Juiy.30,2005 上演中の大地震

7月23日 『キレイ 神様と待ち合わせした女』 (シアター・コクーン)

        5年前に上演された作品の再演。前回のはビデオで観たのみ。ケガレ役が奥菜恵から酒井若菜になるというので期待大と思っていたら、体調不良を理由に早くから降板決定。代演は鈴木蘭々と聞いて、大丈夫なんだろうかと不安を覚えたのだが、どうして始まってみると当たり役ではないか。ケガレの成人後のミサ役は南果歩から高岡早紀へ。これもいい。ハリコナAはそのまま阿部サダヲ。ハリコナBが篠井英介から岡本健一へ。篠井英介の代わりを出来る役者はいないだろうと思ったが、実際に観てみると違う個性があって、これもありだなと思えてくる。キネコは片桐はいり続投。よかった、よかった! ダイズ丸が古田新太から橋本じゅんへ。ふたりとも劇団☆新感線がらみからの客演(笑)。これも成功している。こういう演技パターンが欲しかったのかもしれない。マジシャンが山本密から宮藤官九郎へ。前の公演ではクドカンは目の見えないジュッテン役だったが、こちらの方がイキイキしている。ジョージ役の松尾スズキ、カスミ役の秋山菜津子も続投。ばんざーい!

        ビデオで挿入歌も耳にしていて憶えているから、歌のシーンも楽しい。5年ぶりなのでところどころ、いじってあるのでそれを見つけるのも楽しみ・・・・・と思っていたら第二部に入って4時35分。東京地方に震度5の地震。コクーンもかなり揺れた。さすがにそのときに舞台の上にいた役者さんたちもあせったらしい。なにしろ客席がザワついてしまっていて芝居にならない。地震が収まってから、芝居に戻ろうとするがどこから始めていいのかわからない。「動揺しましたよ」という役者さんのナマの声は本当に怖かったのだろう。なにしろ頭上に無数のライトが吊り下がっているのだから。ちょっと前の台詞から再開。

        終演5時30分。カーテンコールで宮藤官九郎がメモを取り出して、「JR線、東京メトロは全線運行を見合わせています」 そんな凄い地震だったんだ。「クドカンがそんなお知らせを言ってたよ」とあとで人に話したら、「すごいじゃない。それはブロードウェイでニール・サイモンが、交通情報を言ったようなもの」って・・・・・、違うかなあ(笑)。お客さんから「夜の部も演るの?」の声に、クドカン「演りますよ。ゲネプロみたいだろうけど」

        このあと、中野の古今亭錦之輔の独演会に回ろうと、とりあえずJR渋谷駅へ行ってみるが、やっぱり電車が止まっている。東京メトロも全滅。タクシーを拾おうにも空車なんて走っていない。バスという手を思いついて乗り場に行ったら中野行きは二系統あることがわかった。どちらかのバスに乗ろうと列につこうとしたら、どちらも長蛇の列。しかもどのバスもぎゅうぎゅう詰めで発車している。これにはあっさりと挫折。JRの駅に戻ったら東京メトロ銀座線は動き出したとのアナウンス。路線図を見て、銀座線渋谷駅から一つ先の表参道へ出て、ここから半蔵門線に乗り換えて九段下、そこから東西線に乗り換えて中野といルートを考え出す。表参道に出てみれば反対側のホームに半蔵門線の車両が止まっている。乗り込んで出発を待ったがなかなか動き出さない。待つこと1時間。半蔵門線はようやく徐行運転を始めた。九段下着7時40分。7時の開演時間をもう40分過ぎている。東西線はとみれば、いまだに動かず。この時点で負けた。錦之輔独演会はあきらめて帰宅することにする。

        先週は伊東四朗一座→『熱海殺人事件』のハシゴで大汗をかき、今週は地震で移動不可能。なんだかついてない。


July.26,2005 狂え! 狂え! もっと狂えよ!!

7月18日 大銀座落語祭
        『熱海殺人事件』 (博品館劇場)

        池袋サンシャイン劇場で伊東四朗一座を観て、仲間ふたりとコーヒーを飲んでいたのだった。今観たばかりの芝居のギャグを反芻してまた笑いだしたり、私はまだ観ていない『スターウォーズ・エピソード3』のことをあれこれ話して時間は過ぎていった。すると友人が言いだした。「これから『熱海殺人事件』へ回るんでしょ。まだ行かなくていいの?」 「大丈夫さ。開演は7時だから」 「えっ? 7時? もっと早かったんじゃないの?」 「そんなことないよ。7時って書いてあるよ、ほら、このチケットに・・・・・」とチケットを取り出して愕然としてしまった。チケットには5時30分開場、6時開演となっているではないか!! 何か勘違いをしていたらしい。腕時計を見ると、針は5時40分を指している。しまった! すでに開場しているではないか。池袋から銀座までの移動にどのくらいかかるか・・・・・少なくともあと20分では絶対に無理だとはわかる。しかし大枚5000円を支払って購入したチケットである。無駄にはできない。

        コーヒー・ショップを出て、仲間と別れて有楽町線の東池袋駅から地下鉄に乗って移動。乗っていても気持ちが落ち着かない。つかこうへいの『熱海殺人事件』は何回も観ている芝居だから、途中から観てもなんだかわからないということはないにしても、やはり気は焦る。有楽町駅で下車。地上へ出て銀座八丁目まで走る。その距離のなんと長く感じたことか。博品館のエレベーターで上に上がる。客席扉のところで案内係の女性が客席まで引率してくれた。席に座ってもハアハアと息は上がり、滝のような汗が体中から噴出す。いやな客になってしまった。反省。

        舞台に目をやると、まず目を引くのは木村伝兵衛役の柳家喬太郎。なんと和服姿なのだ。伝兵衛といえばタキシードを着た姿と決まっているものだが、和服とは意表を突いた演出。ひょっとしてお腹ぽっこりの喬太郎にタキシードは合わないと判断したのかと思ったが、和服は案外作戦勝ち。容疑者・大山金太郎役の劇団ひとりが、「和服か!?」とのつぶやきに、平然と「和服です」と答える喬太郎伝兵衛。これが決まっているのだ。つかこうへいの書いた台詞も、どこか落語に出てくる、べらんめい口調で喋ってみたり、はては机の上に座って回想シーンを落語にしてみたりと芝居を落語世界にひっぱりこんでの、喬太郎流『熱海殺人事件』に持ってきた。バージョンとしては『熱海殺人事件 ザ・ロンゲスト・スプリング』だろう。これをいくらか短縮版にしているようだ。なにしろ2時間以上かかるものが1時間45分で終わってしまった。しかも台詞のスピードが、つか演出のものと比べるとゆっくり。つかこうへいの芝居の特徴は長い台詞を、早口で叫ぶように喋らせる。客に聞き取れなくてもかまわないとばかり、そこに大音量の音楽まで被せてしまう。役者はその音楽に負けじとも、また大声で台詞を叫ぶ。そこが、つか芝居の醍醐味なのだが、この『熱海殺人事件』は私の観たもののなかでは、もっとも台詞が聞き取りやすいものになった。『熱海殺人事件』といえば、途中で登場人物が歌いだすというのも楽しみ。今回はなんとオリジナルには無い堀江淳の『メモリーグラス』。これが案外いい選曲になった。

        長いことつかこうへいの芝居を観ている者としては、やはりつかこうへいの狂気が喬太郎以外の役者に感じられないのが不満。劇団ひとりはまだいくらかその個性でひっぱっていけるのだが、まだ狂い方が足りない。熊田留吉刑事役の石井正則も普通の演技でしかないし、水野朋子夫人警官役の小川範子にいたっては、まったく失望してしまった。そういう演出意図なのだと言われれば返す言葉もないのだが、『熱海殺人事件』は元来狂った世界の話なのだ。それを普通に演技されてもなあ。喬太郎の狂気だけが光った舞台だった。


July.23,2005 笑いすぎて脳味噌がオーバーヒート

7月18日 伊東四朗一座〜急遽 再結成公演〜
       『喜劇 芸人誕生物語』 (池袋サンシャイン劇場)

        去年の伊東四朗一座旗揚げ解散公演『熱海迷宮事件』で、これが限りかと思っていた伊東四朗を座長とする、東京の喜劇を伝えようとする企画。まさか今年も行われるとは思いもしなかった。これはうれしい誤算。

        キャストは一部入れ替え。伊東四朗、三宅祐司、小倉久寛、東貴博が残り、これに渡辺正行、春風亭昇太が加わった。観終わってみるとストーリーの流れは前作とよく似ている。前作では時効寸前の痴呆症の容疑者(伊東四朗)の記憶を蘇らせるためにコントを演らせるといった流れなのだが、今回のは急激に歳を取ってしまう奇病にかかった娘の病気を治すために売れない歌手(伊東四朗)が、娘の前でコントをしてみせるという流れ。どっちも[無理矢理]なストーリーとしかいいようがないのだが、面白い芝居とコントを観られるのならば、なんでもありか。伊東四朗の売れない歌手という設定は『いい加減にしてみました2』での売れないオペラ歌手のキャラクターをそのまま持ってきた感じ。

        今回は奇病にかかった伊東四朗の娘役は日替わりゲストという形になった。娘役は17歳という設定にしてあって、何歳のゲストが出ても17歳と主張するのは無理があるというのが笑いどころになっているのだが、私の観た日のゲストはベッキー。1984年生まれだから、21歳か。これだと年齢差があまり無くて笑いに繋がり難かったのが残念。戸田恵子がゲストのときがあったそうだけど、是非戸田恵子で観たかった。鏡を見せられて、自分が17歳に見えると主張するところなどは、ベッキーでは「う〜ん、17歳に見えないこともないよな」と思ってしまうからなあ(笑)。

        今回も私の笑いのツボにはまって大笑いするところが多く、さすがに後半は笑い疲れ。ラストのコント2連発も、恒例・歌いだしちゃうコントも可笑しいんだけど頭の中の笑いの神経がオーバーヒートしてしまった。

        初日からまだ3日目とあって、やや段取りにもたついたところがあるが、それでも喜劇だから、それが笑いに繋がっているところもある。しかし何より伊東四朗のナマの姿を観らるだけで私は幸せ。年齢の問題もあって舞台公演はきついだろうが、最後の東京の喜劇人の姿、また観たいものだ。

        笑いつかれて、同行の友人ふたりとお茶していたのだが、しばらくして重大なことに気がつくことになる。        


July.18,2005 東京で上方落語をもっと聴きたい

7月16日 大銀座落語祭
       特別企画B 第一部 <色恋・西と東> 第二部 <上方の底力> (ガスホール)

        すぐに落語が始まるのかと思ったら、五明楼玉の輔が司会者として登場。第一部の<色恋・西と東>対決の金原亭馬生と桂千朝から、実録色恋話を引き出そうとする。どうやら、その道ご盛んらしい馬生師匠からは銀座のホステスさんとのことが披露される。「銀座のホステスさんから、『遊びにおいでなさいよ』って家のカギをもらいまして、ちょくちょく入り浸ってたんです。そのうち、『私、クルマが欲しいの』と言い出すんで、半分払ってあげたんですよ。そのときですね、隙をみてカギを取られたらしい。またホステスさんのところに行こうとしたら、カギがない。『カギを失くすようなら私に気が無いのね』って、クルマ代半分取られちゃってバイバイ」 千朝師匠は真面目な性格らしくて、「そういう話、おまへんのや。あとから出てくる4人のうちのひとりは遊び人でっせ。舞妓さんといい仲になって・・・・・」 「ヒントを」 「上は桂」 「桂ってふたりしかいないじゃないですか!」

        まずは金原亭馬生。マクラもなくスッと『お直し』に入った。古今亭志ん生のもので有名な噺。いわば古今亭のお家芸だ。それを、遊び人の馬生が見事に受け継いでいる。こういう噺を暗くならずに演れるというのは、やはりそれだけ遊びに長けているせいかもしれない。女郎に身をやつすおかみさんが色っぽいのだ。手錬手管をみせるクライマックスは、やはりホステスさん相手に授業料を払っただけはある(?)

        桂千朝「地方の温泉場行ったときのこと、芸者かコンパニオンでも呼ぼうかということになった。芸者3人呼んで、3人の歳を足すと254歳なんていうんじゃ嫌だから、コンパニオンを呼ぶことにしたんです。ところがこのコンパニオン、客をほったらかして自分たちだけで喋っている。『芸者呼べばよかったな』言うたら、『芸者呼んでも私たちです』って。着物を着てくれば芸者、洋服ならコンパニオン。もっと驚いたのは、朝になったら、きのうのコンパニオンが中居さんやってる」 長講の『立ち切れ線香』へ。どうやら小朝が、この噺を指定してきたらしく、この千朝の『立ち切れ線香』はいい。前半の笑わせ所で客席を沸かせ、中盤でしんみりさせ、クライマックスはさぞかし泣かせるんだろうと思っていたら、最後は軽く演っていた。このくらいの『立ち切れ線香』が聴いている側としては楽だ。

        仲入りで楽屋を訪ねる。第二部のハナで出る林家染二さんは、もうスタンバイして、いつでも高座に向えるような格好になって、廊下に立っていた。高座の前にあまり長居は悪いので、こちらから渡すもの、こちらに受け取るものの取り引きだけして、そそくさと楽屋を後にする。と言っても、怪しげな取り引きじゃないからね。

        「こちらが噺家だと知ると、待ち構えていて洒落を言い出す人がいますなあ。海外でJALの人に会ったら、『JALは、客室乗務員がスッポンポンの裸でサービスすることになりました。これが本当の着ない(機内)サービス』」 林家染二のネタは『軽業講釈』 神社の小屋がけ興行。講釈小屋では『おそ松くん』のイヤミに似た講釈師の講釈が今や佳境。すると隣の軽業小屋からはお囃子がドンチャカドンチャカ。講釈を演りながら下手の音のする方向を睨む様の可笑しいこと。テンションの高さ、噺のスピーディーな運び。東京でもファンが多いのは当然だろう。

        パイプ椅子が出される。トリで出るのかと思っていた桂ざこばが、左足首に包帯を巻いて出てきた。「一昨日や、大阪でごっつう雨降ってたんや。芝生のところでドサーッとこけまして。泥だらけになって家へ帰ったら嫁さんが『酔うてたんやろ』。ほんまに酔うてたんだから仕方ない。正座できるようになるまで全治三ヵ月だそうで、きょうは古典落語は勘弁してください」と、ざこば漫談『ざっこばらん』。「嫁さんの愚痴聴いてくれますか? 一緒にテレビ観てましたねん。ガラステーブルの上に、嫁さんが湯飲み茶碗ガチャーンって落としましてん。びっくりして『どないしたん?』言うたら、『手滑ってん』。普通、『ごめん、手滑ってん』とか『手滑ってん、ごめん』とか、ごめんという言葉が入るでしょ。それが上にも下にも、ごめんが無い。鯵の開きを貰いましてん。『焼いてくれ』言うたら、出来てきたのがコゲだらけ。『真っ黒けやな』言うたら、『うん、焼きすぎてん』。きょうも、上にも下にも、ごめんがついてこん。猪のコロッケいうもん、もろたんですわ。ごっつう旨いんで、三つだけ残して冷蔵庫にしまって翌日の酒のアテにしよう思うとったんですわ。翌日、『おーい、三つ温めてくれ』言うた。『レンジでチンはあかんで。油が出てきてヘニャヘニャになるさかいな。フライパンで温めるんやで』 嫁さんフライパンで温めてくれよったんやが、中がまだ冷たい。『このコロッケ、まだ中が冷たいやないか!』 すると大きな声で『なにー!』 『いや、なんでもない』 『なんでもなかったら、ゴチャゴチヤ言うな!』 引くのを憶えてしまいましてん。いや、憶えさせられたんやな」

        旭堂南左衛門の講談は『長短槍試合』。木下藤吉郎の人の使い方のうまさを描いた講談だ。それと同時に作戦勝ちでもある。真っ向からの突き組みに、横からの横殴り組と、脳天組の作戦は、まさかという気がするものの、スッといい気持ちにさせる。

        「親の七光りです」と登場したのは、桂小米朝。米朝の子供だ。いやいや、それは口だけ。このあと入った『はてなの茶碗』は、明るい芸風で、気持ちがいい。十分にトリにふさわしい高座だった。


July.17,2005 快治の『死神』のオチに座布団3枚!!

7月9日 深夜寄席 (新宿末廣亭)

        『バットマン ビギンズ』を新宿ピカデリーで観て出て来たら、まだ午後8時。食事を済ませてもまだ時間がある。外は雨だから末廣亭の前で傘を差しながら行列に並ぶのは嫌だなあ。紀伊國屋書店でぶらぶらと暇を潰していたら9時、閉店時間だ。『蛍の光』が流れてきちゃったよ。地下道を通って新宿三丁目の交差点へ。地上に上がったら、久しぶりに会う知り合いが声をかけてきた。地下鉄入口で立ち話をしていたら、あっという間に15分経過。最近の深夜寄席は混んでいるから、遅れていくと後ろの方の席しか無くなってしまう。雨の中、早足で末廣亭へ向う。ああ、もう開場してるぞ。席はあるかしら。本日出演の二ツ目さんに「もういっぱい?」と訊くと、「雨ですから、いつもより入りは悪いです」とのこと。なんとか真ん中あたりの席を確保。それでも9時30分の開演時は両側の桟敷にもお客さんが。

        「深夜寄席に初めていらした方はどのくらいいらっしゃいますか?」と三遊亭遊喜が客席に問いかけると半数以上の人が手を上げる。しかも若い人ばっかり。「最近は深夜寄席ブームでして、以前はいつも60人くらいしかお客さんがいなかったんですよ。深夜寄席のある土曜日には、夜の部のトリを取る師匠に、『深夜寄席の宣伝をお願いします』ってお願いしているんですが、最近では師匠方に『定席の方にも来てくださるに宣伝してくれ』って言われるんです」 遊喜は季節がらの『船徳』に入っていった。ふたりの客を乗せて徳兵衛が川に出る。客のひとりが太った旦那だというのが夏の暑苦しさを倍にする。「あなたみたいにブクブク太っている人が引きこもりになるとデブショーっていうんですよ」 ふう、暑い、暑い。徳兵衛がついにグロッキーになって、お客に降りて歩いてもらうことになる。川に足をつけたお客「ああ冷たい。いい気持ちだなあ。これだったらハナから歩いてくればよかった」と言うところでは、こちらも冷たい水に足を入れた冷やっこい感じがしてくる。徳兵衛は、やや逆ギレが凶暴(笑)。

        「お笑い芸人って明るいと思っている人が多いでしょうが、結構根は暗い人が多いんです。さんまさんにしろ、志村けんさんにしろ、普段は暗い。私も暗い性格なんです」 ひょろひょろと背の高い春風亭柳太郎を観ていると、そうかもなあという気がしてくる。普段はいいの。高座に面白いものを持ってきてくれれば。「高校時代は何のクラブ活動もしませんでした。2時35分になると学校を出て帰宅組。途中でマミーっていう乳酸飲料の紙パックを買って4時からテレビで『大都会』の再放送を観ていた。これを寝っころがりながら観る。マミーの紙パックを開けて、そのままの姿勢で飲むんですよ。不自然な姿勢だから顔にかかる。これが本当の乳浴」 このあと大学時代のサークルの思い出話から、『テレクラじいさん』へ。この人の新作はこれしか聴いた事が無い。もっといろいろ噺を持っている人なんだろうけど、めぐり合わせというのはしょーがない。

        一方こちらもクイズおたくの古今亭錦之輔。「『クイズミリオネラ』の予選に行って来ました。筆記試験と面接です。番組に参加する理由を訊かれるんです。借金を返す、あるいはリフォームをするにしようかと思っていたら、面接官『売れない落語家さんなんでしょ。普通の生活がしたいってことでどうですか?』 『アタック25』にも出たことがあるんです。落語家だと言ったら『着物で来て下さい』というんで着物で出たんですけど、なぜかテロップに出た私の名前は本名。これではクイズに真面目に取り組む真面目な青年、という感じになってしまった」 入ったネタが『さばいばるんるん』。特殊部隊に入った内藤くんは、秘密訓練を命じられてマンキンタン島のジャングルでの早朝訓練に参加することになる。仲間はと見渡すのだが誰もいない。やってきた教官はジャージ姿に麦藁帽子。緊張感がないといったらない。匍匐前進などの肉体訓練の他に、知識訓練まである。「大塩平八郎の乱は何年か?」 「1837年です」 この辺がクイズ好きの錦之輔らしい。この知識が何のためになるんだあ(笑)。やがて、突如現れたプレジタータイプのエイリアンと闘うことになるのだが・・・・・。この噺、タイトルだけは知ってたけれど聴くのは初めて。

        トリの桂快治『死神』が良かった。死神から足元に死神がいたら消せる呪文を教わった男。ただし枕元に死神がいたら、この呪文は通じない。蒲鉾板に[いしや]と書いておくと、すぐに患者がやってくる。「占い師にみてもらったら、こちらの方向に向った最初のお医者様のところへ行けとのことで伺いました」 「何ていう占い師だい?」 「細木という人なんですが」 「ああ、細木って、太ったおばちゃんね」 噺は快調に進む。枕元に座っている死神を騙して布団をクルリと180度回してしまうと、死神は「何だこりゃ〜!」と松田優作ばかりに消えてしまう。男の前に再び現れた死神、「もう少しで協会の理事になれるところ、前座に落とされちまったよ」 ここからオチに入るのだが、この噺、今まで多くの噺家が、いろいろなパターンを考えて来た。それを楽しみにするのがこの噺を聴く醍醐味。快治のものはロウソクを繋ぐことに成功する。と、同時に男は寒気を訴えるのだ。これは小三治版のクシャミオチかと思うとそうではなかった。楽太郎のものに近い。寒気を訴える男に死神が「なーに、家に帰って何日か寝ていれば治るさ」 すると男は「私は身寄り頼りのものは誰もいません。看病してくれる人なんて誰もいないんですよう」 すると死神が「おれが看病してやるよ、ちゃーんと枕元でな」 これはキレイなオチだと思う。おちゃらけにならずに不気味さを残しているし、枕元ということを伏線に使っているからだ。いやあ、堪能した。でも、おそらく『死神』を初めて聴いた若い人たちは、どう感じたのだろうか?


July.16,2005 香盤番外地

7月3日 落語教育委員会 (なかの芸能小劇場)

        開口一番の前座さんは、柳家小きち『松竹梅』。頑張ってね。

        「いよいよ名古屋場所が始まりますが」と始めたのは、かつて武蔵川部屋の力士だった三遊亭歌武蔵。「幕内力士は新幹線での移動になりますが、幕下力士は、相撲列車での移動になります。専用列車なんですが名古屋まで8時間くらいかかる。それが人数分の座席しかない。大きな力士に普通の人分の座席しかないというのが土台無理な話でしょ。東京駅で列車のドアが開くと、若い奴が我先に乗り込んで荷物を置いちゃう。ここは武蔵川部屋ってね。するとどうしても、名古屋まで立っていなきゃならない奴が出てくる。名古屋場所が始まると、そういう力士が『この野郎!』って・・・・・東京駅からすでに場所は始まっているんです」 この日のネタは『蛇含草』。元力士の大きな歌武蔵が演ると、大食いのネタは説得力がある。熱く焼けた餅を「ハフハフハフ、フーフーフー」と食べる仕種も妙に可笑しい。オチの「餅が甚兵衛着て座っておりました」の格好も歌武蔵だとまさに餅の塊に見える。身体を生かした噺だと思う。

        「日曜日の夜は、寄席でも、お客さん少ないんです。明日からのことを考えたら遅くまで落語聴いてらんないでしょ。(客席を見渡して)こんなに月曜日のことを考えない人がいる」 柳家喬太郎は『タイガー&ドラゴン』のことを語る。「楽しかったですよ。リアルですよ。いや、現実とはかなり違いますよ。いつも楽屋には一門しかいないとか、へんなところはたくさんあります。ドラマですから、破天荒な主人公が出てくるのはいつものこと。こういうドラマの場合、師匠がキチンとしているものなんです。ところがね・・・西田敏行の師匠役、普段はだらしないでしょ。あれがリアルなの」 う〜ん、さん喬師匠のことを言っているのかなあ(笑)。白鳥いじりまくりマクラから、ネタは珍しや『にゅう』。この古典落語、私は初めて聴いた。今となっては死語だらけの上に、かなり無理のある噺なのだが、喬太郎の手にかかると、あらあら不思議、爆笑落語になっている。恐ろしい人だなあ。

        「この世界には香盤というものが存在して、上下関係がはっきりしているものなんです。それが・・・歌武蔵、喬太郎・・・あいつらは私より香盤が下だというのに・・・冷たい後輩なんでよ・・・このあとあいつらと飲むのかと思うと・・・」 柳家喜多八がぼやく格好は、むしろ、そんな上下関係を超えた若手との付き合いを喜んでいるように見える。そんな喜多八のネタが『もぐら泥』。泥棒に入った先でさんざんな目にあう泥棒さんの姿が、後輩にいいようにされている喜多八にダブって可笑しい。

        上下関係の厳しい落語家の世界。でも、そればかりに囚われていては面白さも出てこない。相撲の世界とは違うんだから。


July.12,2005 復活!円丈作二席

7月2日 三遊亭円丈独演会 (横浜にぎわい座)

        円丈が、最近ではあまり演らなくなってしまった昔の作品を二席演るというので横浜まで出かける。こういう企画はうれしい。

        開口一番の前座さんは、三遊亭たん丈『やかん』。頑張ってね。

        三遊亭小田原丈が、たん丈のことを紹介してくれる。「43歳にして落語家になったんですから凄いですよ。私より年上ですから。なにが凄いって、43歳になって15分もある噺を憶えられたんですから」 そう言う小田原丈は今年の秋に真打に。「名前が変わるんです。なんという名前になるかというと、三遊亭丈二。ジョージですよ! なんで真打になって外人にならなくちゃならないんですか? これがわからない。丈二という名前は誰も使ったことがない。初代ですよ。つまりジョージ一世。この際、ジョージ三遊亭にしちゃおうかと思うんですが・・・」と、いつもの病気話から『必殺指圧人』へ。

        20年以上演っていないという三遊亭円丈自作の『ぺたりこん』。この噺、いまでは柳家喬太郎が受け継いでいるが、本家円丈のものをまた聴きたいと思ってた。円丈版は忘れていたのだが、こうやって聴いてみると、喬太郎は円丈のものを、ほとんど変えていなかったのがわかる。変えないでいて、喬太郎のは喬太郎らしさが出ていた。本家円丈版もさすがに高橋くんというキャラクターが円丈らしい悲哀さが出ていていい。「幻の名作と言われながら、やらなくなったのは、どこか欠陥があったから」と言っていたが、どうしてどうしてこの噺はよくできていると思う。定席に持って行っても受けると思うなあ。

        仲入り後は、こちらは5年ぶりくらいという『グリコ少年。私にとっては、かれこれ25年ぶりくらいだろうか。菓子パン、コーラ、カルピスなどの思い出を語りながら、駄菓子の話題へと移っていく。「駄菓子業界って聖職者だと思います。駄菓子屋さんのおじさんが子供に30円の菓子をひとつ売ったとします。儲けはせいぜい5円でしょう。10個売ったって50円。100個売ったって500円です。子供たちに夢を与える職業なんです。いわば駄菓子屋のオバサンはマザー・テレサ、おじさんはシュバイツアーですよ。いまや女子高生が援助交際で簡単に3万円手にする。駄菓子で3万円稼ぐのは大変なことですよ。子供が金を手に入れる手段は昔は牛乳配達か新聞配達と決まっていたものです。さらに昔は女の子はマッチ売り、男の子は各兵衛獅子と決まってました」 そう、あの時代、小中学生がアルバイトで金を稼ぐなんて簡単には出来なかったもなのだ。私も親からもらった何枚かの10円玉を握り締め、駄菓子屋へ行くのが最大の楽しみだった。グリコのオマケつきキャラメル駄菓子屋の菓子よりもいくらか高く、めったに買えなかったものだけど・・・・・。円丈の菓子話はまだ続く。「ぼくらの世代は脱脂粉乳と渡辺のジュースの素で育ちました。両方とも解説しないと今やわからない。古典落語ですね。脱脂粉乳。戦後、子供のカルシウム、たんぱく質不足を補うためにアメリカから輸入して学校給食に使われた食品。アメリカでは牛や豚のエサでした。ブタからエサを奪っていたのでした。渡辺のジュースの素。水を注ぐだけでジュースができる粉末ジュース。これも無くなりました。成分がチクロ、ズルチンなど、体に悪いものばかり選抜して入っていた」 やがて親からは粉末ジュースは飲むなと謂われるになったけれど、粉末ジュースの安っぽい味は瓶に入ったジュースよりも甘い誘惑があったなあ。そして話はいよいよキャラメルへ。「今、キャラメルってあまり食べられなくなりました。コンビニへ行ってもグリコが無いんです。美味栄養菓子、一粒300m。一里飴というのもありましたが一粒4Km。長すぎます。コンビニにはなくて12軒目、スーパーの棚にグリコはありました。全盛だった花魁が落ちぶれて乞食になったよう。まるで『千早振る』。中年太りのおじさんたち。今や元気なのはグリコのバンザイおじさんだけじゃないでしょうか。そんなとき、『おじさん、まだ私がいるわよ』と声がします。ペコちゃんです。不二家のミルキー、品質改良がなされました。今のミルキーは歯にくっつきません。カバヤキャラメル、虫歯が怖くてキャラメルが食えるかとカバが言っているようでした。ウインターキャラメル、なぜか冬にしかなかった。明治サイコロキャラメル、子供に博打をあおるキャラメルでした」 ああ、なんて懐かしいんだ。ここで円丈は持参したキャラメルを客席に撒き、恒例の一粒300m走・・・・・って、さすがに還暦を迎えた円丈師、楽屋に向って小走りに去っていった。昔、ホール落語で客席の通路を走り回っていた円丈師も、さすがに歳をとった感じ。それでもこの噺、いつまでも続けて欲しいなあ。 


July.9,2005 屈折した男は嫌いですか?

6月26日 花形演芸会スペシャル
       平成16年度花形演芸大賞 受賞者の会 (国立演芸場)

        開口一番、前座さんは柳家さん作『真田小僧』。頑張ってね。

        銀賞受賞鏡味仙三の曲芸。この人の太神楽は、教えられたものにひと味工夫のあとがみられるのがうれしい。傘の上で回すものには、鞠、枡ときて、なんと蚊取線香まで回した。「完全な円ではない上に壊れやすい。蚊取線香だけにキンチョーします」 ビール瓶の取り分けも、かなり高度な技を披露。お馴染み五階茶碗も最後に仙三スペシャルがきれいに決まった。

        同じく銀賞受賞の三遊亭金時。「最近の噺家は大学卒が増えました。中でも多い学閥は早稲田。五街道喜助なんて人は二浪して早稲田に入って、一年で中退して噺家になった。かと思うと、農大出の噺家までおりまして、なんで農大から噺家になったんだろうと思ったら、園芸と演芸を間違えた」 ネタは『青菜』。本寸法のきれいな『青菜』だった。

        金賞受賞はポカスカジャン。ワールドミュージック特集。『ローマ法王ヨハネパウロ二世の邦楽』 『大伴家持のアフリカン・ミュージック』 『俺ら東京さ行くだボサ』 『津軽ボサ』 圧巻は『江原啓之のヨーデル』。省吾はいろなん人に似ているが、なるほど江原啓之とはねえ。シメは『魚市場フラメンコ』。

        ここでゲストの柳亭市馬。なぜ市馬がここにと思ったら、このあとの表彰式の司会進行役をするのだそうな。ネタは『堪忍袋』。今年の初めにも市馬の『堪忍袋』には遭遇したっけなあ。韓流『堪忍袋』ね。それにしても市馬が袋を縫う仕種をしてみせる手ぬぐいが、実にきれいな色あいでカワイイ。その袋を縫うおかみさんの手つきも実に鮮やか!

        仲入りを挟んで、いよいよ表彰式。表彰状と賞金の授与に続いて京須偕充氏による講評。ひとりひとりの受賞者を持ち上げるとみせては、突き落とし、突き落としたかとみせてはまた持ち上げる、その達者な話術にはびっくり。司会進行役の市馬も、「この話術は見習わなければ」

        このあと各受賞者に市馬がインタビューをして回るのだが、まさに適役。こんなに司会が上手い人だとは思わなかった。

三遊亭金時
市馬 「去年は芸術祭新人賞も受賞なされましたね」
金時 「お電話をいただいたときはイタズラ電話かと思いましたよ。今まで幸せが少なかったので、これから来る不幸が怖い。『冬のソナタ』のような気持ちになってます」
市馬 「どんな不幸が来ると言うんですか! ・・・・・そういえばお父様の金馬師匠も75歳・・・・・」(笑)
金時 「77歳です」
市馬 「・・・・・ますますお元気で」(笑)

鏡味仙三
仙三 「私の出身地は甲府でございます。甲府と言えば武田信玄の故郷。これまで以上にシンゲンにやりたいと思います」
市馬 「仙三! 噺家以上にうまいこと言うな!」(笑)

林家二楽
二楽 「この賞は、僕じゃなくて、このOHP(オーバーヘッドプロジェクター)が取ったんじゃないかと」(笑)
市馬 「今、お宅が大変なことになってるそうじゃないですか」
二楽 「ええーっ! そのこと話すんでかあ。・・・金賞を取ったというファックスが来たときに、うちのカミサンが、『これでエアコンつけてちょうだい』って。今、我家では電気屋さんがエアコンを取り付けている最中」(笑)

ポカスカジャン
市馬 「こういう色物が寄席に出てくれるとうれしいんですが。是非、落語協会に入ってもらいたいですね」
大久保 「さっきから楽屋で『入れよ、入れよ』って盛んに言われているんですが・・・・・真剣に訊きますよ。入ったら仕事増えるんですか?」
市馬 「いや、それは受けあえません。むしろ減るかも」(笑)
大久保 「ボーイズ協会とどっちがいいですか?」
市馬 「う〜ん、それも、何とも言えない」
大久保 「(真顔で)本気で考えますよ」(笑)
市馬 「歌い手が足りないときは、私を入れてください」(笑)

柳家三太楼
三太楼 「賞金を貰ったことは、うちのカミサンには内緒にしておいてくれませんか」
市馬 「てっちゃんに電話しなければいいのね」
三太楼 「そう、あなたがしなければ大丈夫なの」
市馬 「でもいずれバレますよ。2年連続で金賞、金賞。来年は大賞を狙いたいでしょ」
三太楼 「昨年金賞で、今年は大賞と思ってたんですが、去年銀賞だった喬太郎に持っていかれた。来年、金三つで大賞ってわけにはいかないんですか?」(笑)

柳家喬太郎
喬太郎 「大賞五つ取ったら、小さんになれるんでか?」
市馬 「あなたたちねえ、いくつ取ったらという発想は止めなさい!」(笑)

        爆笑の授賞式のあとは柳家三太楼の高座。「今、楽屋で大変なことになってます。賞金が3で割れないんですよ。ポカスカジャンさん、本当にもめてました」と、そのままこれまた爆笑の渦に誘い込む『宗論』へ。

        林家二楽の紙切り。お客さんのお題は、『電車男』 『七夕』 『朝顔市』 さすがに『電車男』は難しいらしく後回しで、まずは『七夕』から。この季節にはよく出るお題らしく、鋏さばきも快調。「別に楽屋の仲間を信用してないわけじゃないんですが、楽屋に賞金を置いてきているんですよ。懐に入れて持ってくればよかった。紙を切っている場合じゃないんです」 七夕のお飾りもちょっと寂しいけれど短時間に切るには仕方ないやね。『朝顔市』の鉢植えも、売れに売れて、残った鉢は三つだけ(笑)。問題は『電車男』。「駅員さんじゃだめ?」 「と゜ーしても切らなきゃだめ?」を連発しながらも鋏を入れ始めた。二楽の紙切りは異様に喋りが多いのだが、さすがにこの難題となると言葉数が減る(笑)。それでも切り上がったのは、オタク風の青年と、マドンナのエルメスが電車に座っている図。お見事! OHPを使った二楽劇場は二本立て。バックで音楽を流し、次々と切り絵をOHPに乗せてストーリーを作っていく。1本目は「花田兄弟に贈る」との前置きで、『帰らざる日のために』を流しながら、『どすこい!青春』。フンドシ担ぎの若い相撲取りと、そのイジワルな兄弟子のガールフレンドを賭けての大勝負。勝敗はいかに!? 2本目は『ふれあい』を流しながらの貧乏な青年と棄て犬の物語。2本とも音楽にぴったりの感動ドラマだ。

        大賞受賞の柳家喬太郎が出てくると、「日本一!」という声がかかった。それには軽く「そんなに期待するとガッカリするよ」と返す。そのへんが喬太郎らしさ。白鳥いじりの、O−157ネタとラクゴマンネタで笑いを取ってから『すみれ荘二○一号』へ。挿入曲『東京ホテトル音頭』の部分にさしかかると、「自分でも歌ってもいいのかどうか・・・授賞式ですよ・・・池袋でもないし・・・これを歌ったことによって大賞取り消しなんてことになったりして」 ひとしきり歌ったあとも、「花形演芸大賞もらいましたが、オレって、こういう芸人なんですよ。来年はもっとホン寸法な落語家さんに賞を取ってもらいたいもので・・・これを本番で演ってたら絶対に大賞取ってないですよね」 こう言うと客席は爆笑と大きな拍手。こういう自虐ネタはまだまだ続く。クライマックス、ふたりとも落研だとわかっての別れ話のくだり。「知ってたんだよ、隠れて『タイガー&ドラゴン』観てたでしょ」 「ああ、長瀬が最終回に近づくにしたがって、だんだん落語が上手くなっていくのな」 「1回目の『三枚起請』から最終回の『子は鎹』まで、あの中のネタで何かできるのある?」 「・・・・・オレは新作だよ」 「信じられな〜い! 落語は古典だよ!」

        大賞を取ったという照れを微妙に隠す表現方法が喬太郎の場合屈折してるんだなあ。『すみれ荘二○一号』は落語好きの人間は屈折しているからと彼女に振られる噺。それでも私はまっすぐな人間よりも屈折している人間の方が信用がおけるのだが・・・・・。


このコーナーの表紙に戻る

ふりだしに戻る