんあるんだあ!」と、本筋を離れてブラック個人の怒り爆発。立川流の新年会のことやら何やら、言いたいことの大放談。これも書けないことばかり。本筋に戻ると、松竹映画。『釣りバカ日誌』のハマちゃん、スーさんがお客さんで来たり、オチには『君の名は』の真知子と春樹が登場。このオチのひと言には、まさに絶句!

        玉八のお座敷芸が見られたり、紙芝居が見られたり、ブラックの『名字なき子』が聴けたりと、なんだかお年玉を貰った気分。ウキウキした気分で東京へ戻った。


January.19,2003 ○○が犯人!!

1月13日 劇団フーダニット
       『ご霊前』 (江戸川区総合区民ホール)

        辻真先による書下ろしミステリー劇。演目に合わせて会場は通夜の会場のごとき演出。受付には喪服を着たスタッフが出迎えている。入場料ならぬ香料を払い、ご記帳をすませる。舞台の幕はすでに開いていて、舞台の中央に祭壇。この夜の通夜を弔う遺影が飾られている。

        亡くなったのは島民100人ほどの過疎の島、時化(しけ)島唯一の旅館の女将星見柊。まだ21歳の若さだった。彼女は浜で頭を打って死んでいた。どうやら何者かによって殺されたらしい。過疎のあまりお医者さんもお坊さんもいないまま、とりあえず通夜が執り行われいく。通夜の席に参列したのは、柊の婚約者でもある小学校の先生、島によく仕事でやってくる商社の男、島の駐在の巡査、旅館の手伝いをしている若い女性、島の助産婦をしている老婆、そして探偵役になるたまたま島を訪れた女性。参列者はお互いに柊さんを殺したのは、この中の誰かだと推理し合い、罵り合うが・・・。

        1時間ほどで第1部が終了。休憩となる。ロビーでは島名物だという時化茶と時化煎餅のサービス。煎餅を齧り、お茶を飲みながら(美味しかった!)、誰が犯人なのか物語を頭の中で整理する。これは楽しい休憩時間だ。

        さて後半だが、ここからこの芝居のネタを割ります。これからこの芝居に接する予定がある人は読まない方がいいでしょう。

        なにしろ容疑者らしき登場人物が少なすぎるということもあって、どうも誰も犯人には見えない。どうするのかと思っていたら、これが実に辻真先らしい展開になる。推理小説ではいろんな犯人役が考えられてきたが、これは読者(観客)が犯人という手なのだ。しかも最後には読者(観客)も被害者になってしまうという趣向。なあるほどなあ、こういう手もあったかと笑いを浮かべてしまった。

        過疎の村とか、過疎の島という設定をしたミステリーは、どうしても村ぐるみ、島ぐるみで何か隠している秘密があるというのが常。だから、そういう方向に行くというのは見当がついた。それにしても島名がヒントになっていたとはねえ。

        劇団フーダニット、推理劇を上演していこうという姿勢はうれしい。今回初めて拝見させていただいたが、とても楽しめた。ただ、推理劇を上演しようという意気込みが先走ってしまって、肝心の演技が今一つ稽古不足という印象を受けた。せっかくいい書き下ろし脚本を貰ったのだから、もう少し練った演技プランが欲しかったところ。ともあれ、これからも応援していきたい劇団。次回公演は7月19日〜21日、若竹七海書き下ろしとのこと。期待してるぜえ!


January.13,2003 逆ギレ清兵衛

1月11日 志の輔らくご NEW YEARS SESSION #5 (サントリー小ホール)

        私らの商売は年末も忙しいが、案外年始というものも忙しい。御用始めの会社員がドッとご来店くださる。それこそ戦場のような忙しさになってしまうのだ。ただでさえ忙しいのに今年は私を始め店の者が、バタバタと風邪をひき、ほとんど半死半生状態だから始末に悪い。ようやく一週間を乗りきった土曜日、私は朝目が醒めても起きられなかった。どうも疲労が極限にまで達していたようだ。ホームページの更新をする気力もなく昼近くまで眠りこけていた。

        思いっきり寝たのがよかったのだろうか、お昼には体力はかなり回復していた。山王溜池へ出て、サントリーホールへ。座席を確認してびっくり。最前列。しかもかなり正面に近い。小朝に続いて最前列とはねえ。普通の人は喜ぶところだろうが、どうも私は最前列というのは苦手なのだ。覚悟を決めて席につく。

        前座立川志の吉『山号寺号』。演者によっていろいろな[なになに山なになに寺]を入れられる楽しい噺。「石原さん都知事」 はいはい。「松たか子さん坂口憲二」 あのねえ、今月からの新番組フジ月9の『いつもふたりで』を知らない人にはわかんないじゃないの! 「アンナさん羽賀研二」 古いぞお!

        国立市の高層マンションをめぐって七階部分より上を撤去しろとの判決が出たニュース、豊郷小学校校舎立替問題で町長にリコール運動が出たニュース、北朝鮮の核拡散防止条約破棄のニュースなどを話題にして、立川志の輔は「世の中、なんだかわからないことが多い」と言ってみせ、「もう、いいの。みんな人のせい、世の中のせいにしてしまえばいい。でもいったい誰のせいなのかな」と『バスストップ』へ。結婚式の仲人を頼まれた夫婦。ところが仕度が遅れて会場へ急ごうとするが、なかなかバスが来ない。次のバスはいつ来るんだろうと時刻表を見ても[15〜20分間隔]としか書いてない。「これじゃあわからないじゃないか! 『そのうち来ます』とでも書いとけ!」 ようやくバスが来たと思ったら通り過ぎてしまう。「[まわりおくり]って書いてあったぞ!」 「あれは[回送]って書いて[かいそう]って読むのよ。誰も乗せないの」 「そんな無駄なものを走らせるから道が混むんだあ! 回送の下に『どうもすいません』くらい書いとけー!」 このあとアクシデントが連続して、なかなか会場に着けないのだが、それはいったい誰のせい? なかなかバスが来ないという状況に苛立つ主人公のパニックぶりが可笑しい。自分の失敗を原因を総て世の中のせい、他人のせいに押し付けようとする人間の本性。人のことは言えないよなあ。自分にも当てはまっちゃうんだよね、よく考えると。世の中のせい、人のせいにして生きられたら、確かに楽だけど、そういうもんじゃないんだよなあ。

        仲入り後は、おおたか静流のライヴ。鬼怒無月(ギター)、吉見征樹(タブラ)をバックに歌う彼女の歌声は想像していたよりも、はるかにパワフルだ。トルコの『ウスクダラ』を十五分くらいかけて熱唱。途中「魔が差して」、『山寺の和尚さん』をアドリブで入れるサービスぶり。志の輔のリクエストだという『密会』をしっとりと歌い上げて、最後は『オクラホマミキサー』に歌詞をつけた『あんまりあなたがすきなので』。CD版とは違って「♪あんまりあなたがすきなので」のところで奇声を発するのが可笑しい。でもやっぱり迫力あるなあ。そういえば、『オクラホマミキサー』は、なぎら健壱も『アーパーサーファーギャル』にして歌っているぞ。

        立川志の輔二席目。自分は自分だけで[宇宙意志の会]というものを作っていると語る。我々が自分の意志で動いていると考えるのはおこがましいんだ。総ては宇宙の意志によって動いている。前日に飲みすぎて二日酔いになったのも自分の意志ではなく宇宙の意志、女の子の肩に手を回すのも自分の意志ではなく宇宙の意志。ぼんやりと生きていた方がいい。うーん、そうかもねえ。一席目の、みんな世の中のせいにしちゃえと同じで、そう考えて生きられたら、苦労はないんだけど・・・。「嘘をつく方が難しい。辻褄をあわせるのがたいへんなんですから。でも本当に正直に生きればいいかというと、これも問題がありまして」と正直者三人が登場したために、ややこしい話になる『井戸の茶碗』へ。志の輔は、この噺をCDでも出しており、あとで聴き直してみたのだが、志の輔はこの人情噺にふんだんなギャグを放り込み、ちっょと一味違うものにしている。それでいて、こうやってナマで聴くと、ついつい涙が出てしまうのだから一級品だ。今回加えられていたのは、後半、屑屋さんが逆ギレする場面。あんまり、あっちへ行け、そっちへ行けと二人のお侍に使われ続けて刀を振り回されるものだから、居直ってみせるのだ。「もういいです。斬ってください。しかし斬られるんなら、一言言わせてください・・・・・・・・・・届けたかったら・・・自分で届けろ! その間に入って、いつ斬られるかとビクビクしている私の姿を一度でも考えてみたことはおありなんですか!」 そこで千代田ト斎が、ハッと気が付くわけだ。「間違ったことではないから、何でもやってもらっていいと思ってた」 なあるほど、この解釈はもっともだ。屑屋さんの立場になって考えたら当然の流れだろう。正直清兵衛が、実直さをかなぐり捨てて、ついには切れる。正直一筋で肝心なものが見えてない侍。世の中正直にスジを通せば、他人の迷惑を考えなくてもいいというわけでもないんだよね。


January.12,2003 パワーがある元気な出演者たち

1月5日 第53回落語ジャンクション (なかの芸能小劇場)

        まったくひどい正月となってしまった。正月五日間は、毎日必ず何かを見に行くぞという意気込みも、悪性の風邪によって出鼻をくじかれた感じ。ついに三日の夜の宮藤官九郎らの演っている[グループ魂]のチケットは前売りで取っていたにも関わらず行かずじまい。四日は、どこかの寄席の正月興行でも覗こうかと思っていたのに、これも止めて布団に潜り込んでいた。五日は正月休み最終日。コンデションはあまり良くないのだが、翌日から仕事が始まるので寝ているわけにいかない。『客席放浪記』の落語21のレポートをボケボケ頭で書いて、午後からは仕込み。汁を取り、うどんを踏んで、あとはこまごまとした準備をしてから、よせばいいのにチケットを取ってしまったからと、中野へ向う。落語ジャンクションで清水宏のパフォーマンスを見れば元気が出るのではないか、ちょっと期待があった。

        ところがマエセツで出てきたのは、春風亭昇太、神田山陽、林家彦いちの三人だけ。「おおーい、清水はどうしたー!」と心の中で思った。ハリー・ボッターをイメージしたらしく三人はマント代りの風呂敷を首に、箒にまたがっての登場だ。ところが、箒は小さな掃き箒。マント代わりの風呂敷という姿は、どう見ても私が子供時代のスーパーマンごっこっをしているガキの姿。また三人がこうやって見ると実にヤンチャな感じに見えるのだ。ここで衝撃的なお知らせが昇太から。なんと清水宏が入院したというのだ。どうした清水。年末には『清水宏のサタデーナイトライブ The Best 〜年の瀬暴走特急〜』であんなに元気な姿を見せていたというのに。しかもあのときは、私と(見えない)炊飯器のキャッチボールまでしたというのに・・・。

        おーい、清水宏! どうしたあ! 入院なんてしている場合じゃないぞ! オラオラオラオラ! 今度はオレがメシ炊いてやるから食えよ! そして元気だせ! オラオラオラオラ、巨大な炊飯器にメシが炊きあがってきたぞ! よーし、この炊飯器に回転をつけるからな! ほーら、秒速一万回転だあ! そーら、そっちに投げるから受け取れ、オラ! そして投げ返して来い!! 年末の疲れが出たのかなあ。こっちも体調は良くないけれど、清水宏、身体治して、また暴れてくれよなあ。

        快楽亭ブラ汁は、確か初めて聴く噺家さんだと思う。口調がハキハキとしてわかりやすくていい。ネタは『ハローワーク』。職業安定所からハローワークに変った施設は今や求人もコンピューター検索ができるらしい。「働くに際して条件などありますか?」 「なんでもいいです」 「ダンボール集め。日給五百円というのがありますが」 「もっと給料のいいのにしてください」 「給料のいいのね・・・まぐろ漁船。年収五百万円。遠洋漁業。一度海に出たら二年間は帰れない」 ハローワークにもなかなかいい仕事ってないようで・・・。

        師匠春風亭柳昇が胃を壊して入院したというマクラを振る春風亭昇輔だが、あまり深刻な話にはならないのが噺家の病気話。「師匠、以前にも入院って経験したことがおありですか?」 「台湾沖で直撃弾くらって入院したのが最後だから・・・五十六年ぶりか?」 お元気な柳昇師匠、只今八十二歳。 こうしてネタに入っていった。翌日から新婚生活を始めるカップル。さくら水産で五十円の魚肉ソーセージ・スライスをツマミに豆乳サワーで乾杯している。「わたしのものは総てあなたのものよ」との彼女の言葉にデレデレの彼氏なのだが・・・。翌日新居に行ってみると、中は彼女が持ちこんだ段ボール七百二十二個の荷物で、まったく空間が無くなってしまっている。「私、物持ちがいい女なのよ」 自分が赤ちゃんのときからの衣装総て取ってあると言う。「そんなのどうするんだよう!」 「セーラー服だって取ってあるのよ」 「・・・着てくれる?」 彼氏の気持ちもわからないではないが、こんなに物持ちがいい女ってのも困ったものだねえ。

        「ポルトガルのブラギーナという楽器がハワイへ持ちこまれてウクレレに改良されたんですよ」と、ウクレレえいじが弾きだしたのが、なんと『津軽じょんがら節』。音色が軽いなあ(笑)。日本人とアメリカ人のハーフのための『君が代USA』が認められ山下洋輔のジャズ道場門下生第6号となったウクレレえいじ、次なる作品は日本人とフランス人のハーフのために書いたという『君が代○○○○○○○』。フハハハハ。

        客席後方から大きな声が聞えてきた。神田山陽が「きょうは言いたいことがたくさんあるんだ!」とテンション高く出て来る。こういうときの彼のマクラは期待ができる。ファミレスで頼んだピラフが微妙に冷たかった。かといって食べられないほどのものではないギリギリのところ。不満がつのるうち、近くのカップルに目が行く。Vネックのセーターでノーブラの美人。ついついチラチラと見てしまう。そうすると、女性は胸元にマフラーをしたという。そして、彼氏に胸元をチラチラと見ている男がいると報告しているらしい。「するとですね、男が舌打ちするんですよ。私はその女性の胸元を見ていたんじゃない。美人だなあと思って顔を見ていただけですよ。そんなに胸元を見られたくないんなら甲冑でも着ていればいいんだ!」 「だいたいね、今の世の中を悪くしているのはキムタクがいけないと思うんですよ。無愛想でしょ。いい男って、無愛想でいいんですか? 世の中を良くしていく男というのは、ああいうもんじゃないでしょ! 険しい顔しちゃって! みんなキムタクでいいと思ってる。みんな今の人、無愛想がカッコイイと思ってるんでしょ」 そうだそうだ、よく言ったぞ、山陽! カッコイイ男はもっと愛想よくしろ! カッコよくないオレのひがみばかりじゃないぞ! 女性ももう少し考えて欲しいよな。長いマクラの後は車庫に入った山手線の車両の中の優先席の表示キャラクターが会話を繰り広げる『優先席の車窓から』 大きな画用紙に書き出したキャラクターを持ち上げながらの熱演。ただ、ちょっと今回はまとまりに欠けていたような・・・。

        山陽を受けてか林家彦いちも、ここに来る前に入ったコーヒーショップでの体験をマクラに持ってきた。このところ寝不足が溜まっていた彦いち、カフェラテグランデを手に満員の店内の席に着くと、ついコックリしてしまった。「すると店員がですよ、『店内はたいへん混雑しております。お入りになれないお客様もいらっしゃいます。居眠りはご遠慮願います』と言って起こすんですよ。悪いことしたなあと思ってから、ちょっと考え込んだ。眠ってしまったとはいえ、まだ十分も寝てない。回りには何やら書き物をしていたりお客さんもいる。[オレより長くいるのがたくさんいるぞ!]ですよ。それでスタッフの集まっているところに行ったんです。『時間ならわかるから、ちょっとこのカフェラテグランデを触ってみてください。まだあったかい。ぼくは不愉快なんですよ。まだそんなに長い時間いたんじゃない。仕事と仕事の間で入っているんだ!』」 するとそこへ現れた彦いちのファンの一言で話は意外な方向に向ってしまうのだが・・・。ドキュメントを語る彦いちの話術の巧みさはもうこの人の右に出る者はいないだろう。そんな彦いちのネタはこれまたドキュメント落語として定番になっていきそうな『実録内科拳』。身長180Cm。骨太で顔が正三角形。研ぎ澄まされた南伸坊のような風貌の中国人の先生に内科拳という、普通の拳法にはない極意を学ぶ話。二日のプークでも聴いたのだが、二回目でも十分に面白い。それだけよく出来ているということだろう。

        年末に、家に江頭2:50が乱入してきたというマクラをしてから春風亭昇太が話し始めたのは、昇太がネタ供養と称して自分のネタの中で殺しちゃったキャラクターの供養をしているところ。そこへ犬が一匹現れる。「ぼくですよー。チャッピーですよ。忘れちゃったんですか?」 こうして『愛犬チャッピー』を一席演ったあとで、噺が元に戻る。「こんな終わり方はないでしょ、昇太さーん。人間ってどうして動物に対してひどいんでしょ」 「よし、お前を人間にしてやろうか?」 「本当ですか? そしたら、あの女に意見して更正させてみせますよ」 「じゃあ書き直してあげるから」というので始まったのが、古典『元犬』のアイデアを持ってきた『元犬チャッピー』(?)。人間になって飼主の女性のところに再び現れるチャッピーなのだが・・・。やはりこの女性キャラクターはめちゃくちゃだったという噺。可笑しいんだ、これが。

        大笑いして、元気が出てきた。なにせパワーがある連中の多いこの夜の出演者たち。翌日からはこちらも仕事が待っている。足早に中野駅に向い車中の人となる。元気をありがとう。おーい、清水宏! 早く元気になってくれよなあ!


January.5,2003 熱に浮かされ

1月2日 落語21 (プーク人形劇場)

        風邪が治ったわけではない。解熱剤で発熱を押さえているだけ。薬の効果が切れると、また熱がグッグッと上がっていく。本来は安静に寝ていなければいけないのだが、この2日の落語21には予約のメールを入れてしまっていた。予約なんてホゴにしちゃえばいいじゃないかと思うのだが、それが出来ないのが私の性格。ギリギリまで家で寝ていて、夕方にノソノソと起き出して新宿へ向う。

        前座三遊亭かぬうが演ったのは『おやじフェスタ』なる一席。厚生労働省主催が失業中のサラリーマンに向けて開いた催し物。抽選会があって、三等が血糖値を下げるインシュリン一年分、二等が豪華客船人間ドックの旅、一等が年収三千五百万円天下りポスト。うーん、よいなよいな。でも、そんなのは夢のまた夢。健康に気をつけて頑張らねば。

        続く桂花丸も老人ネタの『あるじいさんに花束を』。おいおい、『アルジャーノンに花束を』じゃないんだから! 潰れそうになった老人ホームがキャバクラ老人ホームを始めるという一席。「ピチピチだよー、上から98、86、98」 「おおー!・・・・なんだいバアサンばかりじゃないか? 98、86、98って歳かよ!」 なんだ、多重人格ものじゃなくて多重人生ものかよ! 正月早々、めでたいものやら、そうでないものやら・・・。

        古今亭錦之輔『超コンビニ』には現代人のニーズに合わせたものが取り揃えてあるぞう! 場所は大きな森の中にある小さなコンビニ[ペテンイレブン]。ううーん、怪しそうだ。置いてあるものは、急な来客にも一点豪華主義の木彫りの熊、癒し系の縄文式土器、優しい表情を浮かべる埴輪とか、どーするんじゃあそんなもん! 二宮金次郎の爪の垢なんてのもいらんわー! はては、スケッチブックまで持ち出しての熱演! その気合の入りは気に行ったぞい! いけいけ! 錦之輔!

        白のランニング、白のヘルメット、赤と青のジャージ姿の二人組ガッポリ建設。なんだ? この連中は? いきなりイルカの『なごり雪』を歌い始める。「♪今 春が来て 君はー きれいになった去年より(右脇の下の毛むくじゃらの腋毛を見せる)ずっとー、きれいになったー(左脇のを見せると、こちらの腋毛は剃ってある)」 おいおい、そこまでしてやるネタかあー! 風邪ひかないでね。真冬にランニング姿は毒でしょ。

        三遊亭円丈は、よく演っているアン牌『ランゴランゴ』。2ヶ月前まで地下鉄工事をしていて足を捻挫して、仕方ないから落語家になったというアフガニスタン人の前座の噺。泣かせる人情噺をさせると笑えるし、笑える落とし噺をさせるとむかつくってどういう噺家だあ!? 一度、そんな噺家にめぐりあったら可笑しいなあとは思うのだが・・・。

        林家彦いちは、もはやこの人の持ち芸となってきたドキュメント落語で、去年体験したという『実録内家拳』。中国拳法の流れをくむ内家拳法セミナー行った体験談なのだが、これが面白い。一種の気孔術のようなものらしい。彦いちを相手にした中国人の先生は、彦いちに自分の顔を思いっきり打って来いと言う。それではと思いきって出るとボーンっと2mはね返されてしまう。そこからが凄い。倒れた彦いちを膝で押さえつけて、「はい、このあと、この人の目に指を入れます! 内家拳法はスポーツではありません。生きるか死ぬかです」 神憑りのような技と、勝つためには手段を選ばない考え方のアンバランスが何とも言えない凄み。これを笑いに持っていく彦いちの話術には、いつものことながらグイグイ引き込まれてしまった。

        夢月亭清麿は陶芸師の世界を描きながら、なぜかプロレスのボブ・サップが登場する『昌子の皿』。毎日一皿ずつ丹念に焼いた一年分365皿の陶器。プロレス好きの陶芸の名人は、これらの皿を敷き詰め、ボブ・サップにフライング・ボディ・プレスで、全部割ってもらおうということなのだが・・・。なんとも不思議な清麿ワールド。

        トリは三遊亭白鳥。石垣島の深夜の救急病院の様子を面白おかしく語ってから、夜勤の新人看護婦の噺『ナースコール』へ。初めて聴いたネタだが、このころになるとこちらの薬が切れてきたらしく、どうやらまた熱がぶり返してきたらしい。ブラック・ユーモアたっぷりの笑い展開しているようなのだが、こっちの頭がついて行けなくなった。

        ハネてから、またさむけがしてきた。慌てて帰宅。布団に潜り込むと、震えが止まらない。その夜、再び発熱。朝まで苦しむ。「優しい看護婦さんがいればなあ」と考えるのものの、浮かんでくるのは看護婦姿をした白鳥師の顔ばかり。うううーっ、悪夢だあ!


January.2,2003 発熱

1月1日 春風亭小朝新春独演会 (ロイヤルパークホテル)

        大晦日の朝だった。目が醒めて起き上がろうとしたらば、ゾクゾクッとさむけを感じた。「しまった、やっちまったかな?」と体温計を脇の下に挟んでみると、38.6℃。よりによって一番いけない日に風邪をひいてしまった。かといって寝ているわけにもいかない。高熱を押して年越し蕎麦の準備を始める。午前九時、休日病院に飛び込み解熱剤の注射をしてもらう。飲み薬のせいで朦朧とする頭で、なんとか大晦日を乗り切り、仕事が終わると同時にバッタリと布団の中に倒れこんだ。

        夜中にまた高熱を発して、朝まで悪夢としかいいようのない妙な夢を見続けていた。それはこの世の終末を予感させるような嫌な夢だった。昼ごろに起き出してボンヤリと年賀状などを眺めるも頭に入らず。そうこうするうちに、毎年行っている小朝の独演会の開場時間が迫ってきた。医者で貰った薬を飲み、外へ出る。水天宮の初詣の長い列を横目にロイヤルパークホテルへ。チケットで座席を確かめると何と今年手に入れたのは、最前列。しかも高座のほぼ真正面。これではメモをとっている様が噺家さんにもろ見えてしまう。というわけで今年はメモは放棄。その上に頭が薬のために朦朧としているので、何を話しているのか、頭の中に入ってこない。座っているだけでも辛い。今年は演目だけ列記しただけで、ご勘弁いただこう。

林家きくお 『鯛』
春風亭小朝 『源平盛衰記』
林家いっ平 『芝居の喧嘩』
春風亭小朝 『新聞記事』 『親子酒』

        桂三枝・作の『鯛』を持ってきたきくお。新年にふさわしく、めでたいというところだろうが、鯛の立場になってみると迷惑な噺ではある。なにしろ生簀料理屋の水槽に入れられた鯛の噺なんだから(笑)。演者によっていろいろなギャグが入れられる『源平盛衰記』を持ってきた小朝と、元気のいい噺『芝居の喧嘩』を持ってきたいっ平は、ちょっと朦朧頭の私には辛かった。もう少しこちらの体調がいいときに聴き直してみたい。最後は短くて軽いネタ二席を並べた小朝。正月らしくていいではないの。元旦早々長くて重い噺は辛い。ただでさえ、こちらの体調は最悪なんだから。


お ま け


        開演前に出る、いつものスナック。今年は、ポテトとツナのサンドイッチ、ホットドック風サンドイッチ、カレーサンドイッチ、焼き鳥、コロッケ、ポテトチップスと種類が多かったし、旨かった!! ソフトドリンクではなく、やっぱりビールに手が行ったんだから、それほど悪くなかったのかもね。


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