September.24,2006 演劇的長二、修羅場の凄み

9月23日 五街道佐助の会
       『名人長二 通し 第3回 清兵衛縁切り〜お白州』(お江戸日本橋亭)

        開口一番は古今亭菊六『二人旅』。菊六といえばこの春に二ツ目になったばかりのはず。もうこんな難しい噺をしている。ほのぼのとした起伏が少ない噺だから難しいよねえ。やや目が据わっていないのが気になるけど、いいよ、いいよ。

        佐助の前にもうひとり上がる。古今亭志ん公『一目上がり』。さすがに二ツ目も3年たつと貫禄がついてくる。こちらは目に力がある。トントントンとサゲに持っていくテンポも気持ちがいい。

        『名人長二』というと、私は最近では3年前に、なかの芸能小劇場で扇好『仏壇叩き』、円馬『湯河原宿』、喬太郎『幸兵衛殺し』、駿菊『お白州』のリレーで聴いたのと、志の輔がグッとダイジェストしてコンパクトにしたのを聴いたのがある。五街道佐助はこの噺を4回に分けて演る。今回の第3回は、最も盛り上がる幸兵衛殺しのあと、長二が親方の家へ行き、親方の作った茶箪笥を叩き壊し、縁切り状を書く『清兵衛縁切り』。酔った長二と、親方の弟子、そして親方とのやりとりが、佐助独特の演劇風演出で凄みがあり、観客を惹きつけるものがある。

        仲入りを挟んで『お白州』。ここが一番込み入った部分で演っている人も大変だろうけれども、聴く方も大変。よく聴いてないとなんだかわからなくなる。というか、私はいまだによくわからないんだ、これが。

        次回はクリスマス・イヴの夜。いよいよ大団円。しっかし、これもまた、こじつけっぽい噺で、大変なんだよね。来年は真打に昇進して隅田川馬石となる佐助さん、どんな大団円を見せてくれますか、期待してますよ。


September.23,2006 SF、ミステリ二本立て

9月17日 錦マニRevolution (なかの芸能小劇場)

        開口一番は笑福亭和光『ぜんざい公社』。ぜんざいひとつ食べるのにビルの中をたらい回しにされる噺で、お役所仕事を皮肉った新しい古典とでもいうのかな。ぜんざいを注文すると代金を同じビルの中にある銀行で支払うように言われる。「えーと、銀行、銀行ーっと。あっ、あった。三菱東京UFJ銀行か。最近の銀行の名前は長いなあ。病気なんちゃうかなあ。合併症やな」

        古今亭錦之輔の一席目は『デンジャラス アニマル』。「かみつきガメとか、でんきくらげなんてネーミングっておかしくありません? これって人間目線からのネーミングでしょ。究極は食用ガエル。これはカエルに対して失礼ですよ」っていう錦之輔の視線は面白い。噺は古くなって危険な扇風機を棄てた男のところへ、保健所から特定指定外来種を駆除する危険動物バスターズなる所員がやってくるという奇想天外なネタ。この男、危険動物以外にも危険電化製品の回収もやっている。ふたりで、この棄てた扇風機を探しに行くが・・・・・。これ、私の笑いのツボにハマった。これは可笑しい。

        ゲストはロケット団の漫才。持ち時間が寄席より長くてたっぷりと。「リンゴって漢字で書けるか?」 「ああ、難しいよな」 「レモンは?」 「書けないな」 「もっとわかりやすい漢字にすればいいんだよ」 「どうゆう風に?」 「たとえば、木辺に赤だったら?」 「リンゴ」 「そう。木辺に紫」 「ブトウ」 「それじゃあ、木辺に黄色」 「レモン」 「木辺に黄色は横だろ。それじゃあ、レモン断歩道っていうのか?」

        古今亭錦之輔二席目は、お得意のミステリ。名探偵金田大五郎シリーズの最新作『キメラ』。『平家物語』に出てくる、頭が猿、体が狸、尾が蛇、手足が虎という妖怪ぬえを祭ってある香川の神社に調査に行った民族学者が行方不明になってしまう。金田大五郎は、その謎を追って助手の内藤くんと香川に向う。堂々たる歴史伝奇ミステリだ。やや強引な展開だが、ときにギャグを入れながら観客を引っ張っていく。瀬戸内海の海賊の秘宝を巡って宝探しの謎解きの行き着いた先は・・・・・。脱力系の結末も落語らしくていいや。


September.18,2006 スマートでスピーディな笑い

9月16日 第328回花形演芸会 (国立演芸場)

        ロビーを入ったところのソファーで何やら手帳のようなものに書き込んでいる人物がいる。派手なアロハ・シャツに派手な帽子。あれー、先週一琴の会のゲストで出て、そのあとウチアゲでご一緒させていただいたモロ師岡さんじゃないの。「きょうは出番じゃないですよね」 「ええ、お客として観に来たんです。酒井敏也さんと待ち合わせしているところ」 どうやらこのおふたり本気で例のプロジェクトをやろうとしているらしい。

        開口一番の前座さんは古今亭駒治『真田小僧』。本来のオチは今ではあまり演られなくなってしまった。一番多いのは、女房が金坊がどんな話をしたのかを聴きたがるので、亭主が「それなら、お前も一銭出しねえ」で落とす形。駒治のは「按摩のわけだ。俺の気を揉みやがった」 本来のオチより、これらの方がずっといいやね。もっとも、タイトルの意味がわからなくなってしまっているんだけど。

        春風亭栄助は、回転寿司やらボケやらの漫談。ほとんどおそらくは実際にあったことではなくて栄助の作った小噺。特にミミズの脳の小噺には笑った。この人、アメリカに10年も行っていた人で、この人の小噺はアメリカン・ジョークに近い。ネタは『強情灸』。腕に山のようなモグサを乗せて火をつけた男が熱くなって苦しみをこらえる様がいかにも栄助らしくていい。

        このあとの二人組のコント、THE GEESE(ザ・ギース)がツボにはまってしまった。この人たちのコント、私は観るの初めて。『ヘレンケラー』は、企画会議に現れた人物、手で触った物を全て口に出して言わなくてはいられないという奇妙な人物だったというコント。よく創り込まれているスマートなコントだ。テンポもいいし笑いもよく取れる。それはもうひとつの『聴力検査』というコントにもいえる。なぜか視力検査用のヘラを片方の耳に押し当てて検査官の発する言葉と同じ言葉を返すというコント。「試してガッテン」が「騙してゴメン」に聞こえてしまったり、「ゲド戦記」が「まだ元気」に聞こえてしまったりというギャグが怒涛のごとく、凄いスピードで続いていく。もうほとんどついていくのに必死になるほどの速さだ。この人物、右はほぼ正常なのだが左はかなりおかしいという設定で、検査官の言う言葉をほとんど間違って聞き取ってしまうのに、「おっぱいポロリ」だけはきちんと聞き取れるというのがこれまた可笑しい。ちょっとこの人たちの笑いの中毒になってしまいそうだ。今、物凄く観たいと思うコントはインパルスに次ぐくらい観たい。

        ものまね漫談のBBゴロー。稲川淳二そっくりなメイクをして稲川淳二の声を真似て怪談噺。いろいろな怖い話をやったが、家賃5000円のアパートの噺は怖い〜。途中、野球選手の物真似も入れながら、最後はホテルに訪ねてきた人物の怪談噺『私が叫んだ夜』でオチをつけた。せかせかと落ち着かない話し方は稲川淳二そっくり。落ち着かなさは、ネタがぴょんぴょん変わるのも同じ(笑)。

        林家久蔵『蛇含草』。餅の曲喰いの花火。ポーンと空中に餅を投げ上げておいて口でキャッチ。身体を後ろに反らしてキャッチする。「どうしてそんなに背中伸ばして喰うんだい?」 「こうすると金メダルが取れるらしい」 荒川静香のイナバウアーのイメージが残っているうちだけ通用しそうなギャグ(笑)。

        仲入り後は、なぎら健壱だ。演歌とは川上音二郎が演説を歌にして官憲から目をそらしたという説明ものだという説明から、『序の舞』で川上音二郎の役を演ったときのエピソード。「京都へ行ったら監督さんが(中島貞夫だな)、当時の錦絵を見ながら、『川上音二郎は口髭は無いようですね。その口髭落としてもらうわけにはいかないですよね』と言う。『いや、役のためなら剃りますよ』と言ってその晩ホテルで髭を剃って、翌日撮影所に行ったら、『あらあら、雪だるまみたいな顔になっちゃって』って言って、『なぎらさん、錦絵見ていたら音二郎、口髭を生やしたやつありましたわ』。それで付髭で映画に出たことがある」 明治43年の『間がいいソング』を歌って、次のトークは口髭の続きの[桜井敏雄のシャワーキャップ]。明治42年『スカラーソング』をやって、3曲目がデンスケ劇団最後の日を歌った『4月10日』。[深夜パトロール・合言葉] [保土ヶ谷まで自転車]のネタをやってラストは『東京節』

        ヒザがテレビで大人気の南海キャンディーズとは何て贅沢な会だろう。「静ちゃん、人から何に似てるって言われる?」 「冷蔵庫。昔好きだった人から言われた」と冷蔵庫の真似をする静ちゃん。「小さいときは何て言われてた?」 「喋る岩」 「近所の子からは?」 「壁」 間近でみると、静ちゃん、本当に大きい。映画『フラガール』出演のためにフラダンスを特訓したという静ちゃん、特訓の成果をご披露。静ちゃんが踊るとその身体の大きさだからダイナミック。そこからネタの『恋愛ドラマ』に入る。静ちゃんの場合、自然体なのがいい。へんに力まずに笑いが取れる。もう静ちゃんという個性で笑いが取れる、とてもうらやましい漫才だ。

        先週ご一緒した柳家一琴師匠がこの日のトリ。栄助から2000円で買ったという交通違反の小噺を演る。これ、ほんとうに栄助から貰ったのかはわからないが、いかにも栄助らしいスマートな小噺なのだ。それこそアメリカン・ジョークだと言ってもいい。ネタは『片棒』。無駄遣いの極致ともいえる長男の提案する葬式に対する親父さんの怖い顔が物凄い(笑)。それに対してお調子者の次男の弾けっぷりも見事だし、ヘラヘラと笑い顔を浮かべる浮かべる三男がまたいい味を出している。


        いやあ、それにしても贅沢な寄席だったなあ。こんなに豪華なメンバーだった花形も珍しいでしょう。


September.17,2006 お隣さんの落語会

9月10日 第30回浜町・一琴の会 (中州コミュニティルーム)

        商店街の喫茶店のマスターが一枚のチラシを私に渡してくれた。紙に大きく柳家一琴、特別出演としたモロ師岡の名前が書いてある。真ん中に、「第三十回 浜町・一琴の会」。あとは日時、場所、木戸銭が書いてあるだけ。浜町で落語界が定期的に開かれているなんて初耳だった。慌てて『東京かわら版』をめくってみたが、この情報は載っていない。

        家を出てジリジリと照りつけるコンクリートの道を中州へ向う。明治座の前の清洲橋通りを清洲橋方向へ。『容疑者Xの献身』のラスト近くにも登場する高速道路下の[あやめ第一公園]の先の角を左折。中州コミュニティルームはあまり目立たない建物で、うっかりすると通り過ぎてしまいそうだった。というのも先の喫茶店のマスターが建物の前にいて「やっぱり来てくれたんだあ」と声をかけてくれたから。この会の席亭豊田さんと引き合わせていただく。豊田さんもウチが落語会を開いているのを薄々ご存知だったようで、すぐに打ち解けた雰囲気になる。「敵情視察です」なんて冗談をかまして席につく。

        この会、浜町の消防団が始めたもので途中一年以上のブランクが2回もあったり、会場が転々と変わったりしながらもついに30回。30回記念ということでゲストにモロ師岡さんも迎えるという豪華版。パイプ椅子を並べた会場の奥に高座が組まれている。高座用座布団、メクリ台にはちゃんと寄席文字のメクリ、高座を照らす正面横からの照明、高座の後ろには衝立。キチンと落語の設備が整っている。

        この会が凄いのは、毎回現役の前座さんを使っていること。この日は三遊亭歌武蔵門下の三遊亭歌ぶと。といっても、名前がこうでも師匠みたいに太っているわけではない。師匠ゆずりか声も大きく通りもよい。ネタは『子ほめ』。このネタ、前座さんがよく演るのでこちらも聴き飽きていて、前日の快楽亭ブラックのように捻っているもの以外笑えなくなっいるが、歌ぶとさんのは本寸法なのにキチンと笑いが取れる。この人スジがいいんだろう。「先だって亡くなったおじいさんに炒めて・・・じゃないな・・・焼いて・・・でもない・・・煮て、そうだ似てだ。生じゃないと思った」

        柳家一琴一席目、「落語には泥棒の噺がたくさんありまして、私はあまりこの手の噺は好きではないのですが・・・」と始まったので、これは季節がら『夏泥』か?と思ったら、これは珍しい『やかん泥』。数ある泥棒噺の中でも最もたわいない噺だと思っていたが、一琴師の『やかん泥』はなかなかにダイナミック。泥棒の親分と新米のやりとりがメリハリが効いていていい。泥棒なのに大声で喋りまくる新米さん、『唖の釣り』の与太郎を何倍も騒々しくした人物。短い噺だがこれは可笑しくて楽しい。

        ゲストのモロ師岡は、ツカミの短編無人島コントのあとにロボ警官コント。『ロボコップ』のように瀕死の重症を負った警官が特殊合金で作られたボディで甦るネタ。途中、白いギターを持ち出して森山良子の『今日の日はさようなら』をお客さんと歌う。ほとんどのお客さんが合唱してくれる。いいお客さんたちだねえ。歌わなかった人をひとり捕まえて無理矢理歌わせようとするモロさん。でも「客いじり、下手なんだよね」と自分で言ってしまったりして(笑)。

        柳家一琴二席目。横山やすしがタクシーの運転手に「駕籠かき」と言った一件をマクラに持ってきた。そこから『抜け雀』へ。なるほど、こうすると自然にオチへ繋がりやすくなる。なにしろこの噺、オチに繋がる伏線を最初に説明しておかないと何のことやらわからなくなるからだ。今となってはかなり苦しいオチ。でも伏線となる説明が観客に伝わっていればこんなにスマートなオチもない。衝立に描いた雀が朝になると衝立から飛び出してまた戻ってくる。「きのうまで暇だったのが、どんどんどんどん人が集ってくる。旭山動物園のようなもの」 美術館もそんな絵を置けばいいのにね。

        ハネて、会場のバラシをお手伝い。高座は大工さんに作ってもらった組み立て式のもの。座布団は特注で作ってもらったもの。なかなかお金がかかっている。高座の後ろの衝立は今回30回を記念して購入したものだという。スタッフのひとりである畳屋さん(ウチの畳もこの人にお願いしているのが、あとでわかった)の出してくれたクルマに機材を詰め込み撤収終了。

        近所の居酒屋に移動してウチアゲ。一琴師匠に落語界の楽屋話などをうかがう。実はこの日の客席に座っていたある人物が気になっていたのだが、その人物がウチアゲでモロ師岡さんの隣に座っていた。俳優の酒井敏也さんだ。酒井さんは80年代に、つかこうへいの芝居に出ていた時期があって、私はこの人の舞台をかなり観ている。その後もテレビのドラマでよく目にしている。独特のムードを持った俳優さんだ。どうやらモロ師岡さんと組んで近いうちに何やら計画を持っているよう。こちらも楽しみ。

        浜町・一琴の会のスタッフとも、このウチアゲですっかり意気投合してしまった。みんなで酔っ払って陽気にはしゃぐ。他のお客さんに迷惑だったかな。いい気持ちになっていささか飲みすぎた。でも、こんなに開放的になれたのは、ほんと、久しぶりのことなんだ。


September.10,2006 ブラック、ブラック、ブラック、ブラック

9月9日 快楽亭ブラック毒演会 (大勝舘SHOWホール)

        浅草大勝館SHOWホールは、大衆演劇専門の大勝館の横にある貸ホール。予定表を見ると、このあと、来月三越劇場で行われる竜小太郎公演のリハーサルで埋まっている。ああ、それじゃあ、石橋雅史さんもここで稽古に入るのかあ。

        入場料3000円で、快楽亭ブラックの最新CD付き。CDが付かないときは2000円のようだ。CDは普通に買うと2000円の定価が付いているから、木戸銭は1000円のようなもの。なんとなく得した気分。入口で靴を脱ぎ渡されたビニール袋に入れる。客席は板の間。ひな壇になっているから観やすいとはいえるがその壇が低く、しかも狭い。かなり窮屈な姿勢で観る事を迫られた。クッションの効いた座椅子があるのは助かったが、それでも窮屈なことに変わりはない。しかも、私の前に座ったお客さんがやたらと頭をあっちこっちに振る。この人も窮屈な姿勢で苦労しているのだろうが、私の目の前でブラック師匠の姿が、この人の頭に被ってしまって見えなくなるときがある。さらに困るのは、メインホールからの音が流れ込んでくることだ。歌謡ショウになると歌と音楽が聴こえてきて、落語ら被ってしまって気が散るのだ。リハーサルに使う施設ならまだしも、お客さんを入れて観せるには、やや難があるホールだ。

        この毒演会は、CD用の録音も兼ねている。次のCD、それと、著書『快楽亭ブラック放送禁止大全』の二冊目に付けるCDの録音も行われる。快楽亭ブラックがまず登場し、この本のオマケに付けるネタを『一発のオマンコ』 『イメクラ五人廻し』 『カラオケ寄席』の三席の中からどれにしようか客席からアンケートをとり、多数決で『イメクラ五人廻し』に決定。

        一席目はトンデモ落語会用に作った新作とのこと。骨格は『子ほめ』。亀田三兄弟のお父さんが、タダの酒を飲みたくて、人にお世辞を言う方法を習う。「お顔の色が黒くなりましたねえ。いや、あなたは元が色白でございますから、故郷の水で顔を洗えば元どおり白くなります」ってのを教わった亀田お父さん、道で出合ったマイケル・ジャクソンに・・・・・。ブラック師匠、それは、それは、ブラック、いやホワイト、いやブラック(笑)。

        二席目『オナニー指南』。骨格はもちろん『あくび指南』。女辺に女指南と書いてある看板を見て、レズビアン指南所と思って行ってみるとオナニー指南だったという噺。バカバカしいのだが、もう笑うっきゃないという可笑しさ。荒川静香のイナバウアーまで登場させちやうんだから。

        三席目は、「けちん坊の噺をするときは、けちん坊の小噺をしますが、大した小噺は無くて・・・・・」と、噺家の実話の方がもっとケチな話があると、家元、川柳のそれぞれのケチ話を披露。壮絶だね(笑)。そしてネタのケチ噺は『味噌蔵』なのだが、驚いたことに、これは本寸法。ただ、「好きな食べ物を」といった中にSMクラブの女王様特製塩ラーメンなんてのが入っているのがブラック流。どうしても、そういうものを入れないといられないのね(笑)。

        四席目が風俗取材のマクラからリクエスト『イメクラ五人廻し』。こちらは古典の『五人廻し』とは大分違う。一晩に何にも客を取るというアイデアだけ。廓をイメクラに替え、イメクラにやってくるお客さんをオムニバスで描いていく。それにしても、ブラックにかかると、こういう噺をしてもいやらしさが無い。ただただ笑ってしまう。このへんが凄いところだな。

        ハネてから楽屋へブラック師を訪ねて打ち合わせ。

        小屋を出るとムワッとする暑さ。浅草の街をフラフラと歩いて雷門まで来た。そうだ、ついでに並木の藪へ寄っていこう。えへへへへ、同業者を偵察、偵察っと。いや、お勉強です。


September.6,2006 新作離脱宣言?

9月3日 第一回グアテマラ落語会 (落語協会2階)

        毎回タイトルを変えて、第一回と称している春風亭栄助の会。受付で木戸銭を払って本日のプログラムを見てみれば、栄助が古典二席。それに桂きん治が新作二席という構成。

        まずは、のり〜太こと春風亭栄助の前説と称したコント。福井放送の『おはよう漬物テレビ』のスタジオの観覧者向けの前説をやっているという設定。いろいろと注意事項を説明していく。「写真撮影は厳禁です。誰です、金を払えばいいのかって言う人は。現金じゃなくて厳禁。厳しく禁じるですよ。肖像権の侵害ですからね。小朝師匠と海老名香葉子の間で誰が正蔵権を継ぐかで問題になったこともあるくらいですから」 こういう短い立ちひとりコントをやらせると、この人は本当に可笑しい。

        桂きん治、一席目は『東北の宿』。ホテル形式の宿に押されて、自分のところの旅館もホテル形式にした田舎の小さな宿屋。ツインベッドの部屋と称した部屋に通されてみれば、ただ畳を取っ払って下の板敷きが露出してあるだけ。ベッドなんてなくて布団が二枚敷いてあるだけ・・・・・なんて噺なのだが、白鳥の『マキシム・ド・呑ん兵衛』と発想が似ている。HNK教育テレビしか映らないという辺鄙なところで、『アラビア語講座』ばかりやっているというギャグが、ばかに可笑しい。

        春風亭栄助一席目は『木乃伊取り』。うわあ、久しぶりに聴いた感じ。こういう木乃伊取りが木乃伊になっていってしまう、どんどん狂った連鎖なんていう噺は、栄助向けの噺だと思う。後半の清蔵が酔っ払っていくところをうまく聴かせたが、前半の狂乱が栄助流にもっと生かせた、もっと面白くなっていたように思った。

        桂きん治二席目。「普通、芸人は高座があるとその前には酒を飲まないものなんですが、私の師匠桂文生は、飲んでしまうんですね。こうなるとまずネタが出来ない。酩酊しているときは、志ん生の思い出話なんかを演って下りてきてしまう。だからウチの師匠が漫談を演ってたら酔っ払っていると思ってください。先日、京王プラザで六代目小さん襲名パーティーがありまして、そこでも師匠飲んだんですね。ところがそのあと末廣亭で高座があった。師匠がタクシーで末廣亭へ向うのを見届けて会場に戻って、しばらくしたら師匠から電話があったる『帽子と靴を忘れたから届けてくれ』っていうんです。帽子は見つけたんですが、靴・・・? 靴をどこで忘れたんだろうと思いながら京王プラザからタクシーに乗ったらそこに師匠の靴があった。偶然、師匠が乗ったタクシーに私が続けて乗ったんですね」 ネタは『芸者と幇間とカスタネット』。あまり成績のよくない保育科の女子短大生。就職をしようと就職科に相談に行くが、紹介されるのは、キコリ、マタギ、鷹匠と、山の中の仕事ばかり。最後に紹介されたのは向島の芸者の口。いきなりお座敷に出されて、芸を披露してくれと言われるが・・・・・。なんか無理矢理な噺(笑)。でも発想としては悪くない。これからもこういう不思議な発想の噺を作っていって欲しい人だ。

        春風亭栄助の二席目も古典。「だんだん真打昇進が近づいてくると、トリに演るネタが欲しくなってくるんですよ。そうなるとどうしても古典に逃げたくなってしまう。もう長い新作は辛い。3分〜5分くらいのなら楽ですぐ出来るんですが・・・・・」と、新作離脱宣言とも取れそうな発言。そうかあ・・・・・私は栄助には新作を期待しているのに。トリにかけた『たがや』も出来としてはよかったと言えるだろう。現代的なギャグをところどころ入れて面白かった。でもなあ、新作の無い栄助というのもなあ・・・・・。真打になっても、トリじゃないときは、寄席でもあの斬新な新作を演って欲しい。それだけ私は栄助の新作を高く評価しているのだ。


September.3,2006 秋風に誘われ深夜寄席

9月2日 深夜寄席 (新宿末廣亭)

        9月に入った途端に、とりあえず猛烈な暑さはなくなり、過ごしやすくなった。気持ちいい夜風に当たりながら新宿三丁目の飲食街を抜けて末廣亭へ。まだ9時前だというのに、もうけっこうな列が出来ている。ほどなく誘導されて客席へ。

        一番手の瀧川鯉之助が、盛んに暑がっている。客席はかなり冷房が効いていて寒いくらいなのだが、高座は暑いらしい。楽屋に「暑い、暑い」と訴えている。照明のせいかと思ったら、どうやら高座用のエアコンが入っていなかったらしい。やがて動き出したエアコンに「寄席に仕事にきて、何が楽しいかっていうと、クーラーに当たれること。ウチにはエアコン、無いんですから。風呂なしアパートの2階、トタン屋根、角部屋、窓が二ヶ所、南と西。どんな暑さか体験したい人は一度、ウチに来てみてください。住所は、○○区○○町○ー○○・・・・・」って、どうやら本当の住所らしい。「差し入れを持って、よろしく」 ネタは『持参金』。鯉之助さんは独身だそうだけど、こんな嫁さんつかまされないようにね。

        三笑亭朝夢が自分の名前の紹介を始めている。「朝の夢、爽やかな名前でしょ。問題は亭号なんですよ。三笑亭を三遊亭と間違えられる。パソコンで[さんしょうてい]と入力しても変換してくれない。[山椒打て]なんて変換してしまう。三遊亭はそのまま変換するんですけどね。でもね、三笑亭は落語の祖、三笑亭可楽から来ているんですよ。山椒はピリリと辛いをもじってつけた名前なんです。三遊亭は、そこから発生したパロディみたいなもんです。三つの遊び、三道楽のマクラに繋げて、『羽織の遊び』に。気障な若旦那の佇まいが可笑しくていいなあ。

        三笑亭月夢は、先ほど末廣亭の前で「きょうも落語はやらないの?」と言われて、いつもの漫談だけではなくネタを演る気になったらしい。×3の婚姻届の話から、4人目のアメリカ人の奥さん、黒人から教わったジョークという、よくやっている漫談から、『金明竹』へ。この人のちゃんとした落語は初めて聴いた。いやいや、良いでないの。いい出来の『金明竹』だった。大阪弁の言い立てが力が抜けていて、物凄い早口。これなら確かに聴いている江戸っ子にはわからない。「ご主人様はおられまっかな」という大阪弁の使いの者に対して、「ご主人様〜? オレ、監禁されてな〜い」と返す与太郎がまた可笑しい。この人、漫談も可笑しいが、出来るんじゃん、落語。上手いよ、上手いよ。

        トリは瀧川鯉橋。「よく入ってますねえ。今夜は180人くらいでしょうか? ○○○の六畳一間の家賃3万円のアパートに住んでおりまして、今夜あたしらのワリ、ひとり入るごとに125円。×180ですから・・・・・どうもありがとうございます。2年前にもこんなことを深夜寄席で話したら、翌日、国民健康保険の徴収員のおじさんがやってきた。どうやら、深夜寄席に来ていて、お金が入ったことを知ったらしい。今夜は・・・・・いないでしょうね?」 ネタは『粗忽の釘』。寄席では毎日のようにかかる定番の噺だが、それをキッチリと。お客さんもよく笑っている。

        帰りも気持ちよい夜風に吹かれながら地下鉄の駅へ。秋だなあ。おっと、そろそろ秋の翁庵寄席の準備も始めなければ。


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