September.25,2005 バカと力は使いよう

9月18日 第10回 横浜で彦いちの噺をきく (横浜にぎわい座B2 のげシャーレ)

        当日券で大丈夫だろうと行ってみたら、危ない危ない、ほぼ満席ではないの。横浜にぎわい座の地下のホール。普段は稽古場および倉庫として使っているところらしい。

        前座は林家ひろ木『動物園』。頑張ってね。

        林家彦いち一席目のマクラは、例によってバカな弟弟子話で笑いを取ってから、宝塚歌劇体験記。この夏、宝塚の『霧のミラノ』なる芝居を観たという話が可笑しい。「ダフ屋からして違うんですよ。そっと寄って来てソフトな声で『チケット余っていたら買いますよ』。誰一人としてダミ声の奴なんていない。劇場に入るとキャラクターグッズが売られている。役者さん別にコーナーが分かれているのだけど、この人とこの人の違いが分からない」 「話はオーストリア占領下のイタリア。レジスタンスを起こそうとしている男の物語なんです。それがちっとも革命を起こそうとしないで、ひたすら踊っている。クルックルッ、クルックルッ。オーストリアに行ったかと思うとここでもバーに行って踊っている。クルックルッ、クルックルッ。ようやく戦いが始まったかと思うと、また兵士の格好で踊っている。クルックルッ、クルックルッ。芝居が終わったあとはレビュー。これがまた、劇団員が総出で1時間半踊り狂っているステージですよ。クルックルッ、クルックルッ。歌っていることは『夢と希望の不思議な国・宝塚』・・・・・メッセージが何もない」 これは喜び組と同じなのではないかと思ったと感想を述べる彦いち。「思わず『マンセー』と言ってしまいそうになった」 宝塚ファンが聞いたら怒り出しそうになるかもしれないけど、私も同じ思いなのだよ。もっとも私のたった一度の宝塚体験も、もうかなり昔のことなのだが。そのまま『新聞記事』。作り話に騙された男が、オレもやってみようとしてやるバカさ加減が、マクラでやった弟弟子のバカな話に繋がるし、泥棒との戦いが武道派彦いちにかかると、妙にリアル。宝塚とは違うんだというところを見せ付けてくる。

        二席目は『ジャッキー・チェンの息子』。続いて三席目に入る前に高座の上で着替え。ストリップ・ショーのようなスマイルを浮かべながらの着替えショーは、あのごっついイメージの彦いちらしからずで可笑しい。一転、三席目の『蒟蒻問答』にしても、旅の僧の豪快さがいかにも彦いちらしい。

        さあて、三連休の中日。夕方の横浜。本屋に寄ったらムック『荷風!』の5号が目に付いた。特集・横浜(ハマ)のブルースを聞け! 横浜のことが豊富な写真入りで載っている。買い求めてコーヒー・ショップでパラパラ眺めているうちに実際に散歩がしてみたくなった。とりあえず野下周辺をブラブラと歩き、いつしか足は関内に向っていた。そろそろ日が落ちるのが早くなってきたなあ。


September.24,2005 おめでとう、喜助さん

9月17日 深夜寄席 (新宿末廣亭)

        ウチアゲの席ですっかり出来上がってしまったけれど、どうしても深夜寄席に行くのだ。なにしろ4日後に真打になる落語協会の二ツ目が4人出るのだ。彼らの二ツ目最後の姿をこの目に焼き付けておきたいではないか。前日には喜助、三三による『近日真打』が定席のあとに行われて、これがまた満員だったというから、当然のこどく混雑が予想される。北千住から、東京メトロ千代田線、丸の内線と乗り継いで新宿三丁目へ。9時前には末廣亭に着いていなければと思っていたのに、居酒屋で腰を上げるタイミングが遅れたしまったこともあって、新宿三丁目に着いたのが9時を回ってしまった。末廣亭に早足で向うと、もう入場を開始している。500円玉を握り締め最後尾に並ぶ。場内はもう椅子席はほぼ埋まっていて、桟敷席にもお客さんが入り始めている。椅子席の最後列に空席を見つけ、そこに座る。この日、入場者200人を超えたそうな。

        いきなり五街道喜助だ。確か浅草の桜田寄席の日ではないのか。もう終えてこちらに駆けつけたらしい。今は昼間に国立演芸場に出ていて、前日はここ末廣亭で『近日真打』で長講『子別れ(中・下)』。明日は鈴本で早朝寄席。忙しいなあ。疲れも見せずに『壷算』。思えば、喜助を聴くのは2年ぶり。日ごろの不義理、ごめんね。

        三遊亭金太『紺屋高尾』をみっちり。きっと真打披露興行用のネタなんだろうけど、長いなあ。あとのふたりの持ち時間が押しちゃうよ。

        案の定、次の橘家亀蔵『湯屋番』はやけにスピーディー。前半を端折りまくって若旦那が銭湯に行くまでが持っていき方が早急。「こんなにポンポンと話が進むとは思わなかった。時間が無いですからね。11時に終わらないと席亭がうるさい」 大きな身体で汗だくになっての熱演は、客席にも伝わってくる。

        三遊亭小田原丈が上がると、熱烈な拍手が。この日は『カフカの虚無僧』だ。カフカといえば『変身』というわけなのだろう。ある日、女子高生が起きてみると、虚無僧に変身していたという噺。天蓋を被り、尺八を持っいて、なぜかスカート姿のまま、渋谷で男の子とデートするはめになるのだが、そこに現れた彼氏というのが・・・・・。落語世界にカフカを持ってくるあたり、いかにも円丈の弟子という感じ。

        11時になんとか終了。客席を清掃している喜助さんを見つけて、真打昇進のお祝いを述べる。いよいよ4日後には真打。立派な師匠だ。名前も桃月庵白酒になる。おめでとう、喜助さん。



September.21,2005 北千住というと『悲しみは埼玉に向けて』を思い出すけど

9月17日 第三回 酔狂・八戒二人会 (北千住 労音東部センター)

        北千住の東口を抜けたら祭囃子が聞こえた。まだ暑いが秋祭りが始まっているようだ。祭半纏の男女の姿がチラホラ。北千住東口に来たなんて何十年ぶりだろう。商店街を歩くと左手に中学校が見える。そうそう、学生時代にこの中学校を会場にした模擬試験があり、私は試験の監督官というアルバイトをしたことがあったっけ。午前中だけの拘束で、答案用紙の配布と回収、それに試験中の監視をしていればいいだけのアルバイトで、結構いい小遣い銭になった。そんなことを思い出しながら会場へ。早めに会場に着いて、余所から頼まれていたチラシの挟み込みを受付にお願いして、駅の近くまで戻る。朝から何も食べてないので腹ごしらえだ。和食の店を見つけて入る。せいろセットなるメニューが安くて旨そう。周りを見るとほとんどの人がこれを食べている。季節のせいろ飯に刺身や小鉢が付く。人気があるらしく店内は満員。私は何とか席を確保したが、あとからあとからお客さんが入ってくる。「満席なんです」と断られて帰っていく人多し。しばらく待っていたら、私の食事が届いた。と同時に左手のふたり連れの女性客と、右手の3人連れの女性客が食事を終えて、一斉にタバコを吸い始めた。勘弁してくれよなあ。これじゃあ、せっかくの食事が旨くない。それに、満席なんだから、次に入ってこようとしているお客さんに席を譲ってやればいいのにと思う。

        食事を終えて、労音東部センターに戻る。上にやけに長々と導入部を書いてしまったけれど、以下、会の詳しいことは書かない。何せ素人さんだけの会だし、入場無料だし、顔見知りの人だと書きにくいの。

『堀の内』 安心亭立命
『風呂敷』 立命亭八戒
『公園デビュー・インストラクター』 成田家光蝶
『ねずみ』 目白亭酔狂
〜仲入り〜
『蝦蟇の油』 目白亭酔狂
ほのぼのパフォーマンス あいあいず
『鼠小僧外伝〜サンタクロースとの出会い』 立命亭八戒

        翁庵寄席でもお馴染みの八戒さん、『電車野ざらし』という、『電車男』と『野ざらし』を掛け合わせた噺を考えていたのだが完成に至らなかったなんて話を聞くと、是非聴いてみたいものだと思ってみたり。それでもまだ言い間違いが多いものの神田山陽の『鼠小僧外伝〜サンタクロースとの出会い』の落語化は大成功だ。思わず涙腺がゆるんじゃったじゃないか。独自のギャグまで織り込むなんて余裕、余裕。『風呂敷』の酔っ払った旦那は、顔や声の調子が鶴瓶が入ってた感じ。その線のキャラで演ると面白いと思うなあ。

        お神輿の通る商店街を抜けて、駅前に戻る。腰の曲がったおじいさんが作っている餅菓子の吉田屋で、おじいさんがまだ健在なのを確認して、塩大福を購入。なんだか、とても優しい味がした。駅の中を抜けて西口へ。東口が昔とさっぱり変わっていないのにくらべ、西口は地域再開発のおかげで、ガラッと変わっていた。「ウチアゲまでが落語会ですから」の八戒さんの声に引きずられて居酒屋でウチアゲ。この夜はもうひとつ、末廣亭の深夜寄席に回る予定なのだけど、う〜ん、なんだか、ビール、焼酎、熱燗と飲み継いで、いい心持ちになってきてしまったぞ。


September.17,2005 新宿秘密クラブ

9月11日 『我らの高田“笑”学校 しょの二十五』 (紀伊國屋サザンシアター)

        会場に入ると、いきなり「投票をお願いします」と言われた。投票? 今、ここに来る前に衆議院議員選挙の投票を済ませてきたばかり。何かと思えば、本日、江頭2時50分が乱入するこに賛成か反対かの投票だという。お決まりだから反対に一票を投じる。それにしても、かの9.11、それに郵政民営化を問う選挙の日に、高田文夫プロデュース企画に行く私って何?

        前半はごくごく不通の落語会。春風亭勢朝はお得意の地噺『荒茶』。本筋よりも脱線噺の方が面白い。「ママさんバレーのオバチャンが、バイクでガソリンスタンドに入ってきた。『レギュラーですか?』の店員の声に、『いえ、補欠よ』。『ハイオクですか』 『いえ、住んでるわよ』(ハイオクと廃屋をかけた駄洒落。高度!)。

        立川談春は選挙がらみで、今の東京落語会を協会別に政党に見立ててみせた。詳細は危ないので書けない(笑)。どっと受けてから『短命』へ。ご隠居に短命の原因を聞いてきた八っつぁんが家に帰ると、浪花節を習っているおかみさんのガラガラ声が可笑しい。「ちっょと来いよ」と八っつぁんが声をかければ、「お前が来いよ」って返し言葉。これだけで八っつぁんが長命なのはわかる(笑)。

        「愛・地球博観たい人なんて、ここにいますか? 観たくないでしょ」と春風亭昇太。「万博会場はじいさん、ばあさんばかり。『今、観ておかないと観れないから』って言いますけど、何でも今観ておかないと、もうすぐ観れなくなってしまう人たちなんですけどね。ゲート開いた途端に観たいパビリオンに向ってダッシュですよ。休日は二万人のお客さんが訪れます。パビリオンの前に駆けつけても、整理券450枚まで配って、あとはあの炎天下、4時間待ち。一人倒れ、二人倒れ、しっかりせよと抱き起し。『寝るなあー!』なんて言ったりして」 あんなもの観に行くよりも寄席に行けばいいのにね。ネタは『力士の春』

        後半は色物? 「昔に比べて太りましてね。身長164cm。体重140kg。もうすぐ身長を体重が追い越す」と松村邦洋。いやいや、昔、街で見かけたときにも相撲取りかと思ったら松村だった(笑)。大河ドラマ『新撰組!』で堺雅人が演じた山南敬助を、いろいろな人の物真似で披露するのが圧巻。小泉純一郎、阿部寛、津川雅彦、野村克也、貴乃花・・・・・。

        このあとは浅草キッドの漫才、そして大喜利トーク、お約束の反対票多数のままに乱入した江頭2時50分と続くのだが、このあたりはもう絶対秘密クラブ。危なすぎてネットには何も書けない。余所では絶対に言えないトークの爆発に日ごろのうっぷんが腫れた感じ。

        興奮した頭で家に帰って、選挙速報を見ていたら、ついつい午前を回ってしまった。だってこの速報番組を観ていると、今聞いてきた危な話が蘇ってきてしまうんだもの。


September.14,2005 正攻法も出来るところを見せ付けた新感線

9月10日 劇団☆新感線
       『吉原御免状』 (青山劇場)

        今や、もっともチケットの取りにくい劇団のひとつになった劇団☆新感線。ジャニーズ系のタレントが出ている公演だけが取りにくいだけではない。こういった本公演、しかも外部の超強力な役者が出ているわけでもないものでもチケット即完売だとすると、この人気は本物なんだろう。なんとか確保した席は1階席ではあるものの、かなり後方の席。最後列のミキサー席の2列前という位置。役者の顔は見えにくいが、舞台の全体は把握しやすい。もちろん双眼鏡持参だから、細かい表情はこれでチェックだ。開演直前に、演出のいのうえひでのりが通路を登って来て私の後ろの席に座った。

        今回は、ひょっとすると劇団初の原作もの。隆慶一郎の原作をどう舞台にするのか興味があった。ひょっとして劇団☆新感線テイストに大幅に作り直すのではないかと思っていたのだが、幕が開いてみるとかなり原作の味そのままになっていた。大仰な演技もなく、コテコテのギャグも封印。主人公の松永誠一郎役の堤真一も原作のイメージから逸脱していないし、敵役となる柳生義仙の古田新太もすっかり悪役に徹していて、余計な演技もない。客演陣もうまい人選といえるだろう。原作では高尾太夫に張り合う嫌なイメージがしていた勝山太夫に松雪泰子。これがいのうえひでのり演出で観ると、「ははあ、この物語は勝山太夫の物語でもあるんだ」ということに気づかされた。水野十郎左衛門役の梶原善もしっかり存在感があるのはもちろん、幻斎役の藤村俊二がいい。また、出番は少ないけれど八百比丘尼役の高田聖子も出てくればその場を攫ってしまうのは見事。それが、劇団のメンバー全員にいえることなのだが、いつもの劇団☆新感線乗りではなく、キチッと、こういう演技も出来るんだということを見せ付けられた感じ。

        脚本も上手く舞台用に書き直されていて、大筋は変えず、キッチリと原作の面白さを伝えている。削るところは削り、はしょるところははしょている。演出は今回は特にダイナミックだ。セットが坂になっているのはいつものことだが、これに回り舞台の特製を上手く使って、人の移動がいつになく面白い。

        原作に出てくる裏柳生の乱剣の陣をどうするのかと思っていたが、ちゃんと登場させていた。ただし、この必殺の陣を破る誠一郎の工夫は残念ながら見せてもらえなかった。といっても、この戦い方はやっぱり舞台では不可能だから仕方ないか。ただ惜しいのは、柳生宗冬が誠一郎に柳生の剣を少しずつ見せていくくだりは残し置いて欲しかったなあ。宗冬役が橋本じゅんだっただけに、是非観たかった場面だ。

        今回もサントラCDを買ってしまった。歌は無し。インストだけの構成だが、いつもながら曲がいい。こうやってキーボードを打っていても『修羅になれ!』のリズムが頭に鳴り響いている。


September.10,2005 動物電気の夏まつり

8月27日 動物電気
       『おばけやら 花火やら 武将やら』 (三鷹市芸術文化センター)

        7月は開演時間を間違えたりして大汗を掻いた経験もあって、動物電気の三鷹公演は何回もチケットを確認した。何しろ三鷹駅から、三鷹市文化センターまではかなりの距離がある。午後7時30分開演。何回見直してみても午後7時30分開演である。ちょっと始まりが遅すぎないか? 2時間の公演として終演は9時30分だろう。途中のコンビニで、今夜もオニギリ購入。早めに会場について席についてオニギリをパクついて腹ごしらえ。なんだか、先週もこんなことやっていたなあ。

        今回は夏休みスペシャル。1本の芝居ではなく、コント集なんだそうだ。オープニング・コントはまだ客席が暖まっていなくて笑い声が少ない。『おばけやら 花火やら 武将やら』というタイトルを付けてしまったから、どうやら武将を出さなければと思ったのか、武将が出てくるコント。いまいち盛り上がらないなあと思っていたら、客席から他の出演者たちが大挙押しかけて、客いじり大会。無理矢理にでも笑わせるぞという気迫の小林健一や清水宏のパワーは凄い。会場が一気に暖まる。そのあとは、ドリフを思わせるライフセーバーのコント。辻修のカッパ・コントなど。さらには一発芸大会と化していく『フィリング・カップル5×5大喜利』。途中、ゲストの猫のホテルの連中とのやり取り、暴露合戦が楽しい。それにしも市川しんぺーのセーラー服姿は冒涜だろう(笑)。この、猫のホテルとの絡みが休憩のようなものになって、後半は主宰者・政岡泰志の思いを描く短めの芝居。夏公演の台本がなかなか書けずに生まれ故郷に帰った政岡が初恋の人に再会し、中学生時代の様々な事件を思い出すといった内容。ギャグをてんこ盛りに投入しながら、最後はしんみりといい気持ちにさせてくれた。

        キチンと、おばけも花火も武将も出して、三題噺か? 終演9時40分。ひえー、三鷹駅にたどり着いたら10時。帰宅したのは11時近く。郊外の劇場で開演時間が遅いのはキツイなあ。


September.4,2005 禁演落語をスルーしてオフ会へ

8月21日 浅草演芸ホール8月下席夜の部

        新宿の志の輔の会が終わってから、地下鉄丸の内線、銀座線を乗り継いで浅草へ。浅草演芸ホール8月下席は、ここ3年ほど禁演落語会を行っている。戦前に時局に合わないと禁じられてた廓噺、浮気噺などを平和祈願を込めて楽しむ企画。夜の部仲入り後がこの時間だ。クイツキの位置で、たすけさんこと長井好弘さんが解説を行っている。2年連続で観られないでいたのだが、今年こそはと駆けつけることにした。志の輔の会が終わったのが4時30分。田原町で下車してコンビニでオニギリを購入して浅草演芸ホールへ。

        5時20分ごろ、テケツでチケットを買って2階席へ。いつも満員の浅草演芸ホールだが、さすがに日曜の夜ともなると空席も目立つ。しかし、私の目標は2階上手の桟敷。ここは、下手にある楽屋出口がバッチリと見えるのだ。ここで出を待っている出演者の表情を覗き見るのが最大の楽しみ。どうやら、ここから出演者が見られているというのを、ほとんどの出演者が知らないようなのだ。腰を下ろすと、三遊亭遊之介『浮世床』が終盤に差し掛かっているところ。オニギリをパクリ。ペットボトルのお茶で流し込む。

        さらにオニギリをパクつきながらの春風亭柳桜『小言念仏』。この人って、すごく性格のいい人なんではないかという印象がある。だからこういう噺をすると、その人のよさが出てしまって、小言を言いながら念仏をとなえるという、ものぐさで偏屈な人物というのが感じられないのだ。いい人すぎてしまうんだよね。

        東京太ゆめ子の漫才。「衆議院議員選挙、広島六区からライブドアの堀江社長が出て亀井静香と激突だってね。広島っていいところですよね。牡蠣は旨いし競輪場もある。広島を語らずして日本を語るなですよ」 このあと、目の前のお客さんに出身地をつぎづきと訊いて回っている。「奈良? 奈良はいいね。日本の曙の地ですからね。奈良を語らずして日本を語るなですよ・・・・・いや、曙はハワイか。競輪場もあるしね」 「松山? 四国松山ね。道後温泉本館の前、なんで信号機が無いんですかね。危なくてしょうがない。松山を語らずして日本を語るなですよ」 「沖縄? 沖縄を語らずして・・・・・」 お客さんと遊んでいる感じがユルユルとして楽しい。このころから、下手楽屋口の戸の向こうに背広姿の人物が高座を覗く姿がチラチラと見える。ふふふ、長井さん、見えてますよ。

        「東京太ゆめ子さん、夫婦漫才です。とぼけた顔して漫才やってますが、ふふふ、家に帰ると肉体関係がある。そう考えると、いやらしいでしょ。そこへいくと私は清廉潔白な噺家でございます」って始めた三遊亭栄馬。夫婦のやり取りがなんとなく艶かしい『替わり目』が楽しい。「おい、なにかつまむものないか? 塩辛があったろ」 「いただきました」 「納豆が残っていたろ」 「いただきました」 「向かの旦那」 「いただきました」

        神田紅の講談は『牡丹燈籠〜お札はがし』。25年前に習ったときには幽霊の声がうまく出せずに苦労したというエピソードを交えつつの熱演。「角をつけずに、まわるく声を出さないように出す」って難しいよなあ。この噺、女性の講釈師向きの噺だと思う。少々鳥肌がたったもの。

        晴乃ピーチクの似顔絵漫談。「もう夜だからいないようですが、土日になるとこの浅草演芸ホールは、そこの場外馬券売り場で馬券買って入ってくるお客さんがたくさんいるの。こっちの話聴かないでイヤホンで競馬中継聴いている。馬券売り場のあの不衛生なところに食堂が入っているのよ。ところが誰も食べても食中毒にならない。いかに競馬が当たらないかってことですよ」 似顔絵希望のお客さんをひとり客席から呼んで世間話をしながら似顔絵描き。2階席から見ていると、描きあがっていく様子がよく見える。重要なのは目と口とのことで、最後に口、目と描いて完成だ。似てる似てる。

        三笑亭茶楽『宮戸川』。霊岸島の叔父さんちの2階に上がった半ちゃんとお花ちゃん。「半ちゃん、雨が降ってきたわ」 「この雨でお百姓さんは喜ぶでしょう」 「雷が鳴ってる。ねえ、何か話して」 「小泉首相も郵政民営化反対議員に刺客を・・・・・」

        ここで仲入り。このあとは、いよいよ、たすけさんの出番だ。

        緞帳が上がると、スッスッとセンターマイクの前に長井好弘が立つ。さすがに3年目ということもあるのか、まったく言いよどみもなく、スラスラと禁演落語の経緯、解説を続けていく。よっ、名調子! 「最後まで席を立たないで、聴いていってください」と締めくくって下座へ下がっていく。



        ほらね、たすけさん、この位置からは出入り口付近は丸見えなんだよん。

        最後まで観ていきたいという気持ちはあるのだが、このあとは、たすけさんのオフ会に参加だ。近くの居酒屋で15名ほど集ってのオフ会は、いやいや、その話題の濃かったこと! もっとも、私は翌日が早いので一次会で退席。しかし、家に帰ってからも、落語好きの仲間の話題が思い出されて、興奮のあまり、なかなか寝付けなかったのだが。



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