January.31,2006 こんなところで狂言に出会うとは

1月22日 志の輔らくご in Parco (Parco劇場)

        其の四プログラムの初日。二席ネタ出ししてあるものから、もう何回か聴いているとはいえ、また『買物ぶぎ』が聴きたくなって、この日のチケットを取った。今回も客電は落とされる。

        立川志の輔の声は、先日よりもさらに嗄れてきている。「ライブドアの堀江社長の粉飾決算、ヒューザーの小嶋社長の耐震偽造問題で世の中が騒いでいるときに、アメリカ産牛肉の輸入が再開されたと思ったら、また危険部位が入っていたなんて事件が起きまして、もう堀江社長と小嶋社長を段ボールに詰めてアメリカに送り返してやりたいくらいのもので」とかまして、『買物ぶぎ』へ。この薬局へ薬を買いに来る男のキャラクターって、『親の顔』のおとうさんや、『みどりの窓口』にキップを買いに来る江戸っ子のおじさんなんかと同じ人物なのではないかと、ふと思ってしまった。少なくとも私のあたまもの中では同じ役者が演じている(笑)。

        二席目が『歓喜の歌』も一昨年に続いて二回目。志の輔の新作の中でも、狂乱の中で、人情噺的な展開になっていく感動的な噺だ。終わったあとでママさんコーラスが『歓喜の歌』を歌うのも以前の通り。

        「二席目のどこかで、喉が壊れた」と言う志の輔。もう限界のようなのだが、お楽しみになっていた三席目が凄かった。『狂言長屋』と題がつけられたネタ下ろしの新作は、吾妻橋の上から身投げをしようとしている男を江戸っ子が助けたところから始まる。おや、『文七元結』の途中から?と思わせる出だしから、この男が実は狂言師であり、御前で披露するはずの新作狂言を盗まれて、替わりに見せる新作が思い浮かばない。それで思い余って死のうとしたのだという。盗まれたのはどんな話なのだと聞いてみると、どこが面白いのかわからない。そんなものなら自分たちも一緒に考えてやろうとするのだが、それは素人の集り。それこそ碌なアイデアが出てこない。このへんは、新作落語を作り出そうとする落語家の苦悩がわかるようで興味深いし、勝手なことをワイワイ言い出す長屋の住人の様子も、志の輔流の庶民の描き方で楽しい。『忠臣ぐらっ』のお節介な江戸っ子たちとも似ている。途中で尻切れトンボのような終わり方をしたので「おやっ?」と思ったら、志の輔が下手にはけたあとに、本物の狂言が始まった。茂山逸平さんという本物の狂言師が狂言を始めた。狂言といえば、中学校のときに古典芸能鑑賞教室なるものがあり、そのときに狂言を観せられて以来。生意気だった中学生だった私は、そのときの感想文に、「同じ古典芸能でも落語は生き残るが、狂言は滅びる」と書いて提出したことを思い出した。今から思えばバカなことを書いたものだ。さて、茂山逸平さんがひとりで演じているところへ、志の輔がからんでくる。これが志の輔の創作した狂言。これをサンドイッチの具として、また落語に戻ってくるという構成。これが見事にストンと決まった。

        3時に始まって、10分の休憩をはさんで、終演が5時50分。なんと志の輔は、2時間40分演っていたことになる。この其の四、ママさんコーラスも聴けるし、狂言も観れるはで、なんだか一番得した気になってしまった。


January.22,2006 役者さんたち、上手くなりました

1月15日 劇団フーダニット
       『真理試験――江戸川乱歩に捧げる』 (タワーホール船堀 小ホール)

        アマチュアながら推理劇を上演しつづける劇団。今回も辻真先の書き下ろしという豪華版。

        昭和初期の警察の取調室。女性裁判官が次々と入ってくる容疑者の事件を解決していく導入部。うん? 昭和初期に若い女性裁判官? という疑問が湧いているうちに、おやっと思う場面が出てきて、早いうちにこれは劇中劇だということがわかる。このへんは、辻真先の読者なら想定内だろう。

        やがて、話はある殺人事件の推理に向っていく。昨年、江戸川乱歩生誕の地、名張で公演したものを東京に持ってきただけあって、いつもよりも役者さんたちもこなれているようだし、落ち着いている。台本も江戸川乱歩の代表作をところどころ織り交ぜていて楽しい。

        ただ、あえて注文をするとすれば、演出がやや一本調子かなあ。観ていてダレてしまう個所がいくつかあった。それと台本。よく出来ていることは認めるけれども、お客さんに“観せる”ということをもっとして欲しかった。ほとんど台詞劇で動きが乏しい。これでは小説を読んでいるのとさして変わりがなくなってしまう。せめて、殺人のあったシーンをうまく入れ込んでくれれば、観ている側もイメージが湧くのだけれど。それと話として暗すぎる感じがした。ラストの暗さを跳ね除ける意味でのエンディングの歌はいいけれど、本編にもう少し遊びがあればなあ。

        休憩なしの1時間30分でピリッと締まった。お土産の二銭銅貨せんべい、美味しかった!


January.19,2006 楽屋が自宅?

1月8日 志の輔らくご in PARCO (PARCO劇場)

        1ヵ月公演のプログラム其の弐。毎年、チケットを取るのが大変な公演だが、今年は1ヵ月も演るのにいつもより大変になったのは、プログラムを4つに分けて、ひとつのプログラムが5〜6回しか無いというのも影響を受けているような気がする。全プログラムに行く人が多いのだろう。でも〜、新しいものを作るわけではなく、過去の傑作選だというのにこの人気なのだ。それだけ、立川志の輔のファン、落語ファンが増えてきているということだろうか。

        驚いたのは、開演と同時に客電を切られたこと。これでメモが取れなくなった。いつもは、前半の新作コーナーは客電を点けていてくれたのになあ。なにも残っていないので記憶だけで書くしかない。落語ブームに触れ、「年が変わったら、東京三菱銀行が三菱東京UFJ銀行になった。これって、めでたい名前を全部付けてしまうという『寿限無』を思い出しません?」とかます。ほんと、そうだよなあ。今にもっと銀行がひとつに統合されたら、なが〜い銀行名を言っているだけで、手数料を増やされそう(笑)。いつもの、利口とバカのマクラから『親の顔』へ。確実に笑いが取れる志の輔の十八番ネタになった感じ。

        楽屋には、こたつからCDラジカセから、布団まで持ち込んでいると話し、物が増えるということ、今にゴミを捨てることが出来なくなる社会が来るのではないかという不安を提示して、二席目は、これは久しぶりに聴く『ディアファミリー』へ。2001年のPARCO公演で聴いて以来だ。物が増えるということが家族に与える問題をこういう風に笑いに持っていく志の輔の手腕に、改めて感心してしまった。

        ネタ出しのしていなかった三席目は、「落語には『忠臣蔵』を正面切って演じるものは無かった。それは、落語という滑稽噺になりにくい題材だから」と、志の輔が完成させた『忠臣ぐらっ』。これは私は今までめぐり合えなかった志の輔の噺。吉良邸の絵図面を作った岡野金右衛門が、実は仇討ちに嫌気がさしていたという設定が面白い。内蔵助から絵図面を入手しろと矢のような催促があるのだが、入手がなかなかの困難。それをおせっかいな江戸市民がいとも簡単に手に入れて、金右衛門のところに持っていくのだが・・・。

        1ヵ月間のパルコ公演。早くも声が嗄れてきているように感じたが、はたして最後まで持つのだろうか? 私は、このその弐のあとに、その四に行く予定なのだが、そのときまで声が出ていることを祈るばかり。


January.16,2006 深夜寄席人気定着・・・かな

1月7日 深夜寄席 (新宿末廣亭)

         亀有から新宿へ回り、映画館で暇を潰してから末廣亭の深夜寄席へ。この夜もズラッと列が出来ている。しかも若い人が圧倒的に多い。去年からの深夜寄席の人気はいまだに続いているようだ。9時30分の開演時間までには椅子席はほとんど埋まり、桟敷にも人が入った。

         自分は気の弱いところがあると言う古今亭錦之輔。シャイなんだよね。「コンビニのレジで列が出来てしまうと、途端におでんが選べなくなる。みなさんは、回転寿司で注文ができますか? 私は苦手なんです。いいですか、その場の静寂を破るんですよ。それに無視されたらどうしようと不安がある。それなら回っている干からびたものを食べた方がいいと」 オレオレ詐欺のマクラから『完全防犯マニュアル〜スキミング編』へ。この噺聴くのは3回目。

        桂快冶『化物使い』は喋りなれている感じ。前半の権助とのやり取りからじっくり。もっとも、この快治が長く演ったので、あとの人がちょっと押せ押せに。

        瀧川鯉之助は、一門に、ボーツとした性格の男がいて、この男がかみさんに逃げられたというマクラ。もっとも、よりを戻したので(話の)ネタにはならなかったようだが、「落語の方では、しっかり者のおかみさんにボンヤリした亭主と相場が決まっておりまして」とうまく繋いで『鮑のし』へ。

        トリが三遊亭遊喜。「昨年は、耐震強度問題が騒ぎになりましたが、何とあの歌手のちあきなおみが、姉歯建築士と付き合っていたことが発覚されたらしいんですよ、みなさん。いつから付き合っていたかと言うと、♪あねは3年前・・・」 うそでえ。ネタはうそをつく噺『宿屋の冨』

        ハネて外へ出て、錦之輔さんとある計画についてヒソヒソ話。そんなところを若い女性が錦之輔に「きょうの噺はなんていうんですか?」と訊ねていた。落語ファン、錦之輔ファンは増えているなあ。


January.10,2006 やっぱり、いい事があった方がいい

1月7日 新春夢空間ライヴ (亀有・リリオホール)

        610の客席がほぼ埋まった。昇太の人気か、あるいはテレビのバラエティにもよく出ているポカスカジャンの人気か。だるま食堂、ポカスカジャン、柳家喬太郎、春風亭昇太と並べた顔づけをどの順で出すのか興味津々というとこだったが、蓋を開けてみれば前半にだるま食堂とポカスカジャンの音楽色物2本、仲入りを入れて落語2本という、くっきりと前半後半が分かれていて、まったく別ものになっている。まあ、舞台の進行上、これが一番自然なんだけれど、それにしても不思議なプログラムを考えたものだ。

        だるま食堂は、いつものソウル・シンガーズ・トリオのネタ。自己紹介ネタから、バレバレネタの『男と女』のテーマ、フラメンコと続くが、いつもながら可笑しいなあと思う。それにしても、こんな広い舞台で演る彼女たちを観るのは初めて。持ち時間20分。こんなに長いのも初めて観る。どうするのかと思ったら、まだ観た事のなかった、『私たち勘違いされちゃうの歌』とか『魂の歌』とか、けっこうまだネタ持ってるんだあ。お馴染み『51音マンボ』のあと、締めはやっぱり『サンバでクイズ!』、第三問の答をちゃんと正確に知っている人が多いのだから、やっぱり有名になってきているのかな。

        ポカスカジャンは、このところネタが決まってきた感じ。『絵描き歌・2億4千万の瞳〜エキゾチック・ジャパン』から軽く始めて、『金八先生が歌う仮面ライダーの歌』、一瞬ネタ5連発(『花〜はなわバージョン〜』 『星降る街角〜冠婚葬祭バージョン〜』 『瀬戸の花嫁〜十二支バージョン〜』 『夏をあきらめて〜サザエさんバージョン〜』 『ラブ・ミー・ドゥ〜村上ショージ・バージョン〜』) ワールド・ミュージック(邦楽『ロッキーのテーマ』 アフリカ民族音楽『北の宿から』 『俺ら東京さ行くだボサ』 『津軽ボサ ソフト・バージョン』 『笑点ベンチャーズ』 『魚河岸フラメンコ』) 締めは、何年か前に昇太が新年会で玉ちゃんに歌わせようとしたが、酔っ払っていて歌にならなかったという『さだまさし風 八兵衛の一番長い日〜楽あれば苦り〜』。

        仲入り後は落語。柳家喬太郎が、初めて亀有に降りて、立ち食いそば屋で290円のかきあげそばを発見したと言う話題から客をつかむ。「300円切っているんですよ。運命的出会いと言わずしてなんでしょうか? 行ってしまいますね」 こうなるとこの日もB級グルメ話が炸裂しまくる。「最近のラーメン屋はよくないですよ。中に入るとTシャツ、バンダナ姿の店員さん、木で作った内装に、あいだみつおくずれの字でラーメンなんて。正しいラーメン屋はパイプ椅子ですよ、背もたれのないね。テーブルの下には数年前のマンガ誌なんかが置いてある。メニューだってね、ラーメン屋なのにカツ丼まで売っている。先日ね、そんな店見つけたんですよ。カツ丼がね500円くらい。厨房に座右の銘なんでしょうかね、紙が貼ってある。『今日一日、いい事なんかなくてもいいから、悪い事がなければいい』。やる気のなさそうな店主でね。そのカツ丼がまたね微妙でね、うまくもないんだけどまずくもない。張り紙の意味がわかりましたね」 「立ち食いそばは何といっても、コロッケそばですよ。場違いなんですコロッケなんてね。もともと立ち食いそば自体が本寸法じゃないんだから、そこでのコロッケは本寸法ですよ。コロッケだってね、揚げられて『ソースをかけてくれるのかな』と思っているところへいきなりそばつゆの中に入れられちゃうんですよ。『ああ、そばつゆが体に浸みてくるう〜』」と体をよじる仕種の可笑しいこと。まさかと思ったがこのあと『時そば』に入ったのには驚いた。喬太郎の2軒目のそば屋は、的の下に包丁が2本ぶっちがいになっている[キッチン当たり屋]。縁が欠けているので丼を回すが満遍なく欠けている。汁を飲んでみると吐き出しそうになる。「湯、うめてくんないかな。甘いとか辛いとかはあるけど、お前んとこは渋い。あっ、茶そば? (どんぶり)回すし」

        喬太郎が本寸法(笑)の『時そば』を演って立ち上がると、自ら座布団を返して、下手のメクリをめくって下がる。入れ替わりに春風亭昇太が、後ろを振り返りながら高座に出てくる。年末年始のことを面白おかしく話すマクラも快調。格闘技、紅白、初詣風景、駅伝(「正月くらい休めばいいのに、学生、普段休んでいるから元気いいですよ!)。『情熱大陸』に出たことを話して『人生が二度あれば』へ。もう何回も聴いた噺だが、変化したところがあった。蟻の観察の部分が蓑虫(みのむし)になっていた。「蓑虫はなんでぶるさがっているのかな。もっと揺らしてあげよう」 ははあ、こちらの方が動きが出て面白いな。毎回変わる新聞を読む場面。「たいへんな雪が降った。豪雪。春風亭昇太・・・人間国宝。よーし! 柳家喬太郎・・・長い! 自分の時間があまりなーい!」

         帰りに駅前の立ち食いそば屋を確認。食べなかったけどね(笑)。


January.8,2005 「押忍!」

1月3日 新・落語21らくごちゃん2006お正月特別興行2日目

        前夜のウチアゲ紛れ込みが尾を引いて、寝坊だよ〜。年末に二ツ目の瀧川鯉橋さんと話していたら、彼のテレビがもう古くて映らなくなったとのこと。「ウチにブラウン管の、もう使わなくなっちゃったテレビがあるから、あげようか?」と言ったら、「ありがとうございます」って言うので、この日の朝に届けてあげることになっていたのだ。二日酔い気味の胃をなだめながらタクシーのトランクにテレビを積んで出発。正月休みの東京の街は空いている。スイスイと都内を走りぬけ、豊島区まで。築50年という古いアパートに住む鯉橋さんの部屋にテレビを運び込み、新年のご挨拶。彼もこれから寄席に行かなくちゃならない、私も明日から始まる仕事の仕込みがあるので、早々に引返す。人もあまり歩いていない道を高田馬場まで歩き、地下鉄で帰宅。さあ、まだやらなくちゃならないことは、たくさんあるぞ。二日酔いもどこかへすっ飛んだ。

        せっせと仕事をして、家を飛び出す。2日続けてプークだ。プークの階段を降りて客席に入ると、なんとしたことか、前日はあんなに入っていたのに、この日はお客さんが20人程度しかいない。お正月興行3日間の中では人気者が少ない日とはいえ、こんなに差があるものなのか。開口一番の前座さんは立川三四楼『三四楼の小噺ベスト5』。小噺5本プラス1という内容。第5位から第1位までカウンダウンしていくのだが、私が一番面白いと思ったのは、逆に最初に演った第5位。「若旦那、この字、なんて読むんでしょうねえ」 「わかだんな〜」

        三遊亭天どんは、絶対に当たらない占い師の噺『占い当たらない』。天どんの作る噺というのは、発想がユニークすぎて、いったいどうしたらこういう噺を作れるのだろうと感心する前に、この人の頭の中を見てみたいという気になってくるのだが、今回の噺は、最初は「またか」という感じだったのが、後半に入っての展開が面白い。天どんの妙なロジックが成功した例だろう。

        出身地のテレビ局から、東京で落語家の二ツ目をやっている様子を取材されたという桂花丸。「私のアパートの部屋を撮りたいというんですが、スタッフが『イメージが違う』と言うんです。『もっと狭くて汚いところだと思っていた』と言うんですよ。それで家賃28000円の鯉橋くんの部屋を私の部屋だということにして撮りまして・・・・・」 あらら、今朝がたテレビを運び込んだあの部屋が頭をよぎる。「これから演ります噺は、一度円丈師匠の前で演ってみせたときに、師匠の顔色が変わってきて、絶対に演るなと言われた噺でして、師匠からは『お前はいつか人を殺す』 『渋谷にいるチーマーみたいな目をしている』なんて言われました。今日は円丈師匠が来ていないので演ってみたいと思います」と始めた『ペットを飼おう』は、さすがに円丈師が嫌いそうな噺だった。なにしろ子供がペットを飼いたいと言い出すのが犬でも猫でもなく、ホームレスだという噺なのだ。「ねえ、可哀想だから飼ってあげようよ。ほら、あんなに震えているよ」 「アル中だろ?」 こうしてホームレスに首輪と鎖をして飼うという噺。う〜ん、ちょっと引くわぁ〜。

        林家きく麿はダイエット部の噺『ダレダレダイエット』。私も今年こそキッチリとダイエットしなくちゃ。

        昨年、真打昇進と共に名前が三遊亭小田原丈から変わった三遊亭丈二。「ウチの場合、名前は師匠が決めると決まっていますからね、選択の余地がない。小田原丈時代は、三遊亭小田原丈って七文字ですからね、寄席文字を書く人が嫌がった。一度、改名しようと言う話があって、ウチの師匠と彦いち兄さんが相談していたらしい。そのときに彦いち兄さんが付けたのが、北斗七星。危うくまた七文字にされるところだった」 円丈家のペットのマクラから、『公家でおじゃる』へ。あらあら花丸の『ペットを飼おう』と被っているなあ。小学生の間で公家をペットとして飼うのが流行るという噺。これも人道上ギリギリという噺なのだが、花丸のものより品があるだけ救われている。ペット化された公家たちを助けに来るUFOの登場など、ちゃんとカタルシスを感じさせてくれる構成など、やはりこちらの方が良くできている。

        仲入り後は、この日もこらくごちゃん大会。三遊亭天どん『スパイとお母さん』は、高校一年生にして秘密諜報員の男の子(う〜ん、またもや凄い発想)。その行動は母親に筒抜けだったという噺(う〜ん、凄いを通り越している発想)。桂花丸『デイスクジョッキーHANA』はそのまんま花丸がディスクジョッキーになって架空の投稿ハガキを読むというネタ。こういう落語という形を棄てたものの方が、こらくごちゃんの場合面白くなる。林家きく麿『捨て猫チンク』は、朗読のプロになろうと思った息子が、『捨て猫チンク』という童話を朗読するという噺。どうやらこの童話も自分で考えて来たらしい。

        林家彦いちは、大晦日の格闘技、『大笑点』の[いやんばかーんダンサーズ]、正月のラジオの仕事、年末に遭遇した清水宏と、マクラたっぷりのあと『厩火事〜北の国から〜』。髪結いのおかみ有紀が、倉本さんに、亭主の純の不満を漏らしにやってくる(笑)。これは『北の国から』のキャラクターを借りて『厩火事』を演ったもの。ふたりの住む丸太小屋の柱をノコギリで切って下敷きになったときに亭主が反応するかみろと、倉本さんに言われる・・・・・って凄すぎぃ!

        柳家小ゑん『稲葉さんの大冒険』。気の弱いサラリーマンの稲葉さんが駅前でピンサロのポケットティッシュを受け取ってしまったことから始まる三遊亭円丈作の噺。喬太郎も演っているが、小ゑんが演ると稲葉さんの惨めさが増すような気がする。今回、受け取ったティッシュの店の名前が[エキサイティングパプ 濡れ濡れでんでん虫 電話9292−1919ぐにゅぐにゅいくいく]だとわかった(笑)。確かにこれは家庭に持ち帰れな〜い。「長押(なげし)の薙刀で『お脛!』」が、今でも思い出し笑いになって耳についている。

        ハネて、楽屋の彦いち師に挨拶に行く。これで会うのは2回目なのだが、おそらく私の顔を憶えていないだろうと思って名前を名乗ろうとしたら、先に「押忍! 押忍! 押忍!」ときた。空手関係の人が訪ねて来たときに失礼に当たらないようにという用心なんだろうなあ(笑)。


January.7,2006 高座を下りた噺家さんはフツーの人

1月2日 新・落語21らくごちゃん2006お正月特別興行1日目 (プーク人形劇場)

        去年までは毎年元旦に行われるロイヤル・パーク・ホテルの春風亭小朝独演会で、その年の初笑いと決まっていたのだが、今年からはこの習慣を止めることにした。なにしろ仕事がら大晦日まで仕事をしている関係で、元旦ぐらいは、1日のんびりしたいというのが本音になってきてしまったのだ。歳だねえ。

        元旦から3日間のお休みとはいえ、年明けは年明けでまた忙しい日々が何日か続くことになる。2日目からはもう仕込みを開始しないと間に合わない。落語のテープを流しながら昼間はひたすら仕込みに専念。夕方になって、さあ行くぞ、今年もプークへ。トリが円丈、それに喬太郎人気だろうか、会場はほぼ埋まった。

        開口一番の前座は桂夏丸。「元旦の『大笑点』、ご覧になりましたか? 長瀬智也が『初天神』やってまして・・・・・これが私より上手いんですから」 ほんとにそう? 頑張ってね。ネタは『私を寄席に連れ行って』。一度も寄席に行ったことの無い男を、落語協会の興行にしか行かない男が鈴本演芸場に連れて行く噺。う〜ん、どうせなら落語芸術協会の噺家さんなんだから、芸協の寄席に連れて行く噺にすればいいのに・・・なぜ?

        「前座さんにお年玉あげなくちゃいけないという掟はわかるんですが、今、楽屋にいるたん丈は40過ぎのおっさんですよ。なんで年上の人にお年玉あけなくちゃならないの!」 川柳つくしのぼやきもわかるけれど、そういうものなんだろうなあ。ネタはお得意の『江戸っ子を探せ』

        「落語家という職業の人は、普段はみんな普通の人ですよ。何か面白い答が返ってくるだろうと期待している人がいますが、普通の答しか返ってこないものです。いつも面白い人なんて円蔵師匠くらいなもの」 春風亭栄助『落語家インタビュー』は、テレビ番組で『時蕎麦』を一席演った噺家に、落語をまったく知らない女子アナがインタビューする噺。メチャクチャな質問をする女子アナに、戸惑うだけで気の効いた洒落で返すことができない噺家の様子が可笑しい。

        5月に真打に昇進する春風亭昇輔。師匠の柳昇亡き後、瀧川鯉昇に預けられていた形になっていた。真打昇進に伴い、名前が瀧川鯉朝(りちょう)に変わる。「いい名前だと思うんですよ。それが、おふくろに電話で、名前が変わるって話したら、『なんで春風亭棄てるの! あんたの取柄は春風亭だけだったのに!』」 春風亭鯉昇が瀧川鯉昇に名前を変えたときに、弟子たちの間でも春風亭から瀧川に改名する者と、そのまま春風亭を残す者に分かれた。春風亭の方が落語家らしくていいと思う者と、師匠が改名したのだから自分も思う者。その辺を自由にさせているのも鯉昇師匠らしい。芸協の裏話がマクラとして続き、『街角のあの娘』へ。南千住駅前商店街のお菓子屋さんの店先に置かれているペコちゃん人形が主人公。店員さんや、店先を通る様々な人々の人間模様がペコちゃんの目で描かれる。38歳になる独身男性店長と女子大生のパート店員の話、登下校途中にペコちゃんのスカートを捲って行く小学生、98Kgの過食症女性、嫁の悪口を言い合うおばあちゃん達・・・・・。いいなあ、この噺。

        「私には、正月用のマクラというのがありまして、これもう20年もやっている」と、夢月亭清麿が『今年死にそうな人』というのを演ってみせた。そういえば、これ、私も毎年聴いているなあ。ネタは、一昨年の落語協会新作台本募集で入選した『もてたい』 図書館員としてコツコツやってきたお父さんが、「人間は顔が命だ」と整形手術をすると言い出す噺。

        仲入り後は、小らくごちゃん大会。川柳つくしはウクレレ漫談『来世頑張れ』 「立ち上がるときに『よっこいしょういち』と言ってしまう人、♪来世頑張れ!」 春風亭昇輔『落語家トレーディングカード』、内容は・・・書けな〜い。春風亭栄助『お年玉を下さい』。ベトナム人だということが見え見えな男。前座だと言い張るこの男が、噺家を見つけると「明けましておめでとうございます。お年玉くださ〜い」とやる。以前に、噺家を見つけると「弟子にしてくださ〜い」とやるベトナム人をやっていたが、あの続編らしい。

        柳家喬太郎はマクラたっぷり。相変わらずB級グルメの話が多い。この人のB級グルメ話はなんだかうれしい。「ステーキなんて、あたしらのころは滅多に食べられなかった。ビフテキって言ったものですよ。ビフテキなんて喰っちゃいけないものですよ。それがですね、今や千円以下でステーキハウスなんていって薄っぺらいステーキが売られている。いいんですか?」 「食パンのミミ、砂糖水に付けて食べませんでしたか?」 「イカ天って好きなんですよ。総菜屋でイカ天とピーマン天買ってきて醤油を付けて一緒に口に入れるのが好き」 さらには大晦日のテレビ東京『年忘れ日本の歌』の話題から、菅原都々子の『月がとっても青いから』を熱唱だよん。そこから、戌年の初席用に作って元旦とこの日の寄席でかけて、これが3回目だという、出来たての新作『バイオレンスチワワ』。結婚を間近にひかえたカップル。彼女の飼い犬はマルチーズのチロリちゃん。ふたりが一緒に犬を連れて散歩に出ると・・・・・。まだ出来たばかりで、少しずつ改良されていくのだろうけど、いろいろ散りばめられたギャグは楽しいし、オチにもクスリときた。

        トリは三遊亭円丈。「初席はどこの寄席もいっぱい。特に浅草演芸ホールは超満員。ここの呼び込みさんが凄い。『中はあったかいよう!』 『今、木久蔵がやってますよ!』って入れちゃう。もう満員で木久蔵なんて見えませんよ。客が文句を言うと、『見られるとは言っていない。聴けると言ったんです』」 ネタは『肥辰一代記』。正早々の下ネタに、最初はやや引いてしまったが、熱の入った高座。この人の迫力にやがて引き込まれてしまっていた。

        この日、隣の席に座っていた人と仲入りで、落語の話をしていたのだが、ひょんなことからこの人に頼まれ事をされることになってしまった。ハネてからもロビーで話を詰めていたら、この人、円丈師の知り合いだとの事。気がつくと、出てきたこの日の出演者のウチアゲに紛れ込んでしまっていた。なんと年末年始も無休だという、さくら水産で遅くまで、この日の出演者に、いろいろとお話を伺う。ほんと、高座を下りた噺家さんはフツーの人なんだよね。いやあ、正月早々、濃い夜だあ。


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