August.29,2004 小らくごちゃんの面白さ

8月15日 新・落語21 (プーク人形劇場)

        開口一番は快楽亭ブラ汁。心霊現象の噺。頑張ってね。

        三遊亭天どんは国際線の旅客機を舞台にした事件が起きやすい男の噺。この男の周りでは事件ばかりが起こる。旅客機の中で病人は出るわ、ハイジャックは起こるわ、密室殺人は起こるわ・・・・・。そのたびに「お客様の中でお医者さんはいらっしゃませんか?」 「お客様の中で強い人はいらっしゃいませんか?」 「お客様の中で名探偵はいらっしゃいませんか?」のアナウンスがある。この発想は面白い。

        春風亭栄助は会社の朝礼でのかけ声の噺『朝礼に燃える男』。「いらっしゃいませー!」 「はい、喜んでー!」 これが葬儀屋の朝礼のかけ声だとどうなるか。「とりあえず線香をあげさせて頂きます」 「ドライアイスをサービスさせていただきます」

        春風亭昇輔は私も以前に一度聴いたことのある『実録アンパンマン』。小豆相場に手を出してお金に困っているアンパンマンの噺。前よりも一段と面白くなっているよう。前回同様『ハンニバル』まで出てくる。

        この日の私の目当ては柳家小ゑん。知り合いのなかむら治彦さんが尾張家はじめ名義で書いた落語の台本『カレー会議』を小ゑんが演じると前情報が入ったからだ。「作者がいる落語というのは楽なんです。受けなければ作者が悪い。受ければ私のものですから」と入った落語は、小学校のディペートの時間に「カレーの具には何を入れるか」という問題が出され、自分の家では蒲鉾とパイナップルを入れていると答えたオサムくんの答えが学校中の話題になってしまう。やがては父兄も巻き込み、味噌汁の具には何を入れるかとか、目玉焼きには何をつけて食べるかの大論争に発展する。食べ物がテーマの噺が多い小ゑんにぴったりのネタ。まさに小ゑんのために書かれた噺に思えてくる。

        仲入り。観に来ていた作者のなかむらさんと短い会話を交わす。細かいところは変えられていて最初よりも良くなっているとのこと。オチはまるで別物になっていて、小ゑん師が考えたものの方がいいとのこと。仲入り時間短く、慌てて席に戻る。

        三遊亭円丈『落語アンケート』というネタ。ハローケイスケがやっているのと同様。アンケート調査をお笑いのネタにする。「まずは、今日ここに来た理由からお尋ねします。1.テレビでCMを観て 2.落語家に親戚がいて頼まれて来た 3.表に出るとサツに追われる 4.落語は嫌いだが聴きながら寝るのは好き 5.魔がさして来てしまった」 「次にご意見をお伺いします。1.寄席の芸人は手を抜いて演っていると思う 2.面白い落語を聴くとその芸人に10万円あげたくなる・・・・・1000円・・・・・10円 3.ヘタな落語家が座布団を敷くのは贅沢だ」 残った時間で寄席で短い持ち時間にかけている『きんぎんウォーズ』

        『新・落語21』お盆興行ではネタおろしをしなくてもいいのだが、三遊亭白鳥だけは必ずネタおろしをするという。「寄席でこけるといろいろ言われますんで・・・・・。ここでなら大丈夫だろうと」 そのネタは『増田君の嫁』41歳にしてまだ独身者だった増田君に23歳だというお嫁さんがくる事になった。誰も信用しない。「アニータとかいうフィリピンの女性じゃないのか?」 「違うよ。白鳥麗子っていう本当の日本人だよ」 「わかった、妖怪ドロタボウみたいなんだろう」 「違うよ。ほら写真見てみろ」 「こんなワワイイ人に何をした! 両親を拉致したのか!?」 「違うって。向こうから結婚してくれって言ったんだ」 「わかった。それは保険金狙いだ。二億円の保険金掛けられて殺されるんだ。青汁ジュースだって言って緑青飲まされているだろ!」 そんなことはないのだが、この麗子さんには実は秘密があって・・・・・。まだネタおろしなので上下メチャクチャなのだが、勢いで聴かせてしまう。さすがに白鳥さんワールドは凄い。

        林家彦いちはSWAでかけていた『青畳の女』。87Kg超級の女性柔道選手北川。大会の日には客席に大弾幕「鬼になれ 女雷電為右衛門!」 「頑張れドロタボウ!」の文字が。そこへ密かな恋心を抱いている先輩が見に来ていることを知る。男が女に求めるものは、非力なこと、妖精のように振舞うこと、目がキラキラしていることと教えられた北川は試合に身が入らない。負けて先輩のところに行った北川は先輩に罵倒される。さあ、逆切れした北川は・・・・・。最後は座布団芸でオチ。

        ここからは最近この会で演っている小らくごちゃんに入る。持ち時間は5分。落語という枠からはみ出してもいいという企画。正直これは疑問に思っていたのだが、実際に観てみるとこれが案外面白かった。

        三遊亭天どんは不便道なる思想を持った男の噺。真のスローライフを実践するためにあえて不便なことをする。2時間ごとに充電しなければならない携帯電話を持つって・・・・・携帯持たない方がいいんじゃないの(笑)。

        春風亭昇輔は弁論大会少年の主張。小学生が読み上げる主張は「ぼくの環境について考える事」なのだが、コンビニで売られているエロ本にシールを貼ってしまうのはよくないということを理論的に展開する(笑)。面白い、面白い。

        三遊亭円丈は替え歌。『大きな古時計』のメロディで『円丈さんの古入歯』。♪20年休まずペチャクチャペチャクチャ ギャラさえ貰えばペチャクチャペチャクチャ 今はもうはまらない円丈の古入歯・・・・・・。気持ち良さそうに歌っていた(笑)。

        三遊亭白鳥のは『未確認動物 つっこみ張扇大会』。河童のぬいぐるみ姿で現れた白鳥。未確認動物を研究しているUMA(ユーマ)の謎を解くというもの。スカイフィッシュ。メキシコで確認された白くて長くヒラヒラしていて空を飛ぶ動物。スケッチブックを用意していて、「実は日本でもスカイフィッシュは確認されました」とページを開くとスカイフィッシュでもなんでもないお馴染みのものが・・・・・。「それはムーミン谷に生息するニョロニョロだろ!!」と張扇でバシバシ。次からはお客さんに張扇でつっこみを入れさせる。「それは一反木綿だろ!! バジハシ」 「それはオバQだろ!! バシバシ」 お客さんも突っ込み役をやれて楽しそう(笑)。

        トリは春風亭栄助『乗り突っ込み・浮世根問』。何でも知っているというご隠居さんに、いろいろなことを訊いて困らせようとする『浮世根問』。八っつあんがボケてみせる場面があるのだが、これを受けての隠居のリアクションを乗り突っ込みでやろうというもの。これが実に可笑しい。

        5分間という制約を設けたことにより、笑いが凝縮した感がある。今の若手お笑い芸人のコントのネタはほとんど5分くらいのもの。のんびりした落語という形態を一度壊してみると、案外面白いものだと実感した。


August.27,2004 女性歌手6態

8月14日 桃井かおりひとり芝居 (原宿クエストホール)

        遅れて会場入りしたので、ロビーで振舞われている軽食はもう無くなってしまっていた。かろうじて餅菓子のようなものをひとつ貰えただけ。かわりにワインやリキュール酒を何杯かやったらすっかりいい気持ちになってしまった。いかんいかんと思うのだが、酔っ払ってしまい、芝居を観ているうちに睡魔にたびたび襲われることになってしまった。

        舞台の中央にマイク・スタンド。6本のネタは、全て歌手という設定らしい。

1.中年のジャズ・シンガー。歌を歌いだすと咳きが止まらなくなり、歌を中断してトークが始まる。夫とも別れ、息子はどうやら怪しげな宗教に入っているらしい。

2.目の手術をして退院したばかりの歌手。マネージャーに病院からそのままライヴ・ハウスに連れて来られたらしいのだが、このマネージャーとうまくいっていないらしい。

3.刑務所から出所してきたばかりの歌手。同居していた男性を包丁で刺し殺したために2年4ヵ月の刑務所生活をしたらしい。

4.ラブ・ホテルに、妻子ある浮気相手の男性を呼び出したアイドル歌手。自殺しようとしている。「死んだらベートーベンの第九を流して。苦しみから解放される喜びの歌なんだもの」

5.劇団の代表者。団員とうまくいっていないらしい。団員は一人去り二人去り、やがてみんないなくなってしまう。

6.ショーパプで働く未成年。ステージで歌っているらしい。父親が誰だか知らない上に、複雑な家庭事情があるらしい。

        年齢も性格も立場もまちまちな歌手を、なりきりで演じる桃井かおりにすっかり魅せられてしまった。


August.24,2004 ホラー・コメディ?

8月7日 『鈍獣』 (PARCO劇場)

        古田新太、池田成志、生瀬勝久という濃すぎる新ユニット[ねずみの三銃士]の第一回公演。これに西田尚美、乙葉、野波麻帆の美人女優がからむ。脚本が宮藤官九郎とくれば観にいかないわけにはいかない。

        舞台はいきなりキヨスク三人オバサン(古田、池田、生瀬)と静(西田)の大爆笑シーンで幕を開ける。このキヨスク三人オバサンのキャラクターが強烈。後半でもう一度出てくるが、このキャラクターだけでもう一本芝居が観たいくらい。

        出版社の編集者静は、失踪した作家凸山(池田成志)を探しに、凸山がよく通っていたというスナックへやってくる。ここから話は過去に飛ぶ。このスナックのオーナー江田(古田新太)と岡本(生瀬勝久)は凸山の幼馴染。凸山の書いている小説が自分達をモデルにした自伝的小説なのに気がつく。そこには世間に知られたくないことが書かれていて、ホステスの順子(野波麻帆)、ノラ(乙葉)らと凸山殺害を思い立ったのだった。

        前半の明るい笑いの要素が強い芝居から、後半はホラー・コメディとなる。いくら毒薬を飲ませても死なない凸山を、ついには確実な方法で殺害しようとする。

        宣伝用のチラシ類からの予想だとボクシングがテーマの芝居かと思っていたのだが、ボクシングは一切出てこない。宮藤官九郎の脚本はうまく出来ていて、現在から数ヶ月前に戻って、だんだんと現在に戻ってくると最初の伏線が見事に効いている仕掛けも盛り込まれていて、「ほう」と驚きを覚えたりする。

        しかし何といっても三男優の濃い演技にシビれた。三人の役は誰がどの役を演ってもピタリとはまりそう。今度は三人の役を変えたバージョンも観たくなった。


August.21,2004  ついに聴けた、なぎら健壱の見世物小屋口上ネタ

8月7日 『にぎわい☆バラエティ寄席』 (横浜にぎわい座)

        開口一番の前座さんは、快楽亭ブラ坊『幇間腹』。なぜか途中から。時間がなかったのかな? 頑張ってね。

        「落語協会、落語芸術協会の真打昇進制度というのは、いわば民主的。そこへいきますと立川流は絶対君主制。真打昇進も破門も全て談志が決める。人の人生の岐路を、一人の人が握っているんですから」真打昇進がかかっている立川笑志、はたしてめでたく真打になれるだろうか。「談志に言わせますと、状況判断が出来ない奴のことをバカというんだそうでして、また『与太郎はバカじゃない。ボーッとしている方が世の中を楽に生きられる、楽に生きていけるということを知っている』とキチガイの談志が言ってました」と、与太郎が気楽に商売に出る『かぼちゃ屋』へ。

        曲独楽も若手が出てきて、芸風も様変わり。三増紋之助のちょっと騒がしい芸風も楽しいが、三増れ紋ともなると、その上を行って、ギャーギャーとうるさい(笑)。真剣刃渡りをやろうとするとして、独楽を刀に近づけるが、思い直して、楽屋のお囃子さんに、「あの〜、太鼓ちょっとうるさいんだけど〜」 太鼓が静かになったところで「うりゃ! 精神統一!」 五回に一回しか成功しないという衣文流しの前には「ヒーヒーフー、ヒーヒーフー」って、それは出産のときの呼吸法でしょうが(笑)。

        「この羽織、見覚えありませんか?」という立川左談次。なんと、羽織を忘れてきて、前に出た笑志のを借りて出てきたと言う。「人のものですから、丁寧に扱わなくてはいけない。早めにお返ししておきましょう」と、羽織を脱ぐとクシャクシャっと丸めて、舞台袖にポイ。「電車の中で化粧をしている女性いますね。もう一心不乱に鏡を覗き込んでいる。女って恐ろしいもので化粧をすると別人に生まれ変わります。先日もね、泉ピン子似の人が車内で化粧をしていまして、三駅過ぎたらですね、いいですか三駅過ぎたら、橋田壽賀子になっていた」 噺はふるいつきたくなるような美人の奥さんの出てくる『短命』

        この日の私のお目当ては、もちろん、なぎら健壱。ところがギターも持っていない。なぜか快楽亭ブラック、立川左談次とのトーク。「靖国神社に行ってまいりまして・・・・・めったにフォークシンガーが行かないところなんですが、御霊祭りにお化け屋敷と見世物小屋が出るという情報があって写真を撮りに出かけました」と、話題は見世物小屋へ向かう。期待どおり演ってくれました、蛇娘の口上。続いて泣き売風景。これが聴ければ、儲け、儲け。ライブ・ハウスでもなかなか聴けないネタですもん。

        トリは快楽亭ブラック。「家元が電話をかけてくるときは、いつも『オレだ』と言ってくる。これで誰だかわからないと、上納金が三倍になる。笑福亭松鶴は電話がかかってくると(大きなだみ声で)『誰や!』と電話を取る。松鶴師匠の飼っていたオウムがこれを憶えてしまいまして、誰もいないときにクリーニング屋が松鶴師匠の家にやってきた。『すみませーん、洗濯屋ですがー』 するとオウムが『誰や!』 『洗濯屋ですが』 『誰や!』 『洗濯屋ですが』 『誰や!』 『洗濯屋ですが』 『誰や!』・・・・・。弟子のひとりが帰ってきたら洗濯屋が玄関でへたり込んでいた」 こうして入ったネタが大阪弁をそのまま使った『次の御用日』。「あっ!」という大声が連続的に炸裂する後半の可笑しさったらない。ブラック師、声は大丈夫だったろうか?(笑)


August.15,2004 邪悪な上野定席(?)

8月1日 鈴本演芸場八月上席夜

        やりたくない事は先へ先へと延ばしてしまうという性格があって、気がつくと片付けなければならない事務仕事というものが山になってしまった。これ以上もう待てない状態となっているので月が替わったのを気に、一気に片付ける決心をした。午後から机に向かい、ひたすら書類と格闘。文章を書くのはあまり苦とも思わないのだが、どうも書類作りというのは苦手だ。

        ようやく終えて夕方、アメ横に出かける。ジーンズを作りに行くためだ。普段の私はもっぱらジーンズ姿。二本のジーンズを交代で穿いている。銘柄も決まっていてリーバイスの505。サイズは29。数年前からこれ以外のものは穿かなくなってしまった。一年穿くと二本ともボロボロになる。だから一本の寿命が半年。適当なジーンズ・ショップに飛び込み、購入。裾をあげて貰う。裾は思い切って短く切ってもらう。「お客さん、こんなに短くしたらヘンですよ」と必ず言われるのだが、仕事着としての兼用だから短くしてもらわない困るのだ。店員さんと私の妥協したところで針で留め、ミシンに回す。

        裾あげが終わるまで、食事に行く事にした。ぶらぶら歩いているうちに、うなぎの[弁慶]の前に出た。暑気払いにうなぎにしようかと中に入る。メニューを見ると、セットものがあるのに気がついた。以前はうなぎしか無かったように思うのだが、時代が変わったのだろう。セットには蒲焼の他に、刺身、胡麻豆腐、茶碗蒸し、野菜の煮物、それにご飯、肝吸い、漬物が付く。これで2415円(税込み)は安い。生ビールを飲んでも3000円でお釣が来た。

        ほろ酔い気分でジーンズを受け取り、上野鈴本演芸場へ。もう仲入りも終わっている。割引料金2000円を払って客席へ入る。もう、残りは三人しか無い。それはこちらの作戦。柳家喬太郎が最近言っている邪悪な落語二席が目当てだ。

        食いつきのペペ桜井の出番ももう終わりに近い。お馴染みのハーモニカを吹きながら歌を歌うという芸をやっている。始めたばかりのころは、かなり無理な感じだったが、今や完成された芸になっている。ただ、ハーモニカというのは、吸ったり吐いたりして音を出すもの。当然吸っているときは声にならない。無茶だよなあと思いながらも、ついつい笑ってしまうのだ。「私、白鳥さんのファンなの。早く(楽屋)で聴きたいから、もう止めにします」と引っ込んだ。

        その三遊亭白鳥が出てくると、異様に大きな拍手が起こり鳴り止まない。「ヒザでございますから、その拍手はトリの喬太郎さんにしてあげてください」と断るところが白鳥さんらしい。「きのう、豊島区の要町の交差点で自転車に乗ったインド人に道を訊かれました。それが、日本語がよくわからないんでしょうが、言い方が無礼なんですよ。『オイオイ、池袋ドッチ行クノ? 知ッテルカ? 池袋』 あまり頭にきたんで、反対方向教えてやったら、『ソッチ行ッタラ板橋。オマエ、ウソツキ! オマエヲ試シタ インド人嘘ツカナイ』」 「上野の西郷さんの銅像に上がる階段のところ、今はインド人、バングラデシュ人、イラク人のたまり場と化していますね。なんだか西郷さんが武蔵丸に見えてくる」と、『アジアそば』に入る。見るからにインド人という男が近づいてくるのだが、この男、老舗のそば屋をやっているという。「ワタシ、三代続イタ、江戸ッコ。ガンジス川デ、ウブ湯ヲツカイ・・・。東京ノ有名ナ店デ修行シマシタ。池袋ノ[スナックランド]、新宿ノ[フジソバ]、品川ノ[アジサイ]・・・・」 「全部、立ち食いそばじゃないか!」

        さあ仲入り後の邪悪落語トリは柳家喬太郎。「社団法人落語協会何百人もの落語家がおりますが、あの人(白鳥)のあとで演れるのは私だけです」 このところ白鳥のあとで喬太郎が出ると、白鳥のことを揶揄するというパターンがあって、それが可笑しい。「白鳥さんとは同じ都営住宅に住んでおりますが、はっきりいいましてね、要町にインド人はおりません! (楽屋に向かって)いつまでも嘘をつき通せると思ったら大間違いだあ!」 噺家の余興に関するのマクラが続いたので、『墨田警察一日署長』に入るかと思ったら、『人妻販売員』へ。53歳にもなって今だ独身の山下さんはスーパーの惣菜売り場でフライを揚げている。うどんの出張販売員の五十嵐さんは40歳過ぎの清楚な美人。五十嵐さんに憧れる山下さんは、昼飯に五十嵐さんを誘う。入ったのは神田のそば屋。「インド人がやっている老舗でしてね」とここでも、白鳥をからかう。さらには見事にそばを食べる仕種をしてみせ、(楽屋へ)「そばを食べる仕種って、こうやるんだよ!」

        仲が悪いように見せているが、どうしてどうしてあのふたり、とても仲がいいんだということは、ハネたあと楽しそうに鈴本から出てきたことからもわかる。


August.12,2004 劇団四季初体験

7月31日 劇団四季『スルース』 (四季自由劇場)

        劇団四季初体験。なんつーか、敷居が高いというか、私が観にいくものじゃないと思ってた。それが友人が行かれなくなり、代わりに私が行く事になったもの。ゆりかもめの車内から見える四季劇場にちょっぴりあこがれもあった。

        それにしても今年は暑い。大門の駅を降りて海の方へ歩く。汗が噴き出してくる。竹芝桟橋へ来るのは本当に久しぶりだ。桟橋から海を眺めていると、このままどれかの船に乗って伊豆七島にでも行ってしまいたくなってくる。なにやら長い列が出来ている。東京湾納涼船に乗るための列だ。いいなあ、2500円で2時間のナイトクルージング。しかもビール、ワイン、サワー、ジュースなどのドリンク飲み放題。冷たいビールを飲みながら海風に吹かれる。なんて魅力的なんだろう。開演時間が迫ってきた。早足で劇場へ向かう。

        『スルース』といえば、アンソニー・シェーファー作の推理劇。30年も前にローレンス・オリヴィエ、マイケル・ケインで映画化され、私はもちろん観ている。どんでん返しが連続して起こる、実によく出来ている話だが、演出もよかったし、ふたりの役者の丁々発止のやりとりも観ものだった。

        まず気になったのは舞台美術。あまりにスッキリしすぎてはいないか。映画版では推理小説ファンの心をくすぐる小道具が部屋中に散りばめられていて、それを眺めているだけで楽しかった。それがこの舞台では必要なものしか配置されていない。それが不満。特に建物の二階部分の殺風景さといったらガッカリ。主人公の作家が書斎でなくてリビングの小さな机で仕事をしているらしいというのも、落ち着かない気にされる。

        なんといっても、こちらはこの作品の構造を知ってしまっているから、すでにどんでん返しの面白さは無い。となると、役者がどう見せてくれるかということに興味はつきるのだが、これが物足りない。翻訳ものだから日本人が演るという時点で無理があるのだが、そうだというなら、演出の腕で見せてくれるという工夫が必要だったのではないか。

        映画版では2時間を越えていたが、なぜかこちらは2時間に足りなかった。手元にビデオが無いので確かめようがないが、どこか短くしているような気がしてならない。

        同じ時間だったら、納涼船の方が良かったかなあと思ったが、まあ、友人から割引で譲ってもらったチケットでもあり、まあいいか。納涼船はまた次回ということで。


August.10,2004 伊東四朗の舞台を観られる喜び

7月25日 伊東四朗一座〜旗揚げ解散公演〜
       『喜劇・熱海迷宮事件』 (本多劇場)

        半蔵門の国立演芸場から下北沢に移動。この日は千秋楽。プラチナ・チケットと化したこの公演、当日券の通路階段に座布団を敷いて観る席までギッシリ。どうやらCD付きだったらしいパンフレットは売り切れでしたから! 残念!!

        タイトルに熱海と付いているが、舞台は熱海ではない。熱海→金色夜叉→貫一お宮→お宮→お宮入り→迷宮 というわけで、時効寸前の事件を扱う警察の部署が舞台。三宅裕司、小宮孝泰、小倉久寛、東貴博、河本千明らの刑事が時効の迫っているテレビ局のプロデューサー殺人事件の再捜査を命じられる。容疑者は元コメディアンの崖山(伊東四朗)。入院中の崖山はボケが進行していて昔の記憶がないらしい。そこで人間の記憶を研究している科学者(ラサール石井)に助けを求める。このラサール石井の怪演が見もののひとつ。ただ、かなり難しい演技で、アドリブでやっているようなのだが、後半になって、そのアドリブのネタが切れてきてしまうのが惜しい。

        崖山に好きなことをやらせれば記憶が戻って、昔のことを白状するのではないかということになる。崖山は根っからのコメディアン。コントを演らせれば昔のことを思い出すのではないかということになる。かくて刑事たちは崖山とコントを演じることになる。ワルガキ・コント、金色夜叉コント(白塗りの伊東四朗が見もの)、そしてお馴染みのすぐに歌を歌いだしてしまうコント(今回はキャンプ場で産気づいた女性と救急隊員)の三本立て。さらには『いい加減にしてみました2』でも観られた着替え楽屋話まであるサービスぶり。ラサール石井がやや浮いてしまっている感があるのだが、伊東四朗が石井に[突っ込み]のやり方を教えるという場面が、三谷幸喜の『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』で、伊東四朗の漫才師がホテルの宴会係にコントを教える場面とダブッて笑える。伊東さんが本当に怒っているのがわかる(笑)。

        小さな小屋で9日間、15回公演というのは、このメンバーではあまりに少ないが、これが精一杯なのかも知れない。三宅裕司が伊東四朗を引っ張り出して、東京喜劇の伝統を一度でも多く伝えて行こうという試みには頭が下がる思いだ。旗揚げ解散とはいっているが、きっとまた帰ってきてくれると私は思っている。


August.7,2004 ハタでよーく観させていただきました斬り!!

7月25日 花形演芸会 (国立演芸場)

        お客さんの入りが顔付けによって大きく影響を受ける会。今回はあっという間に売り切れ。私が手に入れたチケットも後ろの方。下手の後ろ付近というのは、この会の審査員がいる席でもある。私のすぐ後ろの審査員席の声が聞こえてくる。「今日は(お客さん)入ってますなあ」 「誰が目当てなんでしょうなあ」 はっきり言ってトリの柳家喬太郎というよりは、ヒザで出る波田陽区と私は見た。テレビ『エンタの神様』で突如出てきたギター侍波田陽区。この人を是非ともナマで観たい。初のナマ波田陽区を観た感想はと言うと・・・・・・、とりあえず順番からいこう。

        開口一番前座は古今亭章五『子ほめ』。頑張ってね。

        「NHKの大河ドラマは講釈師にとってはオマンマの種。大河ドラマでやっている題材を持ってくればどこでも受ける。ところが今年は新選組。これに決まったときには講釈師はみんな『チッ!』と言いましたね。講談には新選組のネタ、少ないんですよ。そこへいくと来年は義経ですよ」と、神田阿久鯉は、牛若丸と弁慶の出会いとなる『橋弁慶』へ。私はもちろん『新選組!』も面白く観ているが、『義経』も楽しみ。牛若丸と弁慶の五条の橋の上の出会いはどのようにNHK大河ドラマで描かれるのか。

        「長嶋さん、今、一生懸命にアテネに向かってリハビリなさっているようです。ただ若干言語に障害が残るというんですが、脳梗塞になる前から言語には少々問題がありましたが・・・・・」 古今亭菊之丞は方言の障害がある田舎侍の出てくる『棒鱈』へ。

        ビックスモールンは身長差30cmのノッポチビ・コンビ。その体型を使った体力ネタ、ボディアートで笑いを取っていく。外車、バスケットボール選手、鳩時計、バイク(ヘルメット)→東京タワー、矢沢栄吉(とマイクスタンド)、鼓と太鼓、カンガルーの親子、UFOキャッチャー、フレンドパーク。客席からお客さんをひとり呼んで、携帯電話のアンテナ、トーテンポール、ポロ・ラルフローレン。客席全員でダチョウの群れ、そして客席からのリクエストで鉄棒。

        古今亭志ん橋『片棒』 志ん朝の弟子だが、この人、志ん朝の調子のいいポンポンポンと進めていく話し方とは違って、独特のテンポがあって面白い。志ん朝の軽さに対して、重さを基調にしているのだが、それが『片棒』の親父さんにマツチしている。

        仲入り後は、アメリカ人と日本人のコンビ、パトリックとマコトのパックンマックン。CMのナレーターの仕事もしているパックン。どうも日本では外国人が外国訛りの日本語のCMナレーションをしていることが多いが、わざわざキツイ外国語訛りでCMナレーションをやってみせる。「ウッワー、眠イナア。コーヒーデモ飲モウカナア。ウワァオー、イイ香リダア。ウッ、熱イ! 熱イ! コンナコト ヨクアリマースネ。コンナトキハ アイスコーヒー」 「なんでいつのまにか、インチキ外人みたいになってるんだよ!」 「インチキ外人って言うな!」

        さあ、いよいよ波田陽区だ。『エンタの神様』で観て、すっかり気に入ってしまったのだが、この人の面白さを文章で書くのは難しい。着流し姿にギターを持って現れ、ギターを弾きながらテレビタレントを斬り捨てるという内容なのだが、パターンはひとつ。その中のひとつを無理に文字で再現してみると・・・・・。「♪冬のソナタ 冬のソナタ 私、ヨン様大好きよ 私、ヨン様と結婚したい・・・・・って言うじゃない? (叫ぶ)ヨン様と結婚したら、あんたの名字、べですから・・・・・残念!! ヨンちゃん、ぺ斬り!!」 この調子でまな板に上げられたのは、みのもんた、曙、杉田かおる、石原良純、徳光和夫、プリンセス天巧、デーブ・スペクター、関口宏、デビ夫人、清原和博、小泉純一郎・・・・・。ナマで観た感想は、やはり面白かったのだが、こう同じ調子でやられると、ややメリハリに欠けるかなといった印象。テレビ向きなのかもしれないと思えてくる。

        柳家喬太郎の『針医堀田とケンちゃんの石』、その名は聞いていたのだが遭遇したことが無かった。花形演芸会のネタ出しに『結石移動症』とあったことから当たりをつけたら、やっぱり『針医堀田とケンちゃんの石』だった。池袋の北口にあるソープランドに出前をしている洋食屋のケンちゃん、66歳。そんなある日、息子が婚約者を連れて訪ねてくる。その婚約者とは元ソープランドのソープ嬢サツキちゃん。本名がみどり・・・・・って五月みどり? 彼女は自分が元ソープ嬢だということは隠して結婚しようとしていたが、ケンちゃんに見抜かれてしまう。そんなときケンちゃんの身体に痛みが走る。「こんな大きな石が身体中を縦横無尽に走り回るという奇病よ」 「そんな病気があるんですか?」 「あるんだよ、落語だから」 そこで針医堀田三郎が登場する・・・・・。一作目の映画『ハリー・ポッターと賢者の石』が公開された直後にかけられたこの話、今や三作目が公開されている。遅ればせながらようやく聴く事ができたが、噂どおりなかなかの力作の人情噺になっていた。おそらく駄洒落タイトルを思いついたところから出来上がった噺なのだろうが、実にうまい。


August.1,2004 真昼の熱気の中のオアシス

7月24日 桂文珍独演会 (メルパルクホール)

        メルパルクホールとは、随分と久しぶりだ。ロック関係のライヴなんかでよく出かけたものだが、このところはそういった利用目的は減ったのだろうか。大きな会場だが、主催が音協ということもあって満員。

        文珍門下22年だという一番弟子の桂楽珍が開口一番。「いろいろなところで落語を演らせてもらっています。武蔵小杉のパーマ屋で一席やってくれという仕事がありました。どこに高座を置くのかと思ったら、そんなもの無いんです。パーマをかけているお客様の耳元でやってくれというんです。丸井の屋上で演ったときもあります。そんなのいらないというのに、前にガードマンが立っている。その後ろで演ってたら、子供が親に『あの人どうしたの?』って訊いている。『万引きで捕まったのよ』」 ネタは『青菜』。「柳影だ。おあがりな」 「おっ、大名酒ですな」 「鯉の洗いだが、おあがりな」 「大名魚ですな」 「青菜はいかがですかな?」 「大名青菜ですな」 いちいち大名とつけるところが可笑しい。

        「電車の中でズボンのチャックが開いているオッチャンがいました。小さな声で『おじさん、前開いてるよ』って教えてあげたら、前の車両に移動して、また帰ってきた。『空いておらへんで』」 桂文珍の一席目は『小言念仏』を改作したらしい『新・世帯念仏』。信仰心の無い男が、やる気の無いように念仏を唱えるのは一緒。奥さんに対してブツブツと文句を言っている。「フィットネスだとかで水中ウォーキング。波の下に女と書いて婆っていうんや。こないだインストラクターに片道歩けるようになったって言ったそうやな。これで三途の川は渡れますやて。ターンは教えんといてや」 さらには嫁に行った娘や、プータローをしてサラ金から借金をしている息子にまで小言が飛ぶ。「利子って、としこさんやないんでえ。クーちゃんが家出して帰ってきたら子犬をぎょーさん連れてきたろ。あれだけ利子が増えるんや」

        林家染語楼『鹿政談』。奈良が舞台の噺だから、やはり上方の噺家が演るとひと味違う。ただ、おからを上方では[きらず]と言うという仕込みがないと、オチがわからないというのは、いつもながら苦しいところだ。何か別のオチは考えられないのだろうか?

        「ファーストフード店の店員の言葉というのはおんなじですな。『大ですか? 小ですか? お持ち帰りですか?』 そこへ私の母がトイレを借りに行った・・・・・。これでこの話は終わりです。解釈はみなさんに委ねるということで・・・・・」 桂文珍の二席目は『三枚起請』

        仲入りが入って、後ろ幕が[松前]になる。なんでこうなったかと思ったら、桂文珍三席目が『新篇・能狂言 商社殺油地獄(しょうしゃごろしあぶらのじごく)』だからだった。大きくもなく小さくもない中等(中東)の産油国。3人だけのスタッフの商社の出張所がある。この国ではちょうど王位が継承されるところ。今度国王になるアラマ・ハッサンは大の親日家。日本への留学経験もあり、日本の伝統芸能である能・狂言に興味を持ったという。王位継承レセプションで狂言を演ってくれないかと言われる。狂言の知識がまったくない日本人商社マンは、にわか勉強で国王の前で新作狂言『天才バカボン』を演ってみせる・・・・・。これが見事に狂言になってしまうのだから可笑しい。

        ハネてから、ブラブラと新橋方面へ向かって歩く。アヂアヂアヂアヂ。今年の夏は冷夏だった去年とは比較にならないほど暑い。たまらず、途中スタバに寄って休憩。中東の産油国並みの暑さかもしれない。



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