January.12.2004 『八五郎出世せず』大出世!

1月4日 新春初笑い! 立川志の輔独演会 (町田市民ホール)

        町田はさすがに遠い。小田急線町田駅に到着して、とりあえず軽く食事をしようと思って入った駅前の回転寿司。これが安くて旨い。三皿程度で出てこようと思ったのだが、ついつい、もう一皿、もう一皿と、七皿も食べてしまった。お勘定を払って、ホールへと向かう。チケットの半券を切ってもらい、ロビーに入ると、「お酒、いかがですか?」と、小さな紙コップを渡される。思わずキューッと一杯。お腹も一杯だし、お酒も入って、いい気持ち。これで眠ってしまわなければいいが。

        前座は立川志の八。「私、町田・デザイン専門学校で学んでいたんですよ」と会場を沸かせ、『平林』へ。頑張ってね。

        立川志の吉。「初詣ともなると、浅草寺界隈にもやたら似合わない若者がいたりしまして、『超むかつく』なんて言葉を発していましたが、そんなにむかつくなら大田胃酸でも飲めっていいたくなりますが・・・・。鳩を見て『かわいいー』という女の子が、なんと言っていたと思います? 『くそかわいいー』ですよ。ネタは『牛ほめ』。弟弟子ができたこともあってか、以前よりずっと落ち着きが出来てきたようだ。

        立川志の輔一席目。「テレビに落語は向かないみたいなんですね。来る話がほとんど落語はいいから司会を演ってくれということなんです。先ほどの『牛ほめ』にしても前半は仕込みでしょ。それが後半の笑いに繋がっていく。長い仕込みと長い話、それがテレビには向かない。せいぜいこんなんですよ。『姉さん粋だね』 『あたしゃ帰りだよ』」 こうして入ったネタが『はんどたおる』 まさに論理をこねくり回す志の輔らしいこの新作は、もう名作といっていい。この噺こそ、仕込みがなくても笑いが取れそう。瞬間瞬間の笑いの連続で進行していく。これぞテレビ向けの志の輔らしい落語だと思うのだが。

        仲入り後、立川志の輔二席目。「人間にできて、犬猫にできないことが、ふたつあります。ひとつは笑うこと。もうひとつは、腹で思っていることと違った顔ができるということ。落語のベースになっているのは情ですよ。人間の情は昔からまったく変わっていないと、『八五郎出世』へ。『妾馬(めかうま)』として知られる噺だが、志の輔はオチにあたる馬のところまでいかないので、この題を取っている。さらには、出世すらしないので、『八五郎出世せず』としているらしい。十年ほど前の志の輔の『八五郎出世』が収録されているCDを聴き直してみると、オチに当たる部分が大きく変わっているのがわかる。もともと、オチの部分までいかないで終わる人が多いから、これといったオチは無いのだが、志の輔の以前のオチは、殿様を銭湯に誘うところで切って、素に戻り、「このあと銭湯で殿様を湯に沈めてしまい仕官適わなくなるという『八五郎出世せず』の一席でございます」としていた。ところが今回のはオチがまったく違う。八五郎を気に入った殿様が、さかんに士分に取り立てようとする。しかし、八五郎はそれを拒否する。「家には母もいますから、それを置いてはおけない」と言うと、殿様「それなら母君も一緒に来ればよいではないか」と答える。「いえ、母には井戸端というのがございまして、井戸じゃなくて端、一緒にいるジジババジジババなんですよ。この人たちといるのが一番なんです」 それではそのジジババも一緒にとしつこく迫る殿様に、八五郎の妹で殿様の妾になったツルが嗜めると、殿様は諦めてしまう。それで「ツルの一声」がオチになる。このオリジナルのオチは上手い。ハッとしてしばし拍手をするのが遅れてしまった。

        志の輔の落語の余韻に浸りながら新宿へ向かった。さあて、明日からは、新しい年の仕事初めだ。


January.8,2004 復活!『トキそば』

1月3日 新・落語21 正月特別興行 (プーク人形劇場)

        前座は三遊亭かぬう。自ら買い物依存症だというかぬうの噺は、[ドンキホーテ]に入った二人組みのOLが必要でもないものを買いまくるというもの。[もりもりフォーム]やら[なみなみフォーム]やら[つゆだくフォーム]やらの整髪料を次々と籠に入れレジへ。ところが急に買う気が失せてしまう。「手に取ったときは物凄く欲しくなるのに、いざ買うとなると熱が冷めちゃうのよねえ」 熱が冷めて買わないのなら軽症だろうな。私なんて、ストレスが溜まると、落語会や芝居のチケットを買いまくってしまうもの。

        春風亭昇輔は、前説で上がったのだが、三年前のこの会でも演っていた、通販で一万円で買ったという羽織、袴五点セットを着てきて、その説明。ポリエステル100%の着物、ズボンの生地で作ったらしい袴、模様がプリントの帯。メイド・イン・インドネシア!!って、どんな人が作ったのだろう(笑)。

        夢月亭清麿は、大晦日のボブ・サップVS曙戦の話題から、最近の落語会のこと(とても書けない)に触れながら、『寿限無の仇討』へ。ヤクザに子供が産まれ、その子供の名前を親分に付けてもらおうと思う。ところがこの親分、たいへんな落語好き。あの長い寿限無をつけろと命令する。やがてこの子は二十歳になったときに、親分の前に現れる・・・・・。

        三遊亭らん丈は、あいかわらず『新明解国語辞典』。「[飽かす]の例文。『一時間は人を飽かさないでしゃべる』 寄席芸人かあ!」 「[どらねこ]。『[飼い主がなかったりなどして]人の家の台所などをねらい、盗み食いをするずうずうしい猫』 そこまで言うことないんじゃない?」 これは『サザエさん』の主題歌が好きなんだよ新解さんって。「[生活態度]の説明が凄いんですよ。長いんですから。『生きる目標をどこに置くか、毎日の生活のリズムをどのように設定するか、他人・社会との関わりはどうあるべきか、自分をどうやって磨き高め豊かにしていくか、などの基本的問題について考えたうえで(何も考えないまま)過ごす毎日の生活のしかた』って、たいへんなことですよ」 らん丈は、すっかり赤瀬川原平の後継者になりつつある。

        林家彦いちはこの日、ラジオに出演し、板割りをやってきたという。毎年恒例のNHKラジオの演芸番組は、おかしなもので見えないと何もならないものでも放送にかける。「そりゃ、パリーン。そりゃ! パリーンって音がするだけ」 ここで『実録内家拳』に一旦入り、最後は内家拳でマスターしたというワンインチ・パンチで板を本当に割る。ウオリャーの掛け声で板は真っ二つ。

        去年の四月、オクラ状態になっていた『トキそば』を是非にと頼んで、三遊亭白鳥さんに『三遊亭白鳥とひみつのそば屋』という会を催し、白鳥さんに演ってもらったのだが、あのときは正直言って私も会の進行のことが頭にあって、素直に楽しめなかった。いつかまた、白鳥さんの『トキそば』に遭遇できないかと、密かに思っていたのだが、演ってくれました。この日のネタは「(新作が続く中で)そろそろ古典が聴きたいのではないかと・・・」と、もう一度聴きたかった『トキそば』へ。前半の旨いそば屋のところを終えたところで、「これを電信柱の影から見ていた男・・・」と言い立ててしまって、「電信柱? 江戸時代に電信柱は無いなあ」と、しばし考え込んだあと、「隠密同心の影に隠れて見ていた男・・・」には笑った、笑った。クライマックスは『トキそば』恒例、座布団を捏ね、打つ。バンバンと叩く座布団からホコリが舞い散る。この日は真っ赤な座布団。「赤く染め抜いたそば粉を用意いたしました。うちの二八そばは、八割がそば粉、二割はゴミ」 これを演りながら、「昔、『小三冶・志ん朝ふたり会』の前座で出て、これを演ったんですよ。お客さんは古典を聴きに来た人ばかり。サーッと引いて行くんですよ。あとで志ん朝師匠ね『ここが海だったら、潮干狩りが出来る』 さすが志ん朝師匠」 いえいえ、大爆笑です。途中、不味いそば屋が佐渡の出身だという唐突な話が出てくるが、これが独特なオチへの伏線。

        がっぽり建設。腋の下ネタ(喜納昌吉の『花』、イルカの『なごり雪』)。30秒コーナー(お尻タバコを吸う大人、揉み電話する大人)。もしもコーナー(もしも二人が江角マキコと米倉涼子だったら、犯罪者がストリップをしたら)。相撲取りコーナー(相撲面接、相撲踏切、相撲マトリックス)。やや引き気味の落語ファン。でも可笑しい。

        林家たい平は久しぶりで聴く『ネズニーランド』。小さん師匠が根津に土地を買って寄席を作る。デズニー・ランドと勘違いしたお客さんが入ってきてしまうという噺。ホーンテッド・マンションでは正雀師匠が怪談噺を演っているし、スプラッシュ・マウンテンでは扇橋師匠が『鰍沢』を演っている。イッツ・ア・スモール・ワールドでは円歌、スミ、燕路、昇太・・・・・小さい人ばっかりね。

        その小さい春風亭昇太。身体は小さいがパワーはある。正月のNHKラジオの寄席番組は何を考えているのか、表芸の落語はいらないから裏芸を演って欲しいといものばかりらしい。今年は彦いちが空手の板割りをやり、以前は白鳥が紙芝居をやらされたという。「私もあるんですよ。いいですか、ラジオでですよ、ラジオでマジックをやってくれというんですよ。『マジックなんかできませんよ』と言ったら、『大丈夫です、ラジオですから』って、何もない箱の中から、納豆を取り出したりするの」 ここで彦いちが再登場。昇太も板割りをやるという。気合一発、見事にバリッと割れた板。「うしろをちょっと切っておくと楽です」 「季節のネタです」と、『花粉寿司』へ。うーん、季節というにはまだちょっと早い気がするけど・・・・・。「ダークション、ダークション」とクシャミを連発する寿司屋の板前さんの噺。具合が悪くなり「私も横になっていいですか」と寝転んだまま寿司を握るという発想が凄い。三年前に聴いたときとオチが変わっていた。

        正月の新宿の夜を駅へ向かう。白鳥さんはどうやら『トキそば』を再び高座にかけてくれる気になったらしい。白鳥さんの『トキそば』が聴きたいという一念で開いた[三遊亭白鳥とひみつのそば屋]。本当にやってよかったと思う。今年もいい年でありますように。


January.2,2004 今年も小朝で始まりました

1月1日 春風亭小朝独演会 (ロイヤルパーク・ホテル)

        大晦日は、18時間半労働となり、ヘトヘトになってしまったというのに、テレビでボブ・サップVS曙戦を観たあとに、ビデオで『OUT』を鑑賞してから寝るということをしてしまったので、頭がまだボンヤリしている。水天宮のロイヤル・パーク・ホテルに到着したのは、午後1時半。朝食も食べないまま来たのでお腹が空いていた。ドリンク券でもらったビールを一気に飲んだのがいけなかったらしく、ホロ酔い状態になってしまった。今年のオードブルは、焼き鳥、細長い春巻、チーズハム・サンドイッチ、シーチキン・ロール・サンドイッチ。お腹も空いていたので、ペロッと三皿たいらげてしまった。そのかわり、座席に座った途端に、猛烈な睡魔に襲われた。



        開演のお囃子と共に、メクリ台を担いだ三遊亭王楽が現れた。自分でメクリ台を置いて、そのまま高座に座る。「三遊亭円楽、二十七番目の弟子であり、好楽の倅でもあります。普通、自分の父親に弟子入りするものですが、業界初、親子で兄弟弟子。なぜ円楽師匠に弟子入りしたかと言いますと、一度でいいから自分の父親をアニさんと呼んでみたいから」 ネタは『やかん』。「そこに出てきた若者が那須与一」 「なんで川中島の合戦に、那須与一が出るんですか!?」 「頼まれれば、どこにでも出る」 「それじゃあ噺家だよ」

        春風亭小朝一席目。「年末になると、[悔い改めよ]なんて看板を持った人がスピーカーでがなっていたりしますが、イエス様は全世界の人に頼りにされているようです。中には困ったときだけおすがりする人もいる。そういうときは、助けてあげられない場合もある。イエス・キリステ」 左甚五郎物語『竹の水仙』に入った途端に、こちらの眠気が最高潮に達し、ウツラウツラ。目が覚めると、オチの部分。「お前さん、向かいの旅館に汚い坊さんが入っていくよ。あの人、こっちに泊まってくれないかね」 「よせよ、あんな汚い坊主」 「もしかしたら、弘法大師かもしれない」 弘法大師は日本中に現れているからなあ。

        去年、『鯛』を演った林家きくおが今年も引き続き高座に上がった。王楽が好楽の息子ならば、きくおは林家木久蔵の息子である。連れてきたのがふたりとも二世芸人。「この業界、二世芸人といいましても、大きくふたつのチームに分かれます。まずはAチーム。柳家小さんの孫にあたる柳家花禄、桂米朝の息子にあたる桂小米朝。こちらは落語に対して真正面に打ち込んでいるタイプ。一方Bチーム。林家三平、林家木久蔵の息子といったバラエティ系。浅草演芸ホール以外あまり高座に出ない。もっとも、リーダー格のこぶ平が最近やる気を出しておりますが・・・。命のためなら落語は辞めるというタイプ」 「私と父の木久蔵は、親子そろって同じ悩みがあります。それは胃腸が弱いこと。おつきあいで深夜に食事をご馳走になることがある。すると、ふたりとも胃酸が出すぎてしまうんですね。親から胃酸が出過ぎてしまう遺伝をもらってしまった。これを胃酸(遺産)相続と言いまして・・・」 ネタは『犬の目』。人間の目を食べてしまったのは、最近テレビCMで人気のチワワのクーちゃん。代わりにクーちゃんの目をくりぬいて、患者さん入れようとする。「そんなに見つめないでくれ。どーにも出来なくなるではないか」 噺が終わってから、ややぎこちない南京玉簾を披露。

        春風亭小朝二席目。「携帯電話の着メロもいろんなものがありますね。[バーン!!]なんて拳銃の音がするやつは着テロ。色っぽい女の人の声で[うっふーん。電話に出てー]なんてのは着エロ。[ベー!]と言うのは着ベロ」 二席目のネタは、軽快に『ちりとてちん』。灘の生一本、鯛の刺身、鰻の蒲焼を勧められるたびに、「私のおじいさんが、死の間際に枕元に私を呼びまして、『灘の生一本は旨いよ』と言い残して死にました」とか、「私のおばあさんが、死の間際に枕元に私を呼びまして、『鯛の刺身は旨いよ』と言い残して死にました」とやるので、「何か食べるたびに身内の人が亡くなりますね」と返す旦那が可笑しい。知ったかぶりの男が、唐辛子入りの腐った豆腐を食べるところも高座に突っ伏して気絶する仕種まで登場。「よく手に入りましたね。台湾でもなかなか手に入らない。中にはまがい物の[とってれちん]なんてものも出回るくらい。ちりとてちんは国民の祝日にもなっているんですよ。九月三十一日。クサイってゴロあわせ」

        今年も小朝で始まった客席放浪記。皆様、また今年もよろしくお願い申し上げます。


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