June.25,2006 痺れたねえ

6月24日 第264回下町中ノ郷寄席

        中ノ郷信用組合の4階ホールで毎月1回土曜の夜に開かれている落語会。私が行くのは1年半ぶり。900円の木戸銭で前座、二ツ目、真打の3本の落語が楽しめるんだからうれしい。しかも今月は、むかし家今松の長講『江島屋騒動』が聴けるとなれば、こりゃあ行くっきゃないでしょ。

        中ノ郷信用組合は実にわかり難いところにあるのだが、前回の失敗でようやく場所を憶えた。裏口から入って木戸銭を払って古いエレベーターで4階へ。客層はほとんど地元の人たちらしい。年齢層も高め、約50人くらい。ホールを半分に切って会場にしているが、客席はまだまだ余裕。このスペースはうらやましい。

        ここしばらく開口一番は橘ノ冨多葉が演っていたようだがこの日は橘ノ美香。「冨多葉アニさん、身体の方はだいぶ良くなりましたので、来月からはまた戻ってまいります」って、どうしてたんだろう? ネタは前座さんがよく演る『真田小僧』。この噺の本来のサゲは、「うちの真田もサツマィ落ちた」というやつだが、これが今ではなかなかわかり難くなっている。ほとんどの前座さんは、「この話、先を聞きてぃかい? それじゃあ2銭出しな」で切ってしまう。美香のは、亭主が子供の話に騙されたくだりを女房に説明して、「金坊の話がうまいもんで気をもんじまった」 「もむわけよ。相手が按摩さんだもの」 へへえ、これは橘ノ円師匠直伝かしら?

        春風亭笑橋から改名した昔昔亭笑海。「笑う海と書いて、しょうかいと読みます。下に石って付けないように」 結婚式の司会の仕事のマクラなどを振って『本膳』へ。コロコロした身体が、里芋を追っかける仕種によくあって可笑しい。終わって紙切りならぬ風船でモノを作る芸。「お題はありませんか?」 「落語家」 「・・・きょうは何曜日でしたっけ」 「土曜日」 「あっ、土曜日には落語家を風船で作っちゃいけないと親からの遺言で。明日は作れるんですが 他には?」 「紫陽花」 「きょうは何日でしたっけ?」 「24日」 「あっ24日には紫陽花を風船で作っちゃいけないと親からの遺言で。明日は作れるんですが」って結局作ったのは犬2匹とブランコに乗っているインコ。親、本当に死んだのかあ?(笑)

        仲入り後がいよいよむかし家今松『江島屋騒動』だ。『江島屋騒動』を最後に聴いたのは、もう4年まえになる。立川志の輔が演った『江島屋騒動』だ。もともとこの円朝の作品、婚礼の場面をクライマックスにした(上)と、藤ヶ谷新田の老婆の呪いの(下)として演る事が多い噺だが、志の輔は時間を組み替えて、通しで演ってみせたのが記憶に残っている。今松のはもちろん正攻法。十代目金原亭馬生の弟子の中でも、馬生の芸を一番忠実に受け継いでいるのがこの人だろう。口調、間、仕種が、在りし日の馬生を思い出させる。長い噺だが、誰ひとり席を立つことなく今松の噺に引き込まれていた。長講65分。終わって高座から立とうとした今松、さすがに足が痺れたらしい。痛そうに楽屋に引き上げて行った。こちらは今松の噺にすっかり痺れてしまったのだけどね。


June.21,2006 井上ひさしの匂いを受け継ぐ劇団

6月18日 テアトル・エコー
       『キメラの山荘』 (エコー劇場)

        今年、再建50周年を迎えるテアトル・エコー。一貫して喜劇を上演し続けてきた劇団だ。代表的存在の熊倉一雄は今年79歳になったというから驚きだ。

        奥多摩の山荘にある新興宗教団体[森之笑]。自然保護を訴えているこの団体は、なにやら怪しげ。ホーリー・ネームを呼び合う信者は椎茸の栽培などをして活動を続けている。近くにリゾート・ホテルが建築され、そのオープニング・パーティのキノコ料理に笑い茸が混入され、出席者が突然笑い出すという中毒症状が起きるという事件があり、その犯人がどうやら[森の笑]の仕業ではないかと言われ始める。そこで公安の刑事が潜入捜査を始める。

        教団ナンバー1のトキ(島美弥子)は高齢のせいでボケてしまっている。ナンバー2のシマフクロウ(熊倉一雄)はどうみてもエロ老人でしかない。若い信者たちは、いずれも頼りなげで過激な行動を起こす性格には見えない。そこへ破門された過激分子からの脅迫状が届く。さらには、村の代表らが乗り込んでくる。

        70代から20代まで揃った喜劇一筋の劇団というのは珍しいに違いない。客層も劇団と同じく幅広い。難しいことなしに、2時間誰でも楽しめる喜劇。それでいてラスト5分のところで、大どんでん返しがあり唖然とした。それこそ、「ええーっ!?」という結末には、初期井上ひさし作品を上演しづけてきた劇団ならではであろうと納得。


June.18,2006 DVD収録落語会

6月17日 WAZAOGI落語会 (国立演芸場)

        今、旬な噺家の落語をCDで出し続けているWAZAOGIレーベル主催の落語会。午後6時15分という妙な開演時間。全席自由席で開場時間が出ていない。早く行った方がいい席に座れる可能性が高いのだが、はて、どうしよう・・・・・なんてグダグダ考えているから、ついつい家を出るのが遅くなってしまった。6時近くなって国立演芸場に到着してみれば、さすがにもう客席は埋まり始めている。番組が始まってから聞かされたのだが、この会はWAZAOGIレーベルのDVD用の収録が行われる会なんだそうな。それにしては、左右の通路にカメラは無く、最前列にも手持ちで待機しているカメラマンもいない。とすると、正面のカメラだけで撮るつもりなんだろうか?

        一番手は桃月庵白酒。メイド喫茶、執事喫茶の話題から昨年出来た妹喫茶の話題へ。「妹喫茶ですから、店に入ると『おかえり、おにいちゃん』って言うんですよ。タメ口ですよ。『何飲むの? アイスコーヒー? シロップ入れる? 太るよ!』 余計なお世話だ! 今に噺家喫茶なんてのが出来たりして。従業員は前座さんという役まわり。店に入ると『師匠! お疲れ様です』と迎えてくれる。生意気な客だとみると、飲み物にツバを入れたりする」 う〜ん、そんな喫茶店ができたら行ってみたいが、飲み物は蓋を取っていないペットボトルのものに限るなあ。ネタは『壷算』。喜助時代にラジオ収録をしたものを聴いたことがある。これを残したいという気持ちが白酒にあるらしい。それだけ自信があるということか。兄ィに迫られて算盤と格闘している番頭の横で、バカ笑いをしている相棒と、横から『水甕を負けてくれ』と言ってくる別の客。頭がテンパってしまっている番頭の様子をうまく演じてみせる手腕。これは確かに記録に残して置きたい。

        いつもどおり桃太郎のニュース解説から始めた昔昔亭桃太郎。体臭芸能だの、いいのかしら公園だのといった駄洒落を連発するのがこの人の芸風。このイントロで桃太郎世界に引きずり込んで、噺の方も駄洒落ばかりなんだから、ほんとにもう・・・・・ってこれが結構楽しいんだ。今回は収録だっていうのに間違えちゃった。ネタは『結婚紹介所』だった。結婚紹介所にやってきた大家族の男に兄弟の学歴を訊くところ。「次のおにいさん(の学歴)は?」 「とうかいです」 「東海大学ですか?」 「神戸に住んでいまして、アパートが倒壊しました」 「次のおにいさんは?」 「りっきょうです」 「立教大学ですか?」 ここで「陸橋の下に住んでまして」 「ホームレスじゃないですか」と演らなければならないのに、あらら、「神戸に住んでまして」と戻っちゃった。「これだけ大学が出てくるとわからなくなる」 このへんの味わいがまた桃太郎らしくていい。きっとこのままDVDになるんだろうなあ。

        「きょうは凄い顔づけの落語会でして、WAZAOGI協会を設立しようかと話しておりまして、円丈師匠が会長、桃太郎師匠が副会長と思っていたんですが、桃太郎師匠は立教大学のところでトチりましたんで、この話は無くなりまして」と柳亭市馬。ネタの方はキッチリと『七段目』。こういった芝居噺は、いかに演じるものが歌舞伎を好きか興味があまり無いかで出来が左右してしまう。おそらく市馬は相当の芝居好きに違いない。見得の切り方などがまさにツボにはまっている。歌舞伎をほとんど観ない私にもそれが伝わってくるし、思わずかけ声をかけたくなってしまう。何てかけたらいいんだろう。柳家だったら、そのまま「柳屋!」でいいんだろうけど、化粧品メーカーみたいだし、人形町だと鯛焼き屋になっちゃう。歌舞伎役者の披露口上と睨みなども入れ、さらには噺家の真打披露口上から彦六の物真似までエスカレートして、クライマックスの若旦那の平右衛門と小僧のお軽の鳴物入りの芝居へ。いかにも市馬が楽しそうだ。

        柳家喬太郎が余興の仕事の話をマクラに振った途端に、むむむ、『一日署長』だなとわかった。この噺、マクラに屋形船での余興の仕事というのを振っておかないと面白さがわからないからだ。屋形船での仕事というのは他の仕事と違って楽屋というものが存在しない。乗船してから下船するまでお客さんのご機嫌を取り続けなければならなくなるのだそうな。「逃げ場がありませんから。泳いで帰って着物をダメにするほどのギャラは貰っていませんし」 喬太郎という男は、とにかく笑いを取るためなら何でも利用してやろうと常に考えている男だ。『一日署長』は、その日の顔づけの噺家を登場させるというアイデアが客を沸かせる。だからその日によって、そのライブ感は最高潮に達する。この日は、犯人役が柳亭市馬。説得役が桃月庵白酒。「アニさ〜ん、降りてきてくださ〜い」 「白酒、痩せろ!」 「大きなお世話だぁ〜!」 このあと喬太郎自身が登場して説得に当たるのだが、ここも楽屋落ちネタ満載。まったく喬太郎にかかると、全てのものが笑いのネタにされてしまう。それは、笑いを取るためのオイシイものを頭の中で瞬時に判断して、笑いに結びつける確信犯なのだ。『一日署長』はオチすら、その日によって変わってしまう。この日は、ちゃんと市馬のやった『七段目』を利用していた。

        トリは三遊亭円丈。「喬太郎、受けてましたねえ。もうDVDは私の部分いらないんじゃないかと・・・・・」と言いながらも『夢一夜』へ。これを聴くのは3回目だと思う。史上最強の末期癌患者が集中治療室を抜け出してタクシーで羽田空港に行く噺。20万円を受け取った運転手が大喜びしてしまう。「こらあ〜! ちゃんと前向いて運転しろ〜! 事故でも起こして全治6ヵ月でもなったらどうしてくれる! 全治する前に(癌で)死んじゃうじゃないかぁ〜!」 この噺、聴くたびに面白くなってきている。

        ロビーではWAZAOGIレーベルのCD即売コーナーが。「どれでも2000円で〜す。でも、1800円のが一枚ありますけどぉ〜」 よく見たら白酒のCDのみ1800円。なんで〜?


June.15,2006 新たな代表作を目指せ!

6月11日 午後の錦マニ (なかの芸能小劇場)

        古今亭錦之輔にしては、めずらしく昼間の会。

        開口一番は三笑亭可女次。給食の思い出話をマクラに振る。給食ねえ。私の時代の給食は脱脂粉乳が付いてくる不味い食事というイメージしかなかったが、可女次の時代にはもう結構美味しくなっていたようで、う〜ん、うらやましい。「中には、こっそり二食分食べる奴がいたりしまして。これが三食喰いが見つかると停学でした。四食喰いは退学。五食喰いは国外追放。一度、先生で三食喰いをした人がいまして、これも生徒が停学なんですから、先生も学校に来られなくなりまして。これがほんとうの休職(給食)」 「食べ物の噺を」と始まったのが、なんと錦之輔の作った『飽食の城』。兵糧攻め対抗処置として、城を全てお菓子にしてしまうというアイデアはバカバカしいのだが、抜群に面白く、よく出来た噺。今や、錦之輔の代表作のひとつといっていいだろう。もっといろんな人がこの噺を演るようになったらいいな。

        どうやら、自分が教えた『飽食の城』で、可女次がかなり笑いを取ったのを古今亭錦之輔が脇で聞いていたらしい。「自分の作った噺で(他人が)受けるというのは悔しいですね。しかも、彼の考えたギャグが入っている」いいじゃないの、錦之輔さんの作った噺が受けたんだから。サッカー・ワールド・カップの話題などをマクラに、一席目は『スパイ狩り』。ある企業が開発してた自動鼻糞ほじり機の秘密が漏れて、ライバル会社が先に発売してしまう。開発に関わっていた社員は3人。3人はカンヅメ状態で商品開発をしており、そこにはインターネットなどで社外に情報が漏れるなどはありえない環境だった。3人のうちの誰かがスパイに違いないのだが・・・・・。これも実は名探偵金田大五郎シリーズの1作である推理落語だった。情報漏洩トリックは面白かった。

        「これから私が演りますのは地噺と言われるものです。と言っても、ポラギノールの効用について話すわけじゃない」 桂平治は痔噺・・・・・じゃない。地噺の『源平盛衰記』。ストーリーよりも演る人によって変わる、脱線部分が楽しいネタだ。「池袋演芸場に新藤さんという席亭さんがいまして、その新藤さんが震度5の地震のときに怒った。噺家が、お客さんを放って逃げ出しちゃったんですね。その噺家は新藤さんに大目玉ですよ。新藤さん(3)の方が震度5よりも怖い」 亡くなった彦六、柳昇のことから、協会のことなど、落語界の話題をふんだんに盛った爆笑篇。

        古今亭錦之輔の二席目は『相棒屋』。なんでも、『男たちの挽歌』などの香港ノワールをイメージした男の友情を描いた噺なんだとか。銀行強盗に入るつもりで、その練習にと駄菓子屋に押し入った二人組。押し入ったのはいいがいつの間にか回りを警官隊に取り囲まれてしまう。二人は駄菓子屋の店先にあるものを使って警官隊と闘い、脱出を図ろうとする。40分ほどある長い作品で、ギャグも満載されながら、ラストは確かに男同士の友情がテーマになる感動篇でもある。長尺であるので、やや聴いていて疲れてしまうのが難かなあ。ギャグを盛り込むのは前半に集中させて、中段は警官隊とのスペクタクルのつるべ打ち、そしてラストはじっくりと男の友情を聴かせられるように整理すると、これはもっともっと面白い噺になるような気がするな。


June.11,2006 これはマイナスでしょ

6月10日 HARAHORO SHANGRILA
       『プラス/マイナス/ゼロ』 (紀伊國屋サザンシアター)

        4年まえから観始めた劇団の、私にとっては8本目の芝居。いつも安定した面白さのある劇団だし、2作前の『ジェスチャー・ゲーム』がまさに傑作といえる出来だったので、そろそろ友人も誘ってやろうと思い始めていたのだが・・・。ここで『プラス/マイナス/ゼロ』である。おそらく、今までのハロホロを期待してきた観客は私同様かなり戸惑ったに違いない。

        今回は、今までハロホロが演っていたシチュエーション・コメディではない。ギャグを盛り込んだコメディには違いないのだが、かなりシュールな構成になっている。部屋でノート・パソコンを前にして原稿を書いている男がいる。コピー・ライターらしいのだがどうもアイデアが出ずに苦戦している。携帯電話が鳴るのだが出ようとしない。それというのも、架かってくる電話は原稿の催促か、借金取りからの返済を迫る電話だからだ。電話に出ないでいると彼らは部屋にまで入ってくる。借金取りはまさにヤクザまがいの連中。「もう少し待ってくれ」と頼むライターを拳銃で射殺する・・・・・のだが、どうやら生きている。これはライターが見ている夢の世界らしい。二時間ほどの上演時間の間観客は、かなりシュールで繋がりのあるような無いような、断片的なストーリーを見せられることになる。

        ランドセルに大量の携帯電話を入れて、リコーダーで『エマニエル夫人』を吹きながら下校している小学生の女の子。娘がAV女優になってしまった父親の会の集まり。雨の中、傘を差しながら川の水をバケツに汲んでいる女性・・・・・。正直に言って、前日までの疲れもあって、途中で何回も意識を失って眠り込んでしまった。この話がよくわからなかったのは私が眠ってしまったせいかと思っていたら、劇場を出て行くお客さんのほとんどから、「よくわからなかった」の声が聞こえてきた。

        頼みますよ、ハラホロさん。これはやっぱりまずいでしょ。これでは安心して友人も誘っててわけにはいかなくなってしまう。


June.8,2006 『権助魚』の新しいサゲ

6月4日 栄助の第一回の会 (落語協会2階)

        ♪冷凍みか〜ん 冷凍みか〜ん 冷凍みか〜ん 4個入り〜 GTPの『冷凍みかん』のメロディーが頭の中から去っていかないものだから、冷凍みかんが食べたくてしょーがない。冷凍みかんとは便利なものがあったもので、こうなると現代では『千両みかん』なんて噺は通用しなくなるではないか。御徒町の落語協会へ行く前に上野駅に寄る。もちろん冷凍みかんを買うためだ。キオスクにあるはずだと直行してみれば、あれー? 売ってないじゃん。ひょっとしてホームに行けばあるのかも、と、入場券を買って入ってみたのだが、ない、ない、ない、ない!! 中にある飲食店街も歩き回ったのだが、どこにも売ってないのだ。気がつけば開演時間が迫ってきている。ついに諦めて、落語協会の事務所に向うことにする。どうしちっゃたんだろうなあ、冷凍みかん。

        あせあせ、と落語協会の階段を上ってみれば開演時間になっているというのにまだ始まっていない。10分押しで始まってみれば、なんと出てきたのは栄助ではなく桂文ぶん。なんでも栄助は前の仕事が押していて、ツナギに自分が出てきたとのこと。マクラで自分が入門したキッカケの話を始めたのだが、これが面白い。「27歳のときに落語家になろうと思いまして、池袋演芸場に行って、出ている噺家さんの誰かの師匠の弟子になろうか決めようと思いまして・・・。最初に出てきたのが背が小さくて頭のハゲた人。怖そうだったので、この人は嫌だなと・・・。次に出てきた人も背が低くてハゲた人。この人も嫌だなと・・・。噺家さんて、みんな背が低くてハゲているのかなあと思いながら観ていましたら、その次に出てきたの噺が面白かった。お客さんを沸かしている。この人の弟子になろうと思って翌日、池袋演芸場の前で待っていました。なかなか弟子入りさせてくれないものだと聞いていましたから緊張しながら、「弟子にしてください」と言ったら、「ああ、いいよ」 それがウチの師匠の桂文生。この人も背が低くてハゲているんですが」 前座役だからか、ネタは『牛ほめ』。与太郎がやたら偉そうだ。おじさんから教わった口上を自分で書き取るくらいだから、案外無学では無さそう。

        なんとか前の仕事を終えた春風亭栄助の登場。「今日は新作はやりません。ネタおろしもありません。古典三席です」って、いったい何の会? 「といっても、三席目は丸3年演ってません。あとの二席にいたっては丸5年演っていません」 あらあら。な〜んて始まった栄助の一席目は『権助魚』、サゲまでいって驚いた。これは栄助の考えたオリジナルのサゲになっていたのだ。「この噺、普通に演っているサゲは、『関東一円では、こんなに魚取れないわよ』 『いや、二円もらって頼まれた』なんですが、どうやらほとんどの噺家がこのサゲに納得がいかないまま演っているわけです」という栄助のサゲは、魚屋とのやりとりで、「それは何という魚です?」 「これはタコだよ」 「足は何本あります?」 「タコは八本に決まっているんだよ」 「イボイボはいくつあります?」 「そんなの知らねえよ」という伏線を利用したもの。なかなかキレイなサゲになっていて、これもありだなあ。さらにまだ考えている別のサゲもあるとのことで、「このサゲに持っていくアイデアがあったら教えてください」って、これ面白そう!

        二席目は『穴泥』だった。終わってから「この噺、稽古をしていると、いつの間にか『加賀の千代』に変わってしまうことがある」という栄助。この日はうまく『穴泥』に入っていけたようだ。もっとも、ネタ出しをしていないから、案外『加賀の千代』を演るつもりで、『穴泥』に入ってしまったのかも(笑)。

        三席目は『崇徳院』。若旦那の具合が悪いと聞いてやってきた熊さんが旦那に「で、死骸はどこです?」と言うところで爆笑してしまった。そのあと、若旦那に事情を聞いて見知らぬお嬢さんからもらった短冊を旦那に見せようと懐から間違えて出してきたのは、ご霊前の袋。そこまで用意してきたのね。

        『権助魚』の新しいサゲを自分なりに考えながら帰途につく。実はいくつか浮かんできたのだが・・・・・まっ、素人の域を出ないものですがね。


June.4,2006 楽しさてんこ盛りのマクベス

5月28日 SHINKANSEN☆RS
       『METAL MACBETH』 (青山劇場)

        芝居が好きだと言っても、私の場合、その範囲はごくごく限定されていて、小演劇系か大劇場でもそのごく一部。出ている役者さんが好きか、あるいはその劇団が好きかくらいの判断基準。歌舞伎はまず観ないし、現代劇でもテーマが暗そうなのは遠ざけてしまう。シェークスピアに至っては、食わず嫌いなのかもしれないが、さっぱり見たいと思わない。なんであんなに人生に悲劇性ばかり強調するんだろうくらいの認識しかなかった。『マクベス』も一応筋だけは知っている。黒澤明が翻案して撮った『蜘蛛巣城』で知ったのが初めてかな。それとロマン・ポランスキー版の『マクベス』。どちらも面白いとは思ったけれど、ドッと疲れたのを憶えている。役者が真剣に演ずれば演ずるほど、私は疲れてしまうのだ。

        それでも、劇団☆新感線が『マクベス』をヘビメタのロック・ミュージカルにすると聞くと、これはぜひとも観たくなるではないか。12000円という高価なチケットだが、例によってあっという間に完売だったらしい。青山劇場には早めに到着して入場。分厚いチラシ類を受け取って自分の席を確認。物販コーナーへ行く。劇団☆新幹線の芝居は歌や演奏が多いので、サウンドトラックCDを売っているのだ。これを手に入れるのが毎回の楽しみ。だって、あとで家に帰ってからも、このCDを聴く度に芝居のことを思い出せるじゃないか。

        劇団☆新感線のオープニング・テーマが流れて音量がマックスに達して、いよいよ4時間近い長丁場の始まりだ。3人の魔女が登場するところからして、原作に忠実(?)。いきなり翻訳書によって「いいは悪い、悪いはいい」と訳した版と、「きれいはきたない、きたないはきれい」と訳した版の違いを取り上げるあたりから笑いが込み上げてくる。さまざまな材料を鍋の中に入れて呪文を唱える魔女たち。中に『マクベス』の翻訳書2冊と『あしたのジョー』を入れてミックス。これこそ、この芝居の全体像を最初から提示している後から思い出しても、脚本のクドカン渾身のファースト・シーンだ。というのも、この『METAL MACBETH』、『マクベス』のおおよそのストーリーはそのまま残しているからだ。「女の股から生まれた者には殺されない」という設定も、それが打ち破られるところもそのまま。

        ところがもちろん『METAL MACBETH』は『METAL MACBETH』だ。時代設定は中世のヨーロッパではなく、2206年の日本。それに1980年代を行ったり来たりする。2206年の日本は、ほとんど『マッドマックス』的な廃墟の世界。そこをヘビメタのサウンドに乗せて戦いが繰り広げられている。『マクベス』の登場人物や国の名前などは全てエレキギター世界の固有名詞に置き換えられているが基本は本家とあまり変わり無い。それに1980年代に唯一のアルバムを発表して解散した[METAL MACBETH]のエピソードが絡んでくる。

        4時間という長さは感じさせない娯楽作に仕上がっていて、劇団☆新感線らしいギャグをクドカンも心得ていて、これでもか、これでもかと繰り出してくる。舞台上手奥にナマのバンドが入っているブースがあり音響も迫力満点。ロック・コンサートに行った用な気分にもさせてくれるから、これなら12000円は仕方ないかという気になってくる。

        この日は、カーテンコールのあと、「きょうはマチネのみ。明日は休演日です。きょうだけの企画として特別にライヴをやりたいと思います」と内野聖陽の声でおまけのライヴが付いた。劇中、松たか子によって途中で演奏が止められてしまうことになる『リンスはお湯に溶かして使え』のフルバージョン。そしてさらに森山未紀來の『メタル演歌〜七光り三度笠』をもう一度と思わせておいて、村木仁が登場。劇団☆新感線の罰ゲームの始まり。『メタル演歌〜七光り三度笠』のメロディーと振り付けはそのままで、村木仁が『親不孝〜罰ゲーム』を熱唱(笑)。ちゃんとこれ用にビデオまで作ってバックで流すという凝り様は凄い。罰ゲームやるにも金かかっているなあ(笑)。

         今回は芝居は、好きな曲が多かったのだが、それは音楽のコーナーの方で書く・・・・・つもり・・・・・だけど・・・・・本当に書くか・・・どうか・・・・・罰ゲームが怖いから言明しないけど(笑)。


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