October.31,2004 席亭が一番楽しんだ夜
10月16日 第4回 人形町翁庵寄席
てつ&つくしの『演芸びっくり箱』
イラスト・ちばけいすけ
第一部
川柳つくしの新作おもしろ落語
第二部
川柳つくしのUKIUKIウクレレ漫談
杉原徹の音楽おもちゃ箱
この第4回翁庵寄席のアイデアが生まれたのは、第2回人形町翁庵寄席が終了した直後だったと思う。だから、去年の11月のことだ。寄席とはいいながらも、『落語とブルースのゆふべ』と題された第2回目の催しは、あくまで私の趣味で、ライブハウスをやってみたいという思いから、大分弁ブルースを歌うコージ大内さんと、ブルース大好きな噺家五街道喜助さんを組み合わせてみた。幸いこれがブルース好きの人だけでなく、落語好きの人からも「面白かった」との反応があり、またこういうことができないだろうかと思い立った。でも、あとは誰を呼んだらいいだろうと行き詰ってしまった。打ち上げの席で友人のGさんに話してみると、「てつさんがいるじゃないですか」という一言に、はっとする思いだった。「てつさんって、てつ100%のてつさん?」と言うと、「そうだよ」とGさん。てつさんとは思い至らなかった。てつ100%は、もう15年くらい前だろうか? 『TOKYO TAKO BLUES』という曲がシングル・レコードで発売され、ちょっとした話題になったものだ。東京の地名を駄洒落で繋げた、ちょっぴりエッチなブルース・ナンバー。当時、てつ100%をどこへ行けば聴けるのかわからなかった私は、一度もそのライヴを聴くことなく、そのうちに、あの伝説のバンドは解散してしまった。
Gさんから、てつさんがライヴ・ハウスに出ていて、面白い音楽を演っているという話は聞いていた。ただ、最近は寄席通いの方が本格化してライヴ・ハウスはとんとご無沙汰、いかんいかん。あの『TOKYO TAKO BLUES』が猛烈に聴きたくなってきた。よし、呼ぼう、てつさんをウチに呼ぼう。第3回『なにわなくとも小春団治』の企画が進み始めていたこともあって、てつさんのライヴは第4回と心に決めていた。さっそくネットで検索してみると、てつさんのホームページはすぐに見つかった。スケジュールをチェックしてライヴを観に行こうと思ったのだが、あいにく都合のいい日がなかなか無い。この日こそと予定に入れれば風邪をひいて寝込んでしまったりした。
そんなこんなで、てつさんのライヴが見られたのは今年の5月。ゴールデンウイークのさなか、吉祥寺駅前ロータリーでの吉祥寺音楽祭でのこと。その日のことは、『Every Day I Have a Blues』5月に書いた。一目で気に入った。吉祥寺駅前、あの、主婦や子供までが行きかうあの場所で、かの『TOKYO TAKO BLUES』を歌う度胸(笑)にも驚いたが、爆笑トークの冴え、共演者たちとのボケとツッコミのやりとり、横に置いたトランクから小道具を取り出してのパフォーマンス、そして何よりその歌の上手さに感動を覚えた。やっぱり、てつさんだ。てつさんなら、音楽にそれほど興味のない人でも楽しんでいただけるに違いない。私の勘は間違いなかった。
第3回人形町翁庵寄席『なにわなくとも小春団治』のウチアゲの席で、次はてつさんにしようと思っていると亀有カナ太さんに話すと、「えっ! てつさん、ボクも探してたんだ。どこへ行けば会えるの?」 亀有さんは自分の関係しているアニメの声優として、てつさんを使いたがっていた。「いやあ、面識は無いんだけど、ライヴハウスに出ているから直接会いに行って交渉しようと思っていたんだけどね」 数日後に行われたライヴに出かけて、てつさんと話すつもりでいた私は、これまた都合が悪くなって出かけられなかった。翌日、亀有さんからメールが入った。「てつさんと話してきました。こちらの仕事はOK。翁庵寄席の話も快諾を得ました」
これは、なにが何でも、てつさんに会いにいかねばならない。イラストをお願いしているちばさんと一緒に荻窪ルースターで行われていた『70年代歌謡の夕べ』に出演のてつさんを訪ねる。正式に出演を依頼して、イラスト用の写真を撮影する。
この日の70年代歌謡は、ちばさんの青春時代にもドンピシャだったようで、一緒になって歌うちばさんの楽しそうなこと!(笑) ちあきなおみ、太田裕美、沢田研二、山口百恵・・・・・実は私も思わず口ずさんでいたんだけどね(笑)
私としては、てつさんに1時間ずつの2セットをお願いするつもりでいたのだが、コージ大内&喜助の会のことを説明すると、自分のときも誰か落語家さんを前に出して欲しいと言われてしまった。帰りの電車で、さあて、てつさんと組ませるとしたら誰を呼んだらいいだろうと、あれこれ考えていた。電車を降りる寸前に、はっと思いついた。つくしさんがいるではないか。川柳川柳の弟子、川柳つくしさんなら、てつさんの前に出る噺家として芸風が合っているように思えた。しかもウクレレができる。これなら落語一席に加えて、ウクレレ漫談、さらには、てつさんと一緒の演奏も可能なのではないか。
さっそくつくしさんのホームページから、つくしさん連絡をとると、OKのメール。ついては、これまたイラスト用に写真を撮らせて欲しいと返信を打ち、鈴本の楽屋にちばさんと訪ね、ウクレレを持ったつくしさんの姿を撮影。
8月中旬に、ちばさんよりイラストが上がってくる。「できたら、ふたりがギターとウクレレを持って並んで椅子に座っているポーズで」という私のわがままな注文に難色を示していたちばさんだったが、まさかこんなに素敵なイラストが上がってくるとは思わなかった。しかも椅子がベンチとは私には考えもつかなかったアイデア。秋の感じがよく出ているではないか。
そんな折り、芝居に出演中のてつさんが脚の肉離れを起こして、1ヶ月間安静を言い渡されたという情報が伝わってくる。大丈夫だろうか。まあ、こちらの会までは2ヶ月あるから心配ないとは思うが・・・・・。無茶しないでくださいと祈るだけ。
くりさんから今回も素敵な構成のチラシが上がってくる。いかにも楽しそうな会の雰囲気が出ているではないか。さっそく店内にポスターを貼り出し、つくしさんの会でチラシ撒き開始。
9月下旬、池尻大橋のライヴハウスに、てつさんのライヴを観に行く。つくしさんにも来てもらい、てつさんとの打ち合わせ。てつさんは、てつ100%以来の盟友ベースの梶野秀樹さんを連れて来ると言う。PA、マイクの類は一切ないので、梶野さんはウッドベースを持ってくることになった。
当日は午後3時に出演者集合。さっそく一緒にやる曲のリハーサルが始まる。これも私が、せっかく楽器のできる出演者が集まったのだから、一緒に何か演って欲しいとのリクエストに答えてくださったもの。
一緒にやる曲のコードをメモするつくしさん
てつ(杉原徹)さんと梶野秀樹さんのリハーサル
つくしさんが川柳師匠の歌の伴奏用に作っているコード譜。
この中から一曲やろうと相談していた。
午後5時30分の開場ギリギリまでリハーサルは続く。最初のお客様が入ってきたところで片付けて、高座を組む。
午後6時開演。客席は満員。スタッフは一部立見状態。これから先は席亭という立場もあって、いろいろと段取りが頭をよぎり、出し物に没頭できないのがいつものこと。このへんがまだまだなんだよなあ。開口一番は立命亭談作で『動物園』。開演前は緊張しているようだったのが、高座に上がった途端に素人さんとは思えないほどしっかりした話しっぷりなのに驚いた。
用意しておいた金沢明子の『イエローサブマリン音頭』に乗せて川柳つくしが出てくる。マクラはこれまた私のリクエストで、以前につくしさんが演っていた『ヒット曲の秘密を斬る』といった漫談。プッチモニから早稲田大学の校歌まで、実際に音楽をかけてみせて、ヒット曲の法則を語るというもの。時間の関係で短縮版だったのが残念。ネタは『学校へ行こう』。会社の社長が制服を男性社員は詰襟の学生服、女子社員はセーラー服と決めた事から、会社が学校のようになっていってしまうという噺。アニメ声のつくしさんらしい噺で楽しかった・・・・・けど、こちらは次の段取りのことで頭いっぱい。さらには厨房の換気扇を回しっぱなしにしていたことに突然に気がつく。どうもこれが騒音になっているのだ。高座の横を通ってノコノコとスイッチを止めにいくわけにもいかず、ずーっと気にしているばかり。
仲入りでドリンクをお客様にお出しする。ここからはライヴハウスだ。アルコールを希望の方には缶チューハイ。ソフトドリンク希望の方にはジャスミンティーかミルクティー。その間に高座を外してライヴを行えるスペースを作る。
川柳つくしさんのウクレレ漫談は、音楽ネタの短いジョーク集といった感じ。どちらかというと音楽好きのお客様が多く、大受け。つくしさんにお願いして本当によかった。
いよいよ杉原徹・梶野秀樹の登場だ。サッチモの『ワンダフル・ワールド』で静かに始まり、聞き手の心を掴む。それを一転、童謡の『もみじ』に持っていく妙。これが盛り上がるのだから、てつさんは面白い。梶野さんに「なんで、もみじでそんなに盛り上げるのや」と突っ込まれるのだが、この漫才のようなやりとりを聞いていると、これは演芸だよなあと思う。てつさんのライヴを強引に演芸と持ってきたのだが、おかしくはないと思う。次が『東京の花売り娘』で、これもてつさんが最後に手品の花を取り出してくるのが、いつも通りのネタ。梶野さんのツッコミもいつも通りなのだが、初めて観る人も多く、受けている。幼稚園に営業に行った話などのトークは爆笑もの。噺家のマクラなんかよりも笑えたりする。漫談家としてもてつさんは一流だ。『ラストダンスは私に』、そして『夜空の向こう』。店中がSMAPの大合唱になる。それにしてもみなさん、よく歌詞を憶えていること! てつさんは、私が『杉原徹の音楽おもちゃ箱』とつけたこのコーナーの意味をちゃんと理解してくださっていた。ラスト・ナンバー『幸せを売る男』ではトランクの中から小道具を次から次へと取り出してみせてくれる。その数たるや絶対にいつもより多い。大盛り上がりのナンバーになった。
ここで、つくしさんが再登場。三人で『林檎の木の下で』、そして『スタンド・バイ・ミー』。これは池尻大橋での打ち合わせのときに、そば屋で演るのに何がいいだろうと考えているときに、梶野さんがボツっと「そば屋だったら『スタンド・バイ・ミー』でしょ。そばにいてくれなんだから」という一言で決まったもの。立ち上がってつくしさんに寄りかかっていくてつさん。まさにそばにいて。「そば! そば! そば! そば!」の大合唱でエンディングと思ったら、「アンコール! アンコール!」の声。本当にアンコールの予定はなかったのだが、ここは『TOKYO TAKO BLUES』を演ってもらわねば終わらない。「タコ!」 「東京タコ!」の声がかかる。てつさんのブギのギター・イントロがかき鳴らされ出す。梶野さんのベースがリズムを刻む。もうてつさんの独壇場といっていい。ちょっぴりエッチな内容なのだが、まったくいやらしさかがないのが、この人の個性。お客さんに「築地! 築地! 築地! 築地!」を言わせても、みんな笑いながら叫んでいる。
大盛り上がりのあとは、そばタイム。スタッフの人にも手伝ってもらって、お客様にそばをお出しする。どのテーブルからも陽気な話し声が聞こえてくる。よかった、よかった。この瞬間を味わいたくて寄席なんてものをやっているんだと実感する。
今回の催しは、本来の寄席とは別物といわれるかもしれない。しかし、今、自分が本当に観たい、人に観せたいという思いで、これを企画した。そうでなければ席亭なんてやってられない。「席亭さんが一番楽しんでいたよう」と掲示板に書かれたけれど、まさにそうだと思う。これからも自分がやりたいものだけを企画していくつもり。
「来春の第5回は何をするの?」と、ウチアゲでのさっそくの質問に、いくつかのアイデアがあることをお話する。どれにしようかと思っていたら、翌々日にかかってきたある一本の電話で、第5回のプランは見えてきた。いったい誰が出て何をするかは、おいおいお知らせできると思う。おそらく、「えっ! あの人が?」と思われるに違いない。乞うご期待!!
October.23,2004 三太楼の『初天神』がタイヘンなことになっている
10月10日 鈴本演芸場十月上席夜の部
小三治がトリを取るとあって、鈴本の前に着いたら長蛇の列。一瞬ひるむが、なんとか座れるだろうと最後尾に並ぶ。入場してみると真ん中あたりの席が取れた。それでも続々とお客さんは入ってきて、開演1時間ほどで立見状態。さすがに人気がある。
開口一番の前座さんは柳亭こみちで『やかん』。頑張ってね。
「こちらから見ますと、凄い景色でございまして」ほぼ満員の客席を見渡して、小三治門下の柳家三之助が言う。「お目当ての人は、初めからは出ないことになっておりまして・・・・・」と『堀の内』へ。
しばらく見ないと思っていたら、次の翁家勝丸の太神楽は安定してきた気がする。傘の上でいろいろなものを回す曲芸では、いつものドラえもんギャグも健在。この傘に名前を付けました。「アガサ・クリスティー・・・・・和傘・クリスティー」
入船亭扇辰は『道具屋』。与太郎が叔父さんに言われて、蔵前の通りに道具屋を出す。友蔵さんを訪ねて行けと言われて友蔵に会うが・・・・・。「おめえが友蔵か。やっぱりな。どう見たって海老蔵って顔じゃない」 バカの与太郎さん、歌舞伎だけは観ているのかな?
柳家燕路が休演で入船亭扇治が出てきた。「10日間のうちには、都合が悪くて出られない日というのもございます。そういうときは代演ということになりますが、だいたい同じ格の者が務めるということなっております。格下の者、芸風が違う者ということは、まずございません。例えば、落語協会の会長円歌の代演でしたら副会長の馬風が。私の師匠扇橋の代演でしたら小三治が。こん平の代演でしら『笑点』繋がりで木久蔵が。・・・・・私の代わりでしたら、中村橋之助・・・・・」 ネタは『あわびのし』
時間が押してきているよう。柳家〆治はスッと『親子酒』に入って確実に笑いを取る。
柳家小菊ねえさんの粋曲。寄席ではお馴染みの♪かえるぴょこぴょこ・・・・・を演って笑いを取ってから、粋な歌を数曲。
さあて、この後の柳家三太楼の『初天神』がびっくり仰天の出来だった。この噺をもっと面白くできないかと三太楼は思ったらしく、徹底的なテコ入れをしたらしい。天神様の縁日に行こうと思った熊五郎に、息子の金坊を連れて行ってやってくれと女房に言われて一緒に行くという寄席の定番噺なのだが、こんなに面白くできるとは思ってもいなかった。縁日の屋台では何も買ってやらないと宣言して出かけるふたりなのだが、金坊はすぐにおねだりを始める。「もう我慢できない! お団子買って欲し〜い! だって、みんな買ってもらってるじゃないか! みんな買ってもらってるう! クルマ買ってくれって言ってるんじゃないもん。だ〜んごー、買ってくれえ〜!!」と大声で泣き出すのだ。熊、すかさず「うるさ〜い! 声出して泣くんじゃない!」すると今度は、金坊は声を出さないで全身で団子を買って欲しいという欲求を表現してみせる。熊、思わず「うるさーい!」と声に出す。金坊は一言も発しないのに、つい「うるさ〜い」と言ってしまうところが絶妙だ。周りに人垣が出来てしまう。熊「おい、周りの人が、団子くらい買ってやれって顔してるじゃないか。オレが何か悪い事したかあ! 泣くなよ。団子買ってやるから。(周りの人に)解決、解決。みんな行って下さい」 そのまま団子屋に向かって「団子屋!
この野郎! てめえのせいでこうなったんだぞ!」と怒鳴るタイミングがこれまた絶妙。時間調節なのか10分ほどの高座で団子屋の件だけだったが、疾風怒涛のような高座で去って行った。フルバージョンが聞きた〜い。
続く柳家小里んの『明烏』がこれまた、何ともいい出来だった。これも何回も寄席でよく聴く噺なのだが、スーっと飽きずに入ってくる。この噺、臭さを入れればどんどん臭くなりそうなのだが、小里んのは抑制が効いていて気持ちがいい。それでいてところどころでのクスグリがニヤリとさせられる。
仲入り後に後ろを振り向くと、立見のお客さんもギッシリ。柳家喬太郎がバレンタイン・デイのことを話し出す。「人類みな平等なんていいますがね、バレンタイン・デイなんてねえ、差別化をはかる日でしょ? まあ、バレンタインはいいとして、ホワイト・デイというのは何ですか!? あれはいらないでしょう。バレンタインはまだ女の子が自分の意志で男の子にプレゼントするもんですよ。ところがホワイト・デイときたら、バレンタインにチョコレートを貰っていなければ、あげる権利もないんですよ」と『白日の約束』へ。最近、旗日のような何かの日近辺には、このネタを持ってくるようだ。また寄席でもこの噺はよく受ける。
アサダ二世のマジック。寄席のマジックは喋りで引っ張っていくとしたら、今アダチ龍光の話芸マジックを一番継いでいるのはこの人だろう。新聞紙に水を入れるマジック、風船の中からお客さんの選んだカードを出してみせるマジック。話芸で退屈させることなく見せてくれるこの人の芸は飽きるということがない。
トリの柳家小三治が出てくると、より大きな拍手が鳴る。この日の小三治は、珍しく『大工調べ』。独演会でもなかなか遭遇しないネタだと思う。一両二分と八百の店賃を溜めて道具箱を大家さんに取られた与太郎のために一両二分を与太郎に貸して大家さんに届けさせた棟梁。ところが八百文足りないと道具箱を返さない大家。棟梁が大家さんに掛け合いに行った、そのときの口のききようで話がこじれてしまう。キチンと筋道を立てて大家さんに説明した棟梁だが、「あとたかが八百ですから、ついででもありましたら届けさせますから」という一言があったために物事がこじれてしまう。「そりゃあ、棟梁にとっちゃあ八百は『たかが』かも知れないが、私にとちゃあ大金だよ。そうだろ、地べた掘ったってそんなもの出て来やしないんだ。それはそれとして、『ついででもありましたら』ってどういうことだい。でもってのがなかったら八百の銭はそれっきりになっちまうのかい?」 これが元で売り言葉に買い言葉。話がどんどんこじれて行ってしまうのは世の常なのか。口喧嘩なんてそんなものだと思うが、世の中ままならいものですねえ。
October.13,2004 アカからアオへ
10月9日 劇団☆新感線
『髑髏城の七人・アオドクロ』 (日生劇場)
『アカドクロ』の方はついに見逃してしまって、ビデオ版になったものを映画館で観ただけ。『アカドクロ』は太った体型になってしまった古田新太を、いかにかっこよく見せるかという点に感心があったのだが、いやあ、かっこよかった。で、『アオドクロ』の方は二枚目の市川染五郎だから問題はない。と、観始めたのだが、今度は線の細さが気になる。どうみても古田新太の捨之介の方が強く見えた。もうひと役の天魔王も古田新太の方が迫力がある。主人公だけを選ぶなら私は『アカドクロ』派。
同じ話を、アカ、アオでどう分けるのだろうと思っていたら、基本的な流れは同じでも、こんなに印象が違うものなるとは思いもよらなかった。まず、アカに比べると全体的に派手。衣装はガラリと変わり、端役に至るまで原色を多様してデザインも派手。舞台美術も音楽もより工夫が凝らされていて派手になっている。
こうして二つの『髑髏城の七人』を並べられると、どうしても比べてしまいたくなるのが人情。沙霧役は佐藤仁美(アカ)から鈴木杏(アオ)になって、私はどちらかというと鈴木杏を取りたい。彼女の真剣さが心を打った。無界屋蘭兵衛が水野美紀(アカ)から池内博之(アオ)というのは、女から男へという、もっとも意外なキャスティング。これも悪くない。極楽太夫が坂井真紀(アカ)から高田聖子(アオ)へ。これは比べろというのが酷。高田聖子の弾け具合に勝てる役者はそういない。贋鉄斎・梶原善(アカ)に敵うキャストはいないだろうと思っていたら、アオでは二代目カンテツ・三宅弘城という意表を突いたキャラクターを持ってきた。これが思いのほかいい。アカ・抜かずの兵庫・橋本じゅんは、アオ・こぶしの忠馬・佐藤アツヒロへと引き継がれた。これは橋本じゅんの圧勝だろうけれど、佐藤アツヒロの健闘も評価したいところ。狸穴二郎衛門には、笑いの小劇場系から、佐藤正宏(アカ)からラサール石井(アオ)へ。笑いを取らせたら強力なおふたりに、あえて笑いを抑えさせた演技を要求したのはなぜか。まだ開幕して4日目というハンディがあったのだが、今のところ佐藤正宏に分がある。ただ、前半の三船敏郎風の素浪人のいでたちラサール石井はいい。
脚本も大きな流れは同じなのだが、かなり書き直されている。アカドクロにはいなかったキャラクターもあって、同じ芝居を観ているという感じではない。ただやはり舞台が遠い。DVDが出たらば、また確認の意味で買ってしまうだろうなあ。
October.10,2004 落語を書ける才能がうらやましい
9月23日 大衆芸能脚本落語受賞作品の会 (国立演芸場)
開口一番の前座さんは、柳家小たま『金明竹』。頑張ってね。
三遊亭天どんは今回(第5回)の応募作から佐藤晋・作『罪と罰』。「起きてくださいよ。私は罪です。あなたの犯した罪です」から始まるこの噺。天どん、素に戻って「ついてきてくださいね。擬人化の噺ですから」。新作落語で擬人化の手法はよくあるが、罪なんていう実態のないものを擬人化したというのは面白い。人間の形をした罪が現れ、罪を認めて償って欲しいと主人公に語りかける。かくて罪を背負った男(笑)はロマンスカーに乗って箱根へ行く。寄席に来るお客さんに受けるかどうかはわからないが、いかにも天どん向けのシュールな噺。面白い。
「アテネ・オリンピックが終わりましたが、体操なんて実生活に役にたつ種目あると思いますか? 鉄棒・・・・・歳取ってからCMに出られる。平行棒・・・・・吊り橋が落ちたときに役にたちますか。一番役に立たないのが鞍馬・・・・・と思っていたら、あの手つきが『船徳』に似ているんですね。落語には役に立つ」 林家たい平は第3回佳作、山田浩康・作『となりの芝生』。これは2年前にもここで聞いた。お隣さんに張り合って、お隣が買ったものは自分も欲しくなってしまう奥さんの噺。「なんで車椅子なんて買うんだ。健康なんだから使ってないだろ」 「使ってるわよ。買物の途中で疲れて座ってると、誰かが押してくれる」 「高枝切りハサミなんて買って、ウチには庭無いだろ」 「キュウリを5m先に置いて切るのよ」 「ぶら下がり健康機買ってやったら、まったく使わないじゃないか。最近は洗濯物ぶらさげてるだろ。洗濯物が健康になってどうする」 よく出来た脚本だから、どんどん余所でも演ればいいのに。
柳家喬太郎は今回の佳作に入った、井口守・作『於玉ヶ池』。八っあんがご隠居さんから、お玉ヶ池の於由来の話を聞く。昔、池の茶店にお玉さんという美人がいて、お茶をたててくれていたという。このお玉さんがふたりの男のことを好きになって、恋に悩んで池に身を投げて死んでしまったという。それを弔う為にお玉ヶ池には柳の木が一本植わっている。八っつあん、この柳に供養の酒をかけてやると、幽霊のお玉が現れる・・・・・。どことなく、今までにあった古典落語がいくつか思い出される。『お菊の皿』 『野ざらし』 『たちきり』・・・・・。そこへ、唐突ともいえるオチがつく。このオチの唐突さが意表を突かれた感じで面白い。
仲入り後は、柳家喜多八が第3回佳作の本田久作・作『仏の遊び』。こちらも2年前に聴いた。あのときは月亭八方だから上方落語でやったのだが、今度は江戸前の落語。こんな荒唐無稽な噺、上方落語ならではだろうと思っていたのだが、これが喜多八にかかると、やはり面白く聴けた。
膝は林家二楽の紙切り。お客さんからのお題は『太神楽』。「違うときに、(太神楽を)観に来た方がいいんじゃないですかあ?」と鞠の傘回し、2分で完成。『於玉ヶ池』。「こんなことなら喬太郎さんの噺、ソデでちゃんと聴いとけばよかった」と3分30秒かけて切り上げたのは、「あたしが話しかけても、台本に夢中な喬太郎」 『粋な四畳半』 差し向かいの図3分30秒。このあとは二楽の世界。阿波踊りを踊っているお姉さんを何体か切り上げ、そのあとにズラーッと踊りの行列が続く。最後の方はサザエさんの家族だったりウルトラマン、怪獣・・・・・。
今回の優秀作も本田久作・作。今回も上方の人が出てくる。桂つく枝で『玉手箱』。浦島太郎のお通夜にお伽噺の仲間たちがやってくる噺。桃太郎、猿、犬、雉、赤鬼、青鬼、正直じいさん、鶴、ピノキオ、かぐや姫・・・・・。ギャグがふんだんに盛り込まれた楽しい噺。万人受けしそうな題材をよく見つけたなあ。
自分でも落語を書いてみたいという気持ちはあるのだが、どうも人に聴かせられるものを書く自信がまだ無い。いつか、私も一本書いてみたいものなのだが・・・・・。
October.2,2004 あらあら、どうしちゃったの(笑)
9月19日 池袋演芸場九月中席
江戸川乱歩の小説を落語にする企画も後半に入り、出し物が一部変わるので、再度行ってみることにする。
開口一番前座さんは、三遊亭かぬうで『たらちね』。頑張ってね。
「私、こうみえてもテレビでレギュラー持っているんですよお」 現在全国に14人いるという女流落語家のひとり、林家ひらりがこんなことを言い出す。「38年続いている『笑点』に出ています。『(出ているの)見たことないぞう』とおっしゃる方、今度目を凝らして見てください。出演者にパネルや被り物などを持っていったりしているのが私です。それと座布団係の山田さんに座布団を渡すという陰ながら重要な役をしております」 あらら、気がつかなかった〜。ネタは『穴子でから抜け』
笑組の漫才。「ぼくの体型からすると食欲の秋なんて言われそうですが、何といっても読書の秋ですね」 「ほんとかあ」 「ハードカバーなんて読んでますよ」 「昆虫図鑑なんじゃないの?」 「信頼と友情をテーマにした太宰治の名作『走れメロス』なんていいですね」 「たまたま、中学校の教科書に載ってただけだろ」 「メロスは16歳で両親と死に別れ、妹と二人暮らし」 「妹の名前はレタスかい?」 「名前は無いの」 「何で無いんだよ」 「しょーがないだろ、作者がつけなかったんだから! その妹が結婚することになります」 「相手の名前は?」 「無いよ」 「何で無いんだよ」 「作者がつけなかったの! メロスは妹のために村から40km離れたシラクスの街へ花嫁衣装を買いに行きます」 「村のイトーヨーカ堂で済ませればいいのに」 「ヨーカ堂無いの!」 「シラクスにはディオニスという王がいて、この王様は人を信じる心を失った男でした。街の者を捕らえては次々と殺しているのです。メロスは王の元へ行ってこう告げます。『あなたは間違っている』」 「それでメロスも磔になっちゃうんだろ。その教訓は何かというと、花嫁衣裳はイトーヨーカ堂で買いなさい」 笑組のこのネタはまとまりがある東京の正統派漫才という感じで仕上がっている。いいなあ、こういうの。
三遊亭吉窓は『目黒のさんま』。季節だなあ。「何か食するものはないか? その空を飛んでいるものは何だ?」 「赤とんぼでございます」 「あれは食せぬか?」 「食用ではございませぬ」 「誰かの戯れ歌に♪赤とんぼ 羽を取ったら唐辛子 とあるではないか」 そこにさんまの焼ける匂いが漂ってくる。「あの匂いは何だ」 「あれはさんまの焼ける匂いでございます」 「『恋のからさわぎ』の司会か?」 殿様、一度食べたさんまの味が忘れられない。「目黒の方を見て、♪サンマー・ターイム・・・・・」 やりたい放題(笑)。
アコーデイオン漫談の近藤志げるはきょうは野口雨情だ。「♪己は河原の 枯れ芒 同じお前も枯れ芒・・・・・ 悩んでいた雨情は自殺を考えるようになっていた。この『船頭小唄』はそのころの作品。妻と心中しようと利根川に船を出す。妻は必死で『子供がいるんですよ』と雨情を諭す。いいですか、この曲の2番はこうです。♪死ぬも生きるも ねえお前 水の流れに何変ろ 己もお前も 利根川の 船の船頭で 暮さうよ・・・・」 「雨情には生まれて7日間しか生きられなかった長女がいた。その娘のことを思って作ったのが『シャボン玉』。これも2番の歌詞。♪シャボン玉消えた 飛ばずに消えた 生まれてすぐに こはれて消えた 風々吹くな シャボン玉飛ばそ・・・・・」 「『赤い靴』の女の子は、雨情の友人の再婚した妻が、以前に生活の苦しさからアメリカ人宣教師に養女として手放した子供、岩崎きみちゃんのことを歌ったものです。さあ、一緒に歌いませんか? ♪赤い靴 はいてた 女の子 異人さんに つれられて 行っちゃった・・・・・」 客席内しみじみと4番までフルコーラスで合唱。近藤志げるの童謡に関する話芸にはいつも感心させられる。
古今亭志ん駒は『弥次郎』。「北海道は寒いのなんのって、雨が凍って棒になって落ちてくる。これが雨ん棒。天気予報もやってるよ。『ヤン坊マー坊雨ん坊天気予報』。布の傘なんて壊れちゃうから、傘もステンレス製。上から雨ん棒が降ってくるとステンレスの傘に当たって、バラバンバンバンバン」 最後はお馴染み手旗信号。
金原亭伯楽が志ん生師匠の逸話をまた話している。「志ん生師匠、骨董が好きでしてね、古道具屋へ行っちゃあ騙されてた。ある日掛け軸を見ていると、古道具屋の主人が『師匠、さすがに目がお高い』と5000円で売ってくれた。喜んで家に帰り、可楽師匠に自慢して『おい、これな、小野道風の書かも知れない。これはこのうちの宝になるかもしれない』。のちに鑑定してもらったら、この書『今川焼』って書いてあった」 爆笑のうちに『猫の皿』へ。
古今亭志ん輔は『小言幸兵衛』。「この段なら、伺うだ。九段なら靖国神社。仕立て職は、いとなむ。飛行機やは、パンナム」
次のすず風にゃん子金魚が到着しないらしくて鈴々舎馬風が出てくる。こういうときに漫談が持ちネタの人はいくらでも調整がきく。「ぺ・ヨンジャっていうんですか? ウチのカカアもテレビの前にかぶりつき。正座して観てやんの。オレの前だと胡坐かいてるだよ。何がヨン様だよ。でも馬風に様つけたら、バーサマになっちゃう」 「長嶋さんがオリンピックに監督としていけば優勝できたなんて言うけどね。どんなものかね。場所が場所だけにアテネーにゃならない」 どうやら、にゃん金さん間に合わないらしく、自分の理容学校に通ったいた話から、小さんの弟子になって、小さんの家の金を盗んだ犯人だと濡れ衣を着せられた話やらをたっぷりと30分。
仲入り後は江戸川乱歩。柳家喬太郎は『赤い部屋』を演っていると聞いたが、この日のものは喬太郎オリジナルの『怪人二十面相』。少年探偵団の小林くんが歳を取って、昭和博物館なるものを開館する。川上のバット、渡辺のジュースの素、(あたり)前田のクラッカー、黄金仮面のマスク、黒蜥蜴の手袋、ゴジラの骨、帰ってきたウルトラマンのブレスレット・・・・・と、そこに。最後は紙飛行機の飛び道具オチ。
鈴々舎馬桜も、『ひとでなしの恋』から『防空壕』へチェンジしている。「この話ねえ、最初考えたサゲが、円窓さんの『押し絵と旅する男』と被るんですよ。それで小田原丈くんと相談したんですが、彼の考えたサゲというのが、『えーっ! オレがそれやるのお』ってものでして・・・」 いやいや、馬桜さんにしては思いっきりシモネタ落ちで、珍しいものを観ちゃった感じ(笑)。立ち上がって、きょうは『ぎっちょんちょん』
円窓の『押し絵と旅する男』は先週も観たので、ここで途中退場する。それにしても、この日の喬太郎と馬桜、珍しいものを拝見させていただいたって感じですね。