March.31,2007 一気に狛犬通になれた

3月21日 吉祥寺寄席 (吉祥寺第一ホテル 一階チャペル)

        ホテルのチャペルで行われる落語会。開演時間ギリギリに飛び込んだら、すでに場内は満員。後ろの方のベンチに、ポツンと空いていた空間を見つけて、そこに座る。ざっと100人くらい入るチャペルだろうか。いつもは、ホテル内の結婚式に使われる施設なんだろう。なんとなく、落語を聴くというよりは、新婦さん・・・じゃない神父さんにお説教を受けるような感じ。

        二ツ目の春風亭一之輔が開口一番。「いろいろな場所で落語を演ってきましたが、チャペルで演るのは初めて。天井にはローソクを模したシャンデリア、私の隣にはパイプオルガン、それでいて後ろには金屏風。私、昼間はお寺さんで一席演ってきたばかり。熱帯魚なら環境の変化で死んでしまいます」 ネタは『くしゃみ講釈』

        ここで、スクリーンが出されて三遊亭円丈の狛犬に関するレクチャー『狛犬の深〜い世界』。パソコンをプロジェクターに繋ぎスクリーンに写真を投影して、狛犬に関するウンチク話が始まる。正直に言って、私はあまり狛犬に興味がなく、参道から入ってくると、向って右が「あ」で、左が「うん」の口になっていると言うとことくらいしか知らなかった。それが、円丈師匠の狛犬に関する基礎知識から始まって、世の中には、いろいろな種類の狛犬が存在し、名工もいたという説明を実際の写真を観ながら説明を受けると、ぐいぐいと引きつけられていった。円丈師匠も乗りに乗って、時間をオーバーして、約1時間! これからは神社に行ったらば狛犬に注目することにしよう。

        仲入り後は、三遊亭円丈の落語。「私、動くものを料理するのが好きなんです。とくにスルメ。スルメを網に乗せて焼いていると、スルメが動き出す。あるとき臨界点に来ると、フニャフニャフニャと丸まるのが面白い」 と、ネタは『遙かなるたぬきうどん』 二本の扇子をピッケルに見立ててアイガー北壁を登るうどん屋。「新作では二丁扇子が許される。私はそれどころか、さらに二本用意してきました。(と懐からもう二本扇子を出して)、筮竹代わりにして占いも出来る。(中の一本を抜いて、広げて) 誰のだ? ○○○○、ハズレだ」 1時間の狛犬話の後だったのか、やや息が切れていたようだが、それが返ってこの噺に向いた。


March.27,2007 まじやばいポツドール

3月11日 ポツドール
       『激情』 (本多劇場)

        中野から下北沢に移動。案外スムーズに移動できたので開演時間に余裕で間に合う。

        ポツドールの芝居は、岸田國士戯曲賞を受けた『愛の渦』の次の作品『夢の城』から観始めた。これは台詞が一切無いという、結構観る側にもキツい作品。人間をただの動物としてとらえるという手法で、正直に言うと、「これって、なんなんだろう」という思いがしたのだが、これで、次が観てみたいという気になった。次が『女のみち』。これは番外編のようなものだったが、これが面白かった。アダルト・ビデオの撮影スタジオの待合室を舞台にした女優さんたちの物語。次が『恋の渦』。『女のみち』にもみられた今どきの若者言葉が飛び交う複数の恋愛ドラマ。この、なんか頭悪そうな若者たちがばかりが出て来る芝居に酔った。それはもう麻薬みたいなもので、また観たい、次が観たいという気にさせられる。それは何なんだろう。人間のインテリジェンスをすっぱり剥ぎ取っちゃた、理性無し、感情だけの動物として捉えるという手法に中毒感を覚えるからなんだろうか。なんか、見ちゃイケナイものを観たいという欲望というのだろうか。レンタル・ビデオ屋でアダルトビデオを借りるような、なんとなく罪悪感を感じるような体験なのである。もっとも、ポツドールはセックスを大きなテーマにしているから、そうなんだけど、それよりも人間の見てはいけない本性が目の前に曝け出されるから、こっそりと観てみたいと思うのだろう。

        ポツドールというと、現代若者言葉の台詞というのが、まず頭にある。「まじ、やばくねえ」 「ぶっちゃけ、告っちゃうと」 「つーか、激まじでいうと」といった普通の芝居では出てこない台詞まわし。これが、今回再演だという『激情』では、舞台が東北の田舎町という設定で、方言が入る。それが、よく聞き取れなくて意味不明の台詞がかなりあった。それでも、ポツドールの芝居は圧倒的だ。田舎町に住む若者たちのゴチャゴチャした人間関係の話なので、ストーリーを書くことは、かなり難しいし、読んでもらっても何のことだかわからないと思う。とにかく田舎町の男女の入り組んだ話。失職、借金、その肩代わり、恋愛、不倫、売春、セックス、暴力などがテーマ。ほんと、しょーもないやつらの、しょーもない話なのだ。そして、登場人物たちは、何かといえばすぐキレる。キレて暴力に発展する。キレる若者。そのキレ方がラストシーンで爆発する。

        芝居というものは、けっこうインテリジェンスな部分があって、芝居を作る者にもインテリジェンスがあるし、役者さんにも、どこかインテリジェンスが香ってしまうものだが、少なくともポツドールの芝居の登場人物は、そういったインテリジェンスを感じさせない演技が要求される。知性というものを感じさせてはいけないようなのだ。役者は欲望のみで生きる動物のような演技を課せられる。人間動物園を覗き見るような、どこか罪悪感を感じさせるポツドールの芝居。その麻薬に私はまた次回も行ってしまうんだろうな、やっぱり。


March.21,2007 私もデッドライン

3月11日 錦マニRX (なかの芸能小劇場)

        開口一番の前座さんは、立川フラ談次。といっても、この人もう前座生活8年目。4月の二ツ目昇進試験を前に受験生になった気分だとか。「立川流の二ツ目になるには、古典落語50席、小唄端歌、講談、歌舞音曲、鳴り物が出来なくてはいけません」というからタイヘンだ。そりゃあ8年くらいかかるよなあ。ネタは『真田小僧』。さすがに上手い。立川流の前座さんは、そろって上手いと思う。

        古今亭錦之輔一席目。「私ら低所得者層には確定申告は切実な問題。還付金がありますからね。もう受付が始まったらすぐに提出しますよ。モーニング娘のCDの領収書は志ん生のCDだってことにして、叶姉妹の写真集は落語全集ってことにしたり・・・・・」 おいおい、大丈夫かあ(笑)。ネタはそのままの『つるDE確定申告』。彼女と遊んで、大金を使い結局は振られちっゃた二ツ目が、その領収書を古典落語『つる』を演じるために使ったと無理矢理な理由をつけて提出する噺。前半の買物の話が、後半の無理矢理の申告に繋がる。この可笑しさといったらない。サゲで噛んでしまったことを差っぴいても、これは良くできた噺だと思う。

        ゲストは三遊亭遊雀。この人といったら、やっぱり『初天神』。滑稽噺で私が涙を流すほど笑えるのは今や、遊雀の『初天神』以外にない。お父さんと初天神に行っておいでと言われた金坊。「行く行く行く行く行く」と大喜び。それを父親が「おっかさんも最近は、夜言わないようなこと言いがって」というクスグリが加わった。もはや、『初天神』をやらせて、この人に敵う人はいないだろう。

        仲入り中に楽屋へ遊雀師匠を訪ねる。「お痩せになりましたか?」と尋ねると 「ええ、10Kgほど痩せました。でも、おかげで身体が軽くなった感じです」とのこと。ちょうど着替え中でしたが、お腹もすっきり贅肉が取れて健康そのものという感じ。「でも一昨日から風邪ひいてしまいまして、熱があるんですよ」 あらあら、一年半前の翁庵寄席と一緒じゃないの。それにしてもプロだなあ、そんなこと高座からは感じさせないもの。

        古今亭錦之輔二席目は『二人のデッドライン』。癌で余命三ヶ月を宣告された刑事と、時効まで三ヶ月の犯人の噺。ついに命が無くなるデッドラインのその日、刑事は犯人の居所を突き止める。その日こそ時効成立してしまうその日だったのだ。逃げる犯人と、それを追う刑事。アクション映画ばりの展開になり、そして、しみじみとしたラストに繋がる。まさに錦之輔ワールド。

        ゲストが遊雀だということもあってか、お客さんの入りがいい。それとも、錦之輔の人気も出てきたのかな。私も実はこのあと下北沢へ移動しなければならず、それもデッドラインすれすれ。幕が閉まると同時に席を立って中野駅まで走る。


March.18,2007 わが道を行く、彦いち

3月4日 横浜で彦いちの噺をきく (横浜にぎわい座)

        開口一番の前座さんは古今亭ちよりん『まんじゅうこわい』。頑張ってね。

        古今亭菊朗『寄合酒』。菊朗は馬石らと共に、この春真打に昇進する。名前も古今亭菊志んに変わる。師匠円菊からの菊を残し、さらにそのまた師匠の志ん生から志の字を貰う。贅沢な高座名だ。

        林家彦いち一席目。弟さんから結婚式の余興で落語の予告編を演ってくれという電話をもらったというマクラが妙に面白い。この人は落語よりも、こういったトークの方が面白いのだ。結局清水宏風の映画予告編を私たちにも披露してくれる。ネタは『保母さんの逆襲』。5年ぶりくらいで聴いたなあ、この噺。失恋した保母さんが銀行強盗に入る噺。支店長の女だと間違えられて、焦る支店長が可笑しい。

        そのまま今度は二席目『長島の満月』。彦いち自身が主人公のような噺。鹿児島の長島という町から上京してきた男が大学の合コンに参加する。同世代の仲間と、子供のころの話題で盛り上がろうとするのだが、共通項がかみ合わない。豊かな自然の中で育った男は、普通に育った人たちとは興味を持つものが違っていたという噺。アウトドア、格闘技、カメラ。彦いちにとっての興味の対象は、逆に私には新鮮。最後に満月を見上げる主人公の姿が頭の中に鮮やかに浮かんできた。

        仲入り後は、ロケット団の漫才。「キンちゃん。憧れの人でした」 「私もキンさんに憧れていました」 「おわかりですね、萩本欽一さん」 「金正日でしょ」 「コント55号だよ」 「マンボンギョン号だよ」 「大将だよ」 「こちらは将軍様」 「欽ちゃん球団」 「美女軍団」 「キンドン」 「ノドン、テポドン」 テンポがよくてスマート。東京漫才の若手の中では、私の好きなコンビのひとつだ。

        林家彦いちのトリの噺は『不動坊』。彦いちの古典は、彦いちというフィルターを通すとバカに面白くなるときと、そうでもないときがある。この日の『不動坊』は、長屋の住民のドタバタに彦いちらしさが出ていたが、彦いちならもっと面白くなってもいいはず。よりパワー・アップした『不動坊』をいつかまた聴いてみたい。普通に育って、普通に落語を演ってきた人にない面白さを私は彦いちに期待しているのだから。


March.15,2007 真打昇進おめでとうございます

3月3日 五街道佐助改メ隅田川馬石真打昇進襲名披露パーティー (上野精養軒)



        去年秋の翁庵寄席に出演してもらった五街道佐助さんの真打昇進披露パーティー。師匠である五街道雲助のスピーチが面白かった。「この男、コンビニで弁当を買ってもレンジで暖めてもらいません。その理由というのが、電子レンジは電磁波が発生するからだとか。曰く『だって身体に悪いじゃないですか』。それで冷たい弁当を食べています。携帯電話も電磁波が少ないという理由でいまだにPHS」

        他に古今亭円菊師匠のどこへいくのかわからない、のらりくらりの挨拶やら、評論家先生からの挨拶。以前はおどおどとした様子が見える青年だったが、ここ数年でしっかりした態度が見えるようになったと、みなさん口々におっしゃっる。私も同感。



        テーブルを回って来賓に挨拶して回る隅田川馬石師匠。すっかり貫禄が出てきました。

        下は引き出物。お決まりの口上書き、手拭い、白扇、風呂敷、そしてなぜか豚の角煮が。



        墨田川馬石師匠、真打昇進おめでとうございます。


March.10,2007 なかなか演り手のない噺二席

2月25日 第33回浜町・一琴の会 (中州コミュニティールーム)

        開口一番の前座さんは立川志らべ。「家元という人は回りの人間に緊張感をもたらすんです。ある落語会の楽屋に談志師匠が現れた。そこにサンドイッチを置いておいたんです。コンビニで買ってきたやつをそのまま。家元は『自分よりバカな奴が作ったものは喰わねえ』という意見の持ち主なんですね。で、そのサンドイッチを見て『けっ』って感じの視線。それでこっそり、セロハンを剥がしてこのサンドイッチを切って・・・包丁なんてありませんからカッター使ったりして・・・紙の皿の上に乗せて出したんです。そしたら家元『旨いなあ』って食べてました。ネタは『天災』。前座さんにしてはかなり上手いと思ったら、もう前座生活7年とのこと。立川流でなければとっくに二ツ目さんでしょ。頑張ってね。

        柳家一琴一席目。「花粉が飛んでいますようで、お客様の中にもマスクをなさっている方が多いようで、客席はまるで手術室」 今年は早くから花粉が飛んでいて私も辛い。この日はなかなか演り手のいない珍しいネタ二席。「なぜ演り手がいないかというと、面白くないから」

        『三人無筆』は、よりによって葬式の受付をした二人が、ともに字の書けない者同士。昔は、葬式の受付をした者が参列者に代わって名前を記帳するという習慣があったという知識をマクラに振っておかないと成立しない。ふたりは一計を案じ、亡くなった者の遺言で、記帳は参列者自ら書いてもらう事になっている事にする・・・。確かに今では無理のある話だと思うが、それ以前に、あとからよく考えると「いくら字が書けないといっても自分の名前くらい書けるだろう」と思ったのだが、聴いているうちはそんな事は気にならなかった。さすがにそんな無理な設定を気がつかせない話術なんだなあ。

        『一分茶番』は素人芝居の当日、役者がひとりドタキャンしてしまい、芝居の経験のあるという飯炊きの権助に頼ことにする。ところが芝居のなんたるかもわからない始末。台詞は憶えられないし、立ち回りでは本当に殴ってしまう有様。手を後ろ手に縛られる場面では、本当は縛られてないとお客さんに見せてしまう・・・。私は歌舞伎を観る習慣が無い人間なので可笑しさがいまひとつ伝わらないものの、それでも権助のトンチンカンチンな行動は笑える。

        ウチアゲは居酒屋で。一琴師匠に、高座名記号論を拝聴する。妙な高座名を貰う事、大きな高座名を貰う事が、実際の噺家さんと、お客さんでは温度差があるということがわかった。これは貴重なことを聞かせていただいた。


March.4,2007 もらい泣き

2月24日 『仇討物語 でんでん虫』 (明治座)

        恒例になりつつあるコント55号と東京ヴォードビルショーの公演。今回は実質上の主役ふたりがWキャスト。はたして山口良一&田中美佐子で行くか、風見しんご&はしのえみで行くか迷うところ。昨年の東京ヴォードビルショー『エキストラ』に客演したはしのえみの演技の印象が良かったので、後者で行く事にした。そうしたら、チケットを買ったあとに、例の風見しんごの娘の交通事故死。観に行くのがやや辛いところ。

        藤川幸一朗(佐渡稔)と新之助(風見しんご)の兄弟は、親の仇を追っている。その仇というのが大山辰之進(佐藤B作)。ただし途中でわかるのは大山が一方的に悪いわけではない設定になっている。大山に巡り合うために逗留している宿への支払いも滞ってしまう。着物の仕立てを頼みにお絹(はしのえみ)のところを訪問した新之助は、お絹に惚れてしまう。その父親(萩本欽一)は、町人になりすまして生活している大山と大の仲良し。さて、仇討の結末は。

        物語は新之助とお絹の話が中心で、コント55号のふたりは後ろに下がっている。とくに坂上二郎は仇討をする兄弟の母親という設定になっているが、芝居の中であまり関係なく登場して笑いを取って消えていくという役回り。

        前半は宿の女将(あめくみちこ)と新之助のからみを中心に爆笑篇になっている。しかし後半になると話がやや重くなる。フィナーレのコント55号ふたりそれぞれのモノローグは、ご本人たちは演りたかったのだろうけど、なんだか聞いていて気恥ずかしくなった。さらに風見しんごに娘のことを話させると涙声に。それを観客はもらい泣き。客席からすすり泣きの声があちこちから聞こえてくる。さらにはしのえみも公演中お父様を亡くされたそうで、こちらも客席からもらい泣き。おふたりはさぞ辛かったろうが、よく1ヵ月頑張ったもの。ただ、このへんのことは触れずに終わって欲しかったというのが私の正直な感想。


March.3,2007 寄席初体験ツアーの引率

2月18日 新宿末廣亭2月下席昼の部

        久しぶりの定席。このところ定席とはすっかりご無沙汰だったなあ。基本は定席、それを忘れてはいけません。今回は、寄席に行った事のない人、数人を引率するという会に紛れ込ませていただいた。寄席初体験はやっぱり末廣亭でしょう。雰囲気が他の寄席とは違う。な〜んか格式があるって感じだもんね。2月下席は落語芸術協会の興行だ。芸協は色物さんが豊富だから、これも初心者向け。午前中に用を済ませて、お昼には新宿へ行かねばと思ったら、この日は東京マラソンの当日。しかも雨だ。交通規制の敷かれた道路をなんとか迂回して自転車で翌日の仕込み用の買物などすませ、新宿へ。初顔合わせの皆様と一緒に末廣亭の木戸をくぐる。

        開口一番の前座さんは、春雨や雷太『雑俳』。頑張ってね。

        「不二家が賞味期限切れの牛乳を使っていたという問題。あれ、実際にそれを食べて食中毒を起こした人がいたというわけではないんですね。あたしなど賞味期限なんていう数字は信用しません。鼻と舌で確かめます。真空パックのレトルト食品なんて、まず賞味期限が切れていても何ヶ月も大丈夫。お客様の中で賞味期限切れの食品をお持ちの方、貧乏している二ツ目のために、どうか楽屋にお持ちください」と言うのは瀧川鯉之助。ネタは『犬の目』

        宮田陽・昇の漫才。このひと達、47都道府県のネタで笑いを取っていたが、これの応用なのかこの日は何と中国の行政区分の名前と位置。どうやら、アメリカの州のネタもあるとか。今度は小さく東京の区と市なんてどうだろう。なんだか小学生の地理の時間だね。

        「先日ある辞書を読んでいましたら、食べ物の名前にすべてトースターでの調理時間が書いてある。ナスはトースターで何分とか、ニンジンはトースターで何分とか。どこの出版社の辞書かと思ったら、旺文(オーブン)社」 三笑亭可女次は、古今亭錦之輔作の『飽食の城』

        桂平治『小言念仏』。元気一杯のじいさんが小言を言いながら念仏を唱える噺。平治も絶好調。

        相撲漫談の一矢は初めて観る。相撲の呼び出しさんの衣装を着て、今の相撲界のあれこれを笑いにしている。これは拾いもの。面白い。最後は高見盛の形態模写。負けて帰るときを演って、そのあと勝って帰るところでそのまま楽屋へ。永谷園のCMだね(笑)。

        神田紫の講談は『山内一豊・出世の馬揃え』。切れ場で立ち去ると見せかけて、きっちり読みきってみせた。

        瀧川鯉昇は、なんとも飄々としたフラがある人で私は大好き。この人が話しているだけで笑いが込み上げてくる。こういうのが本当に落語が上手いというのかもしれない。ネタは『粗忽の釘』

        東・京太ゆめ子の夫婦漫才。こういうのも初心者を連れて行くときには欠かせない出演者。爆笑も期待できるし、京太の栃木弁が肩の力を下ろしてくれる。

        三遊亭小円右『初天神』。あれ買ってくれ、これ買ってくれの金坊に、「りんご300円? あれは毒りんごだ!」って、白雪姫じゃないんだから。マクラが長かったのか、ほとんどで出し部分だけで高座を下りた。

        三遊亭円遊が高座に上がったころは、ちょうど昼下り。お弁当も済んで眠くなる時分だ。最前列で深い眠りに入ってしまっているお客様がいるらしい。「2700円も払って眠ってるバカがいる」と言ってもスヤスヤとご就寝。ネタの『牛ほめ』はいい出来なのだが、終わり近くで眠っている人が、さらに増えたらしい。与太郎のヘンな口上に「お前のわけのわからない噺で、寝てるのが、さらに4人」

        東京ボーイズが高座に上がると、そうそう寝ていられる人はいないだろう。リーダーの『小さな竹の橋』と『漕げよマイケル』。そして謎かけ小唄。「♪みのもんたという人を 謎かけ問答で解くならば 近所のコンビニと解きまする 朝から晩までやってます」

        桂米丸は流石に知名度があって、今回の初寄席見物のメンバーもみんさんご存知。『ジョーズのキャー』は今でも受ける。

        仲入り後の食いつきが桂南なん『鰻屋』。この人もとぼけた味のある人で、こういう位置に出るにはうってつけの人だ。

        玉川スミ姉さんはあいかわらずお元気。もう85歳か? この歳でこれだけの声量があり三味線の弦をキチンと押さえられるというのは脅威だ。なんでもこの1月には心臓発作を起こして入院していたとのこと。いつまでもお元気で。

        古今亭寿輔『地獄めぐり』。「ペットシッョプ、犬が三毛の一族」には相変わらず笑ってしまう。

        三笑亭可楽もいつもどおりのマクラだなあ。そしていつもどおりに『臓器屋』。ブラックな噺なんだけど、飽きないんだよね。

        林家今丸の紙切り。鋏試しの『舞妓さん』、お題は『花見』と、やっぱり出ました『東京マラソン』。普通、こういうお題を貰うと、ランナーと東京の典型的な風景(雷門とか都庁舎)を背景に持ってくるものだが、今丸はランナーの横に開いた傘を二本置いた。「傘の合間から見えるランナーでございます」 上手い! そして、この人切るのが早い。これでもう少し喋りが面白ければ、もっといいんだろうけど。

        さあてトリは三笑亭笑三。「悋気、やきもちなどと申しますが、焼き過ぎはいけません。そこはリンキ応変」と『悋気の火の玉』へ。

        昼の部がハネて外に出てみれば、雨はウソのように上がっていた。寄席初体験の皆様と、このあと居酒屋で飲む。みなさん楽しんでくださったようで、よかった、よかった。こうして一人でも多くの演芸ファンが増えてくれればうれしいなあ。


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