November.29,2005 現実的なディペート合戦
11月19日 ハラホロシャングリラ
『ジュラルミンケース』プログラムA (シアターサンモール)
現金輸送を担当している警備会社で、ジュラルミンケースがひとつ多くみつかる。ジュラルミンケース一つ分の現金といえば約一億円。これを発見した七人は、会社側にこの事実を届けるべか、七人で着服してしまおうかと真剣に話し合う。ついには、正義感の強い白鳥(山本佳希)以外の全員が着服側に回ってしまう。さあ、ここから、この最後のひとりの意見を変えさせようと、残りの六人の説得が始まる。・・・・・こう書くと、いよいよ来月に再演が決まった三谷幸喜の『12人の優しい日本人』と被っているところもありそう。
さまざまな懐柔策、お互いの駆け引きが2時間に渡って続けられることになる。そのへんの言葉の妙味がこの芝居の面白いところ。ようやくのことで全員一致で、分け前を均等割りという条件でジュラルミンケースを開けてみると・・・・・。この芝居、プログラムAとプログラムBがあり、それぞれに演出家と役者が総取替えになる上に、最後の結末が違うとのこと。このプログラムAの結末を観ると、無難なところに落としたなという印象が残った。さて、はたしてプログラムBの結末はどうなんだろうか?
November.24,2005 寒い夜は炬燵に熱燗
11月6日 浅草演芸ホール11月上席
浅草演芸ホールは昼間は満員なのだが、日曜のそれも夜となると、少しずつお客さんが帰っていき、仲入り後は、それこそ寂しいくらいになってしまう。こちらは、それが狙い目。7時を回ったころ浅草演芸ホールのチケット売り場に立つ。割引料金2000円になっている。「ちょうど仲入りが終わったところですよ」の声に送られて中に入ると、入船亭扇治が『幽霊タクシー』を演っている。へえ、こんな噺も演るんだ、この人。夜中に青山墓地まで行ってくれという女性客。若く器量のいい女性だが、こんなお客さんは遠慮したい。運転手のサブ公とロクさんは、お互いに譲り合っている。「夜中のいい女って怖いもんだね」 「きのうのブスも怖かったけど」
ペペ桜井のギター漫談。「『冬のソナタ終わっちゃって、これからしばらくヨン様に会えないわね』って、こちら(浅草演芸ホール)に出ている芸人もテレビでなかなか見られないですよ」 持ち時間が短いこともあったけど、この日のペペさん、ほとんどギターを弾いてくれないバージョン。寂しいなあ。
五街道雲助は『持参金』。借金返済のために持参金付きとはいえ、最上級の不器量の上に、お腹に子供までいる女性と結婚するはめになってしまった男。この男の生活も、何せ借金で首が回らないのだから、負けず劣らずの有様。長屋に引っ越してきてから18年間ずーっと万年床。18年ぶりに床を上げてみればキノコが生えている。「晩のオカズにしようか」 腹ボテのお嫁さんがやってくる。さんざんに器量が悪いと聞かされていたのだが、一目見ると「ご隠居が言うほど悪くないじゃないか」 案外、似合いの夫婦になるのかも。
三遊亭円丈はトリで出るときと、間で出るときはガラリと様相が変わる。トリで出るときは、何か気負いのようなものが発散しているのを感じる。ネタもやや重いものが多くこちらが疲れてしまったりすることもある。ところが、こんなところで出ると、爆笑ネタがかなりある人だ。この日は『ランゴランゴ』。中近東出身の出稼ぎ落語家の話。「上手いのかい、その人?」 「そりゃあ上手いよ。泣かせる人情噺させると笑えるし、爆笑噺させるとムカツクし」
アサダ二世のマジック。貫通トリックとトランプ当て。その独特な喋りと共に、人を食った手品は正に寄席芸人としてのマジッシャン。
三遊亭歌司は『小言念仏』なのだが、右手の木魚を打つ手が、台詞を言うたびに止まってしまうのが気になる。確かにこうすると、声は聞き取りやすいのだが、この噺の持つリズム感が無くなってしまう。まあ、聴く側の好みもあるのだろうが、私は止めないで演るタイプの方が好きだ。もっとも、うれしかったのは、この噺をちゃんと最後のオチまでやってくれたこと。最近は、どじょう屋を呼び込む声と、念仏が入れ代わってしまうところで切ってしまう人が増えたが、歌司はちゃんと、どじょうを鍋の中に入れて煮殺す様を見て「ざまあみろ」まで演ってくれた。
あした順子ひろしの漫才は、いつもの。ラジオでも年中耳にしているから、ほとんど台詞を憶えてしまった。それでもラジオではあのダンスの部分は無いから、ふたりが目の前で珍妙な社交ダンスを踊るところは、やはりナマのよさ。いつまでもお元気で。
トリは歌之介の代バネで柳家喬太郎。「プロクグラムには私の名前がありません。歌之介と書いて、きょうたろうと読みます」 落語には、ひとりで酒を飲みながら独り言を言う噺が多い。『試し酒』 『らくだ』 『猫の災難』 『ひとり酒盛り』・・・・・。喬太郎にはこれがあった、『按摩の炬燵』。按摩が五合の酒を飲んでいく様が見せ場ともいえる噺なのだが、途中で素に戻った喬太郎が、「この噺するたびに思うんですが、目つぶって話してるでしょ。目開いてみると、(客席に)誰もいないんじゃないかと思って」 客席から爆笑の声が上がる。「この調子じゃ、きょうは大丈夫だ」 上手い返しだね、喬太郎。さすがだ。
外に出ると、ううっ、寒い。今年は例年よりも寒いんじゃない? 家に帰って炬燵を出しますか。熱燗つけて寝ましょ。
November.21,2005 メントス!
10月30日 ウーマンリブvol.9
『七人の恋人』 (本多劇場)
中野で一緒に落語を楽しんだ友人が、メントスを舐めていた。私がこのあと『七人の恋人』に回るんだと言うとニヤリとして、「メントス買って行くといいよ」。なんのことかわからずに友人と別れ、コンビニに入ってメントスを捜したがなぜかミント味が無い。メントスなどというキャンディーはほとんど食べたことがなかったのだが、私の頭の中にあるメントスのイメージは、何と言ってもミント味。他のフルーツ味は売っていたのだが、それは買う気になれない。結局、下北沢の駅まで来てしまって、キヨスクをのぞいたらメントスのミント味を売っていた。
メントスを舐めながら開演を待つ。『七人の恋人』というタイトルなのだが、女性の出演者は無し。阿部サダヲ、三宅弘城、少路勇介、星野源、宮藤官九郎、尾美としのり、田辺誠一の七人が、ときに女装しての、恋愛をテーマにした七つのオムニバス・コント集といったものだと言えばいいのだろうか。メントスは第一話の『FIRST KISS』で、いきなり出てきた。田辺誠一が白い学生服姿の爽やかメントス男。これかあ! やっぱりメントスはミント味でなくちゃあ。
わけがわからないようでいて、それでいて面白いコントの世界がその後も続く。巨大なウンコに埋もれた新宿のホスト・クラブのホスト(阿部サダヲ)の話『ナンバー・ワン・イン・ザ・UNKO』。マタニティビクスのドタバタ話『マタニティ堀内』。クドカンの巨乳子ちゃんが可笑しくて、三宅弘城のなさけないヒーローものコント『ほとんど×三宅マン』。ヒップホップ・ダンス・コンテスト出場者の追っかけグルーピーを描いた『SHOW−Z.com』。次の『むねさん』がもっとも芝居らしい一編。彼女の実家にやってきた男、手違いがあって彼女は着くのが遅れるとのこと。仕方なくひとりで訪ねてみると、その田舎に住む家族は全員がハゲずら。というか、全員がカッパなのではないかと思われる一家だった・・・・・。最後の一編『七人の恋人の話』は、幻想的な時間が流れていく。
舞台、下手奥に小さなステージがありドラム・セットが置かれている。そこで、コントとコントの間に三宅のドラムス、クドカン、星野によるギターの演奏がある。今回のウーマンリブ、クドカンやりたい放題の感があって楽しかった。ひとつのコントが終わるとすぐに次のコントが始まる。着替えだけでもタイヘンそう。客としてはまことに贅沢な気分になった2時間だった。
November.18,2005 5年後のふたり会
10月30日 林家たい平・柳家喬太郎二人会〜秋はソナタと〜 (中野・ZERO小ホール)
小ホールとはいっても550席ある大きな会場。後ろの方には空席もあるが、それでもかなりのお客さんが入っている。
開口一番は、志の輔の弟子の立川志の吉。「『なぜ、お前なのか?』と言われそうなんですが、呼ばれたから来たんですが」と、『元犬』へ。志の輔の前座として、、よく観ていたが、落ち着きも出てきて、上手くなったなあ。
たい平・喬太郎という、5年前の同時真打昇進コンビによる二人会を催した意図は何なのか。まずは柳家喬太郎の登場だ。「久しぶりの二人会でして、楽屋で会ったときに二人同時に発した言葉が『太った?』。私は最高で90Kgまでいきましたね。神田山陽という男は、言葉の選び方が絶妙というか、ズキリということを言いますね。『90キロ? 池中玄太より10キロ多いの!』 今年の夏に『熱海殺人事件』というお芝居に出まして、稽古で身体を動かした上に、食欲がなくて食べられなかったら、5キロ痩せました。それで気がついたんですが、人間、運動して食べなければ痩せるんですね」 お〜い、気がつけ〜! 喬太郎といえば、昔はスリムな身体つきだった。芸はいいのだから、健康にだけは気をつけて欲しいよなあ。授業参観のマクラをふって、『柚子』へ。小林ケンイチくんのお父さんが、男の人と手を組んで歩いていたという噂がクラス中に伝わる。「お前のおとうさん、ホモだろ。オカマだろ」とイジメの対象になってしまう。本当に自分のお父さんはホモなんだろうかと、そっと父親の様子をうかがうケンイチくん。父親の読んでいる雑誌をチェックすると・・・・・、「『東洋経済』 難しいことばかり書いている雑誌だよなあ 『週刊文春』 川柳のらりくらりが載っている雑誌だ。毎週400通くらい投稿があるんだって。選ぶのも大変だろうなあ」 さらには『女性自身』 『non‐no』 なんていうものに混じって『さぶ』 『薔薇族』が・・・・・。ほとんどの人にはネタは割れるだろうが、喬太郎ワールドらしい人情噺になっていて、いい気持ちにさせられてしまう。
仲入り後は、寒空はだか。『焼芋ロックンロール』 『マタギ』 『都々逸アルペン一万尺』 そして、ご存知『東京タワーの歌』。
古典落語には、今や死語となっている言葉が出てくることがある。「それを説明してから噺に入る方がいいのかどうか」と、軽く思わせぶりな事を林家たい平は言ったあと、自分で着物をあつらえると、どうしても同じ傾向の色の着物ばかりが集ってしまう。それが、店の人に見立ててもらうと、変わった色や柄の着物を勧められて、ハッとすることがあるというマクラから、『お見立て』に入った。これは上手い導入といほかない。説明口調にならずに、[お見立て]という言葉をお客さんの頭にインプットする憎いやり方だ。そのたい平の『お見立て』だが、実に丁寧な『お見立て』というしかない。例えば、杢兵衛を墓に案内するところで、墓の前を花でいっぱいにして戒名を読ませまいとする仕種や、線香を大量に焚く仕種が念入りなのだ。喜瀬川花魁と番頭の喜助のやり取りも念の入ったもので、「羽織と百」でコロッと花魁に協力してしまう喜助も、さもありなんという感じ。最近のたい平は、じっくりと腰をすえて古典落語に取り組む姿勢がみえてうれしい。
5年前のふたりは、大抜擢という感じでの真打昇進だった。そのふたり、着実に実力を蓄えてきているようだ。何せ超売れっ子のふたりなのだが、落語への取り組みは半端じゃない。
November.14,2005 体力知力の限りをつくす即興芝居
10月29日 『青木さん家の奥さん』 (三鷹市芸術文化センター 星のホール)
国立演芸場を出て、地下鉄で新宿へ移動。紀伊國屋書店で本とCDを購入してから三鷹へ向う。三鷹市芸術文化センターは駅からかなり距離があるので早めに三鷹駅に着く事にした。それにしても早く着きすぎたかなあ。駅前のバーミアンで夕食して、ドリンクバーでしばらく居座ってやろうと思う。案内された席で焼きそばを食べ終わり、持参の文庫本を開いたところで、隣のテーブルに中年のカップルが座った。このカップルが何やら言い争いを始めだした。口調がだんだん冗談ではすまなくなってくる。おかげで本の内容がさっぱり頭に入ってこない。あきらめて会場へ向う。
『青木さん家の奥さん』は「この芝居、面白いですよ」と人に勧められて、何の予備知識もなく観に来たもの。舞台はビール・ケースが積み上げられた酒屋の倉庫。高校を卒業したばかりの新入りくんが、じゃがいもの芽を包丁で剥いている。酒屋なのになぜいもの芽を剥かされているのか本人にもわからない。そこへ、この店の4人の先輩店員が次々と現れ、いもをビニール袋に詰めだす。新入りくんは、なぜいもの芽を剥かされているのか訊ねるのだが、それぞれが違うことを言い出す。先輩店員たちは、伝票をめくりながら、それぞれあることに気がつくと駆け出して出て行ってしまう。先輩店員たちが集ってくると、お互いに自分が持っていた青木さん家の伝票を取ったろう、と口論が始まる。伝票を取られた状況をそれぞれが説明し始めるところから、この芝居は、実は即興劇だということがわかってきた。
これは南河内万歳一座の内藤裕敬・作の芝居で、どうやら、一応の芝居の流れ、段取りだけが決まっていて、あとは即興で、どんどんと芝居を作っていくというものらしいのだ。だから上演時間も2時間〜2時間30分と、やるたびに違う。私の観たのは2時間15分だった。3日間の興行だったが、出演が新入り君役に鈴村貴彦。先輩店員役に内藤裕敬本人と、南河内万歳一座から荒谷清水、それに日替わりゲストが、この日は宇梶剛士と、宇宙堂の土屋良太。ギター伴奏が鈴木こう。
主謀者の内藤が、どんどん話をゲストに振っていき、その答で話は無限に変化する。それに合わせて演技を考えなければならないから、役者にとっては、体力知力をかけた、かなりキツイ芝居といえるだろう。なぜ青木さん家の伝票を争奪しているのかといえば、青木さん家の奥さんはそりゃあもう美人だから。4人がどんな美人かを説明しあうのも即興。何を話していいのかわからず、ゲストのふたりが、思わず実生活の本音をポロリと白状してしまうあたりもスリリングかつ爆笑もの。そのあとは、新入り君に青木さん家への正しい配達方法を伝授するコーナー。これも、奥さんの趣味を入れながらの配達という即興の枷がはめられる。この日は、陶芸、靴集め、登山と続き、それを正確に憶えさせられる様は、コント55号の即興コントを集団でやっている楽しさ。
こんな楽しい芝居ながあるなら、次回の公演は行かれる限り通いたいと思わず思ってしまう。だって毎回違うんだもの。同じものは二度とない。これこそ、芝居だからの楽しさ。それにしても、面白いものを考えたものだ。
November.13,2005 花形始まって以来、元力士がふたり
10月29日 第317回花形演芸会 (国立演芸場)
開口一番の前座さんは、三遊亭歌ぶと『子ほめ』。頑張ってね。
鈴々舎風車は『悋気の独楽』。小僧さんがカワイイ。お妾さん、おかみさんの演じ方もいいね。
三遊亭天どんという名前はどこから来たのかと思っていたら、ご本人が高座で喋ってくれた。「入門したときに、師匠が、その日に食べたかったものが、たまたま天丼だから、こんな名前にされてしまいました。二ツ目になったときに変えてくださるのかと思ったら、『めんどうだから、それでいいや』って。前に出た風車さんだって、前座名はバンビだったんですから。先日、『紅白に出られるように頑張って!』って声をかけられたんで、何のことかと思ったら、天童よしみの弟子と間違えられた」 そんな新作派の天どんのネタは『ゆいごんを・・・』。天どん本人を思わせる若い噺家三遊亭おさんどんが師匠の家に通う道すがらの病院の窓から、子供に声をかけられる。毎日、この道を通るたびにふたりは仲良くなっていくのだが、ある日、子供の母親から、おさんどんは子供からの遺言とも思える手紙を受け取る・・・・。この人の新作は、なんだこりゃという奇天烈な発想のものが多いが、これも手紙の内容がかなり奇妙で、「う〜ん」という気分になるのだが、全体の骨子がしっかりしている噺なので、悪い印象にはならなかった。ペーソスが漂うのは円丈ゆずりかな。
ナイツの漫才。選挙ネタとジミ婚ネタ。選挙公約「ヨン様を花形に出します」って、何か芸ができるの、ヨン様って?(笑)
NHKのニュース番組の仕事からこちらに回ってきた柳家花緑が高座に上がる。「最近、テレビドラマの仕事が多いんですが、もうじっくり作っていこうという気構えがないですね、こういう現場は。どんどん撮っていく。マイクとかが画面に映っていなければ、OKなんです。自分の演技に納得がいかなくても、『もう1回お願いします』って、こちらから言えない雰囲気。どうせテレビを観ている方も寝っ転がって観ているんだからいいかと思ったら、DVDが出るという。表現をするということは、恥をさらすことなんだなって思う私です」 まあ、表現者だけでなくとも、私らはみんな恥をさらしながら生きていくんだけどね。ネタは『禁酒番屋』。酒をこっそり持ち込んでくれと頼む侍も、酒の持ち込みがないかチェックする侍も、ごまかして酒を届けようとする商人も、みんな恥をさらしているわけで、そこから笑いというものが生まれるわけで、人間なんて滑稽で悲しい存在だよなあと、つくづく考え込んでしまった。
仲入り後は三遊亭歌武蔵。いつもの角界を去った五つの理由(左足のアキレス腱に怪我を負った、メシが不味かった、気が合わなかった、根性が無かった、相撲取りはバカが多い)で爆笑を取ってから『新聞記事』へ。「お前さんは新聞はどの面から読むかい?」 「一面ですね」 「偉いね、一番重要な記事が載っているところだ」 「ええ、メインレースが載っていますから」 「それは競馬新聞だろ」 スピーディで笑わせどころの多い歌武蔵の『新聞記事』はバカじゃ出来ない。運動能力、回転の速い頭。歌武蔵の落語はどこかスポーツを思わせる。
ナマでは初めて観る安田大サーカス。三人組の漫才。向って左端のヒロくんが元力士。元相撲取りが、この日はふたり! アラジンの魔法のランプなど、テレビでも観たことのあるネタを演った。おんなじおんなじ。ナマならテレビで演っているようなネタでなく、もっとナマでしか観られない思い切ったネタが観たかったところ。
トリがポカスカジャン。例によって小ネタ、一瞬ネタから入るポカスカヒットパレードは、『花〜はなわバージョン〜』 『星降る街角〜冠婚葬祭バージョン〜』 『瀬戸の花嫁〜十二支バージョン〜』 『夏をあきらめて〜サザエさんバージョン〜』 『ラブ・ミー・ドゥ〜村上ショージバージョン〜』。続く江原啓之ヨーデルは今年の花形演芸大賞受賞者の会でも観たネタだが、省五はほんとにそっくり。新しい客いじりネタになってきた。次の『笑点ベンチャーズ』は、こん平、円楽の入院をネタに仕込んだ、6年演り続けて一番の出来とメンバー自身が喜んでしまう出来。ラストはこれまた真面目な新曲『はい、どうも』。熱のこもった演奏で、玉ちゃん弦切ったあ!
November.10,2005 朝も早よからよ〜
10月23日 早朝寄席 (鈴本演芸場)
久しぶりの早朝寄席。末廣亭の深夜寄席は、今年に入って満員状態が続いているが、こちらはどうかと覗いてみたら、こちらも若いお客さんが大勢入っている。今の二ツ目さんは恵まれているねえ。
『落語協会のホームページに苦情メールが届きました。朝の10時からの寄席が早朝寄席、夜の9時30分からの寄席が深夜寄席というのはおかしいというんですね。私らの生活というのは一般サラリーマンより半日づれているんですね。寄席の昼の部が始まるのが12時、夜の部の始まるのが5時ですからね。朝の10時というのは私らにとっては早朝なんです」 金原亭小駒は『動物園』。
春風亭栄助は『天狗裁き』。夢の話を教えてもらえないとわかった相手のキレ具合が面白い。「この天狗が聞いてやろうというのだから、教えてくれても、よくなくねえ?」という現代若者言葉の天狗も面白い。
柳家さん弥の『転宅』は、忍び込んだ泥棒が目の前のご馳走を食べる仕種がいかにも下品で、それらしいのがいい。
三遊亭亜郎はミュージカル落語『反対車』。登場人物が歌いながら出てくる(笑)。空中回転もミュージカル仕様(笑)。
噺家さんにとって、朝の10時というのは、やはり早朝の時間に属するようだ。4人の噺家さん、慌ててでてきたのだろう。ヒゲを剃り忘れている人が見受けられた。頬や顎に薄っすらとヒゲが・・・・・って、あっ、いけね、私もヒゲを剃り忘れている。
November.7,2005 ゲストで出ようが真剣勝負
10月16日 林家染二独演会2005 東京公演 (築地 ブディストホール)
前夜、翁庵寄席にご出演いただいた林家染二師の東京独演会。なんと夜の飛行機で大阪へとんぼ返り。午前中に米原で仕事をして、夕方5時開演の東京での独演会とは、いやはや、何とエネルギッシュな! 前売り券を持っていくと4時から指定券に変えてくれるというので、4時に受付へ。指定券に交換してもらったのはいいけれど、開演までにはまだ時間ある。どうやって時間を潰そうかと迷って晴海通りまで出たら、晴海通りと新大橋通りの交差点にマクドナルドがあることを思い出した。100円マックでマック・シェーキをいただきながら暇つぶし。最近は滅多に築地に買出しに来なくなったので、ここのマクドナルドのことをすっかり忘れていた。平日の朝に来ると、買出しに来た長靴履きの業者と、外国人観光客でいっぱいだ。
お囃子も録音ではなく、ちゃんと鳴物がスタンバイしている。一番太鼓、二番太鼓が力強い音をたてる。三味線の音が響いて、まずは林家花丸が高座に上がる。「市が主催した『うそつきコンクール』というのがありましてな。賞金30万円。市役所前に特設ステージを作りまして、次々と参加者がマイクの前でウソをつく。優勝したのは、『私は生まれてから一度もウソをついたことがありません』と言った人。優勝者が『ほなら、賞金30万円ください』と言ったら、主催者が『あれはウソです』」 こんなマクラだからと思っていたら案の定ネタは『鉄砲勇助』。北海道の小便のくだりで、金槌、荒縄、釘抜きと出してきて、「錐はおまへんのか?」 「お前の話を聴いているとキリがない」と下げた。上方版の『弥次郎』、まだ聴き始めたばかりだが、いろいろとパターンがあるようだ。
遊園地の絶叫マシーンは、好きな人と嫌いな人がはっきり分かれてしまう。私は好きな部類に属するのだが、嫌いな人には、なぜ好き好んであんなものに乗るのかわからないようだ。林家染二も後者。自分の子供への教訓として子供の部屋に「壊さない 暴れない 逃げない」と書いた紙を昔から張ってあるという振りから、家族で遊園地に行って、絶叫マシーン スペースショットに乗った体験談。「中一の息子に男ならあれに乗って来いって言ったんです。高校生の娘にも乗って来いっていいました。そしたら、ふたりが言うことが『それなら、おとうさんも勇気をみせろ』 引くに引けなくなって、いやいや安全バーを下ろしたところで、ふたりの子供が逃げた。瞬間、マシーンが動き出して、『ウワーッ』ですわ。なんであんなに怖い思いして500円も払わなならんのでしょ」 怖いもの見たさのマクラから『皿屋敷』という持っていき方はうまい。皿屋敷に若い連中が向うところで鳴物が入る。怖がる男の顔の表情が見事に可笑しい。染二の落語はやはり見せる落語だ。前に回って観る方が数倍面白い。
仲入り後はゲストの柳家権太楼。前夜は権太楼の弟子の三太楼とのふたり会だった。今度はその師匠。2日間観た人は、権太楼一門VS染二という番組が体験できたことになる。「染二さんウチアゲをやるのは楽しいんですよ。座持ちが上手いんです。ウチの弟子に説教したことがあるんですよ。染二さんを見習えって。だから、ウチの弟子は染二さんを怨んでますよ」 いやいや、三太楼も座持ちの上手さに関してはかなりの腕前。前夜は体調が悪くてウチアゲに参加してくださらなかったが、客あしらいの上手さはなかなかのもの。ゲストに入って何を演るのだろうかと思ったら、ぶつけてきたのが『笠碁』。これが一切手を抜かない真剣勝負。碁仇の旦那同士の駆け引きが見事に再現されていく。笠を被って喧嘩別れしてしまった相手の家の前を行ったり来たりの旦那の表情が可笑しい。口をとんがりがらせるのだが、それが本気ではないというあたりの見せ方が笑いを誘うのだ。クライマックスの盛り上がりはすさまじい。「このヘボ」 「なんだと、ザル」 「へっ、どっちがヘボだかザルだかね一丁勝負してみようじゃねえか」 「よし来た」というところで、客席は盛り上がり、まるで権太楼がサゲを言ったかのような拍手が巻き起こってしまう。こうなると、このあとに続く、笠を被ったまま碁を始めたので雫が碁盤に落ちているというサゲは余分なもののようになってしまう。それほど凄い『笠碁』なのだ。
こうなると、あとから出た林家染二の二席目は割を食った感じ。『唐茄子屋政談』を染二風にした『南瓜屋』だが、権太楼の『笠碁』でお腹いっぱいになってしまっている。お天道様と米の飯は付いて回ると啖呵を切って勘当された若旦那。お天道様は付いて回ったが、米の飯はどこかで迷子状態。叔父さんに拾われてかぼちゃを売りに行かされる人情噺。親切な男が代わりに売ってやるくだりがいい。通りがかりの人に無理矢理に売りつけるところが爆笑もの。「どうや、みんな機嫌よう買(こ)うてくれたで」 「そんな風には見えませんでしたが」 二回目の商売で噺は政談へと繋がるくだりに突入するのだが、この辺で私の集中力がいささか落ちてきた。前日からの疲れと、権太楼の凄いものを見せられたという思いで、やや流して聴いてしまった。ごめんなさい。
終わって、東銀座のさくら水産でウチアゲ。前夜一緒だった翁庵寄席スタッフもまた集合した。2日がかりのウチアゲなんて初めて(笑)。座持ちが上手いと絶賛された染二さんはさすが。てっきり権太楼師匠もご参加くださるのかと思っていたら、お帰りになったとのこと。『笠碁』のこと、いろいろとお聞きしたかったんだけど・・・・・。