December.31,2003 一時間四十五分で作った『ひび親子』の完成度の高さ!
12月23日 池袋演芸場昼の部
三遊亭白鳥が、八日間ぶっ通しでトリの高座で三題噺に挑戦するという企画の三日目。いま、次々と新作を発表し続けている噺家は、白鳥さんだろう。それが全て、かなりの完成度を持った作品群が生まれている。これはなんとしても、予定をやり繰りして、一日は駆けつけなくてはならない。
前座は古今亭章五で『新聞記事』。頑張ってね。
「白鳥さん、以前は新潟って名前でした。領収書を貰うときに、新潟って書いてもらうのが恥ずかしかったそうです。白鳥でも恥ずかしいと思うのですが、今は『白鳥(しらとり)と書いてください』って言うんですって。なんか上級の人になったような」 白鳥の弟弟子三遊亭小田原丈は、次の人が誰も来ていないとの不安感からか、時間調整しやすいようにか、漫談。私も何回か聴いている小田原丈の病気経験の話。尿管結石で救急車を呼んだという話は、何回聴いても笑える。「次の人が来たようです。次の人はちゃんと落語演ると思いますんで」
その出てきた入船亭扇治。「白鳥さんと鈴本で一緒に前座をしていた時でした。先代の志ん馬師匠が上野と新宿の掛け持ちだったことがありまして、白鳥さんに『羽織を袖だたみにしてくれ』と頼んだ。袖だたみというのは、左右の袖と袖を合わせてたたむ方法で、時間のないときにやるたたみ方。そしたら、白鳥さん、楽屋のはじっこの方に行ってたたんでいた。楽屋のソデでたためということと勘違いしたんですね」 さて、その扇治は『割引寄席』。大学の落研の学生が、初めて寄席にやってくる。「学生一枚」と学割で入ろうとすると、そろそろ昼夜入れ替えの時間が迫っているので、さらに五百円引きにしてくれる。学生証を見せると、その大学の学生は一番割引率を高くしてくれると言う。「偏差値が高いからですか?」と問い返すと、その大学の落研の学生は三割が噺家になる。いわば噺家養成所だからとの答え。「ああ、タイガー・マスクの虎の穴みたいなものですね」 「いや、山の穴」(円歌の、山のアナ)。一番前に座れば安くするとか、笑い方によって安くするとか、どんどん安くしてくれる噺。
三遊亭小田原丈、橘家文左衛門が出てきて、三題噺のお題決め。十個のお題を募集して、そこから抽選で、[柚子湯][餅つき][乱暴者]の三つに決定。白鳥さんは只今、下北沢で別の落語会。「ひとつ、間違った題を教えちゃおうかなあ。(別の題で作ってきたら)びっくりするだろうなあ」と、意地悪な文左衛門。
「携帯電話で本人にお題を知らせることになっています。当初は前日にお題を貰って、翌日、高座にかけるということでしたが、ルールが代わって、当日貰って、トリでかけるということになりました。白鳥さん曰く、『一日そのことを考えて暮らすのは嫌だ』」 古今亭駿菊は『湯屋番』。居候の若旦那が銭湯の番台に座って思うのは、粋な年増に惚れられること。「看護婦がいいかな。それとも、女性の自衛隊員・・(イラク問題など)いろいろありそうだだな」 ふはははは
マギー隆司の奇術。いかにもうさんくさい造花を出してきて、「これは、そこらへんに咲いている一輪の花です」って、信用しないって! トランプの数字当ての種明かしをしてくれたが、これも大胆なトリック!
三遊亭萬窓は、漫談風の入れ事が多い『紀州』。やはり、トリが新作の白鳥の三題噺とあっては、普通の古典が演りにくいのかも知れない。落語界の話題をふんだんに盛り込む地噺で、思わずウフフ。さしさわりがありそうなので詳しくは書けないけどね。
柳家小ゑんは、おお、以前に聴いたことがある『長い夜』という噺ではないか。大空と大地が夜の盛り場を眺めるといった噺。高田馬場の喫茶店、それぞれ好みの飲み物を注文するOL。「私、クソ」 「何よそれ」 「クリームソーダ」 「私はアイスオーレ。でもよく考えると、これコーヒー牛乳と一緒なのよね」 新橋の[養老の滝]で飲んでいるサラリーマン二人組、枝豆と冷奴で「ふとっ腹」で飲んでいる。一方、新宿ゴールデン街では演劇青年が激しく罵り合いながら飲んでいる。かと思うと、青山のバーではハンフリー・ボガート気取りの男がひとりで飲んでいる。「三日前にもそこで飲んでいませんでしたか?」 「そんな昔のことは忘れてしまったよ」 「もう、いらっしゃらないんですか?」 「そんな先のことはわからない」 「はい、ご注文のマティーニです」 「ドライマティーニか、マティーニだけにジンとくるぜ。・・・・・サンタクロースが赤い顔してウチにやってきてな」 「一杯やってきたんですか?」 「そう、マティーニをやってな。サンタがマティーニ(町に)やってくる」 「それ、聖者の方がいいんじゃないですか? セインツ・ゴー・マーチ・イン」 フハハハハ。
仲入り。いよいよ三題噺まで、あと一時間。文左衛門が売る[らくご℃]の卓上カレンダー千円を、思わずつりこまれて買ってしまった。
くいつきは林家彦いち。女子校生の前で演った落語芸術鑑賞会やら、街宣車ネタといった、この人のお馴染みのマクラのあとに、『わくわく葬儀店』へ。メンバーズ・カードを発行して、一人死んだらハンコひとつ。不慮の事故で死んだにハンコふたつ。十個たまったら、ひとりタダ。・・・・・そんなに死んでたまるかー!
「池袋演芸場の下席は、木戸銭二千円なんですってね。先日トマトが二百三十円で売っているのを見ましたよ。今日は十人以上出ています。ひとり二百円以下ですよ」と橘家文左衛門。『わくわく葬儀店』のあとを受けてか、「葬儀屋で落語会を演ったことがあります。『お得意さんを呼んでやっからよ』って。三十畳の大広間、不気味でしたよ。高座が無いので棺桶ふたつ並べて、その上で落語演りました」 ネタは『天災』。八五郎の性格が他に聴いたこともないくらいな乱暴者。紅羅坊名丸先生に何かというと、「表へ出ろ!」と食ってかかる。文左衛門というキャラクターは、今までにない落語を創り出しているといつも思う。
ひざはロケット団の漫才。「カラー・ギャングって流行っているんですってね。青一色とか、黄色一色とか、上から下まで同じ色の服を着た不良少年のグループ。私、最近見ましたよ。赤ギャング。若い男の集団でした。赤い服着て近づいてきて、赤い紙袋を差し出して『無料です』って」 「それはヤフーBBだろ!」
トリの三遊亭白鳥、案外平然としている。「やっと三日目です。下北沢から池袋演芸場に電話したら話中。小田原丈の携帯に電話したら、ここ、地下なもんだから圏外なんですね。ようやく三つのお題を知ったのは午後三時。こうして、一時間四十五分で仕上げた、[柚子湯] [乱暴者] [餅つき]の三題噺は、『ひび親子』という人情噺となって二十分ほどの噺になった。時は江戸時代。川魚を取って生活している権三は、きょうも雪の降る中、船を出す。何回も網を打つが雑魚一匹かからない。しかたなく家で待っている一人息子の留吉のために、寒い思いをして素手でタニシを取って、それを懐に入れて帰る。途中、居酒屋の灯りを見て、「いかん、いかん」と思いながらも、一杯だけのつもりで寄ってしまう。どうやら権三は酒癖が悪く、酒乱らしい。居酒屋で座布団を放り投げ大暴れ。本当に座布団を放り投げ、ひっくり返って暴れる白鳥さん。その投げた座布団がメクリ台と、お題を書いたスケッチブックを直撃。それを直しに行くのが白鳥さんらしい。「自分で直しにいってどうする」。そこに連れて来られる息子の留吉。「なんて乱暴者なんだ。あれは文左衛門か?」 「あれはお前のトーチャンだよ」 家に父親を連れて帰るが、権三はまだ飲み足りない。「酒持ってこーい!」 「酒なんて無いよ」 「買って来ーい!」 「金なんてないよ」 「家財道具を売り飛ばせ」 「もう、うちには何も無いよ」 そこに権三の目に入ってきたのが杵と臼。「これを売り飛ばせー!」 それを必死で止める留吉。それは、まだ親子三人が仲良く暮らしていたころ、権三が山でイチョウの木を切ってきて作ってくれた杵と臼。それで餅つきをした思い出の品なのだ。どうやら母親は愛想を尽かし出て行ってしまったらしい。やがて父はゴロッと眠ってしまう。すると懐から布の包んだタニシがゴロッと出てくる。父の手を見てみると、シモヤケ、アカギレだらけ。そうか、素手でタニシを取ったためにこんな手になってしまったのかと知る留吉。なんとか父の手を直してあげたいと思う留吉は、柚子湯を作ってあげることにする。雪深い山に登ってみるが、どこにも柚子はみつからない。やがて、一本のイチョウの木が留吉に声をかける。「あなたのお父さんは、私の夫を助けてくれました。あなたのおとうさんは私の夫である木を切り、杵と臼にしてくれました」 「えー、夫を殺したんで呪い殺すじゃないの?」 「いえ、あなたのお父さんは、立派な杵と臼にして、よみがえらせてくれました。感謝しているのです」 こうして、雌のイチョウの木は、山々の木々に呼びかける。すると山中の木々が答えてくれ、イチョウの木にたくさんの柚子の実が生り、その柚子が留吉のまわりに降って来る。その柚子の実を持って家に帰り、お湯を沸かして洗面器に柚子湯を作る。父に手をその洗面器に入れる。気持ちよさそうにしている父の権三。「ありがとうよ。出て行ってしまったおかーちゃんとのヒビは治らなくてごめんな」 「ヒビ? ヒビなら柚子湯につければいい」というのがオチ。よくこれだけの噺を一時間四十五分の間で考えられたものだ。今、一番新作を量産して、それがことごとく出来がいいというのは白鳥さんなのではないだろうか。これからも期待してますぜえ、白鳥さん。
December.28,2003 キッチュやりたい放題
12月21日 ザ・ニュースペーパー (シアター・アップル)
最新のニュースをコントで観せる劇団の公演。以前から観たいと思っていたのだが、ようやく観ることができた。
まずは、この一年を振り返る『文楽・2003年のニュース』。義太夫語りに合わせて、劇団員が文楽の人形の動きでコントを繰り広げる。動きがいかにも人形っぽくて面白い。
このあとが、1時間ほどもある『朝まで生テレビ!』のパロディ。田原総一朗の司会で、小泉純一郎、大島渚、田中真紀子、鈴木宗男、金正日、ハマコー、石破茂防衛庁長官、土井たか子、ジョージ・ブッシュ、コーリン・パウエルなどの扮装をした偽者が登場。その中に本物も混じる。一水会元代表・鈴木邦男、東京大学教授・小森陽一、埼玉県知事・上田きよし、漫画家・石坂啓といったホンモノも混じる。どこまでがホンネなのか、パロディなのかわからない抱腹絶倒の討論が続く。大島渚とハマコーを演った松尾貴史が暴れまくったという印象。それでもときどきズバッとしたことを言うところがあって、なかなかあなどれない。テーマは小泉政権の是非と、自衛隊イラク派遣問題。
コントが数本。オレオレ詐欺にあった老人が、逆に、孫にあたる年頃の人のところに電話をして金を騙し取ろうとする[ワシワシ詐欺]。武富士のテレビCMを日舞で。それと、とても書けない、さる高貴なお方のネタ。
時事ネタだけでコントというと、どんどんネタは賞味期限が切れていくわけで、常に新しいもの勝負。観に行くたびに違うコントが観られるわけだ。旬なものは旬のうちに。この劇団も今が旬。
December.27,2003 いい曲いっぱい、エコー・ミュージカル
12月20日 テアトル・エコー エコーお歳末みゅーじかる
『涙で頬が傷だらけ』 (エコー劇場)
テアトル・エコーといえば熊倉一雄。熊倉一雄といえば『ひょっこりひょうたん島』の海賊トラヒゲと、私らの世代は連想されるだろう。井上ひさし&山本護久による、このNHKの人形劇は、ところどころで歌が出てくる、ミュージカルのような構成だった。そのこともあるのだろうか、昔、井上ひさしがテアトル・エコー用に書き下ろした脚本は、ほとんどが歌と踊りが挟まるという構成だった。その後もテアトル・エコーといえば、小規模ミュージカルというイメージが強かったのだが、なんと、1991年以来、ミュージカルは上演していなかったとのこと。とすると、今回は12年ぶりのミュージカル。
ある年の年末。掃除屋の夫婦が交通事故で死んでしまう。残されたのは二匹の犬。犬は、ご主人が請け負っていた年末の掃除の仕事だけでも、代わりにこなしたいと、サンタクロースならぬワンタクロース(熊倉一雄)に、年内一杯だけの約束で人間にしてもらう。ふたり(二匹)が向かった掃除の現場は、さまざまな人間模様。倒産の危機にある印刷屋、歳末商戦に必至な商店街事務所、歳末の慌しさの渦中の会社など。2時間の上演時間の中に20曲近くの挿入歌があり、配られたチラシにはタイトルが刷り込まれている。『寂しいこの夜』 『ついにこの日がやってきた』 『人間になりたい』 『オオカミの子の名のもとに』 『嫁来い唄』 『ひとり鍋』 『生きていればきっと』 『泥棒ドリーム』 『お嫁さんのブルース』 『愛だ恋だは商売の次』 『にっちもさっちも』 『嘆きの子守歌』 『リボン』 『帰れ犬コロへ』 『手酌エレジー』 『小さな祈り』 『コトブキとフク』 『ひとつ屋根の下で』 『涙で頬が傷だらけ』 こうやってタイトルを書き出していくと、ふと、曲のフレーズが浮かんでくるのが、いくつもある。特にフィナーレになる『涙で頬が傷だらけ』は印象的。「♪涙で頬は傷だらけ それでも あなたが そうしてそこに いつでも いっしょに いてくれるから」 もう70代の熊倉一雄が、若い役者に混じって歌い、踊る姿に驚きを覚えた。
ストーリーが、ややまとまり過ぎている感があるが、これもミュージカルだと思えば、これでいいのかも知れない。ほんわかと、いい気持ちになる音楽劇だった。サントラ版欲しいなあ、いい曲がいっぱいだったから。出ないだろうなあ。うーん、惜しい。もったいないよお。
December.23,2003 みっちり三席
12月14日 志の輔らくご 新古典の世界 (PARCO劇場)
「毎年年末にパルコ劇場で会を演るようになって八年になります。一年目は一日。二年目は二日間。三年目は三日間と言う具合に、毎年一日ずつ増やしていって、去年が七年目で七日間。それで今年が十日間なんですね」 私もほとんど毎年観ているが、この会の人気は高く、なかなかチケットが取れなくなってきているようだ。十日間すべて満員だったようで、立川志の輔は落語好き以外のファンも、どんどんと増やしているようだ。
「テレビ五十年。昔は立派な人しかテレビに出なかった。今は面白ければいい。恥ずかしい人が、やたらとテレビに出てくる」とマクラをふって、一席目『となりの喧嘩』。TBS日曜昼の名物番組『噂の東京マガジン』内のコーナー、『やって!TRY』は、私もよく観ている。街角で、突然に女性に声をかけ、指定した料理を作らせようという企画である。若い女性などが、ひどい料理法で作るのを観て笑うという、嫌な趣味の番組なのだが、ついつい観てしまうのである。ある奥さんの家に知り合いの奥さんが訪ねてくる。この家の奥さんが『街角研究室 ドキドキキッチン』に出ていたのを観たというのである。「笑っちゃったわよ。サバ味噌作ってくれっていわれて、カツオ掴んだでしょ。掴みはOK」 「OKじゃなかったのよ」 「わざとじゃないの? そのあと皮剥きながら味噌塗ってたでしょ。会場は爆笑。おいしいじゃない」 「美味しくなんかないわよ」 「その美味しいじゃないのよ。テレビってボケしか出られないのよ。受けてたわよ」 そんなところまではよかったのだが、やがて、実家の母がやってきて、「番組で評論家が、『この人は、小さいころ、碌な物を食べさせてもらっていない』なんて言って、悔しいのなんの」と愚痴る。そこに旦那のおかあさんまでやってくる。「会場の人が『この人に旦那さんいるんですかね』と言ったら、ゲストが『まさか』って答えていたわよ」と非難ごうごう。テレビというもが、今の時代は遊び道具になってきてしまっているのだろうか? という風刺がこもった、面白い新作が出来た。
二席目は、CM大賞のマクラから『メルシーひな祭り』。フランスの特使が、日本での役目を終え、祖国へ帰ろうとしている。滞在中は公務に追われ、自由な時間が無かったのだが、帰る前にどうしても見たいものがあるという。ひな人形が見たいというのである。しかし、見に行っている時間がもうない。成田空港の近くの町に、ひな人形の職人がいるというので、成田空港へ行く前に、その町に寄ろうということになる。外務省の役人が当日、現地に到着してみると、この職人は雛人形の頭師(あたまし)といわれる人で、頭しか作っていない人。すなわち、首だけしか無い。せっかく来てくれるのだからと町の商店街の人たちが集まって、なんとかフランソワーズ婦人とチェルシーちゃんに、ひな人形を見せようと計画した策とは・・・。最後に「あっ!」という仕掛けが容易されてあって、このアイデアから始まった噺だそうだが、こういう仕掛けは面白い。劇団ビタミン大使「ABC」の皆様もありがとう!
三席目が古典で『小間物屋政談』。この噺は、すでに志の輔はCD化している。『両耳のやけど』の8巻目、1994年9月28日の録音とあるから、9年前のものだ。家へ帰って聴き直してみると、この9年の間で、ところどころ変化している箇所が見つかる。解説によると、「練習する毎に登場人物の性格までもが変わっていきました。おそらくこれからもどんどん変わっていくと思います。自分でもどうなるのかわかりません」とある。そう考えると、以前、円生で聴いたものとは、大岡越前も、長屋の大家も、性格が大きく違う気がする。志の輔のは、どの登場人物も、妙にユーモラスなのだ。たいへんな状況に置かれているのに、どこか冷めている。聴いていて、救いのある噺だなあという気になってくる。
それにしても、今年の志の輔の三席、二時間半は、少々疲れた。みっちり噺を聴かされたという感じ。もっとも、十日間、同じ噺を話しきった志の輔も疲れたろうが。
December.20,2003 だめだあ、ついていけない
12月7日 メロンメロン
『ファミリー・ボーン』 (エコー劇場)
シティ・ボーイズのきたろうが立ち上げた新演劇ユニット[メロンメロン]の第1回公演。さぞかし笑える芝居が観られるだろうと期待してチケットを取った。
ところが、私は、この芝居にまったく入っていけなかった。なにより、ホンが私好みではない。面白いと思えないのだ。意味のわからない話とか、シュールな笑い、ナンセンスすぎる笑いでもかまわないのだが、この芝居だけはついていけなかった。話の展開が強引すぎて戸惑いを覚えているうちに1時間半ほどの芝居は終わってしまった。
どういう話なのかということを書くのも辛い。大晦日の夜、富士山頂では年越しラップフェスティバルが開かれている。富士山の近くの高速道路料金所ブースには、きたろうと蛍雪次朗が、それぞれのブースに入っている。きたろうはブースの中に、人間の言葉を話すポニーを入れている。また、蛍雪次朗は女子中学生を拉致して入れている。蛍雪次朗は元ボクシングジムのオーナー。きたろうは、そこのボクサーだった。このジムには、世界チャンピオンに挑戦しようとしているボクサーがいる。ところが彼は試合を前に、姿をくらませてしまう。そこで、彼の身代わりに、きたろうが試合に出るが、偽者だとわかって問題になり、蛍雪次朗はボクシング会を追放。きたろうも会社を首になり、ふたりして料金所の徴収員になっている。世界チャンピオンに挑戦するはずだったボクサーはミュージシャンになり、ラップのスターとして、年越しラップ・フェスティバル出演のために、この料金所ブースへやってくる・・・。もうここまで書くのがやっとという感じ。このあとに、大麻を栽培して生活している六角村の話が出てきたり、蛍雪次朗の拉致した中学生がきたろうの娘だったりと、何がなにやらわからない。強引に話を引きずり回している気がするのだ。
私の感覚が古くて付いていけないだけなのかも知れないが、5300円のチケット代を損したような気になってしまった。うーん、これが新感覚のコメディなのだろうか?
December.14,2003 イッセー尾形、初ナマ体験
12月7日 イッセー尾形 2003年冬の新ネタ IN 東京 (クエストホール)
一度ナマで観てみたいと思っていながら、いつもチケットが取れないで実現できなかったイッセー尾形のひとり芝居。なにせ、十年以上前に[ジャンジャン]で札止めをくらって、帰されて以来だから、待ちに待ったこの日だったのだ。開演前にはロビーで飲み物と食べ物が無料で出されると聞いていたので、昼食ぬきで行った。フランスパンとコンニャクの煮物という不思議な取り合わせのオードブルが出されていた。これを頬張りながら、白ワインと赤ワインを飲んだら、開演前からいい気持ちに酔っ払ってしまった。午前中に片付けものをしていた疲れもあって、開演中はついウトウト。これじゃあ、待ちに待った意味ないじゃん。
今回のネタは6本。1本目。初老の男性。パッケージ・ツアーでパリへ単独でやってきている。カフェのテラスでワインを飲みながらくつろいでいる。そこへ、同じツアーで参加した高橋さんが通りかかる。椅子を勧めて話しはじめると、高橋さんは新婚旅行でこのツアーに参加したのだが、早くも夫婦喧嘩の最中だという。その原因は三角関係。奥さんと結婚する前に付き合っていた女性がいて、その女性が、このパリにいるのだという。その女性は新婦の大親友でもある。高橋さんは、その女性のことも諦めきれない。男は、それは未練というものだと説得を始める。山藤章二風のメイクのダンディな男性ながら、現代っ子の高橋夫妻の考え方に翻弄される初老の男性を面白く演じていた。
2本目。溶接工の中年男性。妻と離婚したらしい。その元妻はスーパーで働いている。スーパーの裏口で社員と話しを始める。どうやら、妻との縒りを戻したいらしい。自分の仕事の自慢話などをしながら、ときどき奥に向かって、「としえー!」と元妻の名前を叫ぶ。
3本目。美顔器のセールスレディ。社長に、会社を辞めると言い出す。どうも、この美顔器というのも胡散臭いのだが、引き抜かれた会社というのもネズミ講らしい怪しげな会社。右手に赤い缶を持っているのだが、これにはガソリンが入っていて、入口からガソリンを撒いてきたと言う。約束の給料を今すぐ支払わなければ火を点けると言い出す。やがて、ビルの周りには警察やらマスコミやらが押し寄せてくる。主人公の行動が人質を取って立てこもっている犯人の扱いになっているのに、本人が驚き始める。
4本目。お馴染み大家族シリーズ。今回は大晦日。例によって子供たちを叱ったり、なだめたりのお父さん。みんなで『紅白歌合戦』を観るが、テレビが故障中で、ほとんど砂嵐状態。娘から『かぐや姫』の話をしてくれと頼まれるが、うろ覚えの童話で、細部が思い出せないでいる。そこへ、近所の内山さんがおせち料理を持って訪ねてくる。なにやらワケアリの内山さんで、突然に泣き出してしまう。
5本目。北海道あたりの小さな町の海産物土産物屋の主婦。毎年暮に、市民ホールでベートーベンの第九を歌うのが習慣らしい。楽団の何人かは東京の交響楽団から呼んでいる。その東京から来たヴァイオリニスト、パクさんが公演の翌日に訪ねてくる。パクさんの奥さんも音楽家で、ベルリンで活動している。パクさんは、この土産物店の主婦に恋をしているらしく、また、この主婦もパクさんに気があるらしいのだが、踏み込めずにいる。
6本目。シンガ・ソング・ライターの独身中年女性による、ギターの弾き語り。1曲目、台詞調の歌詞から、「♪クレイジー・東京 夜が明けちまう ミッドナイト・エキスプレス」とシャウトする曲。最近、窓磨きが趣味だというトークから、2曲目は乗りのいい「♪チュピチュピチュー」というサビが楽しいナンバー。同窓会でアベくんに逢った話をしている最中に携帯電話が鳴り、ライヴ中だというのに電話に出る。カナダに旅行中らしいカジヤマさんと通話が始まってしまう。カジヤマさんは奥さんと別れると言い出す。どうやら、この歌手はカジヤマさんに気があるらしい。3曲目は、デズニー・ワールドをテーマにした曲。「♪リボンリボン ボンボボーン」というフレーズが頭に残ってしまった。
約2時間のひとり舞台公演。この間、まったく飽きさせないのだから凄い。私は、どちらかというと、イッセー尾形が女性を演じた3.5.6が面白かった。こういう女性、いそうで、いなそうで、案外いそうで・・・。
December.13,2003 ゴールデン街で落語会
12月6日 クラクラ寄席 (クラクラ)
私の店での落語会を手伝ってくれている、ちょも宮田さんが企画した落語会。場所は、役者の外波山文明さんのお店、新宿ゴールデン街の飲み屋[クラクラ]。狭い階段を登っていくと右側がカウンター席、左側に二十人ほどが入れるスペースがある。そこがクラクラ寄席の会場。何より感心したのが照明。急造で作られた高座に当てられるライティング・プランは、さすがに舞台を知っている役者さんのもの。高座に上った噺家さんの顔や仕種が、何の影もなく浮かび上がる。ウチの会も、これだけのものにするには、改装の必要があるのだが、そこまでは出来ないし・・・。うーん、うらやましくはある。
出演者は、快楽亭ブラックの一番弟子ブラ房と、二番弟子ブラ談次のふたり。ブラック門下の噺家さんを聴けるいい機会なので、私も楽しみにしていた。定刻をちょっと過ぎたころに開始。お客さんは定員ぴったりの二十名ほど。こっちが席亭のときは、ほとんど落ち着いて聴いていられないのだが、今回はこちらは普通のお客さん。リラックスして聴いていられるぞ。どうだ、うらやましいだろう、ちょもさん。
まずは快楽亭ブラ談次から。「いろいろなところで落語を演りますが、学校寄席というのもありまして、小学校の体育館で演ったりもするんですが、小学生はおとなしく聴いていない。平気で『つまらねえ!』なんて言ったり、スピーカーの前に行って耳を塞い、『うるせえ!』なんて言ったりする。当然受けませんよ。それで敵討ちのつもりで、最後に花道のようにして生徒さんが私たちを送ってくれるんですが、そのときに扇子を刀に見立てて子供を斬る仕種をしてみせた。そうしたら、子供がみんな斬られた真似するんですよ。そういうことで憂さを晴らしたんですがね、あとから子供たちに感想文を書かせたそうで、『さいごに、サムライみたいなおじさんと、ケンカしたのがおもしろかった』なんて書いた子がいまして、これは教育上よくないとPTAからクレームがつきまして、以降、この小学校では学校寄席が中止になってしまったとのことです」 そんな子供のマクラを振ってから、『真田小僧』へ。あとから訊くと、なんとネタ下ろしだったとのこと。男がステッキを持っていたという前振りを言うのを忘れてしまって、あとでフォローに追われたりしたのが、こんな狭い空間では、かえって楽しい。『昼下がりの情事 人妻編 お咲の場合』を語る子供にこっちも惹きつけられてしまった。
替わって快楽亭ブラ房は、『時そば』。春風亭鯉昇師に貰ったという、この『時そば』はテンポよく、爽快にトントントンと進む。よく高座にかけているのだろう。不味い方のそば屋で汁を啜ると、そのあまりの不味さにクラッときて後ろに倒れそうになる。後ろには壁があり、それで身体をささえる。このそば屋は必ず壁際に店を出すんだというギャグも鯉昇師ゆずりのものだそうだが、これも可笑しい。「箸にネギが付いてるよ。昨日今日付いたネギじゃないな。歴史を感じるよ」 「汚ねえ丼だね。発掘したんじゃねえか?」 「温かいものを食って、寒気がしたのは初めてだ」 鉄拳じゃないけれど、こんなそば屋は嫌だ!
仲入りを挟んで、後半。快楽亭ブラ談次は『だくだく』。この噺の方は、ネタ下ろしというわけではないようで、快調。一文無しになった男が部屋に白い紙を張って、そこに家財道具の絵を描いてもらう。「そこに本を描いてください。『家庭の医学』と『広辞苑』と『性生活の知恵』」 「一人もんが、なんで『性生活の知恵』を持っているんだよ!」 ハハハ。「新聞が入っているところを描いてください。聖教新聞と赤旗。近所付き合いがよくなりますから」 そうかなあ(笑)。
トリは快楽亭ブラ房の『尻餅』。ブラ房の落語は、今回初めて聴いたことになると思うのだが、『時そば』といい、この『尻餅』といい、歯切れのいい口調が気持ちがいい。そして、何より、この人は落語を演るのが本当に好きなんだということが伝わってくる。噺が進むに従って、乗り乗りになってくるのがわかる。ブラック一門にそれほど関心の無かった私だが、これからは、こちらの方にも注目していかなければならないかな。
ハネてから、ほとんどのお客さんが残って飲み会。ブラ房、ブラ談次さんから、いろいろな話を聞く。ゴールデン街なんて、ずいぶんと永いこと足を踏み入れていなかったが、こういう小さな空間で、落語を楽しんで、酒を飲みながら、噺家さんや、見ず知らずの人たちと会話を楽しむというのは、いいものだなあ。是非とも、ちょもさんに二回目をお願いしよう。
December.8,2003 広末涼子という最良の女優を得たつか演劇
つかこうへいダブルス2003 (青山j劇場)
11月23日 『幕末純情伝』
11月30日 『飛龍伝』
12月6日 『飛龍伝』
ここのところは、以上のように毎週、週末になるとつかこうへいの芝居だけを観ていた。筧利夫と広末涼子主演で、つかこうへいの作品二本を連続上演しようという試み。この体力勝負、役者だけでなく、観る側もそうとうにハードだった。
いやあ、広末涼子がいいのだ。過去、つかこうへいは、いろいろな女優を使って『飛龍伝』を上演してきた。富田靖子牧瀬里穂、石田ひかり、そして内田有紀。過去、私は全て観ているはずだが、今回の広末涼子がダントツでいい。今回の二作連続上演でも、まったく疲れを見せていないのには驚かされた。
卑猥な台詞も臆せずに叫ぶ。「しっかりしろよ! 一発やらしてやるから、しっかりしろよ! 最初の女の、『あーん、ああーん』は演技だからな! おまえも天下の坂本龍馬なら、少々斬られても、オレを素っ裸にして犯せ!」(『幕末純情伝』)。「先っちょだけじゃいやなの。中までズッポリ入れてくれなきゃ」(『飛龍伝』)。広末は単なるアイドルではないなというのが正直な感想。
つかこうへいの、女優をひとり置き、あとは全て男優が固めるという男っぽい演劇は、肝心な女優がよっぽどよくないと成功しない。今回の広末涼子はいい。涙を流しながら台詞を喋るせつなさには感動を覚えるし、なにより笑顔がいい。
筧利夫もエンジン全開という感じ。ちょっと前かがみぎみで喋る演技は舞台ならではの楽しさに満ちている。『飛龍伝』でこれにからむ春田純一の、のけぞりぎみで喋る演技は好対照で面白い。47歳で学生役を演ってもおかしくないのが凄い(笑)。
三週間に渡って、つかこうへいワールドに、すっかり浸かってしまい、少々言葉を失ってしまった。