October.31,2005 プロ根性

10月15日 翁庵寄席 ハイテンションで行こう (人形町翁庵)

        春の柳家喬太郎、小宮孝泰『落語と芝居はおともだち』が終わった瞬間から、次は林家染二、柳家三太楼のふたり会でいこうと決心を固めていた。これはネットを通じて知り合ったCさんのアイデア。両師匠とも、その古典落語の世界は異様な狂気を感じさせるものがある。そしてあの顔だ。このふたりに共通するのは登場する人物を顔の表情を使って見事に表現する術(すべ)がある。東西のこのふたりを激突させたらどうだろう。このアイデアいただき!! こんな企画、誰もやっていないだろう。

        半年先の企画だが、人気のおふたり、早めにスケジュールを押さえておこう。おふたりに連絡を入れると、快諾をいただけた。よ〜し、タイトルは『ハイテンションなふたり』でいくか。このアイデアをスタッフに話すと、「染二がハイテンションなのはわかけど、なんで三太楼がハイテンションなの」と言われてしまった。そう、三太楼の笑いというのは、ジワジワと静かに笑いを取って行きながら、爆発に至るという類だといえるかもしれない。おふたりには、ネタを指定しなかったのだが、おそらくこういうタイトルをつければ、三太楼のことだ、『初天神』をぶつけてくるだろうという読みなのだ。染二を前にして引き下がるわけがない。毎回イラストをお願いしているちばけいすけさんも、今回はおふたりとも描いたことがあるので、資料なしでOKとのこと。出来上がったイラストにチラシ制作担当のくりさんは、『ハイテンションで行こう』というコピーをつけてきた。うん、さすがにセンスがある。タイトルはこれでいこう。

        前回から、出囃子をナマでやろうということにした。やはり録音したものよりも、ナマの方が格段にいい。前回お願いした、三味線のくり丸姉さん、太鼓のゆみまる姉さんのオキナアンガールズ、ズブの素人とは思えない腕前である。今回は、おふたりの出囃子『藤娘』(染二)、『あわ餅』(三太楼)に加え、二席目用として、それぞれのお師匠さん(染丸、権太楼)の出囃子『正札附き』 『金比羅ふねふね』を用意することにした。さらに加えて開口一番の立命亭八戒用に上方の前座の出囃子『石段』も用意しよう。とはいえ、教えてくれる人もいないところからの出発はたいへんなものがある。染二師匠はお囃子にも造詣が深いと聞いていてので、思い切ってご相談することにした。すると、必要ならば出囃子のテープと譜面を送ってくださるとおっしゃってくださった。これには感謝の言葉もなかった。

        こうして、『石段』、『あわ餅』、『藤娘』、『正札附き』のテープと譜面は揃った。『金比羅ふねふね』は一般的なものだから、こちらの方でなんとかするしかなさそうだ。問題は三太楼の『あわ餅』は上方のものとは、まったく違っていたこと。三太楼の『あわ餅』は紫文師が作ってくださったもので、まったくの別物らしい。しかしまあ、三太楼の『あわ餅』は何回も聴いていて耳についているから何とかなりそう。もうひとつの問題がここで発生した。染二師匠から、『石段』を演るのであれば、三味線と締め太鼓だけではダメで、もっと賑やかに送り出すようにしなければならないとの注文だった。ついては、三太楼師を通じて落語協会から鳴物を借り出して欲しいと言われたのだ。こちらも三太楼師に相談するとふたつ返事で了解の旨が返って来た。なんとも気持ちのいい師匠だ。今回は本当に協力的で親切な両師匠に助けられて準備も順調に進みそう。

        告知は9月に入ってからインターネット、そしてクチコミ、店内チラシで行った。うれしいことに、店内にチラシを貼っておくと、店の常連さんから「観たい」との反応が増えてきたことだ。ごく一般的なお客さんに来ていただけるのは、やっぱりうれしい。

        さて、あっという間に当日はやってきた。昼ごろから、必要な道具を店に降ろして落語会の準備を始める。「ええっと、高座用座布団に毛氈、釈台、めくり台、照明・・・・・ああ、それに後ろ幕も降ろしておかなきゃ」 それにそばの用意まであるから、そば屋での落語会というのは案外に準備に時間がかかる。まっ、ウチは幸いボランティア・スタッフが慣れてきてくれているから順調に進む。

        準備を進めていたら、三太楼師匠から電話がかかってきた。これから落語協会に寄って鳴物を借りてくるとの連絡だったのだが、あらっ? 妙に三太楼師匠の声に元気が無いのだ。どうなさったのだろうという不安がよぎる。なぜ元気がなかったのかは、クルマで現れた師匠を見てすぐにわかった。もう歩くのさえ辛そうなのだ。そして咳をしている。風邪をひかれていて熱があるらしい。「たいへんですね」とお声をかけると、「ひいちゃったものは仕方ない」 平胴太鼓を設置。思っていたよりも立派なものだ。かなりの重さがある。さらに銅鑼まで持ってきてくださった。この銅鑼は『石段』を演るには絶対に必要だったもの。事前の噂では落語協会には銅鑼は無いという情報を得ていたのだが、三太楼師匠は軽く「あると思います」とおっしゃっていたものが、現実に目の前に。くり丸姉さん、ゆみ丸姉さんは、さっそく本番直前稽古に突入。三太楼師匠はというと・・・・2階の楽屋でゴロリと横になっている。かなり辛そうなのだが大丈夫だろうか? 横になって何やら落語のテープを聴いている。これがどうやら今度の独演会で演る予定の三遊亭白鳥の『戦え、おばさん部隊』らしい。聴きながらときどき「うふっ」と笑ったりしている。風邪をひいていてもどこか余裕があるのが凄い。さて、こちらはそばの用意をしなければ。ダシを取り、そばを打つ。

        染二師匠の楽屋入りは3時30分の予定だった。3時30分を回ったころ電話が入った。今、人形町の駅に着いたところで、これからこちらに向うとのこと。ところがいくら待ってもご当人は現れない。4時には開場だから、ヤキモキ。どうやら道に迷ってしまったらしい。4時になって迷子になっていた染二師匠到着。さっそく、おふたりにこの日の進行予定のご説明。これが終わってしまうと正直に言うと私の役目は終演まで無くなる。

        お客様が続々とお集まりになってくる。これは手馴れたミツワセッケンさんにお任せ。開演時間の4時30分には、ほぼ満席となった。あっ、今回なぜ開演時間がこんなに早くしたのかと言うと、染二師匠は翌日の午前中に米原での仕事が入っていて、この日のうちに帰阪されるからという理由からこういう時間設定になったのだ。一番太鼓、二番太鼓を打ち、定刻に『石段』の出囃子を鳴らす。これには染二師匠も手伝ってくださった。立命亭八戒の登場だ。

        席亭というのは自分で企画、運営しても残念なことに、当日の落語を楽しめないものだ。下座の、それも隅の方で小さくなって聴こえてくる落語に耳をすませながら段取りのことばかり考えている。特に今回は顔の表情が抜群の師匠がふたり揃った。前に回って観たいという気持ちを抑えて、きっと今、こんな顔をしているんだろうなあと想像上で楽しむしかない。当日の内容は私が書くことは無い。何人かの人の手によって、ネット上でも感想が書かれているので、そちらにお任せしよう。

『反対車』 八戒
『初天神』 三太楼
『池田の牛ほめ』 染二
三太楼、染二の対談
〜仲入り〜
『宗論』 三太楼
『寝床』 染二

        ハイテンションというキーワードを提示したところで、やはり三太楼師は『初天神』をぶつけてきた。きん坊の壊れっぷりは下座で聴いているだけでも、その可笑しさは伝わってくる。おそらく三太楼師は、今までで最強のきん坊を作り上げたと言っていいだろう。それにしても、楽屋であの辛そうな表情でいた人物とは、まさに別人。後ろ幕をくぐって高座に座った瞬間から病人とは思えないパワーを発揮する。これぞプロ根性というものなのだな。お客さんの前では辛さなんぞ、これっぱかりも見せない。『宗論』の方も、師の得意ネタ。両方ともトリで演るというよりは、定席の途中で出てきて、確実に笑いが取れる噺だ。

        染二師の二席は、つくづく前に回って観たかったと思った。ちばさんに「ハイテンションというキーワードを出したら、染二師匠、何を持ってくると思います?」と訊いたら、即、「まず、『池田の牛ほめ』でしょう」と答が返って来たように、このハイテンション具合はどうだ。そして『寝床』。私はこんなテンションの『寝床』を今だかつて聴いたことがない。いつか、前に回って、この『寝床』をもう一度、聴いてみたいものだ。

        おふたりの対談も、こちらを立ててくださったし、オフレコのネタまで入るサービスぶり。うれしくなってくる。

        落語会が終わって、鳴物の撤収。体調が悪いので、このまま落語協会に鳴物を返しに行き、そのまま帰りますとおっしゃる三太楼師匠をお見送り。お身体の具合が悪い中、どうもありがとうございました。染二師匠も飛行機で大阪にとんぼ返りだ。お疲れ様でした。今回は本当にいい意味での落語会らしい落語会になった。いつも私の企画するものは、「怪しげ」 「マニアック」 「キワモノ」 「変化球」 などと言われ続けているが、こんなことだって演るのだ。・・・・・と、言いつつも次回はまた、ちょっぴり変化球なことを考えている私なのだが。

        お客様には、名物ねぎせいろをお出しする。出し終わってからは後片付けだ。遅れて、ウチアゲに参加。残念ながら染二師も三太楼師もいないウチアゲになってしまったが、落語好きな人たちとの会話で夜が過ぎていく。そうすると不思議な事に、次々とまた落語会のアイデアが浮かんでくるのだった。



イラスト・ちばけいすけ


October.21,2005 落語、正拳突き!

10月2日 鈴本演芸場10月上席昼の部

        夜の部は小三治がトリを取っているのだが、ある目的で、あえて昼の部へ。

        開口一番の前座さんは柳家さん作。一席始める前に、本日の出演者変更のお知らせ。あらあら、結構代演が入っているぞ。ネタは『まんじゅうこわい』。頑張ってね。

        林家久蔵は自分の名前の由来の説明から。「学生時代に弓道をやっていたので、久蔵という名前を貰いました。おそらくアフリカ研究会に所属していたら、アフリカ蔵・・・・・」 ネタは『粗忽の釘』。「お前さん、釘を打っておくれよ」 「そんなのあとで何本でも打ってやるよ!」 「パチンコ屋じゃないんだから、そんなにいらないんだよ」 快調、快調。

        アサダ二世のマジックは、テーブル浮揚トリックやら、お札の貫通トリックやらと、この規模の舞台としては、派手な演出。それにあの人を食った話術の巧みさといったら!

        三遊亭萬窓『真田小僧』。それにしても、この日のお客さんは暖かい。ドッと笑いが来る。萬窓も気持ち良さそうだ。

        柳家喜多八『小言念仏』。お題目を唱える始める前に肩を叩いたり、欠伸をしたり、咳払いをしたりの仕種が入るのがいかにもリアル。

        柳家小ゑん『ぐつぐつ』。いよいよ、おでんの季節だなあ。「こぶ、こぶはどこへいった?」 「こぶは正蔵になった」 ふはは。

        大瀬ゆめじうたじの漫才。秋ともなると、この人たちもネタが変わる。『平行線・鰹』。

        元相撲取りという異色の噺家、三遊亭歌武蔵は落語も上手いが、その相撲漫談が聴けたときは、なんだか得をした気分になってくる。「朝青龍が無礼な態度を取るというのが話題になっています。先輩に対して挨拶をしないとか。モンゴル出身だけにジンギスカン(仁義好かん)」

        「日本語の漢字の読み方は難しい。[生]という字、[生まれる]と書くと、[うまれる]、[生きる]だと[いきる]、[先生]だと[せんせい]、[生そば]だと[きそば]、[生ゴミ]だと[なまごみ]。読み方が違ってくるんですね」と、林家きく姫『平林』。上手いマクラだなあ。

        柳亭市馬『牛ほめ』。市馬も与太郎が爆発的なのが面白い。「ごめんくださーい! 勘弁してくださーい! 許してくださーい!」 「外で誰か謝ってるよ」

        柳家とし松の曲独楽もいつも通りに着々と。扇、糸渡り、切っ先止め、風車。慌てず騒がず、キチッとした芸だ。

        入船亭扇遊。「いろいろなところで落語を演らせていただいています。先日は[若妻のつどい]というところで演ってくれと言われて喜んで行ってまいりましたが、これがよく聞いたら[若妻のつどいOB会]」 ネタは『たらちね』

        大空遊平かほり、いつもながらの快速漫才。うかうかしていると置いていかれてしまう。「93歳のおばあちゃん。ファミレスがわからない。『家が無い人でしょ』って、それはホームレス」

        トリは林家彦いち。学生時代に空手部に所属していたとあって、そのマクラも楽しい。街で空手部時代の先輩に偶然出合った話って本当のことなのかなあ。「『どーもご無沙汰しています』 『おう、どうしてる?』 『落語家をやっています』 『おー、落語、演ってみろ』 街中で落語できますか? 困っていると、その先輩、何かを思い出したんですね。『正拳突きとかけて!』 どうやら『笑点』の大喜利を落語だと思っているらしい。仕方ない、その場でやりましたよ。『演歌歌手ととく』 ここで本来は『そのこころは』と返してもらえるはずなんですが、返ってきた言葉は『何だそりゃ!』 ボキャブラリーが少ない。『どちらもコブシが効いております』 『・・・・・わかるようにやれ!』」 ネタは女子柔道ネタの『青畳の女』。彦いちの落語はストレートでエネルギッシュ。まさに正拳突きの落語という感じがする。

        正面玄関で彦いち師匠の出待ち。前もってご連絡しておいた件での顔合わせ。師匠はこれから別の人たちとの会食のご様子なので挨拶だけで、お見送りする。さて、こちらは第6回翁庵寄席『ハイテンションで行こう』まで、あと2週間。


October.15,2005 放任主義なのか(?)、自由な空気の鯉昇一門!

10月1日 鯉のつなわたり (お江戸日本橋亭)

        瀧川鯉橋(りきょう)の独演会。二ツ目として着実に実力を付けているきている鯉橋さんとあって、この日も大入り。

        まずは前座さんの開口一番。瀧川鯉斗(こいと)といえば、長瀬智也に似ているからと深夜寄席で「タイガー、タイガー、じれっタイガー」を演らされていた青年。また演ってくれるのかなあと思ったら、すぐに噺に。『まんじゅうこわい』なのだが、なぜか饅頭のくだりまでいかないで終わってしまった。まだお稽古中なのかな?(笑)

        瀧川鯉橋一席目。二ツ目になりたてのころ24000円の家賃が払えず、師匠の鯉昇に相談に行ったら、図書館に行って食べられる野草図鑑を調べろと言われ、さらに野宿の仕方を伝授されたというエピソードから『蒟蒻問答』へ。昨年の暮にも、この人で『蒟蒻問答』を聞いた。どうやら十八番ネタらしい。旅の僧が、ことのほか爽やか。決して憎めない僧なのがこの人らしい。

        鯉橋の兄弟子にあたる春風亭鯉枝(こいし)。瀧川に変えずに春風亭をそのまま続けている。この一門は本当に自由主義らしくて、下の名前も[鯉]を[り]とも[こい]とも読ませる。お弟子さんたちがのびのびとしているのがうらやましい。この鯉枝は新作派。この日の『代演屋』も面白かった。ある会社に就職した男。ここは代演屋という会社だと知らされる。「代演って、松井の代わりに、ツーアウト満塁でホームランを打ってくる仕事ですか?」 「それは代打だろ。第一、プロ野球選手でさえないんだろ。普通の人間の代わりをするんだ」 「そう言われても、ストリッパーとかレースクイーンは出来ませんよ」 「男は男の仕事をすればいいんだ。会社関係の取り引きのとか、小学校の父母面談、進路指導に本人に成りすまして出る仕事だ」 こうして男は結婚式の友人代表の代演という仕事に出かけるのだが・・・・・。寄席の定席も代演だらけのときがあるけど、落語家が不足しているときの落語家の代演なんて・・・・ないか。

        仲入りがあって、いよいよ瀧川鯉橋ネタおろしの『へっつい幽霊』。幽霊の手の仕種を師匠から喫茶店で教わったというエピソードからネタへ。幽霊も滑稽に描かれているし、対する遊び人の熊五郎も人の良さが滲んでいる風情。この人にかかると世の中、悪い人はいないのではないかという気になってくる(笑)。

        終わって近くの居酒屋でウチアゲ。鯉昇一門のエピソードなどたっぷりうかがい、ほろ酔い気分で日本橋の街を歩いて帰宅。歩いて行ける寄席っていいなあ。


October.11,2005 猫ひろしって面白いと思えますか?

9月25日 第316回花形演芸会 (国立演芸場)

        2日続けて国立演芸場。開口一番の前座さんは柳家さん作『まんじゅうこわい』。頑張ってね。

        テレビではよく観るのだが、ナマで観るのは初めての南野やじ。こういう芸を観られるのだから、やはり花形演芸会は外せない。座布団に座って右手側に木魚。怪しげな四文字熟語が並んでいるボードを見せながら、お経のような台詞を繰り出していく。テレビではひたすらにネタばかりを演っているが、こういう舞台だといろいろと雑談が入る。この人が使っているボードは一枚237円とのこと。ふ〜ん、結構いい値段なんだあ。最後に披露してくれたお経版ピンクレディ『UFO』が圧巻。

        余所で観られない芸人が観られるのはうれしいのだが、次の猫ひろしともなると困ってしまう。私にはこの人のどこが面白いのかわからないのだ。ギャグ百連発という触込みなのだが、この人の喋っていることのどこがギャグなのかわからない。どこが面白いのか理解できない。言葉を覚えた子供が意味不明なことを叫んで面白がっているだけのようなフレーズが延々と続く。こういうのを面白いという人がいるなら、それはそれで構わないが、私にはひとつも笑えない。むしろ、ムッとしてしまったというのが正直なところ。

        ファイヤーダンスの漫才。焼肉屋のネタが可笑しかった。「ホルモンください」 「はい、スコップです」 「なんだこれは?」 「掘るもん」。せめてこのぐらいをギャグと言いたい。猫ひろしのあとなのでホッとする。

        マサヒロ水野のジャグリング。お客さんを舞台に上げて右耳に挟めた100円玉をヨーヨーで叩き落とす。お客さんが怖がって頭を動かすので、やりにくそう。でもあのお客さんの気持ちになると・・・・・やっぱり怖いやね。シガー・ボックス、サッカーボール、エビル・スティック。照明を落として『ボールの軌跡』を観るのはこれで2回目。凄い・・・と思う。

        柳家三三『大工調べ』。棟梁の啖呵の切り方が気持ちがいい。トントントンと息も切らずの言い立ては、よっぽど稽古したんだろうと思われる。

        東京ダイナマイトの漫才。[涙]という歌詞が出てくる歌を全て[味噌汁]に置き換えて歌うというネタ。「♪上を向ういて 歩ーるこう 味噌汁が こぼれないように」 「♪味噌汁くんさよなら さよなら味噌汁くん」 「♪味噌汁の数だけ強くなれるよ」 「♪味噌汁の〜 リクエスト〜」

        三増レ紋の曲独楽はあいかわらず騒々しいのだが、これも芸のうち。失敗すると「あ゛〜!」 「あっあっ、危な〜い!」と大声(笑)。

        トリは柳家三太楼。「よく子供のころにイタズラをしたりすると親から言われましたよ。『怒んないから言ってごらんなさい』って。それで正直に言うと、『やっぱりやったのね』って怒られたりする。『ああ、正直に生きてはいけないんだ』なんて子供心に思ったりするんですね」と、正直者ばかりが登場する『井戸の茶碗』。師匠権太楼ゆずりか、けっこう笑いの要素たっぷりでいて、それでいてキチッと人情噺にもなっている。さすがだなあ。


October.9,2005 マッサージチェア値切り倒し顛末談

9月24日 東京DE桂都丸の落語を聞く会 (内幸ホール)

        国立演芸場を出て、一旦帰宅。ゴロリと横になって昼寝。平日は必ず昼寝の習慣があるので、午後は一度、10分でも寝ないと辛い。生き返って新橋へ向う。内幸ホールは初めて行く場所。以前から「わかりにくい所にある」と言われていたのだが、難なく到着。受付に立命亭八戒さんがいた。「ちょっと、ご紹介しますから」と、楽屋に連れて行かれてしまった。都丸師匠の高座を聴くのは初めてなのに、いきなりご本人と対面なので何を言っていいのかわからずドギマギしてしまった。会ってみた印象は押しの強いコテコテの大阪人だなあというところ。こういう人を見ていると楽しくなる。

        まずは桂ちょうば。「携帯電話、PHSの電源はお切りください。ポケベルをお持ちの方・・・・・そろそろ携帯に変えましょう」 ネタは『鉄砲勇助』。東京でいう『弥次郎』なのだが、東京とは順番が違うようだ。猪が先に来て、そのあとで北海道の鴨がきて、最後がおしっこ。ここまで来て「女性は引いとるやないか。ほな、帰らせていただきます」と下げる。ふ〜ん。

        桂都丸一席目はマクラが長い。マッサージチェアの最高級機種が欲しくて、500円玉貯金苦節1年8ヵ月の末に30万円の資金を用意して電気屋へ行ってみると、最新機種が出ていて、それは定価46万8000円。さあこれから奥さんと一緒に値切り倒しの電気屋ハシゴ話が始まるのだが、その面白い事! 東京人は値切るといことをまずやらない。やったとしても、ある程度の節度というものがあって、店員さんが「ここまでで目一杯」となったら、そこで買うのが普通。1円でも安く買おうという大阪人の感覚というのは聞いていて、むしろ痛快で面白い。46万8000円のマッサージチェアが梅田の量販店で38万3000円プラスポイント。普通、そこまで下げてあれば買うだろうと思うのだが、ここからどこまで下がるのか。「ポイントいらんねん。その分安うしてんか?」 それは出来ないと言われて地元の電気屋へ。梅田では38万3000円プラスポイントだったことを言って、さらに「38万丁度プラスポイントにならんか?」と切り出す。地元でも2軒の電気屋を行ったり来たりして、とことん値切っていく。同行の奥さんというのがまた都丸に輪をかけて値切りに人生をかけたような人。「もうあそこで買うたりや」と言っても聞かずに、都丸に言わせると「そこまでしたら、もう鬼畜やで」 このあと小佐田定雄・作の新作落語『ぬか喜び』に入ったのだが、マクラの方が面白すぎで、よっぽど新作落語みたい。

        ゲストは柳家紫文。いつもの『長谷川平蔵市中見回り日記』なのだが、寄席にかけているときよりも持ち時間があるらしく、たっぷり。まずは納豆屋篇をかまして、「こういうのやると、客席で何人かが、(こっちを)睨んでるんですよ。『音曲とはそういうものじゃない。もっと艶っぽいものだろう』とでも言いたいんでしょうけどねえ。私のはこういう芸なんだから。面白いとかつまらないというのじゃないの。皆さんの感性にゆだねているんです」 続いて唐辛子屋篇、飛脚篇、葬儀屋篇、隠れキリシタン篇、ドラえもん篇。「『大岡越前』シリーズだってあるんです」と、さらに何本か。締めは1分30秒の『勧進帳』!!

        桂都丸の二席目は『二番煎じ』。これも東京版と微妙に違うのが面白く聴けた。火の用心の文句が「火の用心。お頼み申し さっさりやしょう〜」と演るところは、江戸流を学んだという大阪人。へえ、大阪では何と言っているのかねえ。「日の用心。ひとつよろしゅう、お願いしまっせ〜」かな(笑)。

        ウチアゲに誘われて、フラフラと居酒屋へ。気がついてみると、この集りは立命館大学落研のOB会のようなもの。居辛いなあと思ったのは最初のうちだけ。なんだか、いい持ちで話しまくってしまった。都丸師匠が三枝師匠のところに『鯛』を教わりに行っているという話を聞いて、これは楽しみだと思った。どうやら新作に燃えているよう。マクラで演っていた、マッサージチェアの話を新作落語にしたいともおっしっゃていた。これはきっと面白い噺になりそうだ。期待してまっせ、都丸はん!


October.2,2005 円楽健在!

9月24日 第282回国立名人会 (国立演芸場)

        この日のお目当ては、小春団治の『漢字悪い人々』だったのだが、実はもうひとつ楽しみがあった。トリをとる円楽だ。実はもう何年もこの人の高座を観ていない。あまり芳しい評判を聞かないのだが、自分の目で確かめたかったのだ。

        開口一番の前座さんは 柳亭こみち『やかん』。頑張ってね。

        初音家左橋『七段目』。定吉が二階へ上がったところで鳴り物が入る。さすがに国立演芸場だ。歌舞伎の鳴り物そのものを再現してくれる。芝居ものを演るならなんたって国立演芸場だね。

        「相撲の呼び出し、ひが〜あし〜 ってメロディーをつけるでしょ。あれ、どっかで聞いたと思ったら きん〜ぎょ〜え きんぎょ っていう金魚屋の声と同じ。それになんで呼び出しさんが呼んでいるのに相撲取りって返事を返さないんでしょうね」 ごもっともごもっとも。三遊亭楽之介は相撲話の『花筏』

        「東京ではバカ、大阪ではアホいいますが、大阪でバカと言ったらキツイ言い方になります。東京で男が女に『ふっ、バカだなあ』と言ったとすれば、『うふっ、バカやちゃった』で済みますが、『うわあ、アホちゃうけ』と言おうものなら、女は手首切って死にますで」 お目当ての桂小春団治『漢字悪い人々』 カタカナ族のアが釣りをしていて、○を見つける。ホがこの○を付けてみるとポになってしまう。トが○を付けるとハングルの○トになってしまう。この○を持った文字は強大な力を持つと同時に人格を変えてしまう。こういった邪悪なものは、遠く離れたケシゴム穴に棄ててしまおうと考えたカタカナ一族は旅に出る。ところがケシゴム穴に辿り着くには漢字国を抜けていかなければならない。そこでカタカナのイとナとエとノとマとホが組み合わさって、佐々木に化けて通過しようとするが・・・・・。お分かりだろうが、これは『ロード・オブ・ザ・リング』のパロディのようなもの。プジェクターで文字を映し出しての大笑い大冒険落語。楽しいなあ。

        仲入り後のくいつきは東家浦太郎の浪曲『野狐三次』 数ある『野狐三次』でも、これは序の部分といえる『木っ端売り』。長屋住まいの者の病気は見ないという寺島宗敬という医者を、横山町の呉服問屋秋田屋作兵衛の小僧のふりをして訪れ、自分の母親の病気を見てもらう三次の姿。いいねえ。「♪渡る世間は鬼ばかり〜 いけねえ、これはテレビドラマのタイトル。 ♪渡る世間にゃ仏がいる〜」

        ニューマリオネットのあやつり人形。秋田音頭に会津節に安来節。こういうのが地方の寄席では受けるのかなあ。いつかやっていた洋楽でのあやつり人形踊りが恋しい。

        さて、いよいよ三遊亭円楽だ。ネタは『真景累ヶ淵 豊志賀の死』。円生のスタイルを継承してか座った右側に湯飲み茶碗。だがこの湯飲み茶碗は最後まで一度も使われることもなく噺に没頭していた。これといったマクラも無く、スッと円朝作『累ヶ淵』の世界に入る。テレビの『笑点』でのイメージとは違っているのに驚いた。噺の世界に入るや一変すると言っていい。女やもめの豊志賀の妖艶さと嫉妬心の壮絶さが見事に語られていく。声に張りがあって、とても70歳を超えたとは思えない語り口調だ。声の強弱にメリハリがあって飽きさせない。いやいや驚いた。円楽は健在だよ。若手の噺家さんたちは、円楽をばかにしてはいけない。これだけの凄みのある高座は、最近私は耳にしていない。


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