Jun.30,2005 圧巻! 白鳥流動物流山水滸伝

6月12日 鈴本演芸場六月中席・夜の部

        池袋のサンシャイン劇場から、神保町界隈、秋葉原をうろついてから上野へ。鈴本演芸場の前まで来ると三遊亭白鳥のノボリが見えてくる。



        近づいてよく眺めてみると、これ白鳥というよりも・・・・・なーんかへんな鳥だよなあ。でもそのへんが白鳥さんらしくて微笑ましいイラストだ。



        仲入り直前なので2000円になった木戸銭を払って、エレベーターで客席フロアに上がる。ドアが開くと聴こえてきたのは柳家さん喬『天狗裁き』のまさにオチの部分。さん喬師というと、私は『天狗裁き』との遭遇率が高い。

        仲入り休憩でロビーに出てきたお客さんを待って客席に入る。空席を見つけて買ってきたペットボトルのお茶を一杯。これから三組で2000円は高いか安いかは人によるだろうけど、トリの白鳥さんさえ観られれば私は満足。

        「歌舞伎座が老朽化のために建て替えするそうで、今はそのための勘三郎襲名三ヶ月興行だそうで、連日大入り満員だそうですね。白鳥さんも鈴本十日間満員にして、実家の自転車屋を立て直すそうで」と、柳亭燕路『七段目』へ。

        三増紋之助の曲独楽。曲独楽で使う独楽は、軸を両の手のひらで擦るようにして回していく。普通の独楽のように縄で回すことは、投げ独楽のときにしかやらない。「うちの子供、保育園で独楽を回しましょうと言われたら、こうやって手のひらで軸を回したそうです」 末広の曲、輪抜け、真剣刃渡りの曲、風車など。保育園の子供がやったら驚きだろうなあ。

        お目当て三遊亭白鳥は、最近出来たらしい『任侠流山動物園』。歌舞伎、文楽などの古典芸能はまったく観た事がないというマクラから、浪曲のことまで触れて始まった噺はというと、千葉の流山にある動物園が舞台。おじいちゃんが孫を連れて流山動物園にやってくるが、この動物園の呼びもの、象のマサオくん(マサゴロウ)は病気のためにお休み。あとこの動物園にいるのは牛の牛太郎、ニワトリのチャボ子、豚のブタジだけ。これではお客さんが来ない。エサすらもらえない動物たちは相談する。上野動物園に行って人気もののパンダに来てもらおう。上野のパンダ親分のところにお願いに行くが、あっさりと断られてしまう。どうしたらお客さんを呼べるだろうと考えた動物たちは、芸をやってお客さんを呼ぼうと考えつく。人間の言葉を喋るという努力をした動物たち。これが大当たり。流山動物園は押すな押すなの大人気動物園になる。このあおりをくらって上野動物園は閑古鳥が鳴く始末。怒ったのは上野動物園の動物たち。流山動物園に殴り込みにくる・・・・・。襲い掛かるトラの攻撃をクルリと上手に転がった白鳥、なぜかウクレレを持って座布団に帰ってくる。なにやらデタラメのコードをかき鳴らしているのは三味線のつもりらしい。ここで浪曲らしきものを唸るのだが・・・ふはははは。これがやりたかったのね。うーん、なるほど。でも私だったら、この落語の題は『流山水滸伝』にするがなあ(笑)。


Jun.26,2005 得した気分のオムニバス7本立て

6月12日 AGAPE store
       『仮装敵国』 (サンシャイン劇場)

        7人の作家に15分程度の短編を依頼したオムニバス。作家によって、演劇を目指したものと、これはコントだなというものが混ざっている感じだ。

1.『素晴らしい愛をもう一度』(長塚圭史)
2.『MEAT DOLL』(倉持裕)
3.『潜入』(土田英生)
4.『危険がいっぱい』(千葉雅子)
5.『理想の部屋』(故林広志)
6.『ONE ARMED FORCES』(後藤ひろひと)
7.『スポンサー』(ケラリーノ・サンドロビッチ)

        演劇とコントを色分けするなら、演劇が、1・2・4・5。コントが3・6・7。で、やっぱり、あとあとまで印象に残るのは私にはコントの方。『潜入』は忍者もの。七人の忍者が敵の城に忍び込もうとしているが、いざ忍び込む段になって、ひとり、またひとりと裏切りが起こって敵方についてしまい、最後には全員が敵方のスパイだったというオチ。『ONE ARMED FORCES』は戦場もの。爆弾が柱に引っかかってもう少しで落ちそうになっている。それを必死で支えているために身動きが取れなくなっている兵士。そこへ片腕を負傷した兵士がやってきて、この爆弾を取り除こうとする。ところが片腕が使えない上に、振動すると爆発するニトログリセリンの液体の瓶まで持っている。そこへさらに兵士がふたり現れるのだが、細菌兵器の瓶の蓋を開けてしまって慌てて手で蓋をしたり、ついには地雷を踏んでしまったりで全員が身動きとれなくなってしまう。

        1番笑ったのは最後の『スポンサー』。浮気をしている男女(松尾貴史・辺見えみり)が旅館にやってくる。旅館のおかみ(春風亭昇太)が名物の茶碗蒸しを出す。この茶碗蒸しには毒薬が入っていて男は息絶える。実はおかみと女が共謀しての殺人だった・・・・・というところでカットがかかる。2時間サスペンス・ドラマの撮影現場だったことがわかる。女優は早く帰りたがっているのだが、ここでスポンサーに製薬会社が入っていることが判明し、毒殺はまずいということになる。作家が急遽シナリオを書き直して撮り直し。名物のバナナが出てバナナの皮を踏んで男が転倒。打ち所が悪く死んでしまうというかなり無理な設定になってしまう。そこにチキータ・バナナもスポンサーだということが判明し、また撮り直し。名物の毒蜘蛛タランチュラがお膳に出され・・・・・もう笑い死にするかと思うくらい笑った。

        どうもコントの持つ笑いの破壊力には、真面目な演劇は負けてしまうようだが、上演されたどの作品も面白く、なんだか得した気分。そういう意味ではなんだか寄席に行った気分と似ていた。


Jun.25,2005 帰宅なる街?

6月11日 第17回 きたくなるまち区民寄席 (赤羽会館講堂)

        なんと赤羽という駅に降りたのも初めての経験。長年、東京に住んでいても用のないところには行かないものだ。今回も初めての土地だということもあってウキウキして早ーく着いて駅の周辺の散策。これが楽しいんだよね。会場はすぐにわかった。開演十分前になったので客席に着く。

        寄席というだけあって、ちゃんと開口一番の前座さんつき。三笑亭可女次『平林』。頑張ってね。

        「私は、ここ赤羽から3分ほど行った桶川の出身なんです」って、三遊亭遊馬。うーん、飛行機なら3分かなあ(笑)。「昔、長崎にオランダから二羽のウグイスが親善大使として贈られてきた。立派な鳥かごに入れられた一羽のウグイスが『バッチュー』って鳴いた。するともう一羽のウグイスが『ホーホケキョ』って鳴いた。『この二羽はツガイなんですか?』と訊くと、『いえ、一羽は通訳です』」 こういう小噺、私は好きだなあ。そのまま『近日息子』へ。

        Wモアモアの漫才。「新婚時代、家に帰ると、ウチのカカアがちゃんと出迎えてくれたもんだよ。それが今じゃ犬しか出てこない。疲れて帰ってきてさ、『冷蔵庫からビール取ってきてくれ』って言っても、『自分で取ってらっしゃいよ』だぜ。仕方なく自分で取ってくると、そこにコップ持って待ってるんだから」 このひとたちの漫才もどこからどこまでが作りなのかわからない。相方がとちったりすると、すかさずに突っ込みを入れたりするのだが、その突っ込みが妙によく出来ている。どっちでもいいのだが、そんなやりとりを聴いていると楽しい。

        「私の持っている一番いい着物を着てまいりましたが、失敗したなと思うのは、後ろの金屏風と同じ色なんですね。カメレオンみたいですかね」 なるほど柳家喬太郎の着ているカラシ色の着物がそういわれれば保護色。例によって、ハブの小噺、海草の乗った電車の小噺から、ここ赤羽とも埼京線で繋がっている池袋の街の様子、そして『母恋いくらげ』へというパターン。この噺なら老若男女関係なく湧かせられるという自信があるに違いない。

        東京ボーイズがここで出てくるのもうれしい。よくやっているネタが並ぶのだが、いつ聴いても楽しい気分にさせてくれる。『小さな竹の橋』、『漕げよマイケル』、『はぐれコキリコ』・・・・・。曲名を書くだけでネタが思い出される。シメもお馴染み謎かけ小唄。「♪横峯さくらという人を 謎かけ問答で解くならば ボインの水着と解きまする チチが出てきて邪魔をする」

        トリは三遊亭円丈。ここに『東京足立伝説』を持ってきた。「始めに足立ありき」と始まる創世記なんだからたまげる、壮大なストーリー。神様はまずアダとチクを作られた・・・・・って凄いこと考える人だよな。赤羽の北区というのも、足立区と似たような立場にある場所。ニヤニヤ、クスクス笑いが会場に広がっていくのがわかる。

        それにしても中身の濃い顔づけのこの会。それぞれがここ北区赤羽という土地柄を話題に盛り込むあたり、サービス精神の多い、いい芸人さんを集めたなあという印象だった。


Jun.11,2005 時間の檻に閉じ込められた男の悲劇と笑い

6月4日 ハロホロシャングリラ
      『ジェスチャーゲーム』 (紀伊國屋サザンシアタター)

        渋谷PARCO劇場で『どかーん武春劇場 vol.2』を観て、新宿に回る。午後5時前には劇場の近くに着いてしまったが、芝居は午後6時開演だ。開場時間の5時30分までだって、まだ30分ある。どひかのカフェにでも入ろうかと思ったら、夕立があった。それが半端な降りかたではない。今頃日比谷野音ではブルースカーニバルで盛り上がっていることだろうに可哀想だなあと思う反面、私は明日のチケットでよかったとほくそ笑んだりして(笑)。高島屋伝いに紀伊國屋書店に入り、売り場をうろついて時間を潰す。

        開場と同時に客席に行く。私にしては、こんなことは珍しい。いつも大抵、開演時間直前にならないと劇場に入らないからだ。今回は早く入って正解だった。席についたら、もう劇は始まっていたといえる。舞台は地下にあるレストランらしい。奥のボックスでは話をしている男の二人組。下手のテーブルでは背中をこちらに向けて座っている女性の姿。ときおりウエイトレスがやってきて注文を取ったり、注文の品物を運んできたりする。また、さまざまな人物がレストラン内を通過している。

        開演時間になると、物語が始まる。離婚の話を切り出された男が、どうやら今は別居している妻と待ち合わせしている。妻がやってきて離婚届を出してサインをしてくれと迫る。そこへ偶然やってきた男の友人が貸しておいた金を返してくれと言ってきたり、また別の友人が婚約者を紹介しにきたり、他にもレストラン内ではさまざまな事件が起こる。奥のボックス席にいた二人の男のひとりが食べすぎで気持ち悪くなったり、下手の女性りところに待ち合わせの男がやってくるが、女性と思った人物は実はオカマ。ここでも別れ話が繰り広げられている。水晶玉を前に置いた、いかさまっぽい占い師がいて、恋愛相談にくる人物全てに「別れなさい」を繰り返している。レストランのマスターがふたりの結婚記念日だと勘違いでケーキを持ってきてしまったりといった事件も起こるが、そこへ二人の友人夫妻がやってきて離婚を思いとどまるように説得を始める。それでも妻の意思は変わらず、男は離婚届にハンコを押す。妻はそれを持ってレストランを出て行く。と、そこで停電が起こる。

        電気が点くと、なぜかそこは時間が逆戻りしていて、最初のシーンに戻っている。男だけは最初の時間に戻っているのだが、他の人物は初めての時間というのが面白い。ここで同じことがまた繰り返されることになる。「ねえ、これ前にも同じことやったよね」と男は回りの人物に声をかけるが、みんな不思議そうな顔をするだけ。離婚届にハンコを押し、妻が出て行ったところでまた停電。

        電気がつくと、また時間が逆戻りしている。自分が結婚指輪を外したところで停電があったから、ようするにこれは離婚届にハンコを押さないようにすればいいということかもしれないと、回りの人間にも協力をしてもらって離婚しないように話を持っていく。ところがこれでもまた3度目の停電があり、また前に戻ってしまう。

        「くっそう! どうあっても同じところに戻ってしまうのか」と男はキレてしまう。怒りをぶつけてメチャクチャな行動を取る。「どうしても、このメビウスの輪から抜けられない」と言うと、「レストランから出て行けばいいんじゃないですか?」と言われ、「そうか」と実行してみれば、友人に連れ戻されてしまう。4度目の停電。

        どうしたらいいのかわからなくなってしまう男。離婚の原因は男の浮気にあるのだと思っていたのだが、妻は自分のことをわかってくれないということに不満を持っていたということがわかってくる。男と女はお互いを分かり合うということが大切なんだと気づいた男は、この繰り返される時間の中で、妻の気持ちをゆっくりと理解しようと思い始める。

        同じ話が何回も繰り返されるという構成は、失敗すると退屈になってしまう。それが、ところどろに笑いという工夫があって、まったく退屈しない。この劇団の公演は2年前から必ず行くようにしているが、笑いの質が私のツボにはまるらしく、いつも楽しく観る事ができる。その中でも今回のはベストだった。


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