May.30,2004 爆笑! 鯉太の余興

5月8日 深夜寄席 (新宿末広亭)

        『なにわなくとも小春団治』を一週間後に控えて、そろそろ定員もいっぱいになっているとはいえ、今後のこともあるので、古今亭錦之輔さんが出るこの日の深夜寄席で、チラシを撒いてもらうことにする。午後九時に末広亭の前に行くと、錦之輔さんがもう外に出ている。チラシを渡し、ドトールでジュースを飲んで時間を潰して戻るともう開場している。五百円払って中へ。

        おやおや、食いつきが古今亭錦之輔じゃないの。忙しいこと! 風邪をひいて具合が悪いときに電車に乗って席が空いたから座ったら、見知らぬ男に「おい、子供が立ってるだろ!」と注意され、「相手は老人や怪我人じゃなくて子供だろ!」と喧嘩になったという体験談をマクラに持ってきた。善人づらをする非常識人はたちが悪いという話。ごもっとも! 非常識と言っている本人の方が非常識という例。で、ネタの方はまったく関係なく、試験の答案用紙を盗み出そうと教授の家に忍び込みね金庫を開けるまでは成功するものの、逆に金庫に閉じ込められてしまう学生のことを描く『金庫破り』

        「100円ショップで時計を売ってまして、『正確なものではありません。目安としてきください』って書いてある。どこの製品だろうと見たら、メイド・イン・チョイナって書いてあった」 ふはははは、ウソでえー! 昔昔亭慎太郎の噺は、どうやら新作らしい。ひろしくんの日記の噺。おとうさんに動物園に連れて行ってくれというと、府中動物園に連れて行ってくれる。ところが馬しかいない。もっともマンバケンという犬もいるという。ふはははは、ありそうな話。動物園じゃあ走っている動物なんて見えないから、競馬場の方が面白いよ(笑)。と言う私は、おっさんの仲間。

        「たまごっちが再ブームなんだそうです。最近は画面でたまごっちが死ぬと埋めてやる・どこに埋めるかというと、多摩墓地。タダで埋められると困ると多摩墓地からクレームが来まして、どこかタダで埋められるところはないかと捜したらありましたねえ。多摩霊園(0円)」 春風亭鯉太『粗忽の釘』だったが、なぜか心ここにあらずといった出来。と思ったら、終わってから「余興でございます」と、おさきにゆたかの『卒業』と、コントまさひこの『ギンギラギンの鯖を食う』。ふはははははは、これがメインだったのね。

        なんだか、とんでもない深夜寄席になりそうになったところで、トリが桂歌蔵。『週間ヤングサンデー』で連載中の『笑いの虎』で、ガッツ石松に逢った話などをマクラに、『浮世床』へ。みっちりと語ったいい出来の『浮世床』に仕上がっている。本のところが特にいい。

        ハネてから、錦之輔さんと来週の確認。いよいよ、『なにわなくとも小春団治』の幕が開く。


May.23,2004 じゃがりこじゃがりこ

4月29日 新・落語21スペシャル
       『円丈還暦前夜祭・新作落語大会』 (池袋演芸場)

        国立演芸場を出て池袋に向かうが、時間がまだある。回転寿司で軽く腹ごしらえをしてもまだ時間がある。池袋の喫茶店で時間つぶしに本を読んでいたのだが、これは甘い考えだったということが、あとでわかることになる。六時開場だというから、十五分前に並べばいいだろうと思っていたのだ。喫茶店を出て西一番街中央通りに来てみて驚いた。長蛇の列ができていて、最後尾はゲートを越えて入口の歩道にまで達している。周りでは、「これじゃあ、確実に立見なんじゃない?」という声が聞こえてくる。不安になってくる。せっかく前売を買ったのに立見かよお。

        六時開場の予定が、時間を早めて扉が開く。果たして座れるか!? よかった、なんとか池袋演芸場で自分が一番好きな席を確保できた。

        開口一番前座は、国立と同じ三遊亭かぬう。十一月に二ツ目昇進が決まったと言うや、客席から大きな拍手が沸く。「出演者が多いので、短く話します」と、円丈師匠の爆笑エピソードをいくつか披露。「普通、弟子がヘマすると、『坊主にしてこい!』なんて言われますが、ウチの師匠の場合は違う。『ポニーテールにして来い』ですからね。それと、『精神修養をして来い』と『歩け歩けして来い』。精神修養って、座禅をして来いということだと思うでしょ。それがウチの師匠にとっての精神修養っていうのは、『足ツボ・マッサージをして来い』と言うんです。足ツボを指圧されると痛いということで、それが精神修養になると思っているらしい」

        三遊亭白鳥三遊亭小田原丈が出てくる。
白鳥 「昼に鈴本に出たんですが、もうお客さんは田舎の人ばかり」
小田原丈 「アニさんも、田舎者でしょーが」
白鳥 「牛小屋の臭いがしましたね」
小田原丈 「じゃあ、池袋演芸場はどんな臭いがしますか?」
白鳥 「『東京かわら版』の臭い。安っぽいインクの臭い」
小田原丈 「前夜祭となっていますが、これは秋にもっと大きな所で演るという意味なんです」
白鳥 「上野広小路亭とか、落語協会の二階とか」
小田原丈 「小さくなってるー」

        「それでは、円丈師匠の登場でーす!」のコールに答えて、赤いチャンチャンコに杖を突いて出てきたのは、ありゃ、円丈師匠ではない。夢月亭清麿ではないか。「お決まりのギャグです」と引っ込んで、「それでは本当に、円丈師匠の登場でーす!」と、今度還暦衣装で出てきたのは柳家喬太郎。「似合うよ。毒きのこみたい」と囃される。三度目の正直でいよいよ三遊亭円丈師匠の登場。「きょうは、みなさん、すみません。座席90なのに、前売で126売ってしまいましたー」 ついに立見が出始めた。ざっと40人くらいの人が立っていただろうか。こんなに混んでいる池袋演芸場は初体験だ。「たくさん(出演者が)出てきます。ひとり、持ち時間13分」

        「このあと田舎のの臭いがする鈴本に行かなくちゃならないので、ハナで出てきました」と柳家喬太郎が始めたのが、どうやら出来たばかりの新作らしい。オレオレ詐欺や闇金融の罪で服役している男の元へ、ある男がやってくる。ちょっと仕事をしてくれるなら罪を軽くして釈放させてくれると言うのだが・・・。もう、ここまでしか書けないのだが・・・・・もうインターネットではウワサが飛び交っているし、題も『国民闇年金』と公表されてしまっているので、もういいのかもしれない。ちょうど今が旬の時事ネタ。時間が経ってしまうと、あまり面白さが薄れてしまう気がする。かけ捨てのネタにするのかもしれない。態度の悪い受刑者の様子を演じてみせる導入部。「とてもお祝いの席とは思えない落語だな」とつぶやいてみせたのが、これまた喬太郎らしい。

        いつもの漫談もそこそこに、林家しん平が赤いマフラーをつけて『仮面ライダーの憂鬱』へ入る。仮面ライダーは息の長いテレビドラマだ。昭和46年スタートだから、もう33年も続いていることになる。仮面ライダーも、最近は様変わり。グロテスクを売り物にしたり、イケ面ライダーを登場させたり。初期のライダーが集まり、昔を懐かしんでいるという設定の噺。ショッカーの面々も今ではラーメン・チェーンで働いている。久しぶりに奥多摩の採石場に集合して昔のように戦わないかと持ちかけるが・・・・・。

        「さしさわりがあるといけないのですが、お客さんの中にヤクザの方はいますか?」と三遊亭小田原丈が始めたのが『極道のバイト達』。関西のヤクザが東京進出の足がかりとして組事務所。そこへ、大阪の兄貴分という男がやってくる。ところが、東京事務所は正組員はふたりだけ。あとは、『アルバイト・ニュース』で募集した時給980円のバイトだけ。外回りから帰ってきた正組員が、敵対する組織に殴り込みをかけようとバイトたち呼びに来たのだ。「まじっすかあ、ぼく達、タイムカード押しちゃったんです」 そうかと思うと、女子高生がバイトの面接に来ている。「私、以前から、ちょっとばかしヤッさんになりたかったんですう」 「吉本行け! ヤッさんやない。ヤーさんや」 「同じようなものじゃないですか」

        林家彦いち『熱血怪談部』。怪談噺のクラブ活動だというのに、なぜか顧問の先生が体育会系という設定が可笑しい。「お前達、何か怖い噺をしてみろ!」 「イラクでクルマに乗ってたら捕虜になった」 「馬鹿やろう!」 足刀が飛ぶ。「苦いお茶が一杯こわい」 「サークルが違うだろ!」 手刀が飛ぶ。「目先のことじゃないんだあ! 噺でこわがらせなくちゃ!」 この先生、本物のお化けが出てきても動じない。古典の『化け物使い』をもっと過激にした感じが面白い。

        夢月亭清麿は、お得意のネタ『優しさだけが怖かった』。ホモの先生が17歳の男子生徒を口説く噺。久しぶりに聴いた。「林! この胸に飛び込んでおいで! おいで! おいで! おいで!」 「でもー・・・・・ぼく、男ですー」 怪しげな論理で迫ってくる先生が可笑しい。

        柳家小ゑんは、『ミステリーな午後』。社内の昼食時。OLたちが外食に出かけていく。そんな中、昼食代にも困っているあるおじさん社員は、もっぱらホカ弁専門。しゃけ弁、のり弁、コロッケ弁のローテーションで食べていることを社内中の人間から見抜かれてしまっている。そんなある日、タイムレコーダーの陰に寿司屋の上寿司の桶を見つける。どうやら寿司屋が下げるのを忘れているらしい。そこで一計を案じる。持ち帰り寿司を買ってきて、それを桶に入れ、さも寿司屋から出前をとったように見せかけようというのだが・・・・・。

        仲入り後は彦いち、白鳥、清麿、小ゑん、小田原丈、円丈がそろって高座に上がる。大喜利で、問題を出して、それに答える趣向かと思ったら、新作派に人間は、これが苦手だそうで、問題に答えるというより、本人が問題を抱えている(笑)とのことで、座談会。
「新作のネタをネタ帳に書くときは、困りますよね」
「あとから来た師匠がネタ帳に書かれた新作の題名を見て、『なんだよ、これ。何がツクんだよ』って。『中国人がツキます』」
「川柳師匠が演ったのを、『何て書きます?』って訊いたら、『××××(女性の性器)数え歌』って言うんですよ。『本当に、それでいいんですか?』と言ったら、『そう書け』って。そうしたら小さん師匠がそれを見て、『神聖なネタ帳に何てこと書くんだー!』って怒って、消させた。消しゴムで消したのだけどまだ読める。そうしたら、『××××が透けて見えるー!』」
        その後、話題は円丈師匠が過去に作ったネタについてに話題が移行。
「『奇跡の噺家・柳家ヘレン』っていうのもありましたねえ」
「三重苦の噺家。見えない、聞こえない、話せない噺家ヘレン」
「お客さんの反応がわからないからお客さんにヒモを持ってもらって、可笑しかったらヒモを引っ張ってもらうの。あれは面白かった」
「走りながらとか、寝ながら演った噺もありました。客席のうしろから演ったりとかね」
「滝に打たれながら演ったこともあった」
「船に乗って流されながら演ったこともあった」
「そうそう、秋川渓谷の岸にお客さんがいるの。船に乗った師匠が上流から噺をしながら下ってくる。流しそうめんならぬ噺家流し。どんどん下流に流れていっちゃってオチが聞こえない」
「ザリガニを持ち込んだこともありましたよね」
「ザリガニがお客という設定。動いちゃって演りにくかった」
「ウンコの噺多いですよね」
「『肥辰一代記』 『可愛そうなウンコに香典を』 『アニマル・トラッキング』がウンコ三部作」
「『可愛そうなウンコに香典を』は、佐川一政に食べられちゃった女性の葬式をしようとしたが、ウンコしか残っていなくて、ウンコを埋葬する噺む
「もう、あの噺、出来ないなだろうなあ」

        座談が終わって三遊亭白鳥の出番。円丈には『新寿限無』という噺がある。以前、円丈がこれを高座にかけたところ、円生、小さんから、「あれこそが新作だよ」と褒められたという。そこで作ったのが『スーパー寿限無』。前回聴いたときには早口で最後まで書き取れなかたのだが、一生懸命聞き取って、今回ようやく書き取れた。これでいいと思うのだが、合っているだろうか。

        ジュテームジュテーム おこうのずり切れ 銀しゃり水餃子のエビフライ待つうどん食うライス待つ 綾小路仲本工事 ヤッホーヤッホーヤッホーの祝儀代 祝儀代のグリーン車代 林家パーの林家ペーの円丈襲名超スゲー

        前回は「円朝襲名超スゲー」になっていたが、今回は特別バージョン?

        いよいよ出ました還暦を迎えるという三遊亭円丈。トリのネタは、かなり長くなるという『金融道イブ』。以前に作ったものに手を入れて、満を持しての高座らしい。安政五年から亀有で高利貸しを続けている男亀金が、きょうも取り立てをしていると、浪花の金貸し田島が現れる。この田島という男、いつもカルビーの[じゃがりこ]を食べているので、通称[じゃがりこの田島]。いくつもの携帯電話を持ち、闇金以外にもいろいろな仕事をしているらしい。ところがこのじゃがりこの田島自身、暴力団金融から二千万円の負債があり、もう海外に逃亡しようかと思っていると聞かされる。別れた妻との間には、ひとりの子供がいて、その子にクリスマス・イブのプレゼントをあげたいのだが、ストーカー法で近づくこともできない。そこで、じゃがりこの田島は、亀金に、子供にプレゼントを渡して来てくれないかと依頼する・・・・・。ここでも、円丈らしい哀愁が漂う。笑いと悲しみが渦巻く、まさに円丈ワールドだ。ラストでふたりの高利貸しが食べるじゃがりこが印象に残り、帰りにコンビニに寄って、じゃがりこのチーズ味を買って帰宅した。この夜のじゃがりこは、妙にほろ苦かった。「じゃがりこじゃがりこ」



May.16,2004 哀愁の円丈

4月29日 国立名人会 (国立演芸場)

        開口一番の前座は三遊亭かぬう『狸の札』。頑張ってね。

        「きょうは国立演芸場開場二十五周年記念公演なんだそうでございます。25年前といえば、ちょうど私が生まれた年」。林家きく姫が軽い冗談で笑わせたが、本当に国立演芸場し二十五周年なんだそうな。入口でボールペンを貰ったし、アンケートを書いたら手ぬぐいをくれた。ラッキー! ネタは『堀の内』



        柳家喬太郎は、右翼(ジャパニーズ・ライク・グループ)の宣伝カーのことを話題にして笑いを取ったあと、「私のあとは善良な笑いになりますが、最後の師匠(円丈)がまた邪悪。前座(かぬう)、私、トリが邪悪」 そんな邪悪(笑)なところが好きなんだけどね。「ここ(国立演芸場)が一番テロの脅威にさらされている演芸場ですね。アルカイーダが、とりあえず国立ということで標的にしてしまう。落語家がそれに巻き込まれ、お客さんも死んじゃう。それでも、たぶん日本は変わらない・・・・・。(客席に)怒ってますかあ!?」 ネタは何回も聴いた『夜の慣用句』だが、嫌な上司のキャラクターがいつ聴いても可笑しい。今日の上司の乾杯の音頭は、「閣僚の年金未払いに乾杯!」

        古今亭志ん五は、スッと『大山詣り』に入る。おかみさんたちを全員坊主にしてまう件の可笑しさといったら無い。久しぶりにたっぷりと志ん五が聴けたなあという満足感のある高座だった。

        「うしろの襖が替わったのをお気づきでしょうか?」 そうそう、最初に幕が上がったときから気になっていたのだよ。「今日がお披露目なんですよ」 そうなのかあ、これまたラッキー! 「忠臣蔵というのは視覚的によく出来ている噺なんです。切腹のシーンの桜に始まり、討ち入りのシーンの雪で終わる。松、桜、雪、これに坊主と猪と鹿と蝶が揃えば・・・」と、一龍斎貞花『義士外伝・忠僕直助』へ。

        大空遊平かほりの漫才は、いつも同じのようでいて、常にネタの一部を入れ替えているらしく、聴いたことがなかった笑いがときどき出てくる。「無人出産マシーン、ひとりで産めたわ」なんてネタも初めて聴いたし、最後の、高級婦人服売り場のセールストークなんてよく出来ているネタだと思う。

        トリが、邪悪(?)の始祖、三遊亭円丈。「今年で還暦を迎えます。芸能生活四十周年。三遊亭円生のところへ通いの弟子で入ったのが始まりでした。寒いアパートで暮らしていました。『オレはペンギン以下か!』というくらい寒い部屋でしたよ。やかんに水を入れておいて、腹が減ると、この水を飲んで飢えを凌いで寝ました。朝、師匠のところに行けば、飯が食えた」 前座修行時代の話をしみじみとしてから、『悲しみは埼玉に向けて』へ。円丈の落語の多くは、哀愁が漂っているのが特徴。小菅駅の説明をするのに、「夏になるとホームに燕の巣ができる。今年は三羽の燕が巣立った。刑務所からは何人が巣立つだろうか・・・」とくる。とくにこの『悲しみは埼玉に向けて』は全編、哀愁と笑いが混然となっている、円丈が古くからかけている傑作。少しずつ変わってきているが、それがますます膨らみがあるものになってきている。それにしも還暦とは思えない元気さだ。

        ハネてから、今度はその足で池袋演芸場に向かう。この夜は三遊亭円丈還暦祝い前夜祭があるのだ。この日は円丈の追っかけになってしまった。


May.8,2004 マクラと噺のハーモニー

4月25日 柳家小三冶独演会 (松戸市民会館)

        小三治を追っかけて東京近郊を訪ねるシリーズは楽しい。今回の松戸も初めての土地だ。

        柳家三三『のめる』。口癖の「つまらねえ」を言わせて罰金を取ってやろうと画策した男。物知りの隠居に相談に行くと、知恵を授けてくれる。大根の漬物作戦で失敗したあと、今度は詰め将棋作戦。つい『詰まらない』と言ってしまう。「あなたは、よくそう次から次へと悪だくみを考えるもんだ。誰から教わっただよ。羽生さんかい?」

        マスコミにも登場していた某大学の教授が、駅の階段で手鏡を使って女子高生のスカートの中を覗いて捕まったという事件が起きた。柳家小三治は、この話題を一席目のマクラに持ってきた。「捕まって、ざまーみろという思うんですがね、公平な目で見ると・・・・・覗いちゃいけないんでか? 迷惑防止条例で捕まったんですが、誰が迷惑なんですか? 覗かれた事を知らなければ迷惑じゃないんじゃないですか? 先日も股下10cmくらいのミニスカートを穿いた女性が自転車に乗ったり降りたりしているんですよ。そういう時、どうしたらいいんですか? ああいう女性の気持ちとして、[見られちゃたいへん]と思うんですか? それとも[ちょっとくらいなら見てちょーだい]という思うんですか? 迷惑防止条例なんていいますがね、こっちもああいう女性は迷惑なんですよ」 こうして入ったのが『野ざらし』。長屋住まいの男が隣の隠居のところから女性の声がするのを聞いて、ノミで穴を開けて覗き見するところから始まるこの噺。いまなら、完全に迷惑防止条例、痴漢の罪で捕まっているね。

        柳家小三治のマクラは時に噺の世界に入っていくための、助走のような役目をするときがある。二席目は高知競馬のハルウララの話から入って、秩父の民宿で馬に乗った話、そして昔みかけた馬車を引く馬の話へと、ゆったりと進めていく。「九段下の坂の下まで来ると、一旦、馬を休ませる。それから一気に馬に坂の上まで登らせるんです。大きな声でけしかけるんですが、決して怒っているんじゃないんですね。励ましているんです」 こうしてようやく入ったのが『馬の田楽』。こういう、のんびりした噺をさせると小三治は本当に味がある。聞き終えた後、あのマクラと、この噺が気持ちよいハーモニーになって頭に漂っている。フワーという気になって常磐線に乗って帰途に着く。いつもは車内で本を読んでいる私だが、めずらしくボンヤリと車窓の風景を眺めていた。


May.5,2004 私落語

4月24日 『鶴瓶噺2004』 (青山円形劇場)

        笑福亭鶴瓶のスタンダップ・トークを聴く会。鶴瓶の落語は一度も聴いた事がないのだが、トークは無類に面白い。この日は、伊藤園の露出、東京駅の朝の風景、犯人護送の行列の婦人警察官、真夜中に誕生日おめでとうの電話をかけさせられた話。

        和田アキ子ネタが続く。和田アキ子の肉体改造、和田アキ子とのキス、談志・志の輔・和田アキ子との一夜、和田アキ子からの恐怖の留守電。

        しかし、この日話したことの多くは、「うちのマネージャー、ほんとに腹立つヤツや」というネタ。朝青龍の資料、半蔵門の中華焼肉屋とピンクの傘、コロッケの差し入れ、仙台のタン塩みやげ、昔懐かしとんかつ弁当の恨み、シートベールト取り締まり、白ポン!、バウリンガルを付けさせてみると・・・、麦茶に吸殻、ソープの篠原さん、タイのレストランのトイレ・・・・・。こう書いただけでは何のことかわからないだろうけれど、これだけのメモから内容が頭によみがえってくる。詳しく書くのは、さすがにめんどうなのと、鶴瓶の大阪弁の可笑しさを書き取れないので省略。

        1時間20分ほどで、当のマネージャーさんがお客さんの前に顔を出す。

        そのあとは仲入りが入って、高座が作られた。古典でも新作でもない、自分を登場させる[私(わたくし)落語]だという。真夜中に松鶴師匠が、突然に傘を持って弟子たちの部屋にやってきて、弟子をひとりひとりドツキ回す。弟子たちはドツかれた理由がわからない。みんなで、その理由は何か、身に憶えのある者がいるか相談し合う。そこのところが『船徳』の船頭たちの会話に似ている。すると、出てくるわ、出てくるわ、不祥事の数々・・・。どうやら実際にあった事件らしいが、それをこういう落語にすると、トークとはまた違った味わいがあって面白い。これからも毎年一席ずつ、私落語を作っていくそうで、これまたGWの楽しみが増えた。


May.4,2004 よくわからないけど可笑しい、シュールな笑い

4月18日 『清水宏サタデーナイトライブ16〜やる気マンマン男参上!!!』
       (下北沢 ザ・スズナリ)

『やる気まんまん男』
『ニューヨーク、コメディー・シアター乱入話』
『バケラッタ』
『名古屋まで大人一枚』
『予告編』
『24分間』

        やはり、いつものことながら一番面白いのは体験談コーナー。今回は、映画があまり得意とはいえない清水が、東京から突然にニューヨークのコメディー・シアターに電話して、たまたまOKが出た劇場で、ネタ(?)を演ってきた話。あいかわらず拍手ネタから入って受けたものの、肝心の前もって考えてきたネタが頭からすっ飛んでしまって、メロメロになる様子が客観的に語られていくのが可笑しい。

        清水宏のネタというのは、何だかよくわからないけれども、妙な可笑しさに満ちている。オバケのQ太郎の弟O次朗が成長してテレビで使ってもらおうとする『バケラッタ』、『砂の器』のストーリーがめまぐるしく変わっていってしまう『予告編』、テレビドラマ『24』をヒントに作られたひとりスペクタクル・ドラマ『24分間』。頭の中を引っ掻き回されたようになる二時間少々。面白かったけど、さすがに疲れた。


このコーナーの表紙に戻る

ふりだしに戻る