January.31,2005 同時代を生きてきた・・・・・
1月30日 ラサール石井プロデュース
『なかよし』 (新宿THEATER/TOPS)
日曜の午後、新宿で井筒和幸の『パッチギ!』を観た。1968年の京都を舞台にした青春映画。ほぼ同時期に青春を体験した私には、妙に懐かしい思いにかられた。映画館を出て今度はTHEATER TOPSへ。ラサール石井、小倉久寛、山口良一の3人のコメディアンによるプロジェクトの第二弾。前回の『No.2』から2年ぶりの舞台になる。
東京の、昔ながらのラーメン屋が舞台。そこの主人が小倉久寛。幼なじみの電気屋(山口良一)がラーメンを食べに来る。久しぶりにエレキでもやろうかと、小倉がエレキギター、山口がエレキ・ベースを持ち出す。そこへやってきたのが、中学、高校時代に一緒にバンドをやっていたラサール石井。30年ぶりの再会となるのだが、石井は今は学習塾を経営していると言うものの、それは真っ赤な嘘。職もなく寸借詐欺をしようとの企みを考えてのことだ。3人は、それぞれ人生の悩みを抱えている。石井が職を失っているのを始め、小倉のラーメン屋も山口の電気屋も経営は火の車。さらに小倉は林家三平似だという奥さんと喧嘩中だし、山口は奥さんに先立たれ3人の子供の面倒にも追われている。3人は、久しぶりに会ったこともあり、店を閉めて、昔演ったベンチャーズを演ろうと言い出す。3人で『ダイヤモンドヘッド』を弾き出すのだが、邪魔が入ったり、3人の過去の出来事を思い出したりで、なかなか完奏までいかない・・・・・。
バンドのドラマーは、19歳で死んでいて、それがきっかけともなってバンドは解散した形になっている。そのドラマーとの経緯が明らかになるラストで、3人はドラマーが残した『ダイヤモンドヘッド』のドラム・パートのテープと共に、曲を完奏する。暗転してからは、やはりベンチャーズの『ブルドック』を演奏。さらには3人の楽屋落ちトークを挟んで『秘密諜報部員』。3人のオジサンが実に楽しそうにエレキを演っているのがいい。
去年の暮に、小学校の同窓会があった。みんなオジサン、オバサンになっていて、話を聞くと、みんな、それぞれ世間のしがらみに縛られて苦労しているのがわかった。かく言う私もそんなオジサンのひとり。経営難のラーメン屋のオヤジ役の小倉久寛ではないが、同じくそば屋をやりながら零細企業の厳しさを痛感している立場だ。わかるのよ、こういうの。人事じゃないんだよね。・・・・・エレキ、始めようかなあ・・・・・。
January.30,2005 新しい日本的コメディの形
1月29日 BIG FACE
『笑う女。笑われる男5/秘密の扉を開いたら・・・』 (シアターX)
『筒井ワールド』連続上演が終わっても、やっぱり気になる劇団。伊沢弘が設立して筒井康隆作品を上演し続けてきたのだが、2000年でこのシリーズに終止符を打ち、それ以降は作・演出を伊沢弘を担当する『笑う女。笑われる男』シリーズへと移った。
今回は浮気調査が仕事の探偵事務所の話。この探偵事務所が行う二つの調査が描かれる。ひとつは、毎週木曜になると決まって残業で帰宅が遅くなるようになった亭主(伊沢弘)が浮気をしているのではないかと思い込んだ主婦(尾上博美)が、探偵事務所に調査を依頼するもの。実態は亭主は木曜の夜になると家族には内緒で[スマイルハート]なるセミナーに参加しているだけ。それを曖昧な表現の報告書を作成して、継続調査をうながすという、結構あくどい商法を行っている。
もうひとつは、現在付き合っている男(小野重樹)と別れたいと思っている女(竹内幹子)が、この探偵事務所のサービス[グッバイ工作]を利用する話。女性工作員が言葉巧みにターゲットに近づき、色仕掛けで浮気へ持ち込む。
怪しげな探偵事務所だが、[スマイルハート]セミナーも怪しげ。どうも新興宗教団体がバックにあるらしいことがわかっていくる。
コメディ・タッチで話が展開していき、観る者を飽きさせない演出がうれしい。それでいて、テーマはけっこう大きい。人はみな秘密を持っているもの。それをすべて晒してしまっていいものなのかどうか。そして、もうひとつのテーマは疑うことと信じること。疑いをかけることも良くないときがあるが、一方で盲目的に信じてしまうのにも危険がある。亭主がセミナーの人に「信じないのか?」と詰め寄られ、「私は自分を信じる。自分の家族を信じる」と言い放つ。
前回の『黄色いシャツを、あの人に・・・』でもそうだったが、この劇団は新しい喜劇の形を作ったのではないだろうか? テーマは人間性の本質的な部分を捉えていて、それでいてコメディとして楽しく観られ、ペーソスもあるのだがジメジメしていない。伊沢弘の大きな頭(BIG FACE)から繰り出してくる新しいコメディ。これからも期待大だ。
January.27,2005 駅弁買って末廣亭
1月22日 新宿末廣亭1月下席
京王百貨店の『元祖有名駅弁と全国うまいもの大会』も今年で第40回。末廣亭に行く前にここでお弁当を調達しよう。今年の売りは、鯛めし対決と、とんとん対決。鯛めし対決の方は兵庫県山陽本線西明石駅の[どんなもん鯛]と、長崎県長崎本線長崎駅の[御飯の鯛めし弁当]。とんとん対決は北海道釧路本線摩周駅の[摩周の豚丼]と、鹿児島県九州新幹線出水駅の[かごんま黒豚弁当]。夕方に売り場に着いたので、もうどれも売り切れかなあと思ったら、4種類とも在庫あり。大いに迷った末に、[どんなもん鯛]980円也を購入。理由はこれから寄席に行くんだもの、名前が洒落が効いるからって、その程度の理由(笑)。
入場は6時30分。高座では江戸家まねき猫がまねいているではないか。シーンと静まり返った客席に『枕草子』が佳境に入っている。とりあえず桟敷に上がって、まねき猫の動物ものまねに聴き入る。猫のクシャミなんて、よくぞレパートリーに入れたりだ。
女性が続く。講談の神田紅は『日本号と母里太兵衛(黒田節の由来)』。かの九州の民謡『黒田節』の歌詞に♪日の本一のこの槍を 飲み取るほどに飲むならば これぞまことの黒田武士・・・・・とあるところ。歌詞だけみると槍を飲み込んだと思えてしまうのだが、これは黒田長政の使いで、福島正則の元へ口上を伝えに行った母里太兵衛、正則に酒を勧められるが、長政から酒を飲んではいかんと止められている。それでも飲めば望みのものを取らせると正則に言われて大酒を飲み、望みの家宝の大槍日本号を手に入れたという由来。途中、立ち上がって舞いを舞う。♪槍は錆びても名は錆びぬ・・・・・
途中入場したので、わけがわからないのだが、この日の出演者は出番の順序がガラガラ変わり、さらには代演だらけになっているらしい。まねき猫ももっと早い上がりのはずだったのに、こんな位置。そして紅に続いて中トリのはずの春風亭小柳枝も休演で、三遊亭小円右が出てきた。「小柳枝師匠は早めに出てしまいまして、お帰りになってしまいました。そこであたしが出てきたわけですが、どうやら小柳枝師匠、今頃は引越しの手伝いでもしていらっしゃるらしくて・・・・・」と『味噌倉』へ。
仲入り。買ってきた[どんなもん鯛]を取り出す。かわいいオトトの形をした鯛めし弁当。
鯛の照り焼きに鯛みそをかけて食べる。その美味しいこと!! それにしても、あいかわらず仲入り休憩の時間が短い。半分以上残っているのに、もう食い付きの三笑亭恋生が出て来る。「2004年のアテネオリンピック女子マラソン、野口みずき優勝ですよ。さて、男子マラソンは誰が優勝したか憶えておいでですか? 誰も憶えてないでしょ。思い出すのは、走っている選手の前に出てきて走るのを妨害した人のこと。いいですか、人が一生懸命喋っているのにですよ、その前をよぎったり、オニギリや弁当を食べたりって、殴り殺そうかと思いますよ」 うぐぐ、[どんなもん鯛]を食べている箸が止まる。しょーがないじゃん、仲入り後は、食い付きっていわれている位置なんだもの。みんなまだ弁当食べている最中だよ(笑)。そうこうしているうちに『魚問根』に入っていく。「織田信長はどうして死んだんですかね?」 「本能寺の変で明智光秀に暗殺されたんだな。歌にも残っている。♪オダは死んじまっただあ〜」 「古い歌ですね。もう知らない人もいるでしょ。なまずってどうしてなまずっていうんです?」 「静岡県のあるところでしか取れなかった・・・・・大部分の人がわかっていそうだが」 「沼津ですか? スズキって何でスズキって言うんですか?」 「鈴木さんが最初に見つけたからだ」 「じゃあ、鮎は?」 「浜崎さんが最初に見つけた」 「サヨリは?」 「吉永さんが最初に見つけた」 恋生の目を盗みながら[どんなもん鯛]の残りをかっこむ。鯛めし食いながらにはうってつけの噺になった。
ええっと、次は宮田章司の売り声のはずだか、出てきたのは漫才の宮田陽・昇。「これでも、学校を卒業しまして、漫才を始める前は世界的な一流企業で働いていたんです」 「ほお、世界的な一流企業で、どこ?」 「マクドナルド」 「・・・・・アルバイトだろうが!」 このふたりの47都道府県を空間を使って説明するネタの可笑しいことといったら!(笑)。
で、次が山遊亭金太郎のはずなのだが、ここで出てきたのは三遊亭円丸。「江戸川柳の本を読んでいますと、一番題材にされているのが姦通でして」と、『紙入れ』へ。導入部分の、おかみさんが新吉を誘い込むところが、やけに色っぽい。ここが強調されると子供には教育上問題あるかもしれないけれど、大人の時間は、何ともうれしいもので・・・・・。
三遊亭遊三は、いつものマクラから『親子酒』。
ヒザも変わっている。松乃家扇鶴の俗曲のはずが、松旭斎小天華のマジック。この人、終始無言なんだよねえ。一言も発しないままロープやスカーフのマジック。寄席のマジックは話術も欲しいんだよなあ。
トリが三笑亭夢丸の新江戸噺『こころもち』。材木問屋の主とその番頭との会話だけで噺が進行していく。家の金千両を持ち出した次男を勘当した、この家の主。だが、この次男には、その金を使った訳があったことがこの会話の中で明らかにされていく。いまでは次男は自分で餅菓子屋を始め繁盛している。「食った餅より、心持ち」というフレーズが最初と最後に出てきて、ラストはこの次男が作ったオリジナル淡雪餅を食べるところでオチに繋がる。納得のオチを聴いたところで幕。
[どんなもん鯛]も美味しかったが、ではデザートに餅菓子でも食べようか。
January.23,2005 遠足気分で練馬まで
1月16日 ミックス寄席 100回記念 (練馬文化センター 小ホール)
新宿で『子供騙し』を観た足で、練馬文化センターへ向かう。練馬ってどう行けばいいのか? 路線図を眺めて、新宿から大江戸線1本で行けることを発見。長年東京に住んでいても行ったことの無い土地、乗った事の無い路線も多い。ちょっとした小さな旅気分。
練馬文化センターは練馬駅のすぐ近くにあった。開場時間まで1時間以上時間があったので、喫茶店に入ってケーキセット。思い起こせば中学生のとき、初めて仲間と一緒に入った喫茶店。大人になった気分がしたものだ。その店のお姉さんが、「喫茶店はね、コーヒーとケーキを取るのが正しいのよ」と言うので、あのときもケーキを食べたっけ。でも、本当にそうなのだろうか? あのあとしばらくは喫茶店に入るとコーヒーを注文して、ケーキも食べていた。やがて貧乏な学生の身の上、周りを見るとケーキを食べていない大人が数多くいる。自然とケーキは取らなくなっていった。ケーキも取るのがルールと言ったお姉さんに一杯食わされたのかなあ。そんなことを思い出しながらのレアチーズケーキ、旨かった!
ハナは、去年の7月に二ツ目に昇進して、柳家さん太から柳家右太楼。ネタは『黄金の大黒』。ご馳走を食べられると聞いて大喜びで踊りだしちゃった金ちゃんの描写が愉快、愉快。
柳家喬太郎は、先日の花形演芸会とはうって変わってマクラが長い。憧れの映画監督実相寺昭雄に会ったこと(「どんな作品を撮った人かと言いますと、『ウルトラマン』シリーズとか『怪奇大作戦』とか、まあ特撮系の人で・・・・・」 私にとっては『無常』とか『曼陀羅』とかATG系の難解な映画を撮った人)、水道関係の企業の催物で落語を演って冷汗をかいたこと、そして池袋駅地下にあったスナックランドの事へと進む。「ここは立ち食い食品屋が集合した夢のテーマパークでしたよ。普通、立ち食い屋といったら、そば、うどん、ラーメン、カレー、まあせいぜいがこんなとこでしょ。それがホットドッグ、焼きそば・・・・・トンカツ焼きそばなんてのもあった。焼きそばの上にトンカツが乗ってるんですよ。池袋らしいでしょ。下北沢ではこういう発想は無い。まだまだありました。ピラフ、オムライス、にぎり寿司、おにぎり、スタミナ丼・・・・・スタミナ丼って何だと思います? モツ煮込みがごはんの上に乗ってる」 関西でいうドテ丼ですね。「韓流ブームなんて言いますがね、私もヨン様にならってキョン様になろうかと・・・・・でもそれじゃあ八丈島のキョンみたいで・・・・・」と、どうやら新作ネタおろしらしい『春のうた』に入る。質屋にやってきた37歳ニート男、過去142人の女にふられている。なんとかヨン様になりたいと、とりあえずメガネとマフラーが買いたくて(いずれはヨン様カツラも欲しい)質草を持ってやってきた。そこへジュウ姫になりたいという女性がやってくる。「今は家電かブランド品しか預かりませんよ」 「ブランド持ってきました。ユニクロ」 「それじゃダメです」 「それじゃあ、無印良品」 「それはブランドじゃないからそう言うんです」 「グッチならあります」 「グッチならお預かりしますが」 「グツチ裕三のブロマイド」 「それじゃダメです」 「ビトンならあります」 「・・・・・」 「ビトン(ウ)イサオのブロマイド」 「・・・・・」 「それじゃあ、あたしを質に取って!」 「ダメです。ブランドじゃないから」
柳亭市馬が出て来るなりに、「只今のは『韓流質屋』という、陽気の変わり目に気をおかしくした噺家がときどき演るもので気になさらないでください」と一言。ありゃ、そんな噺なの? ネタは『堪忍袋』。夫婦喧嘩が絶えないので堪忍袋という袋を縫って、そこに不満なことを吹き込む。「オレがいつも仕事で外に出かけるのに、いつまでも寝ていやがって、昼間は韓流ドラマばかり観て、私はペ・ヨンジュがいいだの、私はチャン・ドンゴンがいいだのって近所の奥さんと話しやがって、向こうでは何とも思ってねえんだぞ、バカヤロー!」 韓流『堪忍袋』?
昔昔亭桃太郎のぼやきが始まる。「歴史的に落語芸術協会の幹部は洒落が通じないんですよ。最近亡くなった文治、柳昇しかず。人が30年も立ち直れないようなことを平気で言ったりする。でも柳昇師匠なんて、小学生のときに『自分が一番やりたいこと』という作文を書かされて、『誰もいない山の中に行って、狼と取っ組み合いになって馬乗りになりたい』と書いたんですよ。ただ、狼という字を娘と間違えた」 「ミックス寄席っていっても、芸協から来ているのはオレだけ。あとはみんなお囃子さんも含めて落語協会の人ですよ。せめて昇太を入れてくれと言ったら、『それだと一人はみ出します』だって・・・・オレの顔見て言うんだよ」 「柳昇師匠が晩年に高座にかけてた新作落語は4つくらいだよ。オレは10個あるんだから。まったく困らないのに古典やれってんだよ。それで『寝床』演って、それが受けた。そしたら昇太が大ネタを続けちゃいけないというので次に『金明竹』。それで次に『唖の釣り』を演ろうとしたら、読売の長井さんや、木村万理さんが、『そんなの当たり前すぎて、演ったってしょうがない』って言うの。それで今回も『お見立て』になった。迷惑な話だよ」と、去年も聴いた『お見立て』へ。「遊女と落語家は似ているんですよ。パンパン宿で売れている娘は相手を選べる。売れていない娘は相手を選べない。まったく相手にされない娘はお茶をひいてる。一方、売れてる落語家は仕事を選べる。売れていない落語家は仕事を選べない。まったく相手にされない落語家は仕事が無い」 喜瀬川花魁が若い衆の喜助に、杢兵衛に会いたくないために、なんとか追い返してくれと頼むたびに言う台詞が可笑しい。「あとで何かあげるから」と条件を出すのだが、小さんのブロマイドに始まって、桂子・好江のブロマイド、文治の杖、米丸の白髪染め、さん助のちょんまげ・・・・・もう知らない人多いよなあ。喜瀬川の墓だと案内したのは、何やら歌が書いてある。これが『カラオケ病院』の替え歌の歌詞。「これは春風亭柳昇の墓でねえか!?」 楽屋落ちも快調。
仲入り後は、柳亭市馬と柳家喬太郎の歌謡漫才。歴代の歌謡漫才のテーマを歌ってみせるところから始まる。灘康次とモダンカンカン(♪地球の上に朝が来る)、玉川カルテット(♪毎度皆様おなじみの、名付けて玉川カルテット)、宮川左近ショー(♪毎度皆様お馴染みの、流れも清き宮川の)、かしまし娘(♪うちら陽気なかしまし娘)、フラワーショー(♪ようこそ皆様ご機嫌よろしゅう)・・・・・。喬太郎が話しをふると、市馬が突然に歌いだす。「今年の元日はよく晴れましたね」 「♪晴れた空〜、そよぐ風〜」 「若い女の子が晴れ着を着て歩いているところなんて粋ですね」 「♪粋な黒塀 見越しの松に〜」 「かみさんいるいないに関わらず、あんな女の人見ると惚れるね」 「♪惚れて〜 惚れて〜 惚れていながら行くオレに〜」 「行かなくていい!! 今年は禁欲することにしたの」 「♪銀翼連ねて 南の前線〜」 「今年は本気出して行きたいですね」 「♪本気かしら 好きさ大好きさ〜」 「あなた、古い曲ばかりですね」 「そう、小学生の3年(9歳)のときに遠足のバスの中で、さっきも歌った三橋美智也の『哀愁列車』歌って、あとで職員室に呼ばれて先生にノートを貰った」 これで負けてはいられない喬太郎は『ウルトラマン』シリーズや怪獣映画のテーマ曲をメドレーで。それをつまらなさそうに聴いている市馬。思わず喬太郎が、「アニさんとは(生まれたのが)2年しか違わないでしょ!?」 喬太郎が『東京ホテトル音頭』を歌えば、市馬は藤山一郎の『夢淡き東京』をワンコーラス熱唱。私より年下の市馬って、何でこんなの知ってるの?
トリは柳家権太楼で『不動坊』。三太楼が落語の中で演じる独り言がやけに可笑しいのだが、これがやはり師匠ゆずりのものらしい。未亡人のお滝さんが女房になってくれると言われて有頂天の吉公がカワイイ。「「『おまえさん』なんて言うののかなあ。うへへへへ・・・・・掃除をしよう、掃除をしよう」 「う〜、『おまえさん』なんてね・・・・・う〜、顔が戻らなくなっちゃった」 「お湯行こう・・・・・めでたいなったら、めでたいな」 こういうひとりキチガイの演技はこの一門のお家芸なんだなあ。
January.19,2005 ひとりでは生きられない
1月16日 トム・プロジェクト
『子供騙し』 (紀伊國屋ホール)
南三陸の田舎町の理髪店。店主の倉田(緒形拳)が見習いの佳子(冨樫真)にヒゲの剃り方を教えている。お客さんもそれほど多くないのだろう。小さな町の小さな理髪店。そこで静かに暮しているらしいふたり。そこへ男がやってくる。東京からやってきた探偵の港(篠井英介)だ。実は佳子はドメスティック・バイオレンスに耐えられずに逃げ出して来て、この小さな町の理髪店で隠れるようにして働いていたのだ。港は雇われて彼女を探し出し、家に連れて帰るのが仕事。とりあえず、今夜のうちに一緒に東京へ帰って離婚するかどうかの話し合いをして欲しいと説得するのだが、佳子は帰りたがらない。その様子を察して咄嗟に倉田は、佳子と自分は翌日一緒に、老人ホームの慰問に行かなくてはならないと言い出す。佳子はそこで歌を歌うことになっていると言うが、港が佳子に、その歌を歌わせてみると、酷い音痴。そんな子供騙しには引っかからない。
帰りたくない佳子は、さらに自分が倉田と深い仲になっているとウソをつく。そんなウソが信じられるかと迫る港に、佳子に話を合わせて、ふたりは関係を持っていると主張する倉田。それを信じてもらえ無い事がわかると今度は、佳子は他の男との間に妊娠4ヵ月の子供がお腹の中にいるとか、倉田は胃ガンで余命いくばくも無いとか言い出す。それがどうみても子供騙しの言い訳にしか見えないといった具合に話が進んでいく。
篠井英介に女形をさせたいばかりに、午後8時を過ぎるとオカマになるという設定は、いささか無理があるような気がする。東京にいる男と港との携帯電話でのやりとりなど、どうでもいいように思えるのだが、実はこれも探偵の演技で、そんな相手などハナからいないという事なのかも知れない。案外、これも子供騙しなのかも。
倉田が昔、鳩を飼っていたという設定が後半になって効いてくる。独り者の理髪店主が、どこからともなくやってきた若い女性と一緒に仕事をするという楽しみを感じている。せっかく、いい相手が出来たというのに、また去って行ってしまうかもしれない。倉田は、また鳩を飼う決心をする。倉田がふたりの前で「鳩の鳴きまねをします」と言って、「空腹の鳩・・・・・プルップルー、お腹一杯の鳩・・・・・プルップルー、眠い鳩・・・・・プルップルー」といつまでも、どんな鳩をやってもおんなじプルップルー鳴きまねをするところが印象に残った。
この日は千秋楽。カーテンコールで冨樫真が感極まって、涙を見せた。それを見て、小道具のタオルをそっと渡す緒形拳。いいカーテンコールを観た。
新宿の雑踏に出る。多くのひとが行き交っている。これらの人たちは、どんな人と一緒に生きているんだろうか? みんな孤独じゃ生きられない。側に誰かがいて欲しいと思って暮らしているに違いない。
こうして一人で『客席放浪記』を書き続けている鳩・・・・・プルップルー・・・・・
January.16,2005 今年も花形に注目
1月15日 第308回花形演芸会 (国立演芸場)
開口一番の前座さんは古今亭章五で『鈴ヶ森』。頑張ってね。
三遊亭王楽は『三方一両損』。江戸っ子の啖呵が気持ちいい噺だ。それにしてもそんなに喧嘩ばかりしていた江戸っ子って!(笑)。「なにお、なにお、なにお!」が怒りのあまり「にゃーお、にゃーお、にゃーお!」になっちゃう。「猫じゃないんだから」
テレビで何回か目にした、ものまねトリオのコロンブス。是非ナマで観てみたかった。これだから花形演芸会はチェックしなきゃ。松田聖子のナンバーを歌いながら出てきたコロンブスみはる。乗り乗りのオープニングでお客さんも思わず手拍子。「でも私の顔はどちらかというと山田邦子だって言われるんです」と言った瞬間にはもう声も山田邦子に乗り変わっていた。一方、相方のコロンブスTOMOは工藤静香を歌いながら登場。これが金髪のカツラを取ると今くるよ、さらには松本明子に変身。続くドラマ『山田花子殺人事件』では、ふたりで、山田花子、仲間由紀恵、タラちゃん、磯野貴理子、かつみ・さゆりのさゆり、You、東海林のり子、濱田マリ、山瀬まみ、さとう玉緒、ピンクの電話のよっちゃん、松野明美、光浦靖子。続いて島崎和歌子と田嶋陽子の笑い声を挟んで、ヒット曲メドレー。大黒摩季、柏原芳恵、大月みやこ、南野陽子。エンディングはピンク・レディ。こんな人たちとカラオケに行ったら、さぞや楽しいだろうなあ。きっとコロンブスのふたりはカラオケ屋で稽古しているに違いないなんて想像する。
漫才の流れ星は初めて観た。ボケ役の中島が相方の瀧上のことを「女性に人気のある歌手に似ているでしょ」と紹介しだす。「上に[ひ]が付く人ですよ・・・・・それで下に[かわひろし]が付く人」 「全部言っちゃってるじゃないか!」 似てる似てる。なかなかに男前。ネタは映画監督がCMを撮ったらといったものと、オレオレ詐欺、そしてテレビの時代劇ネタ。「お代官様、真っ赤でございましょう。豊岡産のものでございます」 「それは、いちご屋だろ! お前の役は越後屋!」
柳家喬太郎がマクラもほとんど無く『三味線栗毛』に入る。オチになる、馬に三味線という名前を付けるというのを冒頭に持ってくる演出。「三味線とはお戯れを」という台詞を噛みまくってしまい客席から笑いが漏れる。「古典ということで緊張しました」 客席から爆笑と共に大きな拍手が起こる。「者ども、そういうところで拍手はいらん」 按摩の錦木が角三郎の肩を揉みながら、小噺を演る。「『隣の空き地に塀ができたね』 『へえー』」 「ふはははは、面白いな」 素に戻って「いいですね、こんなんで笑ってくれる客ばかりだったら、どんなに楽なことか」 こんな前半を聴かせておいて、後半、検校にしてくれると言われていた錦木が病床から立ち上がり、角三郎の元へ行く場面の緊迫感ときたらどうだ。ヘラヘラしているようで、古典の難しいネタも演りこなしてしまう実力。いいものを聴いたなあ。
仲入り後が国本武春。「待ってました!」 「日本一!」 「たっぷり!」の声がかかる。国本武春の教育(笑)が浸透してきたようだ。どうやら普通の浪曲を演る気はないらしく、三味線を持ってパイプ椅子に座り、まずは『アジアの祈り』。どこかのお経らしいフレーズを曲にしたもの。♪アンガラ ズーダラ スタンビラ バラ アンガラ ズーダラ スタラビラ アンガラ ズーダラ スタンビラ バラ アンガラ ズーダラ スタンビラ バラ バリバレラ・・・・・ 「みなんさん演るんですよ!」と場内大合唱。一年間アメリカを文化交流者として旅して来た武春。いろんな音楽を吸収して来た。三味線でブルース、ロックンロール、そして三味線の音色がバンジョーに近いからとブルーグラスにも挑戦。アパランチ三味線を完成させてCDまで出した。その中からタイトル曲。すんげえー。さらにはお馴染み『堪忍ブギ』。♪ぶっぶっぶっ ぶっとばしちゃえ・・・・・ これまた場内大合唱。「三味線漫談だかわかんないですね」と言ったところで、ここまでがマクラだという。そういえばこの日の演目は『巌流島うた絵巻』と出ていたではないか。前半がブルース調、後半がバラードになるこのネタ、CDでも持っているのだが、もはや名作だ。
第二期国立劇場太神楽研修生として修行した鏡味仙三。「国で保護されているんです。トキみたいな存在ですね。次は鞠の曲芸。この鞠は絹糸を巻いて作るんですよ。どのくらい時間がかかるかと言いますと、まり三日」 仙三は愛嬌があるところがいい。その笑い顔がいい。そして芸に華がある。一度だけ鞠の曲芸に失敗して鞠を落としてしまった。「今のは今年のお年玉です」 五階茶碗も最後に組み立てたタテモノから茶碗を落とさずに板だけを扇子で払い落とすという仙三スペシャルも見事決まって拍手喝采。
「竹駒神社で偽札騒ぎがあったようですね。あそこはキツネを祭ったお稲荷様でしょ。キツネといったら木の葉一枚で人を騙すなんて申しますが・・・・・受け取った札の模様がいけなかった・・・樋口一葉」 三遊亭竜楽のネタは『紺屋高尾』。吉原の高尾太夫に恋わずらいした久蔵、寝込んでしまう。医者がやってくる。「久ちゃん、どうしたの、出し抜けに・・・・・そうか、それで急(久)患って言うんだ」 三年辛抱してまで会いたかったという高尾太夫って、よっぽど綺麗だったんだろうなあといつも想像してしまうのだが、そんな一途な久蔵の元にやってくる高尾太夫という人もよっぽど久蔵に惚れたんだろう。
観終わって、もう一度今回の顔付けを考える。普通の寄席には出られない円楽一門からふたり、ものまねでテレビで人気の出てきているコロンブス、新人漫才の流れ星、異端の浪曲師国本武春、国立演芸場が研修生として学ばせた仙三、これに売れっ子の喬太郎になかなかかける機会のない噺をさせる。こんな番組ちょっと余所では観られない。国立演芸場のやっていることは、トキの保護に匹敵するくらい立派なことだと思う。
January.15,2005 素人裏方稼業
1月10日 第6回熊八メイリングリスト演芸会
『熊八亭』 (台東区生涯学習センター和室・さくら)
私が参加している演芸好きが集るインターネット熊八Webの新年素人演芸会。演芸会の運営委員から、「高座用座布団、毛氈、めくり台、釈台を貸してください」のメール。「あいよ」てんで、用具一式かき集めて、タクシーのトランクを開けてもらって、一路かっぱ橋へ。運転手さんと軽い乗りで世間話。運転手さん「生涯学習センターって、確か以前は小学校だったところですよね」 ふーん、下町に住む人が減って少子化が進むので廃校になっちゃったのかなあ。タクシーが国際通りを通過しているところで、運営委員の携帯電話に連絡を入れる。これだけの荷物だと、ひとりでは一度に運搬は無理。タクシーが現場に着くと、出迎えが三名。「ごくろうさまです!」と体育会系の乗りで挨拶されて、大びっくり。落ち研じゃないんだから(笑)
荷物を4階の会場に運んで、高座の設営。みんなテキパキと動いている。心底こういうのが好きなんだなあと笑いが込み上げてくる。ほぼ設営が終わったところで、私はひとりで食事に出ることにする。館内の2階にあるバーミアンでいいかと思ったら、ここは満員。外に出てみることにする。かっぱ橋は食品関係の用具問屋街。食品サンプルの店はあっても表通りには飲食店は無い。ぶらぶら歩くうちに横の道ににスッと入ってみた。どこで食べようかと物色しているうちに、洋食屋さんを発見、ふらっと入る。生姜焼きを注文して店内を見回すと芸能人の色紙が何枚か貼ってあるのが見える。中に漫才の笑組のものも発見。いかにも浅草だなあ。
会場に戻るとお客さんが続々と集って来ている。座布団に座って顔なじみの人たちにご挨拶しているうちに出囃子が鳴る。まずは若鯱亭夢輔。鯱という字が入っているだけあって名古屋で居酒屋をなさっている方だとのこと。ネタはお馴染み『替り目』。「ツマミ何かないか?」 「何も無いわよ」 「何も無いなんて、北朝鮮で酒飲んでるんじゃないんだから」 「おでんでも買って来ましょうか? あたしは罪と罰がいいわ」 「なんだい、罪と罰ってえのは? ドストエフスキーか?」 「ツミレとバッテラ」 「どうやってバッテラをおでんの具にするんだい!」 ふはははは、快調快調!! それにしても落語はすっかり江戸弁。名古屋訛りが無いのはなぜ?
与太郎雑技団によるジャグリング。『マツケンサンバ』に乗ってジャグリングボールを宙に舞わせる。「去年からこれを始めたら5kg痩せました。芸を身に付けたい人、身体から何かを取りたい人は是非」 さらには傘回しにシガーボックス。失敗も多いけど、そこはそれ素人芸。暖かい拍手が巻き起こる。
「架空請求。先日私のところにも来ましたよ。アダルトサイトからのですよ。24000円ですって。まあ、払える額ではあるんですよ。そんなのを観たはずは無いと思いながらも、ちょっと覚えがあったりするでしょ。こういうのって金曜の夜にメールが来ることが多い。消費者センターが土日休みですから相談のしようがない。相手先に電話をしようと思ったんですが、こちらの電話番号を知られるとまずい。それで公衆電話からかけようと思ったんですが、今、公衆電話って少ないんですね。ようやく煙草屋の店先にあったピンク電話を見つけてかけようとしたら、受話器が臭い。それもそのはず口臭電話」 立芸亭小太郎は『キム明竹』。おやおやこれは東北弁版の『金明竹』。「本当は朝鮮語でやりたかったんだけど、出来ないんでこうなったんだい!」
三の輪セッケンの三味線漫談。去年の5月に私がセッケンさんのために書き下ろした『峠の蕎麦屋』を演るという。これは柳家紫文の『長谷川平蔵市中見回り日記』を下敷きにして、ああいうのが出来ないかと考え出したもの。柳生十兵衛篇、森の石松篇、丹下左膳篇、清水の次郎長・森の石松篇、木枯らし紋次郎篇、九尾の狐篇、宮本武蔵篇、民家伊衛門篇、水戸黄門篇、石川五右衛門篇、阿武松篇と、11パターン考えてセッケンさんにお渡ししたのだが、この日のは、私のは森の石松篇の一部だけで、あとはセッケンさん自作の、新撰組篇とホーミー男篇。自分の書いた台本が、こういう形で変化していくというのも、まあ仕方ないことか。一度自分の手を離れるとあとは演者の考え次第。ご自由にどうぞ。
次の立命亭八戒は、「三題噺を演ります。なにかお題を」と言い出した。「かっぱ橋」 「津波」などの声がかかる。「他にありませんか? 例えばカレーとか、キムチとか、PLOとか・・・・・そうですか、それではいろいろ出た中から、カレー、キムチ、PLOにしましょう」って、自分が言ったものだけじゃん。こうして始まったのが客席にもみえていた尾張家はじめこと、なかむら治彦さんの『カレー会議』を大胆に改作したらしい『アドルフに告ぐ』。ほとんど原型を留めていない噺になっていた。それでもこれはこれなりに楽しい。これも一度作者の手を離れると、作品がひとり歩きを始めるという好例。
仲入り後は、目白亭酔狂の『やかん泥』。この人の高座はすでに何回か観ている。しっかりした古典落語をなさる方で聴いていて安心感がある。まさにプロの噺家なみ。
あいあいずの、ほのぼのパフォーマンス。おさるさんの着ぐるみを着たおふたりのマジックあり、洒落た寸劇ありのほのぼのタイム。この人たちも何回か観ているが、素人さんだというのに、そのネタの豊富さには驚き。何回も場数を踏んでいながら素人っぽさがあるのがまた愛嬌。
トリは上方から渚家梅仁。「季節柄、怪談噺を・・・・・」と始まったのが、上方噺の『子猫』。東京ではなかなか聴けない噺。「30分ほどで終わります」と言いながらも、40分の長講。これを淀みなくスラーっと演ってみせたところは、ほとんどプロの高座。世の中、隠れた達人がいるもので・・・・・。
高座を片付けたところで、私はここで失礼。座布団、毛氈、めくり台、釈台を抱えて、またタクシーに乗る。これからゲーム大会、ウチアゲの飲み会があるとのことだったが、私は翌日の仕事のための仕込みをしなければならない。私はどうやら、プロに近い素人高座設営裏方稼業になってしまったのかもしれない。
January.9,2005 ひとり芝居の新しい可能性
1月8日 『なにわバタフライ』 (PARCO劇場)
ミヤコ蝶々という芸人さんを私は好きでなかった。映画やテレビでの脇役女優としてのミヤコ蝶々はまだしも、南都雄二との漫才は私には重ったるく感じられ、テレビで観ていてもあまり面白いと思えなかったのだ。さらには自分の半生を語るようになってからは、それがまた鼻についてきた。お笑いに身を置く芸人が自分の苦労談などを喋るのは余計なことだと私は思ったのである。
そんなミヤコ蝶々の一代記を、三谷幸喜が、しかも戸田恵子のひとり芝居で作・演出すると言われても、正直言ってあまり気乗りのしない公演だった。それでもチケットを取ったのは、三谷幸喜なら何かやってくれるだろうという期待からだからだ。ミュージカルが嫌いな私が、三谷幸喜の『オケピ!』にあっさりいかれてしまった経験もある。
三谷幸喜自身による前説アナウンス。「携帯電話をお持ちの方は、電源を切るか、電池を抜くか、破壊してください」のアナウンスも快調で、舞台が始まるのに期待が高まる。舞台はどうやら楽屋の一室らしい。奥の高くなっている位置にビブラフォンと、パーカッションだけのデュオがいる。生演奏が芝居に付くのもうれしい。
演奏が始まり、楽屋の入口から戸田恵子が出て来る。何かそわそわとして、部屋の中の物の位置を整えているふりから、曲が終わったところで芝居が始まる。この楽屋に若い記者が訪ねてきて、この女優のいままでの人生を語ってほしいと言われ、やがて7歳のときに初舞台を踏んだところから、今までのことをひとり芝居の形で語りだす。父親のこと。初恋のこと。既婚の男性を好きになり、別れてきた男性と結婚したこと。そしてこの男性とも離婚したこと。別の男性との関係が出来て再婚したこと。その男性と漫才コンビを作って苦労したこと。やがてこの夫の浮気が発覚して離婚したこと・・・・・。ミヤコ蝶々一代記が語られ続けることになる。おそらくミヤコ蝶々自身が自分の人生を語るのを聴いていたのなら、私は拒絶反応を示していただろう。しかし舞台の上の戸田恵子は、ひとりの女の半生を生き生きと演じていく。そんな戸田恵子の演じるミヤコ蝶々を、私は何て可愛い女性なんだろうと夢中になって観ていた。
楽屋という設定から、部屋の中に置いてある小道具(ぬいぐるみ、姿見、座布団、カレンダーなど)が、戸田恵子の衣装の一部や、別の小道具として使われるというアイデアが秀逸。さらに相手を照明で表すというアイデアも、「ははあ、ひとり芝居にこういう手もあったのか」と感心してしまった。
2時間の舞台だが、飽きさせずに引っ張っていき、ラスト近く、その半生をほぼ語りつくした戸田恵子がサングラスをかけたあたりから、戸田恵子がミヤコ蝶々そのものに見えてくる。「ああっ、ミヤコ蝶々が入っている」と思えて、感動すると一緒に「ちょっと嫌だな」と思った直後、大きなどんでん返しが待ち受けている。ひとり芝居の中にもうひとつのひとり芝居が仕掛けられていると構成には愕然とさせられた。
さすがに三谷幸喜といった芝居で満足いっぱいだったが、早く次の複数の役者による芝居が観たいという気にもなってきた。
January.3,2005 喋るトラック
1月2日 新・落語21 お正月特別興行 (プーク人形劇場)
早めに家を出て劇場近くのスタバで本を読んでいた。6時開場、6時半開演だと思っていたのが間違いだった。5時50分に店を出てプークの前に行くと誰も並んでいない。寒いから早めに開場したのかと思い、扉を開けて「もう開場しているんですか?」と問いかけたら、「もう始まってますよ」との答え。私の勘違いだったのだ。なんと5時開場、5時半開演だったのだ。木戸銭を払い、慌てて地下へ降りる。すでに前座さんの開口一番は終わっていて、三遊亭福楽の高座も終わろうとしているところ。なにやらカツラを被ってのヨン様ネタだったらしい。空いている席を見つけて滑り込む。
と、すぐに古今亭錦之輔が高座に出て来る。「一度ボッタクリにあったことがありまして、渋谷道玄坂でした。オネーちゃんと店がグルだっんですね。私、何もしていないのに、オネーちゃんに凄い変態プレイをした男にされちゃってる。フロントで『証明書だせ!』と言われたんですが、そんなもの出したらどうされるかわからない。店が雑居ビルの4階。飛び降りるわけにもいかない。『いい加減にしてください。ボク何もしてませんよ。訳わかんないなあ。知りませんよ、そんなこと』なんていいながら、出口近くまでにじり寄ってダッシュ! もう渋谷駅まで猛ダッシュですよ。肺が痛くなった。人生の中であんなに全力疾走したことはない」 ネタは去年の錦マニZでもかけていた『完全防犯マニュアル〜スキミング編〜』。
三遊亭小田原丈。「この数日で、私の家の電化製品が次々と止まってしまいました。まずCDラジカセが壊れた。音が出なくなったちゃったんです。次にコタツが潰れました。ポンという音がして真っ暗になっちゃった。今、電化製品捨てるのにもお金かかる。それでビッグカメラへ行ったらばコタツのヤグラ無しの電熱器の部分だけが売ってた。それで、それを買って来て、きのうは、その取り付け作業ですよ。さらに時計が止まっちゃった。私、腕時計って嫌いなんですよ。腕時計をしていると常に脈を測られているようで・・・。それで懐中時計を持ち歩いているんです。ビッグカメラでついでに電池交換してもらったら980円。この時計1000円で買ったんですよ」 ここから自分の病気体験談を経て、指圧のツボで相手を鳩時計にしてしまう男の噺『必殺指圧人』へ。
三遊亭らん丈は、いつもの『新明解国語辞典』。昨年暮に第6版が出たそうで、そこからの抜粋。「第6版はつまんなくなった」と言いながらも、例文が相変わらずヘンだという例を紹介。
三遊亭白鳥。「新作落語が続いてお疲れかと思いますので、私は古典落語をお聴かせしたいと思います。脂っこいもののあとは、やっぱりそばがいい」 あっ、『トキそば』かな?と思ったら、去年の春にさんざんかけていた『勘当船』。『笑芸人』の付録CDに収録されていたので噺は知っているのだが、やっぱり落語は観なくちゃいけない。座布団をチョキ船に見立てて高座中を転げまわる。ローリングストーンを演るときは高座を一段降りての演技。「ここで死んじゃたまらない。明日また鈴本がありますから」
小らくごちゃんには、また白鳥が『新聞固め』を演るに違いないと、お題まで考えて来たのに、何と「新聞を持ってくるのを忘れました」とのことで白鳥は無し。そりゃないよ。
三遊亭らん丈は、年末にも国立でも演っていた『漢字プリント』。小学生が各学年で教えられる漢字を使って無理矢理に文章を作るから珍妙な文章が出来上がる。「太陽の下で熊と遊んだ」 「その生物の数は十以上百兆未満」 「河馬に似ている夫人に年賀状を出した」
三遊亭福楽は、『喋るトラック』(?)。道を歩いているとトラックが音声警報を鳴らしながら近づいてくる。「右へ回ります」 「おっ、トラックが来たぞ」 「右へ右折します」 「おいおい、言葉が重なっちゃてるよ」 「お箸を持つ方の手です」 「そんなことわかってるよ」 「お茶碗を持つ手の方ではありません」 「くどいね」 「私は左利きでした」 「危ないね」 面白い面白い!!
古今亭錦之輔のは、自分の息子をイチローのような野球選手にしようと、恐竜のDNAを抽出してそれを注入して改造人間にしようと考える父親と息子の会話。理数系出身の錦之輔の考えそうな噺だなあ。
三遊亭小田原丈は、スーツ姿で登場。ある会社の接客用語の練習風景。「いらっしゃいませ」 「少々お待ちください」 「何か身分を証明するものはございますか?」 「お貸しできるのは30万円までです」 「チワワって、結構いい値段ですね」 「ご返済の時期は過ぎております」 「でも保証人の欄にハンコがあります」 「土下座されても、ウチは慈善事業ではございません」 「確か、年頃の娘さんがいましたね」 これだから小らくごちゃんは面白い。
小らくごちゃんが終わって、次が林家彦いち。「昨日と今日は新高輪プリンスホテルで木久蔵一門会ですよ。それなのに昨日は木久蔵が出ない。私がトリですよ。宿泊客は無料だからゾロゾロとおばーちゃん達が入ってくる。どうも私と師匠の木久蔵を勘違いしているらしい人が多い。そしたら、終わってから案の定声をかけられました。『いつも見てますよ』 やっぱり師匠と間違えられてるんだなあと思ったら、『プーク行ってます』って・・・・・ええーっ!! その人の生活のリズムを知りたいですよ。プリンスホテルとプークですよ!」 あの〜、ボクも前日はロイヤルパークホテルだっんですけど・・・・・。ネタは「レイに始まりレイに終わる」という体育会系の心情を持った顧問がいる『熱血怪談部』。
トリは、この二日間ですでに九社回ったという自称初詣のプロ、三遊亭円丈。「何でも回って願かければいいってもんじゃないんですよ。明治神宮は世界平和と天皇家の安泰を奉ってある神社なんです。それを女の子が『15キロ痩せたい』って何なんですか? 乃木神社で結婚式する人がいますが、あそこは夫婦で腹斬って死んだところですよ」 新春のネタは『悲しみの大須』。今でも大須演芸場に出ている芸人さん、いつの間にか消えてしまった芸人さんと大須演芸場を語るこの噺、昨年の銀座落語祭以来半年ぶりで聴けた。名古屋にもまた行きたいなあ。
出口へ向かう途中で、去年の春に翁庵寄席に出ていただいた錦之輔さんとバッタリ。新年のご挨拶。短い立ち話を交わして別れ、地下鉄の駅へ向かう。交差点でトラックが「右へ回ります」と音声警報を鳴らしてきた。思わず福楽のネタを思い出して、クスリ。
January.2,2005 居酒屋の主と客の会話の面白さ
1月1日 春風亭小朝 新春独演会 (水天宮ロイヤルパークホテル)
ふう〜、今年も元日から寒いや。人形町の街を抜けて水天宮様の前。今年も初詣のお客さんが列を作っている。その横を通り過ぎてロイヤルパークホテルへ。毎年恒例、小朝の独演会から今年の私の放浪が始まる。開演前の今年のスナックはサンドイッチと焼き鳥、それに長い春巻。あれっ、去年と同じじゃん。
皆様、今年もよろしく。かんぱーい!
さあて今年の顔付けはどんなかなあ。
おおっ、ぺぺさんが入っている。色物が一人入っていた方が正月らしくていいやね。落語ばかり四席は、一般のお客さんには辛い。おやおや、今年もきくおだよ。これで三年連続出演。
まずはその林家きくおから。「昨年、沖永良部島に仕事に参りました。お土産にマンゴーを買いました。マンゴーはフィリピン産のものやメキシコ産のものが主流で、沖縄産のものは珍しい。試食させてもらったら、確かに外国産のものより美味しい。少々小ぶりのマンゴーなんですが9個入っていて550円。他にもトロピカルフルーツを何か買おうと思ってコープ生協の人に聞いたらネクタリンがあると言う。それでネクタリンも買いました。ウチに帰ってよく見て驚きましたね。ネクタリンは長野県産と書いてある」 ネタは『祇園祭』。
春風亭小朝一席目。「テレビ朝日の地震に関する特番の仕事というのをしまして、いろいろと学ぶ事が多かったですね。2階建ての家というのは潰れるときに1階が潰れて2階が落ちてくるんですね。よく老人は1階で寝ている事が多いようですが、これは危険なんです。まあ、早く親の遺産が欲しい人は親に保険をかけて1階で寝させる方がいいんですが・・・・・。地震で生き埋めになってしまう人が多いんですが、いいですか、この人たちを助けるのは、案外、レスキュー隊ではなくて、近所、お隣さん同士ということが多いんだそうですよ。ここで助かるかどうかというのは、埋まっている人が助けやすい体型かどうかというのが左右する。デブの人1人助けるのと痩せている人5人助けるのとでは満足感が違う」 ネタは『中村仲蔵』。
ペペ桜井のギター漫談。いつものお医者さんネタやら、『禁じられた遊び』を弾きながら歌う『浪花節だよ人生は』、ハーモニカを吹きながら歌う『若者たち』。歌を歌うのは呼吸を吐き出すから、吸うときにハーモニカを吸う。すっかり確立した芸になってきたけど・・・・・やっぱり無理あるよう(笑)。「ヨン様ブームとかっていうじゃないですか。本物に会えるっていうんで羽田空港に女性が詰め掛けた。私だって本物ですよ。『テレビの冬ソナ、もう終わっちゃうのね。ヨン様にも会えないのね』なんて言いますけどね、私にだってめったにテレビで会えない」
釈台が置かれる。春風亭小朝二席目。「酒が身体にいい、悪いというのは、酒を飲んでどういう精神状態になるかで決まってくるんです」とマクラを振って入ったのは、どうやら新作らしい。ある小さな居酒屋にふらりと入ってきたお客さんと、その居酒屋の主との会話で進んでいく。客はどこかで飲んできたらしく、すでに出来上がっている。「何を差し上げましょう」 「いつもの」 「いつものって、初めてのお客さんですよね」 「いつものって言ったら何が出てくるかなあと思ったの。それじゃあ焼酎のお湯割りを貰おうかな」 「何か入れましょうか?」 「現金」 「?」 「洒落だよ洒落」 「じゃあ一万円札にしましょうか、五千円札にしましょうか?」 「それじゃあ混浴にしておくれ」 「?」 「新渡戸稲造と樋口一葉の混浴だよ。ツマミ何かないかな。ツマミ出せよ」 「お客様をですか?」 「上手くなってきたね。あっ、焼酎のお湯割り出来てきたの? アチチチチ、アチチは嫌でありんす・・・なあ〜んてね。お前も何かアチチで出来ないかい?」 「そうですねえ、アチチモモヤマジダイなんていかがてしょう」 「オレより上手いじゃない」 「いい焼酎だね。これ、宮崎の百年の孤独って焼酎じゃないの?」 「いや、百年の孤独は切らしておりまして、これは10年ひとりぼっち」 「寂しそうなお酒だね」 「ああっ、お客さん、それは醤油じゃなくてソースですよ」 「瓶の向こうに隠れてたから、スしか見えなかった」 「最後がスならソースでしょうが」 「醤油でス、かも知れないじゃないか」 こうしてこの酔っ払いと居酒屋の主の会話は、客の女房の話やら、最近の流行歌の話に広がっていく。これは面白い落語だ。一席目の『中村仲蔵』で古典をしっかり聴かせて、爆笑落語で締めた。この噺、とりあえず『居酒屋の主』とでも自分なりに演目をつけておこうか。
雪の大晦日から一転、外は穏やかに晴れいている。さあ、今年はどんな芸人さんとの出会いがあるか楽しみだ。