March.31,2004 背筋を伸ばして生きていこう
3月28日 『坂本冬美特別公演・気まぐれ道中』 (新橋演舞場)
坂本冬美には別に興味が無いのだが、石橋雅史さんがご出演されるとあって観に行ったもの。入口でペンライトを渡される。芝居のあとの『坂本冬美オンステージ』で、それを振ってくれというのである。まっ、いいか。にわか坂本冬美ファンになりすまそう。
『気まぐれ道中』は、坂本冬美が一年間の休養後に復帰して出したシングル『気まぐれ道中』という曲のタイトルからジェームス三木が脚本を書いたもの。ところが、この脚本、[気まぐれ]も[道中]も出てこないという不思議なストーリー。坂本冬美は門前仲町のお茶漬け屋の住み込み女中お雪。突然に三河田原藩の者が会いに来て、奥女中として奉公しないかと言う。実は田原藩の息女月姫とお雪は瓜二つ(坂本冬美二役)。信州高遠家のバカ息子と月姫の縁談が決まり、そんな男の元には姫を嫁がせられないと思った田原藩主が、偽者としてお雪を送り込もうとしたのが真相。
偽者を送り込んでも、自分のところにいる姫の存在はどうするのだという疑問なども観ていて思うのだが、ストーリーはこれといった起伏もあまり無く大団円となってしまう。何なんだ、この話? とも思うのだが、歌手の公演芝居としてはこんなものでもいいのかも・・・。
芝居が終わってからは歌謡ショウ。十数人のバックバンドで坂本冬美が歌う。坂本冬美の曲で知っているのは『夜桜お七』だけ。全九曲を歌ったが、宇崎竜童作曲だという『蛍の提灯』が印象的。いかにも宇崎らしい曲で、宇崎のデモテープの声が聞こえてきそう。
千秋楽とあって、ファンから坂本冬美にプレゼントを渡すコーナーがあって、それが長い。何十人もの人の列。坂本冬美ファンには満足なんだろうが、こちらは、いささか退屈。
フィナーレは芝居に出てきた役者さんも勢ぞろいして舞台挨拶。苦手だという台本無しのスピーチをする石橋雅史さんが照れているように見える。
終演後、石橋さんの出を待ち、ビアホールにお誘いして、先日の話の続きを伺う。石橋さんの話は、いつも面白い。役者でるあこと同時に武道家である石橋さんの話は、自分を律している姿勢が感じられ、こちらも背筋を伸ばして拝聴してしまう。役者生活のこと、武道家としての生き方のこと、果ては若いころの武勇伝まで、石橋さんの話は限りなく続く。
ビールを飲みながら石橋さんのお話を聞いていたら、あっという間に3時間が経過していた。今、71歳の石橋さん服装といえば、ジーンズに皮のネクタイにジャケット。粋だなあ。「ぼくはいつもジーパンなんだ」という石橋さん。私もそろそろジーパンは止めようと思っていたのだが考えが変わった。「ジーパンって履き続けていれば、サマになってくるものなんですよ。それとね、背筋を伸ばして歩かなきゃダメ。背を丸くしてして歩いていると、どうしても年寄りくさくなる」 よし! 私も背筋を伸ばして生きていくことにしよう!
March.27,2004 圧巻! 荒川良々の変身
3月6日 タ・マニネ
『ワニを素手でつかまえる方法』 (PARCO劇場)
ある港町のホテル。経営者は若い女性ユキ(緒川たまき)。支配人の島田(徳井優)と一緒に、きりもりしている。宿泊客の中に歌手のフレディ若狭(小林薫)がいる。どうやらユキはフレディの事が好きらしいのだが踏み出せないでいる。そこへ、ユキの事を愛しているインドネシア人ハジール(小澤征悦)がやってくるから、ホテル内での三角関係が起こる。他の宿泊客はヤクザの組長森脇(三谷昇)と、その部下丸尾(荒川良々)と和久田(岩松了)。小説家の亀山(田中哲司)。さらにはロビーでたむろする売春婦のうさぎ(片桐はいり)とその息子ネンジ(佐藤銀平)。
グランドホテル形式のドラマのようなものかと思って観始めたのだが、なかなか一筋縄ではいかない芝居だった。組長はハジールから娘が欲しがっているワニを密売してもらう。そのワニが逃げ出して、ワニ捕獲員資格免許(そんなのあるのか?)を持つ若狭が捕獲に成功するあたりから、話が妙にねじれてくるのが面白い。圧巻なのは丸尾役の荒川良々。大人計画では、他の役者が凄すぎて目立たないように思えたのだが、ここでは圧倒的な演技を見せてくれた。ワニの餌を食べて、少しずつワニに変身していく過程がいい。話している言葉が微妙に意味不明になっていくところが恐ろしいほど。
パンフレットを買ったら、中にビニール袋が貼ってあって、輪ゴムが二つ入っていた。帰りの電車の中で、「これは何だ?」と考えているうちに、ひょっとして、輪ゴムがふたつで・・・ワニ・・・。
March.13,2004 山陽版『LOVE LETTERS』
2月29日 神田山陽独演会 (彩の国さいたま芸術劇場 小ホール)
「私の講談を初めて聴くという方、どのくらいいらっしゃいますか?」 「それでは、講談を聴くこと自体初めてという方はどのくらいいらっしゃいますか?」 かなりのお客さんの手が上がる。いまや、神田山陽は、演芸ファン以外からも興味を持たれる存在となっている。さっそくお得意の講談教室が始まる。さらには、延々と続くマクラが三十五分。この山陽の話術に浸っている時間がうれしい。一席目忠臣蔵の『二度目の清書』が始まった・・・・・と思ったら、五分で終了。風のごとく山陽は楽屋に引き上げていく。
私服に着替えて出てきた山陽。「パルコ劇場でやっている『LOVE LETTERS』に出たいのに、声がかからない」と前置き。『LOVE LETTERS』は、舞台の上に机ふたつ。男ひとり、女ひとり。台本に書かれた手紙を読み上げるというという内容。毎回、出演者が変わって、役者以外の出演も多い。ここで山陽が始めたのは、関東一円では初公開だという『ネンガジョーズ』。男と女の二十六年間に渡る年賀状のやりとりを、ひとりで読み上げる。これがどうやら、山陽本人と、山陽が恋していた女の子とのやりとり。小学校三年生のときから始まって、数年前までのやり取りの中で、山陽の思いと、笑いと、相手の女性のウイットに富んだ短い文章が、心に残っていく。
三席目はドリフネタ『はなの応援団』にするつもりだったらしいのだが、初めてのお客さんが多いとみて、『鼠小僧外伝〜サンタクロースとの出会い』へ。何回聴いても新しい発見がある。
新宿へ戻って、『年賀ジョース』の中で重要なキーワードになる、川口松太郎の『深川の鈴』(『人情馬鹿物語』所収)を紀伊国屋で捜すが見つからず。どうやらもう廃本になってしまっているらしい。図書館に行って捜してみようか・・・。
March.9,2004 キツかった3時間
2月28日 『カメレオンズ・リップ』 (シアター・コクーン)
登場人物が全員嘘つきという設定の話だと聞き楽しみにしていた。どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘なのかわからないという楽しみに満ちた芝居を想像していたのである。
はっきり言って、私はひたすら退屈してしまった。一幕目が1時間50分。二幕目が1時間10分。15分の休憩が入り、正味3時間あった。一幕目が終わった時点で私の口から思わず出てしまった言葉が、「この芝居、キツイなあ」。なんだか、ダラダラとひたすら長いのだ。嘘つきの話というから、三谷幸喜の『バイ・マイ・セルフ』ぐらいのものを期待してしまった。あの芝居は「実は今まで話したことは全て嘘で・・・」という連続に面白さがあった。ところがこの『カメレオンズ・リップ』ときたら、気の効いた嘘ではなく、ただひたすらに途方もない嘘が連続する。観ていて、どうでもよくなってきてしまうのだ。
大掛かりな舞台も、ラストの本水も、ひたすら虚しい気がしてくる。この3時間は何だったのだと思えてくる。途中の休憩時間なんていらないから、もう少し刈りこんでくれれば、ありがたかったのだが・・・。
March.5,2004 楽屋落ちギャグが楽しいマチャアキの舞台
2月22日 『ねずみ小僧 危機一髪!!』 (明治座)
ほぼ2年に1回のペースで行われている堺正章の明治座座長公演。今回はいつも一緒の植木等の姿が無いのが寂しい。どうやら、体調を崩されているという噂を聞き、心配になる。
10年前、『天保ねずみ伝〜鼠小僧と呼ばれた男〜』でねずみ小僧を演っているから、今回は二度目。プログラムを買ったら、「今回のお話は前回と違い、二代目のねずみ小僧です」とあるが、前回も二代目のねずみ小僧という設定だったような気がするのだが、記憶違いだろうか? もう10年前だもんなあ。
金貸しの山路屋(水谷あつし)、その裏で糸を引く旗本須藤修理(石橋雅史)らの悪業に困り果てた料亭[松葉屋]。その花板吉次朗(堺正章)は義憤に駆られる。母(中村メイコ)に、実はお前のお父さんは鼠小僧だったと知らされ、山路屋に忍び込んで千両箱を盗み出す決心をする。
三幕ものの喜劇だが、起承転結の起と結にあたる一幕と三幕よりも、より自由がきく第二幕が面白いのは、マチャアキ喜劇の特徴。蔵に忍び込むお手本ギャグから始まって、効果音ギャグ、刀取りっこギャグ、だんまりギャグなどが続くこの幕は笑いが途切れない。そしてふんだんな楽屋落ちギャグがまた楽しい。
とはいえ、終演後、石橋雅史さんの楽屋にお邪魔する約束を取り付けていたから、観劇中いささかフワフワと落ちつかなかったのも事実。石橋雅史さんとの会見記は、近日中にアップさせたいと思います。