August.30,2005 志の輔は本当に喋ることが好きで好きでたまらないみたいだ

8月21日 志の輔らくご21世紀は21日 (明治安田生命ホール)

        開口一番は立川志の八『唖の釣』。頑張ってね。

        立川志の輔の一席目は、徳島の阿波踊りを観に行ったというマクラから始まった。話好きな志の輔だから、もう始まるのが徳島への飛行機の話から始まる。ちょっと機体が揺れると機長がアナウンスするのだが、それが喋りすぎたという話から、徳島で旨いうどんを食べた話などを経て、ようやく阿波踊りの話になる。それらの話が話す事の名手志の輔にかかると、まったく退屈しないで聞き込んでしまうのだから、志の輔の落語はやめられない。阿波踊りも志の輔なりの分析が続くのが、これまた面白い。ここまででも相当に長い時間喋っていたのだが、ここから徳島を舞台にした落語がひとつだけあると、『田能久』へ。入ってからでもアクターズ・スクールの演技論などの話を織り込みながら、丁寧に『田能久』を演っていく。ぎっしりと詰まった一席という印象がある。

        立川志の輔二席目は衆議院議員選挙の話から、師匠談志の選挙演説の応援カーに同行させられたという爆笑話から、談志から指導者と代表者の違いということを教えられたという話から、東野圭吾原作の『しかばねの行方』へ。死体の擦り付け合いというブラック・ユーモア編。前に釈台を置いて、ラスト近くのアクションを講談調で。なるほど、この調子で『たがや』あたりも講談調にしてみたら面白いかも。

        「この会は、完成形の志の輔ではありません。いわば[闘う志の輔]、[遊ぶ志の輔]なんです」というご本人なのだが、志の輔の魅力は実は、こういう今、何を喋りたいのか、何を伝えたいのかという内から込み上げてくる志の輔の思いを受け止めることなのではないだろうか。       


August.28,2005 当日券一番勝負

8月20日 『新吾十番勝負』 (三越劇場)

        三越劇場に石橋雅史さんが出ているという情報を入手。慌ててコンビニのチケットぴあの端末に接続してみれば、チケットは完売状態。こうなると当日券を頼りにするしかない。三越本店本館10時開店を外で待ち、開店と同時に飛び込む。店員のお姉さま方が最敬礼しているのを横目で見て、エレベーター乗り場へGO! エレベーター・ガールからも「いらっしゃいませ」の挨拶を受ける。「6階へお願いします」 「かしこまりました」 6階で降りると同時に三越劇場の窓口に走る。一番乗りだ。「当日券ありますか?」 「はい、ございます」 良かったあ! 後ろの方の席ではあるが、とりあえず観る事はできる。

        11時開演だから、まだ時間がある。地下の食料品売り場をうろついていたら、新宿のアカシアがイートインを出店していることに気がついた。朝食もまだだったので、ここで名物のロールキャベツを食べる事にする。席に着いて、もらってきた『新吾十番勝負』のチラシを観るが、石橋さんの写真も名前も載っていない。なんでも急なご出演決定だったらしい。まだ早い時間帯なので、お客さんは私ひとり。のんびりと食事を取り、チラシを隅から隅まで読んでから、そろそろ行くかと腰を上げる。

        チラシに名前が無いのにも関わらず、三越劇場の入口には竜小太郎、三浦布美子に続いて三番目に石橋雅史の名前が出ている看板があった。客席は、90%くらいオバサマばかり。流し目のスナイパー竜小太郎のファンらしい。残りの10%程度が、そのオバサマのご亭主とおぼしき男性と、なぜか若い女性。男ひとりで観に来ている私のような存在は完全に浮いてしまっている。

        第一部が『新吾十番勝負』で、第二部が歌謡ショー『竜小太郎の世界 艶くらべ』。それぞれ1時間15分ずつという構成だ。問題はあの長い話を1時間15分でやってしまおうというのに、そもそもに無理がある。結構複雑なストーリーなのだから、この短い時間に収めようとすれば、どうしても端折りまくらなければ終わらない。出演者が、どんどんモノローグで話を進めてしまうので、この話を知らない人は、気を抜くと、置いてきぼりをくらう。

        石橋雅史さんが出てきたのは、45分ほどたってからのこと。石橋さんは武田一真役だった。いわば新吾の敵役。憎々しげな悪役を演らされるのかと思ったら、新吾の前に現れたのは、新吾の先生梅井多聞と尋常に勝負して多聞を倒した、正しい佇まいの剣豪。多聞の亡骸を埋葬し、遺髪を新吾に渡しに現れる。この舞台の武田一真は、およそ悪役ではない。しかも石橋さんが演ると、もうその佇まいが武道家そのものだから、存在感が違う。

        このあとは、石橋さん久々の殺陣の場面が用意されている。御前試合での新吾との対決。これがもう、客席から観ていると、どう観ても石橋さんの武田一真の方が強そうなのだ。新吾に敗れて立ち去る武田一真の姿も実に、礼儀正しい武士の姿。いい役持っていっちゃたなあ。

        第一部が終わったところで、石橋さんの楽屋に陣中見舞い。「突然のご出演でしたね」 「そうなんだよ。初日が開く20日前だったかなあ。突然にプロデューサーから電話があってね」 「久々に石橋さんの殺陣が観られてうれしかったですよ」 「うん、ボクはもう歳だから、若い役者さんに動いてもらって、ボクは受けるだけ」 「でも、石橋さんの方が強そう」 「ははは、そうですかあ?」 このあと、私が来年密かに計画している企画を石橋さんにお話する。快諾をいただいて、詳細は後日ということで、楽屋を後にする。第二部の歌謡ショーはパス。不思議なことに歌謡ショーだけ観るというオバサマも多い。リピーターなんだろうなあ。芝居はもういいから竜小太郎の歌謡ショーを観たいという人なんだろう。私は、石橋さんの出番が終われば、あとはいらない。


Augiust.21,2005 栄助が今、来ている

8月14日 新・落語21 (プーク人形劇場)

        前日に続いて、またもやプーク人形劇場に足を運ぶ。前日はSWAにお客さんを取られたのか、やや客席が寂しかったが、この日は入りもいい。

        この日の前座も快楽亭ブラックの元から、立川志らく門下に移ったブラ汁が、立川らくBという名前で高座に上った。お笑いライブを目指す若手漫才師。発表会前日に相方が辞めてしまう。公園で呆然としていると、ネズミの人形が落ちている(プークの人形を上手く使った!)。彼はこの人形を腹話術で漫才の相方として使うことを思いつく。果たして、このアイデアは成功。彼は腹話術漫才師として名を上げていくが・・・・。『腹話術人形』。割とありがちな展開なのだが、奇妙な味わいの好編。

        「これから演ります新作落語は、ある古典落語のオチと同じです。決してパクリと思ってはいけません。天どんくんも、よくそこまで来たなと思ってください」と三遊亭天どんが始めたのは『渋谷の交番』。渋谷駅前の交番。3人のお巡りさんが詰めているが、やってくるのは道案内ばかり。「PARCO? 上見てりゃ、嫌でも看板が目に付くよ!」 「ジャンジャン? 潰れたよ。今は喫茶店」 「109? そんなの自分で頑張って探せ!」 こんな乱暴な交番なのだが、肝心のオチはというと、う〜ん、元ネタになった古典が唐突という具合に出てくるのだが、なんか汚らしいオチだね(笑)。

        この日の一番のデキは、春風亭栄助だろう。しかし『怪談話し下手』の面白さを文章で書くのはいささか難しい。中学生が合宿の夜に自分の知っている怪談噺を披露しあっている。ころは怪談噺の名手伊藤くんが得意の怖い話を終えたところ。そこへ青木くんが割って入る。「怪談噺くらい、オレだってできるよ」 「ほう、そうかい。じゃあ演ってよ」と話を向けると、なかなか話し始めない。「じゃあ、話すけど、怖い話好きなの? なんでなんで!?」 「だから好きだから話せって言ってるの!」 「じゃあ話すけど、これは叔父さんから聞いた話なんだけどね・・・・」とこれから叔父さんに関する説明が延々と始まってしまう。「叔父さんの身の上話なんてどうだっていいんだよ。ははあ、お前実は、怖い話知らないんだ」 「そんなことないよ。喋りますよ」 「早く喋れ! バカ!」 「あっ、怒ってんの? そんなこと言われちゃうと、とてももう怖い話なんて出来る状態じゃない」 のらりくらりとなかなか怖い話が始まらない。キレる聴き手と逆ギレする話し手という関係が妙に面白いのだ。古典の『長短』にも似た味わいとでもいうのだろうか。いいぞ、いいぞ、栄助来ているね。

        春風亭昇輔はコミケの売り子をして来た帰りだというマクラを結構長く演ってから『コンビニ地球家族』へ。夜中にタクシーの運転手と喧嘩して知らない土地で降ろされた男。始発が動き出すまで、目に付いたコンビニで時間を潰そうとするのだが、ここは徹底したエコロジー・コンビニ。レジ袋を出さないのはもちろん、雑誌は拾ってきたものを再利用。おにぎりはひとつひとつその場で握って渡してくれるのだが・・・・。いつかこんなコンビニが出来るかも(?)

        神田茜は、魔法戦隊マジレンジャー・ショーを子供と観に行ったというマクラから『初恋閻魔』へ。ことオバサンものを演らせたらこの人に敵う人はいないのではないか。貸衣装屋の閉店セールの混雑で圧死した主婦が、閻魔様の前に連れて来られる。生前の罪状を閻魔帳を見て問い正される。「その方、サイズの合わない下着を無理矢理、試着室で着て破いてしまい、そっと売り場に戻したであろう」 「不良品を指摘してあげたのよう」 「その方、スーパーのメロンに穴を開けてしまい、そっと戻したことがあるであろう」 「いたんでたのよう」と、まったく罪を認めようとしない。一方的に「私は悪くない」と主張するのである。このへん、オバサン心理を突いているなあ。まったく罪を認めようとしない中年女性に閻魔は、学生時代に好きだった男の子の傘を隠して、自分の傘を貸してあげようとしたという罪を持ち出すと、この女性、コロッと罪を認めてしまう。オバサンも初恋の思い出には弱いという弱点を発見した閻魔は、次からもこの手で対処していくのだが、やがてミイラ取りがミイラになっていくという噺。なかなかオバサンの図々しさって男では表現が難しいのだよ。そこへいくと本物のオバサンの茜は・・・・ってごめんなさい。

        こらくごちゃんでも春風亭栄助は群を抜いていた。『ひっかけ問題』という運転免許の○×問題集ネタなのだが、だんだんへんな問題が出されていく。「送りハンドルはいいが、送り狼はギリギリ、セーフ」 「走行中の涙は似合わない・・・・・これは×ですね。湾岸をハンドルを握って走る仲間由紀恵に涙は似合う」ってなんじゃ、こりゃあ(笑)。わかるけど(笑)。

        三遊亭天どんの『お父さんを誘って』 これは去年の暮に国立演芸場『円丈再生』のときに『合コン父さん』として演っていたもの。狂い咲き父さんの話だが、前回は途中で時間切れだったが、今回は最後まで聴けた。

        柳家小権太は立ちひとりコント『ピーポお兄さん』。ある幼稚園の交通安全教室。ピーポくんの到着が遅れているので、時間繋ぎに若いお巡りさんが、交通安全教室を演るというもの。信号機の意味を幼稚園児と一緒になって考えるという設定。これもなかなか面白い。こらくごちゃんは、短い時間をどう使うかが勝負なのだが、落語というものこだわりすぎるよりも、こういうひとりコントの方が有利。

        柳家小ゑん『牡丹灯篭42.195』は、『牡丹灯篭』を換骨奪胎してきたものか(笑)。青物横町のマンションに引っ越してきた大学生。毎夜、品川方面からカランコロン、カランコロンと下駄を履いたマラソンランナーが走って来る。マンションの前の木に登って大学生の部屋の窓のところまでくると「うらめしや〜」と言って川崎方面に去っていく。これは実は大学生の母親お露の昔の恋人新三郎の幽霊。お露はなんとかこの霊を成仏させてやろうと考える。小道具の出し方も上手く、なかなか感動的な噺になった。

        前日のSWAのチケットが取れずにいたものの、三遊亭白鳥は、SWAで演った『幸せの黄色い干し芋』をかけてくれた。もうすぐイタリアに旅立ってしまう神田山陽にちなんだ噺というのが今回のテーマだったようで、白鳥は一度行った事のない山陽の故郷、北海道を舞台にした噺を作り出した。尾崎豊のようなビッグなミュージシャンになる夢を持った男とその友人、高校の女教師、北海道でさつまいもを栽培することを決意した女の子カズミちゃん。10年後にビッグになって帰ってくると約束した男だが、やがて20年の歳月が流れる・・・・・。どうも白鳥さんの頭の中にある北海道というのは、『北の国から』 『幸福の黄色いハンカチ』 流氷、トド、そしてなぜかUFOらしい(笑)。唐突にファンファンファンファン ピポポピポポピポポピポポと現れるUFOが爆笑を巻き起こす。大団円に持ち込むストーリーテリングの冴えは、やはり白鳥ならでは。

        白鳥の出来立ての新作も拾えたし、それに、栄助が今、来ているという手ごたえを感じてうれしい帰り道だった。栄助、入門が遅れてまだ二ツ目だが、世代でいくと喬太郎たちと同じ。案外、栄助あたりが次の台風の目になるのではないか。


August.17,2005 ここでも『ガーコン』

8月13日 新・落語21 (プーク人形劇場)

        前座は立川三四楼。はて、聞かない名前だと思ったら、出てきたのは快楽亭ブラッC。快楽亭ブラック門下から、立川談四楼門下に移って、快楽亭ブラッC改め立川三四楼になったのだそうだ。人間とは物を集める習性があるということから、ビックリマン・シールを集めていた思い出話になり、落語ブームからカルビーがポテトチップスに落語カードを入れて売り出す『落語家チップス』という噺を作り上げてきた。前座カードばかり多くて、なかなか名人級の真打カードは手に入らないなんて設定は可笑しい。うん、そんなカードをポテトチップスに入れてくれたら、私も集めまくるかも。

        桂花丸はなんと坊主頭になって出てきた。なにかしくじったのかなと思ったら、やっぱりそうだった。なんでも東海道線の網棚に師匠桂歌丸の鞄を忘れて来てしまい、熱海まで取りに行くはめになったとのこと。「車内で落語の稽古をしていて、ついつい忘れちゃったんです。どうしたらいいだろうかと、サラ金で200万円借りて、師匠に差し出したら、『お前から金貰うほど落ちぶれちゃいないわ!』って怒られまして・・・、そのときに稽古していたのが『旅行カバン』っていう噺なんですから、因縁なんですかねえ。それで坊主にしてまた謝りに行ったら、『俺に対する当て付けか!』ってまた怒らせちゃって。本当のところ、床屋で坊主にしてもらうときに泣いちゃったんです。そうしたら理容師さんが『出家されるんですか?』って」 ネタは父親が会社に提出する書類と、小学生が学校に提出するアンケートが逆に書き込まれてしまい、それぞれの提出先で大騒ぎになるという『アンケートの行方』。入れ替わりパターンのギャグだか、なかなか面白かった。

        川柳つくし。33歳になる斉藤さんが25歳と歳をごまかして、合コンで知り合った21歳の山田くんとデートする『年下の男の子』。後輩のしおりさんは斉藤先輩に本当の歳がバレないようにレクチャーする。「カワイイなんて言葉使っちゃだめですよ。カワイイというのは上から見た言葉なんです。カッコイイにしてください。山田さんは音楽が好きだそうですけどカラオケは危険ですからね。歌っていいのはね大塚愛とか一青窈。せいぜいモー娘。か平原綾香か宇多田ヒカル。古い歌手の歌なんて歌ったらバレバレですからね」 「そんな人の曲ひとつも知らないもん」 なんだか東京ボーイズ状態(笑)。

        古今亭錦之輔『ワルの条件』が面白かった。チーム・オクトパスなる暴走族に入ろうとしている男がいる。族のカシラは次々と質問を浴びせる。「回転寿司で好みのネタを注文できるか?」 「できます」 「すげえじゃないか。勇気がいることだ。店内の静寂を破るんだからな。しかも板さんに無視されるという危険を冒すことになるんだからな」 他にも「イタズラ電話ができるか?」 「キセル乗車ができるか?」 「拾ったお金をネコババできるか?」 「二八そばの値段を一文ちょろまかせるか?」(笑)などなど。どこかワルのイメージにしては、へなちょこっぽい。実は・・・・・という噺。オチもうまく伏線が効いていていい!

        川柳川柳は3年ぶりのこの会だそうだ。自分が書いた本のこと、バレ噺を集めたカセット・テープの宣伝だけで、かなりの時間を潰した。「受付でテープ売ってるから買ってよ」って、セールス・トークじゃん。続いていつもの『ガーコン』へ。もう〜、これしか演らないんだから、この人。ふう。

        仲入り後は、こらくごちゃんコーナー。川柳つくしは立ちで、ひとりコント『やめてください』。満員電車に乗り合わせたつくしが痴漢に会って「やめてください!」を連発するのだが、だんだん様子が変わってくる。「やめてください! CDのことをシーデーというの、やめてください!」 「やめてください! やっぱ、落語は古典だねって言うの、やめてください!」 「やめてください! 今、畑に取りに行ってるって言う、レストラン・ギャグ、やめてください!」 「やめてください! 寄席で毎日同じネタ演っているのに、ここに来ても同じネタ演るの、やめてください!」 ふはははは。

        桂花丸は、電気を消して懐中電灯1本で『怪談噺』。でも、そんなに怖くない(笑)。

        こらくごちゃん1本にかけてきた三遊亭福楽は、自分の名前に因んだのか、フック星のフック星人による落語『フック楽一門会』。なぜかフック星人は額にフックがついている。なんだ、これ(笑)。

        夢月亭清麿『バスドライバー』を久しぶりで聴けた。ワンマンカーに乗ってきた酔っ払いが一万円札を運転手に渡すと、他の乗客を無視して目的地まで突っ走る噺。時間が押しているせいで、かなりの短縮版なのが惜しい。

        トリの三遊亭円丈は、「女は愛と憎しみで生きている。男は友情と裏切りなんです」と前置きして、韓国ドラマ、『冬のソナタ』 『天国の階段』の解剖。なるほど、韓国ドラマっていうのは、男と女の大原則を元に作られているのがわかる。それにしても韓国ドラマを観たいとは思わないのだよなあ、私。時間が押しているので、ネタは短めの『ランゴランゴ』

        会場を出ようとしたら、受付でつくしさんが、川柳が言っていたバレ噺を集めた落語のテープを売っていた。去年の秋の翁庵寄席のお礼を述べて、せっかくだからと1本売っていただく。錦之輔さんともちょっと立ち話をして帰途につく。地下鉄の中で買ってきたばかりの川柳川柳のテープをジッと見ると、120分テープにどうやらご本人が手書きで1本1本タイトルを書いているらしい。『川柳のヰタ・セクスアリス』 『楽屋助平列伝』 『ラ・マラゲーニヤ』 『間男アラカルト』 『東宝オ××コ事件』 『金魚ホステス』 眠れない夜はこれを聴くことにしようかな。寄席ではもう『ガーコン』しか聴けないのかなあ。


August.13,2005 暑い、熱い、円朝まつり

8月7日 円朝まつり (谷中全生庵)

        毎年、谷中の全生庵というお寺さんで開かれている、落語協会と落語ファンとのお祭り、円朝まつりには、いままで一度も行ったことがなかった。理由は、夏の真っ盛り、あの暑い炎天下を歩くのが嫌だというただそれだけのこと。今年も円朝まつり当日は暑かった。パスかなあと思ったが、朝からいくつかの用事をこなし、今年こそ、よし、思い切って行こう!

        千駄木の駅に着いたのが午後3時。まだまだ暑い時間だ。全生庵までのゆるやかな坂を登って行くと、円朝まつりからの帰り客と、どんどんすれ違う。人気あるんだなあと思ったのだが、あとから聞いたら今年は例年をはるかに上回る人出だったそうだ。『タイガー&ドラゴン』による春からの落語人気、前日の『アド街ック天国』で円朝まつりが紹介されたことも拍車をかけたようだ。午前中から昼過ぎまでは入場制限があって行列を作って待たされたのだとか。この暑さで行列はさぞや辛かったろう。

        入口のところで、三遊亭円龍師匠の姿を見つけた。ひとしきり、共通の知り合いの弔いに関して語り、『円龍のそば行脚』に取り上げてくださったお礼を述べ、翌月に行われる独演会のことなどを教えていただく。私が4年まえにこのコーナーで書いたことをしっかりと憶えておられて、皮肉とも取れることもチクリ。慌てて逃げるように境内へ。各テントを冷やかして歩く。疲れたなあと思い、とりあえず円朝の墓にお参りしなればと、寺の裏にある墓場へ。円朝の墓は奥まったところに安置されていた。



        手桶で墓に水をかけて、お祈りを捧げる。円朝あっての今の落語界の賑わいだ。さぞや、円朝も草葉の陰で喜んでいるに違いない。

        何か買おうかと思ったが、この時間ではあらかた売り切れ。三遊亭小田原丈さんがバーテンダーの格好をしてシェイカーを振っている。もう汗びっしょり。私も一杯作ってもらうことにする。AB型血液の、のぼるくんの悲劇を描いた『1パーミルの恋人』の話を思い出し、「私もAB型なんですよ。AB型は二重人格なんかではなくて、平和主義者なんですよ」と話すと、小田原丈さんも「そうですよね」と相槌。さらに「私の周囲には、全体の10%しかいないとされるAB型の率が高いんですよ」と言うと、「そうなんです。不思議とAB型って集っちゃうんですよね」 そうこうするうちにウォッカベースのカクテルは完成。秋の真打昇進のお祝いを述べて、うしろに並んでいる人と交代。

        どこで飲もうかウロウロして、お寺に上がる石段に腰掛けていただくことにする。



        こうして石段に座ってボンヤリとしていると、上方落語の前座クラスの出囃子『石段』のメロディが浮かんでくる。ドラの響きが嫌が上にも盛り上がるこの曲、ハデでいいんだよなあ。

        石段に座り込んでいたら、柳家さん喬師匠がビデオ取材を受けている模様が手すりの間から見えるではないか。「若いお客さんが増えて、結構なことです」と話す、さん喬師匠。とてもうれしそう。



        カクテルを飲み終わって、よっこらしょと立ち上がって、また境内をウロウロしはじめたら、何人かの知り合いとバッタリ。木陰で立ち話。これから銭湯に行って、とりあえず汗を流してくるという知り合いたちと別れて。またブラブラ。

        ゴミ拾い隊を買って出ている柳家三太楼師匠を見つけたので、秋の件に関して打ち合わせをする。こちらからお願いしていたことは、すべてOK、手配済みですとの、気持ちいいお答え。本当に相手を思いやる、気配りが徹底した、いい師匠だ。かっこいいな、三太楼!

        1時間弱の全生庵詣でだったが、ここでもう暑さに負けてギブアップ。涼しい地下鉄で帰途につく。やっぱり来てよかった。来年も行くぞう!


August.8,2005 またもや、遅刻だ、遅刻だあ〜

7月30日 フキコシ・ソロ・アクト・ライブ
       『Mr.モーションピクチャー』 (パイラル・ホール)

        吹越満のソロ・アクト。ひょんなことから、知り合いから譲ってもらったチケットなので大切にしていたのだが、このところの私ときたら、ことライヴというと何かと障害が持ち上がり、行く手を阻むという、いやなパターンが続いている。嫌な予感が当たった。この日突然に調理場の設備トラブルで業者に来てもらわなければならなくなってしまった。この業者も前の仕事が片付かなくて、なかなかこちらに向えない。ようやくやってきてくれた業者との打ち合わせがこれまた長引き、ようやく話がまとまって時計を見れば、只今ちょうど開演時間の午後7時。

        家を飛び出して、地下鉄の駅へ走る。改札を通過してホームに出たらば、ドッと汗が噴き出した。ハンドタオルを取り出して顔を拭くのだが、汗はとめどなく噴き出してくる。電車がホームに入ってくるのがこんなに遅く感じられたことがあったろうか? なんだか2週間前も『熱海殺人事件』の開演時間を間違えて、こんな気持ちで地下鉄に乗っていたなあ。表参道駅到着。ここからまたスパイラルホールまでダッシュ。スパイラルホールってもっと駅から近かったと思ったのにぃ〜なんて泣き言を言っている場合ではない。3階までエレベーターに乗って受付に到着。この時点で7時40分。40分の遅刻じゃん! 受付の男の人が「いらっしゃいましたよ〜」と半ば呆れ顔でチケットの半券を切りながら、ロビーのソファに座っている女性に声をかける。2週間前の『熱海殺人事件』のときと同じく背を低くして、コソコソと誘導されながら席に着く。またもやドッと噴き出す汗。

        こんなわけだから、この公演、半分程度しか観られなかったので、正直いって偉そうなことを書ける立場にない。席についたときにやっていたのは後ろのスクリーンに投射するスライドを使って、吹越満が演じる日常スリラー劇場のようなもの。陣内智則の感覚とはまた違ったアプローチで、これはなかなか面白かった。あとは、ビデオカメラを持った監督が架空の出演者に演技をつけて、それを撮っていくといった内容なのだが、見ている間はシュールすぎてなんのことかわからないのだが、同時に回していたビデオをあとで再生してみると、ちゃんとしたビデオドラマになっているという、あらあら不思議パフォーマンス。擬音に関する疑問というのも可笑しかった。タイトルにもなっているMr.モーションピクチャーを思わせるのが最後の映画のタイトルから、全然違う内容の一人芝居を演るという趣向。『酔拳』のフランス版にドイツ版というのが可笑しかった。『七人の侍』というのもくだらないけど可笑しい。

         なんだか散漫な文章になってしまたが、これもこの項を書いていると、遅刻したことばかりが頭をよぎり、集中できないのだ。ほんと、当日ご迷惑をかけた回りのお客様、ごめんなさ〜い。


August.6,2005 清水宏は日本のジム・キャリーだ

7月24日 乱発タックル
       『心をこめてボッタクれ〜弱気なヤツほどよくキレる』 (下北沢・駅前劇場)

        先週は自分の不注意から開演時間を間違えるというポカをやってしまい、きのうは地震のために交通機関が動かずに落語会ひとつ断念と、ハシゴがうまくいかない。この日は池袋演芸場を出て一路下北沢へ向う。おやおや、今度は早く着きすぎたか。駅前の定食屋で豚キムチ定食を食べる。豚キムチっていかにも夏バテ予防によさそうではないか。

        慎重にも慎重に早めに客席に入る。清水宏・作・演出・主演のこの芝居ユニット、観るのは初めて。舞台は、とある♪ちぃ〜さなすなっく なんて健全なものではない。ママさんがいてホステスさんがいる、お客さんにお酒と簡単なツマミを出して、カラオケ設備のある洋風(?)飲み屋の方。このスナックにいるホステスさんはただひとり。ダンサー志望で昼間はダンスのレッスンに明け暮れ、夜はこのスナックでアルバイトをしている。お客さんも、ここのママと、ホステスのしのぶさん目当ての独身男性ばかり。ママは、しのぶさんをけしかけて、もっと色っぽいサービスをして客からお金を落とさせようとしている。

        清水宏は開演30分くらい舞台に出てこない。その間、ぬるま湯状態のスナックの様子が淡々と描かれる。どこにでもありそうなスナックの日常なのだが、それが一見の客テラさん(清水宏)の登場で一気に変化が生じる。これからは、清水宏がひとり芝居でやっいる世界に突入していくと言ったらいいのだろうか? ママさん、ホステスのしのぶさん、お客さんたちによるショー・タイムを観たテラさんは。そのショーがあまりに低レベルだと指摘し、猛特訓をすることを宣言する。ここからは、もうまさにやる気マンマン男。いつの間にか常連最古参のような実権を握ったテラさんは、何事も[デザイヤー]だと言い出し、ビシビシと鍛え始める。ただ飲み屋の女性目的で通ってきていたお客さんたちも、何でこんなことをしなければいけないのかわからないまま巻き込まれていく。

        清水宏のキャラクターと作劇方は、こうやって複数の人たちによって演じられると、清水宏という人物は日本のジム・キャリーなんだということがわかってくる。自分で気づかずに周りの者を傷つけて回る自我の塊のようなキャラクター。ほんと、誰か清水宏を主役にして映画を撮ろうという人が出てこないものだろうか? 


August.1,2005 白鳥流怪談噺

7月24日 池袋演芸場7月下席昼の部

        開口一番の前座さんは鈴々舎馬るこ『子ほめ』頑張ってね。

        柳家小太郎『まんじゅうこわい』だ。まんじゅうに齧り付く男「古いとみえて皮までこわい」 うふふ、これは強(こわ)いね。

        「宴会で食事が出されたときに困るのは、どこからどこまでが私の陣地なのかってことです。このサラダはどっちが私のかなんて思っていると、左に座った人が私の左側にあったサラダに手をつけてる。あっと思ったら今度は右側に座った人が私の右側にあったサラダに手をつけてる。仕方ないからトイレに立つふりをして向こう側のサラダを取ってきたり」 三遊亭吉窓『本膳』。本膳の作法を知らない村人たちの会話が楽しい。「本膳の礼式間違えると槍で顔チクチク刺されて、顔から血が出るだよ。血が出たらば音頭踊るだよ。かわち音頭」 落語のあとは立ち上がって本当に踊りだした。『顔血音頭』じゃなく『かんちろりん

        桂ひな太郎は漫談。「みのもんたが健康番組で、どの食品がいいなんていいますと、スーパーではその食品が売り切れるそうですな。でも一番いいのは納豆。ナットキナーゼという成分が血栓を溶かすそうで。私も納豆大好きでして毎朝食べていたんですが、やがて納豆は朝食べるよりも夜食べた方が効果が1.5倍あるなんていわれだして、それでは夜にしようと思ったら、その日はウチアゲで飲みに行っちゃった。酔っ払って帰ってきて納豆を食べようと思ったんですけど、とても食べる気にならない。次の日の夜こそ食べようと思ったら、これまた付き合いで飲みに行っちゃって、帰ってきたらばこの日も納豆を食べる気にならない。次の日も飲みに行っちゃって・・・・・」 居酒屋のメニューでマグロ納豆でも取ればいいのにね。

        すず風にゃんこ金魚の漫才。
にゃんこ「私が幸せと感じるとき・・・黒木瞳に似ているって言われたとき」
金魚「私が幸せと感じるとき・・・納豆ご飯を腹いっぱい食べたとき」
金魚ちゃんも納豆好きなんだあ。夜食べるといいそうだよ。
にゃんこ「私が幸せと感じるとき・・・ヨン様に見つめられて、『こいつ!』って指でおでこを弾かれるとき」
金魚「私が幸せと感じるとき・・・アントニオ猪木に頬をおもいっきりぶたれたとき」
ふはははは、金魚ちゃん最高!

        「往来を歩いていて、寄席の雰囲気に引かれて入って来ようという・・・ことはこの池袋演芸場に限っては無いですな。めがけて入って来ないと来られないところでして」と、柳亭市馬『片棒』。市馬のはさすがに2番目の倅が面白い。お神輿まで出して美空ひばりの『お祭りマンボ』をフルコーラスで熱唱。♪そ〜れそれそれ お祭りだ〜い 「このあとに追悼落語会をいたします」 うふふ、いいなあ。私が死んだら誰か追悼落語会やってくれないかなあ。陽気にね。

        五街道雲助はスッと季節ものの泥棒噺『夏泥』へ。盗みに入った家で逆に金を取られてしまうというこの噺、私は大好きなのだ。「金がなくて、もう二三日何も食っていない」という住人に紙入れから金を出す泥棒。「(俺が金を)持っていたからよかったものの、持ってなかったら恥かくところだった」という論理がなんだかとぼけていて好きなんだなあ。

        三遊亭小田原丈『1パーミルの恋人』。このAB型血液性格判断の小田原丈の新作噺も私は好きなのだ。だって私もAB型だから(笑)。大きく分類した性格判断によると、A型神経質、O型大雑把、B型マイペース、AB型二重人格。なんともAB型がいちばん怪しげな存在なのである。のぼるくんがめぐみちゃんと結婚しようと思っているのだが、めぐみちゃんのお父さんは大のAB型嫌い。AB型は二重人格で何を考えているかわからないからというのがその理由。挨拶に行ったAB型ののぼるくんは、なんとか血液型をごまかそうとするのだが・・・・・。あのねえ、AB型は平和主義者なんだよ、本当に(笑)。

        「落語ブームなんて言われていますけどね、池袋演芸場にいらっしゃるお客さまは自分の意志でいらしゃる。そこへいくと他の寄席は団体という美名のもとに隠れた悪魔がいるんです。弁当とワンカップに釣られていらしたような方ばかり。席に着くと一斉に弁当を食べ始める。食べたら寝る、グー。ワンカップの空瓶が床に落ちて、カランカランカラン。団体誘致という営業努力を放棄したこの池袋演芸場こそ、ハイクオリティ、ハイブロウ、ハイリスク・・・いやいやいや」 春風亭正朝『替わり目』 「そんなに『お寝なさい!』なんて言わないで、『外は外、内は内、私のお酌じゃお嫌でしょうけど一杯いかが』くらい言ってみろ。そのまま寝ちゃうから」 「まあ〜、酔うと理屈っぽくなるんだから。酔うとAB型になるのね!」 AB型ってそんなに理屈っぽいかなあ(笑)。ツマミのおでんを買いに出て行こうとするおかみさんに亭主がネタの注文。「がん買ってきてくれ」 「がんってピストル?」 「おでんの中でピストルがグツグツ煮えててたまるか!」 「じゃああたしは、ぺんとじ」 「なんだそりゃあ」 「ハンペンとスジ」 「ペンと字って、夜中に通信教育習おうってんじゃないの!」

        マギー隆司のトランプの手品。お客さんに一枚引いてもらって、そのカードを当てる。お客さんが選んだカードを束に戻してもらってよーくシャッフル。「それではお客さんにもよく切ってもらいましょう」となぜか一枚だけ手元に残して、残りをお客さんに切ってもらってる。「こっち? こっちは営業用」 うふふ、怪しげ〜。

        三遊亭白鳥『給水塔の幽霊』。田舎の中学校に東京から転校生がやってくる。田舎のよっちゃんとタケは、この転校生が学校のマドンナあけみと体育館の裏でキスしていたという噂を聞き嫉妬を覚える。一計を案じたのは、村の怖い噺をして東京に送り戻すという算段。この村には伝説になっている怪談噺がある。山奥にある給水塔の上に花嫁衣装の女が立っていて、「こっちへこ〜い」と呼んでいる。やがて花嫁は飛び降りる、と首に縄がついていてぶら下がる。花嫁は「へっへっへっへっへー」と笑い、童謡の『花嫁人形』を悲しそうに歌うという、男に騙された女の幽霊の話だ。都会野郎にこの光景を再現してみせて怖がらせようと画策するのだが・・・・・もちろん白鳥の落語だから怪談噺というよりはギャグ満載の爆笑落語。古典落語の『不動坊』に似ているといわれるのだが、むしろ私は筒井康隆の同名の小説『給水塔の幽霊』のことが頭をよぎった。なぜかというとオチが筒井康隆のと同じだから。


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