July.29,2006 のっぺらぼうより怖い柳太の顔

7月22日 深夜寄席 (新宿末廣亭)

        ジェットラグの芝居を観て新宿の街に出る。今からなら末廣亭の昼の部の最後の方から観られるから行こうと思っていたのだが、なんだか妙に疲れてしまっていた。平日の疲れがドッと出たのだろう。予定変更で家に戻って一眠りするともう午後8時。ああ、もうこんな時間かと思ったが、深夜寄席に行くにはちょうどいい時間ではないか。また出かける支度をして新宿へ逆もどり。な〜にやってんだか。

        9時に末廣亭の前まで来るとたいして並んでいる人がいない。今夜は入りが悪いかなあと思いながら入場して開演を待つ。ボツボツと人が集りだし、開演前には椅子席はほぼ埋まる。桟敷には入るには至らなかったかと思った瞬間だ。いよいよ開演という瞬間に桟敷にドッと人が入ってくる。こりゃ、ほんとうにブームなんだな。

        「噺家の仕事といいますと、落語以外に結婚式の司会というのがあります。私も先日行ってきました。といってもお金にはなりませんでした。友人の結婚式でして3万円包んで。さらに二次会の会費が八千円。そこで余興に落語演ってくれと言われまして、式場には座布団が無いというので、座布団小脇に抱えてですよ、三万八千円払って」とぼやくのが三笑亭朝夢。誰か結婚式の司会の仕事、頼んであげてよ。ネタは『粗忽の釘』。メリハリのいい口調で、いい出来だ。

        いかつい顔の春風亭柳太『のっぺらぼう』が可笑しい。のっぺらぼうを見た男が「ギャー!」とあげる悲鳴の声のデカイこと! それにしとても、「ひょっとしてこんな顔じやなかったかい?」と白扇を顔の前に広げるよりも、普段の顔の方が怖いなんていう『のっぺらぼう』は初めてだ(笑)。

        橘ノ昇美依はこの日も『片棒』。あらあら、今年になってこの人の『片棒』に当たるの3回目。たまには違う噺も聴きたいよう。

        春風亭柳太郎の新作落語は、温泉宿の一夜の噺。旅館に泊まった両親と高校生の息子の3人家族。父親が息子に、自分のいままでの人生について語り始める。それは息子にとっては初めて聞かされる意外な事ばかり。ところが、このお父さん、実は・・・・・。落しどころがストレートすぎるような気がするが、いかにも柳太郎ワールド。来年は真打昇進が決まった柳太郎、二ツ目になってちょうど十年。月日の経つのは早いなあ。


July.27,2006 動物電気的遊び

7月22日 ジェットラグ
       『困惑』 (新宿スペース107)

        動物電気の政岡泰志が余所の劇団の役者も集めて公演するプロジェクトの1回目。とはいえ、動物電気の看板役者小林健一が例によって本編とは関係ないイントロで出てきて暴れまくり(笑)、本編が始まっても客席乱入を含めてさらに暴れていたなあ、それにおばさん役で出た政岡泰志の演技も可笑しいと、そういうところばかりが印象に残ってしまった。動物電気の狂気のような芝居に、他の劇団からの人がついて行っていないよう。まあ、もっともこれに辻修まで出しちゃったら、もう動物電気そのまんまになってしまうんだろうけど。

        息子の誕生日のプレゼントにと子犬を買って帰って来たおとうさん。ペットショップの店長(小林健一)に「適当に選んで」と言って見もせずに籠に入れてもらって帰ってきたらこれが大ハズレ。店で売れ残っていたどう見ても醜い子犬が入っていた(爬虫類みたいな犬ってどんななの?)。返品に向うもなかなか応じてくれない。店長もこの犬を持て余しているよう。ふたりは、この犬を川に流してしまう。すると犬の精がふたりの前に現れる。

        我に帰って、犬を救出に行こうとするふたりプラスαのドタバタ劇は、子供の遊びのようで楽しくはあるのだが、な〜んだかね〜って、まっいっか。このへんが政岡泰志と動物電気感覚なんだろう。


July.23,2006 東京軽演劇の継承

7月16日 熱海五郎一座
       『静かなるドンチャン騒ぎ』 (サンシャイン劇場)

        2年続けて行われた伊東四朗一座。軽演劇を伊東四朗を中心にして残していこうという思いの3年目。今年は伊東四朗のスケジュール上の都合などで伊東四朗抜きで行われた。三宅祐司と、その相棒小倉久寛、渡辺正行、ラサール石井、春風亭昇太、東貴博、タカアンドトシ、それに紅一点の辺見えみりという一座。

        ストーリーは対立するやくざ組織の抗争。パロディにしやすいテーマなんだろうけれど、少々手垢がついた題材のような気がする。でもって、メインが東貴博と辺見えみりの『ロミオとジュリエット』の設定って、これもやりつくされた感がある。それにしても伊東四朗不在というのがこんなに活気がなくなるとは思わなかった。私の観たのは千秋楽の夜の部。昼の部はWOWOWで中継されていて、あとから録画で、こちらも観たのだが、アドリブと思えたものが実は台本どおりだったり、本当にアクシデントによるアドリブだったりということがあったが、総体的に言って、本人達が面白がっているような割には笑えなかった。伊東四朗がいなくなった途端にコント部分がまったく無くなってしまったのも寂しい。それを救ったのが意外にもタカアンドトシ。この漫才コンビのいつもやっている漫才的な部分が案外この舞台を活発にしている。

        当初はミュージカル仕立てにするつもりだったのが、出演者の歌唱力が伴わず辺見えみり以外の楽曲は全てカットというのも残念。お見せするレベルに達していないとのことだが、ミュージカル・シーンでもないとこの2時間はやはり、やや疲れる。

        千秋楽、最終公演ともあってカーテンコールが長い。何回も出てきてフリートークのようなことが延々と続いたが、こっちの楽屋落ち話の方が楽しかった。とはいえ、SET、赤信号、昇太を中心にした東京軽演劇の会が続いていってくれるなら、こんなにうれしいことはない。

        今回初めて、サンシャイン劇場の2階席での観劇となった。ここの2階席はかなり高い位置にあり、階段で上るのもかなり長い。急勾配の客席から見下ろす形になる。前の席との間が異様に狭くかなり窮屈。比較的新しい劇場と思っていたらもう28年も前に出来たもの。2階席への長い階段の途中には今まで公演された作品の写真がパネルで表示されていた。それによると当初は見事に文芸作品ばかりのラインナップ。いわゆる新劇の公演を演る劇場だったのね。今や、軽演劇も上演する劇場になったということで、これもめでたいことだし、うれしいこと。一方でお堅い新劇の文芸作品は人が集らなくなってしまったということなのかも知れないんだけど。


July.17,2006 回れ回れメリーゴーラウンド

7月15日 シベリア少女鉄道
       『残酷な神が支配する』 (吉祥寺シアター)

        吉祥寺に着いてみたら雷雨になっていた。ピカッ、ゴロゴロゴロ、ドッカーン。雨も強く降りつけている。2時の開演時間にはまだ時間もあったので駅ビル内で時間を潰す事にした。書店で本を物色。『本の雑誌』の今月号と文庫本を一冊買って、さてそろそろ劇場へ向うか。先ほどよりは小降りになったものの、相変わらず雨はしっかり降っている。折りたたみの傘を用意しておいてよかった。この時期、雷雨の可能性が高いからね。

        吉祥寺シアターというところには初めて行った。ラブホテルなどがある怪しげな道の先に、きれいな建物が。開演15分前に入って自分の席を探したら前から2列目の真ん中。『本の雑誌』をパラパラと読み出したら、女性スタッフが前に出て、「中央線が止まってしまっています。まだ来られないお客様が大勢おられるようですので、開演時間を20分遅らせていただきます」と挨拶した。これは腰を据えて待つとするか。『本の雑誌』の読みたいところはあらかた読んでしまったあたりで、今度は作・演出の土屋亮一が出てきて、さらにもう少し開演を遅らせてくださいと挨拶。土屋亮一の顔を見るのは初めて。作者ってどんな人なんだろうと思っていたから、なんだかうれしくなった。

        結局始まったのは2時35分ごろ。それでも遅れて入ってくるお客さん多し。舞台との距離が近かったので開演前に舞台がどうやら回り舞台になっていることに気づいた。最初に露出しているのは始まってみると大学の何かのクラブの部室だということがわかった。今回の舞台は、この他にカフェ、管理センターの事務室。この三つの場所が回り舞台に設置されていて、グルグルと回転する。話はミステリ仕立て。誘拐事件が発生していて、被害者女性の兄が数人の刑事と共に事件解決のために奔走する。しかし、この事件はあっさり解決する。妹は大学の部室のロッカーから発見される。ところが話はここから始まる。兄が奇妙な行動に出る。刑事のいない隙を見て警察のコンピューターにウイルスを入れる。早くウイルスを除去しないと全データが失われてしまうことになる。コンピューター内で消去までのカウントダウンが始まる。どうも犯人は警察内部にもいるらしい。管理センターの管理官は推理を積み上げていくが、どうしてもわからない。犯人は短時間のうちにどうやって誘拐された被害者を誰にも見つからずに部室のロッカーに入れることができたのだろうか?

        この推理部分が長い。2時間近くある上演時間のほとんどがこれなので、さすがに睡魔が襲ってきて何回か気を失った。だから、上に書いたストーリーは正確ではないかもしれない。でもどうでもいいのだ。この劇団の面白さはそのあとのバカバカしいまでの仕掛けにあるのだから。「一度、バカになって考えてみよう」と管理官が言ったときに、この芝居は突然まったく違ったものに変身する。要はこの回り舞台という演劇のウソを徹底的に笑いに持っていったということなのだ。今まででも堺正章などの芝居で、この回り舞台をギャグに使っているのを観た事がある。しかしここまで徹底したのは初めてだろう。右回転、左回転させながら真犯人と警察の戦いのアクションはほんとに可笑しい。それまでほとんど動きの無かった芝居が、ここで一気に役者も舞台も動き出す。それと同時に笑いの無かった芝居が爆笑に変わる。犯人逮捕のあとの回る舞台から役者がひとりひとり理由を付けて消えていく様も可笑しかった。

        この劇団はカーテンコールをやらない劇団なのだが、珍しい光景がこの日にあった。「終わった」と思った瞬間にまた舞台に照明が当たり回り舞台が回り出した。と見るとカフェの場面に出演者と土屋亮一が乗っていて、お客さんに頭を下げているではないか。どうも開演時間が遅れてしまってごめんなさいという意味らしいのだが、たまには簡単でいいからカーテンコールをやって欲しいと思っていたのでうれしかった。

        今回、上に付けたタイトルは、ラストに流れていた久保田利伸の『LALALA LOVE SONG』から。


July.16,2006 青臭さに恥ずかしくなってしまった

7月9日 風間杜夫アーカイブス・シアター
      『黄昏にカウントコール』 (紀伊國屋ホール)

        つかこうへい事務所で芝居をやっていた経験のある風間杜夫と長谷川康夫が、つかこうへいの口立て方式で芝居を作っていくやり方を踏襲するプロジェクトの第一弾なんだそうだ。つか芝居を同時代で観続けてきた私には、これは是非観たい芝居で、かなり期待を持って観に行った。劇場がつかこうへいのホームグランドでもあった紀伊国屋ホールというのも懐かしさが込み上げてくる。

        風間杜夫以外は、若手の役者さんたちで、おそらく風間杜夫が演っていたつか芝居を観ていないに違いない。そんな風間杜夫が舞台に出てくるのは始まってすぐのところのあとは40分くらい経過してからのこと。

        風間杜夫はダンススタジオを経営しながら役者もしているという設定。とはいえ、このダンススタジオは生徒の数も減ってしまい経営上は危機的状況にある。風間も役者だと公言する割には、どうも役者としての仕事をしているようには見えずスタジオでブラブラしている日々。スタジオの若者たちは、それぞれ芝居やミュージカルの役者やダンサーに憧れていてアルバイトをしながらもレッスンを積んでいる日々。そんなところにひとりの若者が入所希望で現れる。この男は実は風間が別れた妻との間に出来た息子だということが、あとでわかる。

        風間の役柄は、自分の感情をストレートに表現できない屈折した男という設定になっていて、これはつかこうへいお得意の手法なのだが、作・演出の長谷川康夫は、つかこうへいほどのイメージの飛躍感が無い。そのために案外フツーの芝居になってしまっていて、観ているのが辛かった。役者を夢見る若者の青春群像も、今どき青臭く感じられてしまうし、『瞼の母』父親版のような構図のメインストーリーも、その飛躍感のなさで退屈してしまった。まあ、こんな風に感じるのは、つかこうへい芝居のクローンを期待しすぎてしまったからなのかもしれないのだけど。


July.13,2006 むかついてるのは真柄十郎左衛門じゃないよ

7月8日 新宿末廣亭7月上席夜の部

        ポツドールの芝居をマチネで観てから、新宿プラザで『M:i:V』の初日を鑑賞。このまま帰ってもいいのだけれど、ついでに寄席も覗いていっちゃおうという欲張りな日。夜の部の仲入り前、入ってみたら、ちょうど中トリの位置だった。三遊亭遊三が『替わり目』を演っている。酔っ払って帰って来た亭主とおかみさんの会話が楽しい噺だ。家に帰っても飲み足りなくてもう一杯という酒飲みのキモチはわかるなあ。「なにかツマむものはないか?」 「鼻でもツマんだら!?」 「なにか魚だよ」 「金魚ならありますけど」 「猫の宴会じゃないよ」 猫が金魚食べながら集会している様子が頭に浮かんできて、こちらの笑いのツボにハマってしまった。こうなると、もう何を聴いても可笑しい。「何かポリポリと食べるようなものないかなあ」 「惜しかったねえ、さっきゴキブリが這ってたのに」 「ノリがあったろ」 「ゴム糊かい?」 「パンクの修理じゃないや」 替わり目の部分までいかず、「『酔っ払い』でございます」と言って高座を下りた。

        仲入りに入ったら、誰かの代演で入っていたらしいギタレレ漫談のぴろきさんがCDの手売り販売に回ってきた。こんな機会だから一枚売ってもらう。「『真打共演』聴いてますよ」とお声をかけたら、「ありがとうございます。次は9月5日放送です」とのこと。用チェックだ。

        三遊亭遊之介は、あいかわらず居酒屋の湯豆腐、先輩に寿司をおごられたときのマナーという漫談で笑いを取る。いっつもこれみたいなんだけど、これが毎回受けるんだから立派な芸。「ワールドカップ、ドイツ・イタリア戦、ドイツは不発、終了目前でイタリア2発、北朝鮮がそのとき(ミサイル)7発」なんてブラックジョークをかまして入ったのが『浮世床』。といってもマクラに時間がかかりすぎてるから将棋のくだりのみ。

        「最近の若い人の言葉を聞いていますと、『超むかつく』だって。腸はむかつきません。むかつくのは胸くらいのもの」と、物売りの声芸の宮田章司が、いつもの名調子へ。納豆屋、あさりしじみ屋、金魚屋、朝顔の苗、刺身屋、おでん屋、鍋焼うどん屋、物産飴屋。

        桂伸治『ちりとてちん』。物知りだと自慢している、実は知ったかぶり男に腐った豆腐を食べさせるお馴染みの噺。この季節向きの噺でもある。「モノシリっていっても、このへんが(股間に手をやり)モノ、このへんが(その手を後ろにやり)シリ」 ははは、頭じゃないのね。

        三笑亭笑三はお得意の『異母兄弟』。初めて聴く人でも後半から、きっとサゲがわかってしまうに違いないんだけど、いかにも落語だよなあ。こういう噺、落語以外でやったらこういう結末にはとてもできないもの。

        ボンボンブラザースもいつもの曲芸なんだけど、この日は持ち時間もたっぷり。繁二郎さんは下手桟敷席に乱入。逃げ惑う女性客のバッグを持ってっちゃう!(笑)

        トリは三笑亭茶楽『寝床』。義太夫を誰も聴きにこないと知って激怒した旦那を執り成しに入る番頭に、すねてなかなか首を縦に振らない旦那の風情がいい。いかにも頑固者の旦那といった佇まいだ。「それじゃああたしがオモチャじゃないか。やろうというときに誰も来ないでおいて、やってくれといわれたってねえ、私がその気がないんだから」と不貞腐れる様がカワイクもある。

        ハネて外へ出れば深夜寄席の開場を待つ列が出来ていた。こちらも観て行きたかったけど、そろそろ寝床へ戻りますか。


July.9,2006 女というイキモノを女から冷静に観察する視点

7月8日 ポツドール
      『女のみち』 (THEATER/TOPS)

        前回の公演『夢の城』を観に行って衝撃を受けた劇団。こういう人間を動物観察のようにして見せる手法を好きか嫌いかは人によって分かれるところだろう。『夢の城』を観た印象では男も女も本能のままに生きているだけという感じだった。特に男は女をセックスの対象としてしか見ていないような描き方で、人によっては不快感を覚えるかもしれない。それに対して、この芝居を演っている女優さんたちは、どう感じているのだろうかと思っていた。ポツドールの特別企画公演は、そんなポツドールの女優さんによる、女から見た女性観察。男優も出てくるが、物語の中心になるのは5人の女優さんたち。作・演出はベヤングマキの名前でAV監督もしている溝口真希子。

        舞台の奥は、学校の教室のようで、今どきの女子高生3人が今どきのような会話をしている。そのうちにひとりの女の子を他のふたりの女の子が縛り、ふざけあい始める。そこへ真面目な女の子が「やめなさい」と止めに入る。優等生づらをしたこの女の子のことが気に入らない3人は、今度はこの女の子を縛り上げ、イタズラしようとする。ただ、この縛られた女の子の台詞が一本調子なのが可笑しいなあと思っていると、「カット」の声。これはアダルトビデオの撮影スタジオだったというわけ。舞台の手前に机や椅子が置かれていて、ここが控え室。物語はこの控え室で展開していく。優等生役をやっていた子はカスミ。中では一番若いが超売れっ子。清純派系AV女優として人気ランキングの上位にいる。AV女優歴が長く姐御的存在のリカコ。もうAV女優として、まともな仕事が来なくなり始めているマリモ。仲間の仲裁役のようでいて、実はこの人のお喋りで人間関係が気まずくなってしまうナッチ。撮影に遅れてきたのがレディース上がりで子持ち、夜は風俗でも働いているというエネルギッシュなマリア。

        ラスト近く、「男はすぐ裏切るけれど、女同士は裏切らないから」という台詞があるが、どうしてどうして、控え室から誰かが座を外した途端に、その人の噂話が始まるんだから、うっかりできない(笑)。唯一大きな役で出てくるマネージャーの中津川が、この5人の女優全員と寝たという事実が判明したあたりから、女同士がいがみ合い始めるところは圧巻。撮影にまで影響が出始める。5人の女が冷静になって話し始めるうち、やがて打ち解け始める。

        今回も演劇にしては男性客の割合が異様に高い。扱っている内容が内容なだけに、女性客には敬遠されるのかもしれないが、今回の『女のみち』は女性客ほど見に来て欲しかったなあ。


July.3,2006 落語界の秘密兵器

7月1日 鈴本演芸場7月上席・夜の部

        下北沢から上野へ移動。清水宏で体力を使い果たして電車の中では熟睡。松坂屋でヒレカツサンドを購入して鈴本へ向う。小雨が降っているせいだろう、夜の部の開場を待つ列は、道路ではなくて、鈴本の1階廊下に出来ていた。

        ヒレカツサンドを食べながら開演を待つうちに、またもや眠くなってきた。開口一番の柳家ごん坊『たらちね』を聴くうちに、ついウトウト。ネギを売りに来た商人を捕まえて、「門前に市をなす、しずのおのこ!」の声で目が覚めた。

        三遊亭天どん『ドライブスルー』。普通の民家の窓にクルマが停まり、チーズバーガー・セットをくれと言われる。どうしたんだろうと思ったら、裏に看板がかかっていた。「マクドナルド ドライブスルー ここから300m」となっているのだが、「ここ」までしか見えなくて、「から300m」が建物の陰に隠れて見えなくなっているものだから、その下の民家がドライブスルーと思われてしまったというわけ。「町の景観を壊さないように民家調にしているんですか?」というドラバー。もうこの際だと、この民家の住人は自分の家でドライブスルーを営業し始めるという噺。いかにも天どんらしい発想の噺だなあ。

        和楽社中の太神楽。和楽、小楽、そして小花ちゃん。五階茶碗にナイフの交換取り。小花ちゃんがナイフを投げ損ねていたのが、かえってカワイイ。女の子は得だね。

        柳家さん生『出来心』。空き巣のやり方を教わった新入りの泥棒、「ごめんください」と、まずは泥棒の親分の隣の家から。それを聞いた親分、「お〜い、隣から入るなあ! 町内から離れろ!」 「いけねえ、親分、町内の防犯係やってるんだもんな」 適当な家を見つけて「ごめんください、お留守ですか?」とやったところで客席から携帯電話の着信音。「おや? 中から音がするぞ。誰かいるのかな?」

        「前座さんはたいへんです。楽屋では全員が目上の師匠方ですから、『頑張って噺を憶えなよ』なんて声をかけてくれる人はひとりもいません。『この野郎、何かしくじらねえかなあ』なんて思っている。それで何かしくじろうものなら、『バカヤロー、どこの弟子だ』ってお茶をひっかけられる。なんでそんなまねをするかというと、家では出来ないから」 入船亭扇辰は、なんとも気が抜ける『茄子娘』を力を抜いて、それでもキッチリと、って、うまいなあ、この人。

        平行線漫才の大瀬ゆめじうたじ。シジュウカラ、おさない、歯医者・・・。そろそろ『平行線・鰻』を演ってほしい時期になってきた。

        柳家権太楼の、夫婦者のゴルフの小噺が絶妙で笑いを取ったと思ったら、前座噺ともいえる『子ほめ』に入った。もう前座さんが毎日どこかの寄席でかけているであろう『子ほめ』だが、さすがに権太楼クラスの演る『子ほめ』はこれが同じ噺であろうかと思うくらいに面白い。きっと弟子になると教わるのだろうなあと聴き入ってしまった。それでもこのレベルに達するのは、たいへんだ。

        柳亭市馬は、私が市馬というとかなりの確率で出会う『堪忍袋』。市馬の「この物置野郎ー!」は、どこでも演っても笑いが取れるようだ。

        伊藤夢葉のマジックは、実に寄席向きだ。なにしろ終始喋りっぱなしなのだ。インチキな手品を笑いで見せていたかと思うと、キッチリと腕前を見せつける。今回の白いニワトリと黒いニワトリの手品なんて、インチキと見せていながらケースにしまう瞬間に、白でも黒でもない赤のニワトリをさりげなく見せたりする。これだから油断ならないのだ。

        三遊亭歌武蔵『黄金の大黒』。とっかえひっかえ一枚の羽織を奪い合って大家さんのところに挨拶に来る貧乏長屋ならぬ発展途上長屋の面々が可笑しい。「おめでとうございます。長屋のみんなも、篝火焚いて踊っております」 「イヨマンテの夜か!」

        柳家小菊の粋曲。都々逸が粋で気持ちいい。♪夕立の ザーッと降るほど 浮名は立てど ただの一度も 濡れはせず ・・・・・ようよう!

        どうやらお客さんのほとんどは三遊亭白鳥がナニモノカということを承知で来ているらしい。白鳥が出てきたときの拍手は、絶対にフツーの落語を期待してのものではない。白鳥ワールドを聴きたいという熱気が感じられた。この芝居は白鳥が予めネタ出しをしていて、この日は『白鳥版・火焔太鼓』。「この噺のあらすじでございますが・・・」と言った途端に大爆笑と拍手。なんで落語を始める前にあらすじを説明するのかと思うが、絶対にこの日のお客さんは『火焔太鼓』を知っているはずだ。わざわざ『白鳥版』と付けただけあって、これは志ん生→志ん朝の『火焔太鼓』とはまったくの別物なのだ。いや、基本的にストーリーはいじっていない。貧乏体験を笑いに転化させたのが志ん生版『火焔太鼓』だとしたら、白鳥も負けてはいない。年収12万円だったという自分の貧乏体験を糧にして作り出した白鳥の『火焔太鼓』だ。白鳥は自分なりの『火焔太鼓』を作るために、まず志ん生の『火焔太鼓』のギャグを全て棄てた。白鳥版には「びっくりしてバカになって座りしょんべんするな」も「火鉢と甚兵衛さん、一緒に買っちゃったようなものだ」も無い。徹底的に志ん生の笑いを排除し、サゲまで替えてある(私は白鳥版のサゲの方がきれいに聴こえる)。冒頭で出す赤穂浪士の糸電話が後半にもギャグで使われたりの構成力も見事。辞世の句のギャグなんて、この人だからならではのギャグだろう。「だから、お前さんはものを知らないっていうんだよ。朝日新聞の取材を受けて、『新作四天王の五番目』なんて答えてしまって、『秘密兵器』なんてフォローしたりして」なんていう反則技のギャグまで織り込んでいるが、まさに白鳥は、落語界の秘密兵器だ。先日、橘家円蔵の『火焔太鼓』をラジオで聴いたばかりだが、円蔵をしても志ん生の枷からは逃れられていなかった。秘密兵器、三遊亭白鳥が今に新しい落語界を作っていくようになるに違いない。


July.2,2006 ゴルフ未経験でコンペ参加(笑)

7月1日 『清水宏のサタデーナイトライブ18』 (ザ・スズナリ)

        やる気マンマン男のキャラクターでワンマンショーを繰り広げる清水宏の舞台を観るにはこちらも体力を使う。「きょうは清水宏を観に行く日だ」という日は、朝からテンションを上げていく必要がある。目覚ましのベルが鳴った途端にガバッと起き上がって、オラオラオラオラー!と谷岡ヤスジと化して髭を剃り、歯を磨き、シャワーを浴び、朝食をモリモリと食べ、ホームページの更新もオラオラオラオラー!と書きなぐり倒し、まだ時間があるので近くの区民体育館のプールで25mダッシュ20本。さあ、下北沢まで行くぞー! オラオラオラオラー!と電車に乗った瞬間に睡魔が。

        ふわーっ、ねむっ・・・・・・・・・ってダメじゃん! サタデーナイトライブ18のサブタイトルは、「清水(きよみず)が舞台から飛びおりる!!!」 本当に清水の舞台から飛び降りて自殺しちゃった人もいたけれど、スズナリの舞台から飛びおりても低いから大丈夫。何回も飛び降りてた。つーか、客席乱入(笑)。

移籍会見
        スーパーマリオならぬスーパーノリオのゲーム機移籍記者会見。記者からのイジワルな質問にキレるスーパーノリオ。ついには、インサイダー取引まで認めてしまう(笑)。

ゴルフに挑戦
        体験シリーズ。今回はゴルフをやる話。1回もゴルフをやったことがない清水が、突然にゴルフコンペに参加申し込みをする。2週間後のコンペに備えてゴルフ練習場に行きレッスンプロからゴルフを習う。ルールも何も知らない状態でコンペに参加した清水は・・・。この人は、シュールなひとり芝居よりも、この体験シリーズの方が圧倒的に面白い。サーフィンくらいならいいけど、いきなりゴルフコンペは迷惑かけたろうなあ(笑)。

シンバル漫談
        auの販売店員の正直すぎる対応。映画『ザ・ダヴィンチ・コード』を観た客の勘違いな反応。清水宏のシンバル漫談は、怒りを笑いに転化する。パワー全開漫談だ。

朗読喫茶シミズ
        朗読喫茶のマスターが本の朗読をするのだが、どうも書いてないことまで盛り込む。井伏鱒二の『山椒魚』から始まって、ゲーテ、果ては新聞広告チラシ、個人宛に来たファックス(笑)。

映画予告編シリーズ
        今回は、『戦国しぶガキ隊』(戦国時代にタイムスリップした、しぶガキ隊のメンバー)。『007名古屋版』(ジェームス・ボンドが名古屋でみゃーみゃー活躍)。『ヒップホップ一休さん』(ハリウッドでラップのリズムで映画化された一休さんの話)。

        2時間ステージに出っ放しで、しかも体力全開で笑いを取る清水宏。笑いすぎて、さすがに疲れた・・・のだが、これから鈴本演芸場へ回るのだ。さあ、行くぞ! オラオラオラオラー!


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