March.29,2005 ふぐの味

3月21日 『志の輔らくご21世紀は21日』 (明治安田生命ホール)

        前座なしで、いきなり立川志の輔が高座に上がる。一席目のマクラは、約30分喋りまくる。前の週に行われた、こぶ平の正蔵襲名お練りの話題。前日の沖縄公演から駆けつけて、上野駅前のトラックの荷台に乗ったら、何万人もの人。「上野から浅草まで、トラックの荷台に乗って、道で手を振っている人に、手を振り返すわけですよ。このとき雪ですよ、雪。寒いの寒くないの。手振っているというより、ジッとしていられないで、手を動かし続けているといった感じ」 「それで、今日から上野鈴本を皮切りに正蔵襲名披露興行が始まります。昨夜、留守番電話が入っていたので再生してみたら、こぶ平からでした。『明日から正蔵になります。これは、こぶ平と名乗っている私からの最後の電話です。あなたと同じ時代の落語家生まれて本当によかったと思います』ですって。そういう人なんですよ」 このあと相撲の話題に移り、『阿武松(おうのまつ)』へ。何よりもご飯をたべることが大好きで、底無しに食べてしまうというので相撲部屋を追い出されてしまった男の噺。食べるだけ食べて死のうと思い、宿でムシャムシャ食べている。それを見た宿の主人が、男を別の相撲部屋に紹介する。「お前、いくつだ? 22・・・・・遅くは無い・・・・・28で落語家になった男もいる」

        松元ヒロのNHKニュース・パントマイム。マラッカ海峡の海賊事件、防衛大学の卒業式の話題など。いつもながら天気予報が面白い。

        立川志の輔二席目。「山梨の落語会のあとのウチアゲで、ふぐ屋に案内されたんですね。ここのふぐが旨かった。ここの親爺さんが言うには、六本木の有名な寿司屋Mの板前さんも来たことがあるんだそうです。その板前さん、ポン酢に指を浸して舐めると、『あっ、一流だね』と言ったという話があって・・・・・。そのあと、私はまた別のところで、ふぐを食べたんですね。これがどうも旨くなかった。それで山梨のふぐ屋の親爺さんに電話したんですね。そしたら、『志の輔さんね、ふぐはポン酢ですよ』と言うんですよ。それでハタと気がついた。ふぐ刺しをなんであんなに薄く切るのかというと、厚くちゃポン酢がからまないんですね。ふぐってポン酢なんですよ。私らは、ふぐでもって、せっせとポン酢を口の中に運んでいたんです。そうなんです、ポン酢なんです。ポン酢があれば、ふぐはいらない」 なるほどなるほど。私らはふぐの舌触り、歯触りを楽しみ、実はポン酢の味を楽しんでいたのかもしれない。そういえば、もうここ何年もふぐを食べていないなあ。ネタは『はてなの茶碗』へ。終わって『はてな茶碗』解説。「東京では『茶金』と言いますが、上方では『はてなの茶碗』。京都が舞台なんですね。別に東京に舞台を移してもいいんでしょうが、やはりこの噺は京都なんですね。志ん生のテープを聴きますと、変な・・・京都弁でして、どこか飛んで群馬へ行っちゃたような・・・・・、志ん朝師匠も演ってらっしゃいますが、これは江戸弁で通している。馬生師匠は京都弁で演ってらっしゃいますね」 志の輔のはどうなんだろう。私にはちゃんと京都弁に聴こえたが、京都の人に確かめてみたいところだ。


March.27,2005 おばさまたちも、私も満足の芝居

3月13日 『日本橋物語U 恋しぐれ』 (明治座)

        『熱海殺人事件 平壌から来た女刑事』が40代から50代の男性が多く、『荒神』がV6のファンの女性で占められていたとすれば、明治座は私よりもちょっと年上の女性が圧倒的に多かった。

        普段だったら、おそらく観に行かないだろうと思われる類の芝居だが、石橋雅史さんがご出演とあっては、何が何でも観に行かざるを得ない(笑)。でも、観に行って良かった。明治、大正、昭和と活躍した女流作家長谷川時雨の話をジェームス三木が脚本、演出した作品。長谷川時雨と言われても、私のようにな不勉強な人間には、何者?という感じなのだが、文学史上からすると重要な人物のひとりであるようだ。パンフレットを買ったら、この芝居の冒頭である大正5年当時の長谷川時雨の写真が載っていた。当時、37歳くらいだろうが、確かに美人だ。そしてこの長谷川時雨を演じる三田佳子にも、どことなく似ている。

        一幕目は大正5年ごろが舞台。小説を書く傍ら、料亭を経営している長谷川時雨に、若い男が言い寄ってくる。この男は三上於菟吉(榎木孝明)という純文学志向の青年。最初は相手にしないのだが、そのうちに、ふたりは一緒に暮らすようになる。ところが、その途端に今度は於菟吉は、次々と他の女と関係するようになってしまう。

        三上於菟吉という人物は、後に、『モンテクリスト伯』の翻訳や、『雪之丞変化』の大ヒットを飛ばし、大衆小説作家として成功する。二幕目はその『雪之丞変化』で儲けたお金で、時雨が女流作家の作品ばかりを掲載する小説誌『女人芸術』を創刊した昭和4年当時が舞台。主に『女人芸術』編集室がその舞台となる。ここは当時の女流作家役の役者がずらーっと登場してまさに壮観。林芙美子役の水谷八重子、神近市子役の新橋耐子、吉屋信子役の川田しのぶ、平林たい子役の嶋崎ひとみなど、実在の作家そっくりなメイクで現れる。編集方針を巡っての、いかにも女性たちらしい心理戦がよく描かれている。このへん、さすがにジェームス三木の作・演出が光る。昭和初期に女性の権利を主張していたのだから、進歩的な雑誌だったのだと思える。

        場面転換の時の幕前の使い方が上手い芝居に仕上がっている。一幕目では『ゴンドラの歌』に合わせて女優さんたちが踊る趣向があったが、私の隣のおばさまたちは、一緒になって歌っていた。三幕目は昭和9年〜11年への転換の幕前で『東京ラプソディ』。こちらもおばさまたちは大合唱(笑)。三幕目は戦争の影が近づいてくる予感が織り込まれている。最後の幕前の趣向は戦地に兵隊を送り出す『露営の歌』。暗い雰囲気の中、於菟吉が愛人宅で脳血栓を起こして倒れる。そんな於菟吉を引き取り介抱する時雨の強さが印象的。

        通して観ると、最終的には女は男よりも強いんだということが強調され、おばさまたちも納得の舞台だったようだ。女性の立場から観ると、女同士の戦い、男への想いなど、感じることが多い作品に仕上がっていた。これなら、おばさま方は満足して家路につけるだろう。

        さて、石橋雅史さんの出番は2回。二役を演る人が多い芝居だが、石橋さんも二役。一幕目は幕前での演技。時雨が引き取って育てている甥の仁が花道から歩いてくるのを引き止めて、何をしているのか訊ねる巡査役。いかにも優しいお巡りさんという感じで好感度高し。もうひとつは、二幕目の最後の方。多くの悩みを抱えながら、ひとり、夜に執筆をしている時雨。ついウトウトしていると、夢の中で時雨の父親が現れる。これが石橋雅史さん。弱気になっている時雨を励ます役なのだが、これが実にいい。後日、石橋さんの楽屋にお邪魔して確かめたのだが、時雨のお父さんという人は、かなりサバザハした江戸っ子で、ハイカラな考えの持ち主であったようだ。実際、この場面では石橋さんはスーツ姿。他の役柄の人がほとんど和服なのだが、長谷川深造という人物は早くから、日本人も早く洋服にするべきだと主張していたそうな。背筋のピンとした石橋さんの立ち姿は、見事に決まっている。二幕目は、ずっと女人芸術社の場面が続くので、この日本橋が浮き上がる夢のシーンを入れるというのは、ジェームス三木の構想に最初からあったとのことだった。

        『日本橋物語』といタイトルを思い返してみると、私には、やっぱり二幕目の時雨が夢の中で、日本橋の上で立っている父親・深造と母親・多喜(新橋耐子)が、時雨に語りかけてくる場面が思い出されてしまう(笑)。そういう意味でも、私も、多くのおばさまたちと同じく、満足して家路につけた。


March.25 コンパクト新感線

3月12日 SHINKANSEN☆NEXUS
       『荒神〜Arajinn〜』 (青山劇場)

        『熱海殺人事件 平壌から来た女刑事』の観客が男性率が高かった(そして年齢も高い)のに対して、こちらはというと、圧倒的に女性率が高い。前の方の席はほとんどジャニーズ事務所のファン・クラブが持って行ってしまったんじゃないかと思われるほど、女性、女性、女性だ。というのも、劇団☆新感線のこの新作はV6の森田剛が主演だからなのだ。劇団☆新幹線の通常のチケットだって取るのに苦労しているというのに、これじゃあ劇団☆新感線ファンはどうしろというのだと思えてくる。これはあくまで劇団☆新感線の公演ではなく、SHINKANSEN☆NEXUSの公演だと言われれば、それはそれでしょーがないのだが・・・・・。

        しかし、いつものように劇団☆新感線のあのオープニング・テーマが流れると、これはやはり新感線の芝居以外の何物でもないと思えてくる。話は新九郎(河野まさと)と、つなで(山口紗弥加)の兄妹が、願いをかなえてくれる壷を拾うところから始まる。中には精霊ジン(森田剛)が入っている。兄弟は奪われてしまった自分達の城を取り戻して欲しいと、ジンに頼む。かくて一行は城に住む魔物の対決するべく、かの城へ向かう。・・・・・という筋立ては、ファンタジーらしいのだが、なにしろ新感線だから一筋縄ではない。ジン以外にも、壷というキャラクターが登場し、ジンの行動を監視する。この壷の役、粟根まことが登場した瞬間から一気に舞台は新感線モードに突入。森田ファンの女性たちは、さぞや戸惑っているかと思いきや、結構楽しんでいるようで、リピーターらしい女性が、怪優・橋本じゅんが登場してくるところで拍手しているあたり、すっかりこの芝居を楽しんでいたようだ。

        いつも3時間以上かかる劇団☆新感線の芝居だが、今回は2時間程度に抑えられている。話が二転三転していくのもいつものことだが、歌や踊りやアクションを刈り込んで、コンパクトにまとめたなあという印象。それでいて新感線お馴染みの、コテコテなギャグ、“お決まり”のお笑いなどもちゃーんと押さえている。さすが新感線!! ジャニーズ系のファンが劇団☆新感線自体に興味を持ち出したら困っちゃうなあ。ますますチケットが取り難くなるもの。


March.21,2005 落語も芝居も一期一会

3月6日 北区つかこうへい劇団
      『熱海殺人事件 平壌から来た女刑事 金正日、暗殺せよ』 (紀伊國屋ホール)

        中学時代に円生を体験したのも紀伊國屋ホールなら、つかこうへいを体験したのも紀伊國屋ホールだった。『熱海殺人事件』という無類に面白い芝居があるという噂は聞いていた。VAN99ホールで99円で観られる芝居だが、それが大きな紀伊國屋ホールで観られることになった。99円とはいかないまでも、つかこうへいの芝居は常識破りの安い値段で観る事が出来た。金が無い若いころだったから、芝居は観たくても、めったに観に行けなかった。もっぱら映画、それも名画座に入り浸っていた時期ではあったのだが、つかこうへいの芝居が紀伊國屋ホールでかかると飛んで行っていた。あれから30年、ほかの芝居は観なくても、つかこうへいだけは追いかけてきた。そして今年、『熱海殺人事件』のニュー・バージョン『平壌から来た女刑事 金正日、暗殺せよ』が上演された。『円生と志ん生』に続いて、私は紀伊國屋ホールの、やや窮屈な席に座っていた。

        客電が落ち『白鳥の湖』が大音量で流れる中、木村伝兵衛部長刑事役の石田良純が受話器に何事か怒鳴っている姿。今回は舞台のフロントに仁王立ち。いよいよ開幕だ。部長役は、三浦洋一、風間杜夫、池田成志、阿部寛、由見あかりと来て、今は石田。最初に観たときには今まで観てきた役者たちの印象が強すぎて、なんとも物足りなさを感じたものだ。あの濃すぎる顔立ちが苦手だったし、もっと狂っていい役なのに、どこか理性が勝ちすぎているように思えた。それが今回はだいぶ、壊れてきたようで面白い。刑事役は、平田満、春田純一、山本亨などが演ったが、今回また春田に戻った。4人の役回りとしては、一番良識派の役どころなのだが、やはり春田は安定感がある。犯人役は加藤健一から始まって、酒井敏也、山崎銀之丞、そして最近は小川岳男に定着した感じ。婦警役は井上加奈子から始まって、岡本麗、平栗あつみ、内田有紀らが演って、今回は黒谷友香だ。出だしは男言葉の調子がきつ過ぎる感じで違和感を感じたが、だんだんに水野婦警役が板についていくようで、よく演っているように思えた。

        役者の熱演は伝わってくるのだが、今回は、これが最終バージョンだと言う、つかこうへいの問題。現実に起きた、様々な事件(児童殺害事件、和歌山カレー事件、アフガニスタン派兵問題、そして北朝鮮による拉致事件)をナマのまま素材として使うというのは、やや違和感を感じてしまう。つかこうへいの考えの演説会のような様相になってしまうのはいかがなものか。例えばこういう台詞には困ってしまう。「拉致した十三人を返せ!」 「拉致して悪いか? それじゃあ戦争のときに、朝鮮で百二十万人行方不明になったのはどうなんだ。三十万人の女が従軍慰安婦にさせられたんだ」 本当はもっと露骨な台詞が続くのだが、ちょっと聴くに耐えない。これは、つかこうへいだから言える、言わせる台詞なんだとわかっていても、聴いていて辛い感じがしてくる。

        いろいろなテーマを並べて、それが放り出されたままになって終わってしまった印象が残る。これが本当に『熱海殺人事件』の最終バージョンなのだとしたら不満が残る。『熱海殺人事件』という枠は、きっといろいろな事が出来るものなのだろうから、最終バージョンなどと言わないで、また別のものが観たい。まあ、つかこうへいのことだから、また新しいバージョンを作ってくるに違いないのだが。紀伊國屋ホールを出るときに、あの最初に観た、三浦洋一、平田満、加藤健一、井上加奈子の姿が頭に蘇ってきた。私の頭の中に残っているあの名舞台。やはり芝居は一期一会。落語と同じだ。


March.11,2005 林家の時代?

3月5日 第310回 花形演芸会 (国立演芸場)

        開演10分前に入場したら、もう前座さんの開口一番が始まっている。柳家さん作『真田小僧』。頑張ってね。

        テレビは今、空前の若手お笑い番組ブーム。新しい人が新しい笑いを続々と生み出している。そんな若い人のナマの舞台を観たいと思ったら、足繁く花形演芸会に通っていれば、遭遇することができる。ホント、観に行かなきゃ損。1500円でこのラインナップが観られるんだもの。この日は『リチャードホール』などで大活躍している、あのアンタッチャブルが出た。テンポのいい漫才で、この日のネタは、誘拐、目撃者、ファーストフード店員の3本。「ファーストフードの店員になりたいと思ってさ」 「じゃあ、やってみなよ」 「いらっしゃいませ。そのセツはどうも」 「そのセツって何だ」 「何をお召し上がりになりますか?」 「じゃあ、チーズバーガー」 「お飲み物はいかがでしょう?」 「ウーロン茶をくれ」 「S、M、でっけえ、とございますが」 「でっけえって何だよ!? Lでいいだろうが」 「ふたつで620円になります。1000円からお返しが300飛んで80円になります」 「飛んでないだろ!!」

        「最近はお医者さんなんかより病気に詳しい患者さんがいたりしてですね、レントゲン写真を見せられた途端に、患者さんの方から『ああなるほど、影がありますから潰瘍ですね。明後日入院しましょうか?』」 最近のお医者さんは、患者さんにわかりやすいように日本語でカルテを書く人もいるというマクラから五街道喜助『代書屋』へ。「あなた、お名前は? 畠山太郎? へえー、柳家三太楼の本名と同じね」 寄席演芸年鑑調べたら、本当だった(笑)。

        「立てもの(バランス)の芸は、この篠笛を顎に立てて、楊枝を穴に入れていく稽古から始まります」と太神楽の翁家勝丸。「これは省略して五階茶碗という曲芸を」 こちらの方が派手だしね(笑)。「次は3本のバチを投げ上げる曲芸の予定でしたが、ときどきお客さんの方にバチが飛んでいったりしますので、今日は花篭と鞠を使った曲芸を」 最後は傘回しで、いつものドラえもん。

        U字工事は栃木県出身の漫才師。栃木訛りの漫才が売り。「(客席に向かって)栃木県ってどこにあるか知ってますか?」 「渋谷の隣ですよ」 「嘘をつけ!」 「日本地図で説明しますと、(下の方を指差し)この辺が沖縄で、ここが鹿児島、その上の方が熊本・・・・・」 「そんなことしてたら日が暮れるよ」 「もう7時だもの。とっくに日は暮れてるよ」

        柳家三太楼はマクラもなく、スッと『崇徳院』へ。三太楼のは、見つけてきたら三軒長屋を貰えるからとお嬢さんを探して歩く熊さんのおかみさんのハッパのかけ方が面白い。「今日中に探して来なかったら勘弁しないからね! 若旦那より先にあんたを逝かすからね!!」 いやいや出かけていく熊さん。「所帯持った当時はあんなんじゃなかったんだけどなあ・・・・・。若旦那だって、その探している人と所帯持ったらどんなことになるかわかりやしねえのになあ・・・・・」 こういう気の強いおかみさんと、ボヤキの亭主といった対比が、この人ならではの可笑しさがある。

        ポカスカジャンのオープニングは小ネタ、一瞬ネタが続く。『夏をあきらめて サザエさんバーション』 『瀬戸の花嫁 十二支バージョン』 『酒と涙と男と女 酒と涙とイクラとタラちゃんバージョン』 『絵描き歌 前川きよしのアンパンマン』・・・・・・。ラストは真面目な歌『おいっす』。これは、リーダーの大久保乃武夫のいかりや長介への個人的な思い入れを歌ったもの。

        立川志の輔の会のゲストでNHKのニュースをバックに流してジェスチャーをしてみせる松元ヒロ。ここでは言葉の笑いを観せてくれた。声を聴いたのは初めて(笑)なのだが、実に饒舌な人だったのだ。「政府は今の景気は、長い踊り場にいるようなものなんて発表していますがね、長い踊り場って何ですか? そんなのありませんよ。長い踊り場って、それは廊下ですよ。はっきり言って、景気なんて回復していない。不景気じゃないですか。それなのに政府は何もしない。だから民間で一万円札刷ったりしている。民間で出来る事は民間で・・・・・・」 「知多半島の美浜町と南知多町を合併して南セントレア市にしようなんて話もありましたが、もう町も市も県もみんな合併させていったらどうですかね。それで、ただ日本だけになる。さらに日本はアメリカに吸収合併されちゃったらどうでしょう。国家は『君が代』の歌詞、節はアメリカ国家『スター・スパングルド・バナー』で歌う」 本当に歌ってみせてくれてみたが、これが見事にはまるんだよね(笑)。

        トリは林家たい平。「地方に仕事に行ったら、柳家たい平ってなっているんですよ。ウチの師匠にその事を話したら、『出世したな』ですって。いよいよ、こぶ平が正蔵を襲名します。この5年くらいで、落語会の勢力図が変わりますよ。林家という名前を聞いただけで、『いい噺を聴けそうだね』ってなる」 そう言うたい平のネタは『ねずみ』。いつもの現代的なクスグリがほとんど無い本寸法の『ねずみ』だった。キッチリしたこの『ねずみ』は好感が持てた。いよいよ林家の時代なのかな?


March.6,2004 ほとんど出ずっぱりの役者さんたち

2月27日 ラストクリエイターズプロダクション
       『落ちる飛行機の中で』 (新宿・スペース107)

        乙一・原作(『ZOO』所収の短編)の舞台化。愛媛から羽田への国内線の中が舞台。機内には様々な乗客や客室乗務員が乗り込んでいる。若いカップル、若い男の2人組がいるかと思えば、今どきのギャル2人組、中年の夫婦者、映画スターとそのマネージャー、精神に異常をきたしているらしい狂信的な女性、闇金融業者の一団、東大卒のIT関連会社の社長でプロ野球チームを作ろうとまでした大金持ち(笑)。そんな中に不審人物が紛れ込んでいる。ひきこもりらしい青年らしい。飛行機が飛び立つと、この男が拳銃を取り出しハイジャックしてしまう。男は五浪しても東大に入れず、ヤケになって旅客機を東大の建物に激突させて自分も死のうと思っている。男は機内でちょっとでも動いたり、うるさい者がいると、容赦なく射殺しまくる。そんな中、自殺しようとして今だ果たせないでいるセールスマン(樋渡真司)と、自信満々のキャリアウーマン(汐風幸)のやりとりが物語の中心。セールスマンは、キャリアウーマンに、苦しまないで死ねる薬を買わないかと持ちかける。代金はキャリアウーマンの全財産。この飛行機が墜落する前に飲めば苦しむことなく死ねる。ただしこの飛行機が墜落しないで助かるのなら大損をした上に自分の命までなくなるという究極の選択を迫られることになるのだ。

        機内の役者は、こういう設定なので、最初から最後まで舞台の上。殺されたら殺されたで死体のままで扱われる。台詞の無いときでも常に演技を要求されるという、役者さんにとっては、けっこうキツイ芝居だろう。私はこういった密室劇が生理的に苦手(閉所恐怖症なのかもしれない)なのだが、この芝居にはそんなに苦しさを感じなかった。犯人役の青年にそれほど緊迫感がないのと、乗客もそんなに真剣に怖がっていないように思える(笑)。もっともそれがこの芝居の演出の狙いなんだろう。芝居はそんな極限状況のパニックを描くのが目的ではなく、笑いの要素も多く進んでいく。

        なんとか青年を説得しようとする乗客や客室乗務員の努力は効をそうせず、飛行機は刻一刻と東京に向かっていく・・・・・。果たして飛行機は墜落してしまうのか・・・・・。この芝居(小説でも同様らしい)には、後日談が用意されていて、それが印象的な幕切れになっていた。

        出ずっぱりの役者さんたちに拍手。お疲れ様でした。


March.3,2005 やっぱり寄席に寄り道しなくちゃ

2月26日 新宿末廣亭二月下席夜の部

        新宿紀伊國屋ホールのマチネーで、こまつ座の『円生と志ん生』を観たらば、無性に寄席に行きたくなってきた。新宿といえば末廣亭があるでしょうが! このまま帰宅はできません。『円生と志ん生』が終わったのが午後4時30分ごろ。紀伊國屋2階でCDを買い、1階で新刊本を買って、伊勢丹へ移動。催物会場で大九州展を覗いて、ソフトクリームを舐めている・・・・・間にも時間はどんどんたってしまう。地下の食品売り場でサンドイッチを購入して、いざ末廣亭へ。

        5時30分入場。もう夜の部も何本か終わってしまっている。木戸銭払って、モギリの女性にドアを開けてもらって入ってみれば、高座には鈴々舎馬桜の姿が。どうも、マクラが終わってネタに入ったところらしいのだが、「ん? なんだこの噺は?」と耳を傾ければ、三遊亭白鳥の『マキシム・ド・呑ん兵衛』ではないの。足立区で居酒屋をやっているおばあさんを、銀座の三ツ星レストラン[マキシム・ド・パリ]に招待した孫娘のチエちゃん。おばあさんも銀座は久しぶりだ。「ここは洋書屋さんだったのに、いつのまにか薬屋さんになっちゃったね・・・・・。ここはまた大きなビルが建っちゃったね。ここは以前は北町奉行所・・・・・」 白鳥が演ると、どこかせかせかした噺になるのに、こうやって演じ手が替わると、落ち着いた味わいがでてくるものだなあ。

        「日本ではトイレというと不浄なところという考えがあるんでしょう。隅の方にあります。アメリカの空港に着いたときに驚いたのは、トイレが目立つところにドーンとあるんですね。アメリカ人にとっては、トイレはエマージェンシーの場なんでしょうね」 橘家円太郎がトイレの文化について話しはじめたので、ふむふむと聴いていると、「アメリカの男性用便器、日本人からみると非常に高い位置にあります。うちの会長の三遊亭円歌師匠、背が小さいので有名ですが、円歌師匠が初めてアメリカへ行ったときに、あの男性用便器を前にして顔を洗っていた」 こらこら。汚いなあと思っていたら、もっと汚い『勘定板』へ。

        津軽三味線の大田家元九郎は、いつもの『国際旅行博覧会』。この人、こればっかりだけど、このネタは聞き飽きることがない。最後にじょんから。『禁じられた遊び』が挿入されるのも、いつものことながらご愛嬌。

        「日本語学校で先生が、[あたかも]で文章を作りなさいという問題を出した。そうしたら中国人の留学生が作った文章というのが、『冷蔵庫の中に卵があたかもしれない』」って橘家蔵之助。ほんとかねえ・・・・・(笑)。水戸泉の話題から『相撲風景』に。

        久しぶりの寄席出演だと聞いた柳家小のぶ。声帯を痛めているようで声があまり出ないようなのだが、熱演だった。声の出ない分、大きく身体を動かしての『粗忽長屋』に大きな笑い声が客席から上がる。こうなると、落語というものは言葉だけの芸じゃないというのがわかる。

        アサダ二世の奇術。ロープを切る手品でロープを手繰ったところで右手が妙な動きをみせるのに客が笑い出す。「今日は疑り深い人がいるなあ」 意識してやっているんだろうけど(笑)。風船の中からお客さんの選んだカードを取り出す手品。お客さんに、「風船を撃ってください。中から、あなたが引いたカードが出てきます」と玩具のピストルを渡したら、このお客さん、風船ではなくてアサダ二世にピストルを向けている。「あたし撃っちゃだめ! どうせ弾は出ないんだけど」

        「寄席を出ると、仲間が『そこらでちょっと軽く』なんて、酒を誘ったりしてくる。軽かった試しがない」なんて酒のマクラから、柳家三語楼『親子酒』へ。酒にだらしない親子。禁酒の誓いをしても、一旦飲み出しちゃうと底無しっていうのは耳が痛い。親父さんが、ついつい飲みだしてしまって「銚子6本までは勘定したんだが、あとは何だかわからなくなっちゃった」 息子はというと、外で誘われて「ふたりで二升五合空けちゃいました」って、この親子、とんでもない酒豪だよなあ。ひえーっ

        「ようこそのお運びで・・・・・。末廣亭なんてビラ一枚出していないし、新聞広告だって出していない。それなのにこれだけのお客様がいらしてくださる。どうしてだろうと思っていたら、前座さんが『インターネットの検索をすると出ているんですよ』ですって。凄い時代になったものですな。そうやって調べる人って、よほどの変質者か落語好き・・・・・」 あ〜あ、ついに変質者にされちゃったよ。金原亭伯楽は、お馴染みの志ん生の骨董話から『猫の茶碗』へ。サゲまで言ってから、自著『小説・落語協団騒動記』のPR。「売店で売ってますから買ってください」

        仲入り後の食いつき。上体を屈めて、ひょこひょこと大柄な身体が上がってくる。柳亭市馬のこの姿勢はいかにも噺家らしくて好きだ。ネタはひな祭りも近いというこだろう、『雛鍔』。武家屋敷の子供が穴あき銭をお雛様の刀の鍔だと勘違いしたという話を聞いた植木屋の息子。お客さんの前で「♪い〜いもの 拾〜った」と穴あき銭を持ってきて、「これ、お雛様の刀の鍔かなあ」とやるのに植木屋が、「わざとらしい奴だなあ」とわが息子にあきれる姿が妙に可笑しい。落語の世界では子供の方が一段上手。

        柳家とし松の曲独楽。地紙止め、風車、刀の刃渡りから切っ先止。いつものことながら、この人のは安心感があるから落ち着いて観ていられる。時間の関係からか糸渡りは無し。

        桂文生は、噺家のよくやる結婚式の司会の仕事のマクラから『高砂や』。途中までしか憶えていない[高砂や]の謡の先を急かされて、結婚行進曲の節で「♪高砂や〜、高砂や〜、この浦舟に帆を揚げて〜」 文生は正しく昔からの「婚礼にご容赦」でサゲていた。珍しい〜! 最近、このサゲはあまり演る人いないもんなあ。

        柳家さん喬『宮戸川』。さん喬版も、お花ちゃん積極派タイプ。お花ちゃんを振り切って、霊岸島の叔父さんのところへ向かう半七がポケーっと目をやる。「早いなあ〜、追い越し行っちゃったあ〜。ああっ、叔父さんの家の前で待ってるよ」 2階に上がると、お花ちゃんの方から半七に、好きだと打ち明ける。現代的なお花ちゃん。

        昼にも出たというペペ桜井、昼の部とはネタを変えようというのか、いつもとちょっと違った話題を模索している。童謡の『チューリップ』を弾きながら、「これが一音上がると、#が7つ付くんです。さらにもう一音上げると、なぜか#が2つになっちゃう・・・・・だからどうなんだって言われても、何の役にも立たない知識なんですがね」 「演歌はね、よな抜き音階なんて言うんですよ。4番目と7番めの音が無い。つまり、ファとシが無くて、ド、レ、ミ、ソ、ラだけで出来ている・・・・・だからどうなんだって言われても、何の役にも立たない知識なんですけどね」 さらには2、6好きの沖縄音階、アラビア音階にまで話が進む。珍しや、ペペさんの音楽講座でした。

        トリは桂南喬。「本格的な真冬ですね。私の住んでいるところは上石神井っていう高級住宅街・・・・・。周りにはまだ畑が残っていて風が吹き放題。冷たくてね〜。都心の方がいくらか、あったかいようで・・・・・」と『二十四孝』へ。池の氷の上に裸になって横たわり、氷を溶かして鯉を取るなんて噺を聴いていると、こちらも芯から寒くなってきた。そういえば、この噺、久しぶりに聴いたなあ。

        外へ出ると深夜寄席を待つ人が結構たむろしている。やっぱり今、深夜寄席は人気があるらしい。私はというと、熱燗が恋しくなってきたので帰宅の途につくことにする。う〜、さむさむ。大連の円生と志ん生も、さぞかし寒い冬を経験したんだろうなあ。


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