April.29,2007 緋牡丹博徒再び

4月21日 竜小太郎公演
        『緋牡丹博徒 お竜参上』 (浅草大勝館)

        今回の舞台は、昨年10月三越劇場で上演された『緋牡丹慕情』を前半(1日〜15日)、後半(16日〜29日)を新作『緋牡丹博徒 お竜参上』と分けての上演。『緋牡丹慕情』の方は昨年観ているから、『緋牡丹博徒 お竜参上』の方だけを観に行くことにした。この大勝館、初めて足を入れた。確か以前は映画館だったような記憶がある。それにしても古い建物だ。かなり老朽化が進んでいて、近く立て直されるという話も聞く。入口で当日券を買い求めると、指定席4000円、自由席2000円だと言う。自由席というのは一番後ろの区画で数は少ない。自由席はもうすぐ売り切れるが指定席もまだいくつか残っているというので指定席を買う。もっとも、残っていたのはかなり後ろの席で自由席とあまり変わり無し。舞台が始まっても売れているはずの指定席が埋まらない。自由席はどうやら売切れてしまったようで立見のお客さんが出る。そうした人が空いている指定席に勝手に座ったりしている。ちょっと不満感があるが仕方ないか。花道の出入り口のすぐ側に座る事ができたから、役者さんがすぐ近くで観られるときもある。

        『緋牡丹慕情』が『緋牡丹博徒』1作目を元にしていたが、こちらはタイトル通りシリーズ第6作『緋牡丹博徒 お竜参上』の舞台化。藤純子のお竜役を竜小太郎。嵐寛寿郎のお竜が客人になる鉄砲久親分役を長門勇。安部徹のシマの乗っ取りを計る敵対勢力の親分鮫洲政役を石橋雅史という配役。芝居を1時間にまとめるためか、主役の座を竜小太郎ひとりに持っていくためか、『緋牡丹慕情』では映画版にあった高倉健の役をバッサリ削り、『緋牡丹博徒 お竜参上』でも菅原文太の役をバッサリ削っている。だもんだからもちろん、映画版の名シーン、みかんが転がるところなんてあるわけない。そんなものを期待したわけじゃないけどね(笑)。

        相変わらず竜小太郎は女になりきっているし、長門勇は他の役者さんの台詞にアドリブで応じているし(相手役の役者さんが笑い出してしまうところ多し)、なかなか楽しい舞台になっていた。石橋雅史さんは今回も凄みのある悪役に徹している。そして何といってもラストの竜小太郎との立ち回りだ。向かい合って、刀をスラリと抜くや縦横に空を切ってみせる殺陣さばきは鋭いの一言。「石橋!」と声をかけてやればよかったなあ。


April.28,2007 選挙カーの妨害

4月15日 第34回浜町・一琴の会 (中州コミュニティールーム)

        前日の翁庵寄席で、浜町・一琴の会のめくり台を使わせてもらったので、それを持ってお昼ごろに会場へ。スタッフは会場設営に慌しく動いている。一琴師匠が前回興味を示していた人形町の老舗のお菓子を差し入れて、一旦帰宅。開演時間に合わせて、また出直す。

        開口一番の前座さんは、前回に引き続いて立川志らべ。7年間の前座生活にどうやらケリをつけられそうとのこと。立川流の二ツ目昇進試験を先日受けた。「このたび、二ツ目昇進試験を受けて合格いたしました」との笑顔の報告で、会場から暖かい拍手が。「上野の料理屋さんに家元をご招待いたしまして、さらに5000円の受験料を払って試験を受けるわけです。落語五十席ができなくてはいけないんですが、これは観ません。家元の前で演るのは、歌舞音曲や講釈といったもの。いわゆる家元に言わせると『了見を見る』ってことなんです。その基準というのがあくまで家元の見方次第っていうわけでして。人によっては何十分も演らされる人がいた中で、私は5分でした。『深川』踊って、都々逸をちょっと演ったところで、『もういい』って」 会場からは、また拍手。ネタは『千早振る』。こんなネタをここまで出来る前座さんは落語協会や落語芸術協会にはいないやね。

        柳家一琴一席目は『普段の袴』。落語芸術協会の桂平治師匠から貰った噺とのこと。昔は前座噺だったらしいのだが、今は演り手が少ない。上野周辺の描写から、「上野広小路、中央通りと春日通の交差点、今ではお江戸上野広小路亭がございます。あまりいい芸人の出ない小屋でございます・・・・・平治師匠からは、『鈴本演芸場がございます。あまりいい芸人が出ない・・・』と習いましたので、変えてみました」に大爆笑。この噺、なんで演り手が少なくなっちゃたのかなあ。面白いし、前座さんなんかにもいいと思うのに。

        仲入りを挟んで、柳家一琴二席目が始まったあたりで、この日は中央区議会議員選挙の公示日とあって選挙カーが候補者の名前を連呼しながら、こんな奥まったところにまで入り込んでくる。選挙カーをやり過ごすまで噺の途中をうまく引っ張る一琴師匠はさすが。ネタは『たばこの火』。大阪から二代目三木助が持ってきた噺を彦六の正蔵が、舞台を江戸に置き換えたものが、今の東京落語になっているが、一琴師匠はこれをさらに舞台を大阪に戻し、主人公の老人だけ大阪弁で、あとの登場人物はすべて江戸言葉で演るという試みをしてみせた。最初はやや違和感を持って聴いていたが、だんだんそれにも慣れるうちに、この老人が大阪人だという部分が強調されることによって、最後のサゲの一言が効いてくるのがわかった。それにしても、この噺も今、あまり演り手がいない。笑いどころは少なくても、面白い噺だと思うのだが。

        ウチアゲは新規開店したピザ屋さんでと移動したら、このお店、昼と夜との間の休憩時間。仕方なく、近くのラーメン屋でウチアゲ。餃子とチャーシューでビールにチューハイ。ツマミが少々寂しかったが、こんなウチアゲもまた楽しい。そのウチアゲの最中にも選挙カーがひっきりなしに通る。こんな候補者の名前を連呼するだけの選挙活動がどれだけ効果があるものなんだろう。お〜い、落語会の最中に名前を連呼して通った候補者〜! お前にだけは絶対に投票しないからなあ〜!!


April.23,2007 ラサール石井、初高座!

4月14日 第9回翁庵寄席
       落語と芝居はおともだち2

        第5回のときは、明治座で風間杜夫、平田満の落語シリーズ第二弾『火焔太鼓』が5月に行われるので、4月に『火焔太鼓』出演のために稽古に来ている小宮孝泰さんに一席演ってもらおうと企画した。小宮さんとは懇意にしてもらっているという柳家喬太郎師匠にもご出演していただいて、小宮さんは英語版『厩火事』、喬太郎師匠は『転宅』と『すみれ荘二○一号』の二席。おかげさまで大好評をいただいた。

        今年の5月に明治座で落語シリーズ第三弾が上演されるということは一年以上前から情報を掴んでいた。第9回は、また是非小宮さんと喬太郎師匠でとずっと思っていた。おふたりのスケジュールを押さえ、去年の9月、小宮さんが出演している芝居『星屑の街5〜東京砂漠篇』終演後、小宮さんと居酒屋で打ち合わせ。話すうちに、隣で飲んでいたラサール石井さんが、来年には天満天神繁盛亭で一席演るということがわかった。それではその前にウチで一席をという話が俄かに持ち上がってしまった。なんと石井さん、人前で落語を演ったことが今まで一度もないと言う。ということは、翁庵寄席が初高座ということになるではないか。これはイベントとしてはえらいことではないか。

        石井さんからはチラシ類に自分の名前を載せないでくれとの注文が入った。でも、チラシなんて今回はまったく必要が無かった。こんなに楽に予約がいっぱいになったことは今まで一度もない。いや、楽ではなかったかもしれない。放っておいてもお客さんは集ってしまう。むしろ、お客さんに誰を呼ぼうか迷った。誰に声をかけて誰に声をかけないか。これが悩みとなった。結局、まずはご近所にお住まいで翁庵寄席に常連で観に来てくださっている方を優先させていただいた。それに私の古くからの知り合いに何人か声をかけたら、それでもう満員御礼となってしまった。『東京かわら版』に一応[売切御礼]として情報を出したが、問い合わせはかなりの量にのぼった。今回ご来場できなかった方、ほんとうにごめんなさい。

        去年のクリスマス・イブに『中学生日記/父と娘の人情噺』が放映された。これはモロ師岡が脚本を書いたもので、噺家の役を小宮孝泰さんが演じた。小宮さんには中学生の娘がいて、自分の父親がテレビなどに出て軽薄な姿を曝しているのをひどく恥じているという設定。ラスト近く、小宮さんの噺家が『子別れ(下・子は鎹)』を寄席で演るシーンがある。約4分で、あの長い噺を演ってしまったのだが、それを実演してくれるという事に決まった。それじゃあいっそのこと、喬太郎師匠にも『子別れ』をとリクエストすることになった。なにしろ喬太郎の『子別れ』は私はまだ聴いた事がないものの噂だけは耳にしている。他の人の『子別れ』とは大きく変わった喬太郎流『子別れ』だということだけはよく伝わってきているのだ。

        今回は翁庵寄席のスタッフも全員が揃った。テキパキと手分けして会場作り。私が口を挟む事もほとんど無くなった。

        出演者、小宮孝泰さん、ラサール石井さん、柳家喬太郎師匠の順で到着。仲入りで売る森本サンゴさんの新刊コミックス『噺家の女房』に3人のサインをいただく。20冊用意した本ははたして何冊売れるか。

        お客さんも続々と到着。定員約35名の店内は満員になった。今までは、恥ずかしがりやの私はお客さんの前には出ないでいた。それが今回からちょっと考えが変わった。いきなり開口一番で八戒さんに出てもらうよりも、私がマエセツで出た方がお客さんの気がほぐれるのではないかと思ったのだ。ヘタでもいいから、ちょっとお客さんの前で挨拶をすることにした。

        私の出番が終わると、もう喉がせカラカラになって幕の後に戻る。水をグラスに注いで駆付け三杯。緊張したあ。立命亭八戒さんにバトンタッチ。この人は、去年二回も街頭インタビューでテレビに登場している。一回目はメタボリック・シンドロームのインタビュー。二回目がサラリーマン川柳の発表で街頭インタビュー。ここでは何と即興で川柳を作ってしまうという落研出身者ならではの芸を見せていた。この人、街頭インタビューをする時と場所を知っていて、その場に何食わぬ顔で現れているのではないかと思えてしまう。当然マクラはその話。ネタは『強情灸』。ほお〜、案外と本寸法で演るじゃない、この噺。

        『東京かわら版』にはシークレット・ゲストとしておいたラサール石井さん。しかし、シークレット・ゲストにしてくれと言い出したのは、3月になってから。もう口コミでお客さんを集めだしたころには、ほとんど喋ってしまっていた(汗)。そこでマエセツで、「誰がゲストなのか知っていた人も、メクリが返ったら、『えーっ!』とか『ほおーっ!』とかという声を出して驚いたフリをしてください」と言っておいたのだが、ほぼ全員が驚いたフリをしてくださる。もちろん中には本当に知らないでやってきて驚かれた方もいるようだったが。タレントさんだけあってマクラはさすがに上手い。お客さんをキッチリと掴み、大阪のおばちゃんの話などをしながら上方噺へうまくお客さんを引き込んでいく。ネタは『ないもの買い』。もともと上方落語には詳しくないのだが、これはそんな中であまり演る人が少ないのではないだろうか。私は初めて聴く噺。較べようがないんだけど(笑)。実にこれが初高座とは思えない上手さだった。春風亭昇太師匠に稽古を見て貰ったそうだが、カミシモの付け方などを厳しく教わったそうだ。この日の着物も昇太師匠からの借り物。なぜか腰紐が入っていなくて、あとから出る喬太郎師匠のものを借りた。

        小宮孝泰さんは4分の『子別れ』だから、マクラをたっぷり。こちらもタレントさんでもあり役者さんだからトークはお手の物。映画や芝居の体験談や失敗談でしっかりと笑わせる。『中学生日記/父と娘の人情噺』内の『子別れ』は、これまた春風亭昇太師に台本をチェックしてもらい、喬太郎師に稽古をつけてもらったもの。なんだか、昇太、喬太郎が作る赤信号の会の様相を呈してきた感じ。4分という短い時間でもグッと涙が出そうになる演出で、さすがでした。

        仲入り。森本サンゴ自身のサインと、本日出演の3人のサインが入った『噺家の女房』はさすがに大人気。あっという間に完売となってしまった。

        楽屋に喬太郎師匠をお迎えに行く。「そろそろ、よろしいでしょうか?」 「はい、では行きましょうか」 「師匠の『子別れ』は何分くらいのものなんですか?」 「20分か・・・30分か・・・40分か」 「(笑)ご自由にお願いします」 出囃子が鳴って手拭いに扇子で[人]の字を三回書いて飲み込む。「ご苦労様です」 いよいよ柳家喬太郎師の出だ。吉原から帰って来た熊五郎が女房に、言い訳どころか吉原の女との惚気話を始めるところから入った。ここからもう亀吉が登場するのだが、妙に大人びていて、可愛げのない子供として描かれる。「おとっつあぁん、吉原の女はいかがでした? おいらも早く大人んなってご一緒してえなあ」と来る。次が熊五郎と引っ張り込んだ吉原の女との生活の場面。なんにもしない女の自堕落な様がゾクゾクッとするほどリアルだ。こうして、いよいよ『子別れ』の(下)に入っていく。ここでも亀吉は可愛くない。こまっしゃくれたガキとして描かれる。なにかと物事がわかっている感じで、逆に父親を説教したりする。小遣いを貰って家に帰ってからの母親との遣り取りも、子供が盗んだものと勘違いするくだりが無い。本来ならここが最初の泣かせどころになるはずなのだが、喬太郎はスッパリとこの部分を切り捨ててしまうのだ。それどころか玄翁や金槌といったキーワードすら放棄してしまう。どうなることかと聴いているうちに、鰻屋の場面になる。ここでも喬太郎流亀吉は本領を発揮する。鰻重ではなく、蒲焼だけ何枚も何枚も食べるのだ。それが父親に対する復讐だと考えているらしい。「鰻も本当に旨いのは最初の三枚くらいまでだな。あとは気持ち悪くなってくる」 このあと、「もう一つ喰おうかな」と言い出す。「無理すんじゃねえ」と諭す父親に、亀吉は「三人で喰おうぜ」と言い出す。「おっかさんの作るご飯、旨えんだよ。知ってるだろ。だけど旨くねえんだよ。二人で喰うからよ。なあ、三人で喰おうぜ」 これでジーンと来てしまう。サゲは玄翁を仕込んでいないからどうなるかと思ったら、オリジナルなものに変わっていた。

        一席終えて、小宮さん、石井さんも交えてのアフタートーク。「三人で喰おうぜ」は実際にそう言った子供がいたという裏話。サゲを変えたのは、以前本当に玄翁の仕込みを忘れてしまったことがあって咄嗟に作ったものだとか。喬太郎が石井さんは、カミシモがキチンと切れていると褒めると、石井さん「そこのところは、昇太くんに厳しく言われましたから」 喬太郎師「それが出来ないと素人っぽくなっちゃう」 小宮さん「ボクも昇太さんに言われたことがあるんですが、マクラから噺に入ってから声の大きさを変えてはいけないって」 喬太郎師「ああ、なるほど」 小宮さん「でも昇太くんって、マクラも噺も普段も、みんな同じ喋り方なんだよね」


April.8,2007 爆笑エレベーター事件

4月1日 昇太ムードデラックス (本多劇場)

        開演時間ちょうどに客席後方から現れた春風亭昇太、まずは私服姿でスタンダップ・トーク。中学生に追いかけられた話に続いて、エレベーターに閉じ込められた話。紀伊國屋ホールでラッパ屋の芝居を観終わったあと、劇団の人や、小宮孝泰さんと三平酒寮へ飲みに行く事になり、紀伊國屋で買物があったので、他の人には先に行ってもらい、15分ほど遅れて三平ストアのエレベーターに乗ったところ、途中で止まってしまう。「とりあえず、仲間に連絡を入れようと、小宮さんの携帯に電話したんですよ。『今、エレベーターに閉じ込められちゃってるんです』 すると、小宮さん『あっ、そうなの。じゃあ早く来てね』って」 ようやく開放されて、みんなのところへ行くと、昇太は実はオネーちゃんと会っていたらしいという話になっている。「オネーちゃんと会っているのを、エレベーターに閉じ込められたという理由にするなんて事にしたら、それはサイテーじゃないですか」

        すぐに落語に入るのかと思ったら、着物に着替えてくると言って、代わりに高座に上がったのが神田山陽。どうやら、この日、取材のカメラが入っていたらしい。『長短槍試合』の修羅場を読むのに、閊えてばかりで悔しそう。長い槍を持った集団と、短い槍を持った集団の闘い。作戦を立ててでのんびり休んだ長い槍組、稽古に明け暮れて試合に臨んだ短い槍組。さて軍配はどちらに。なんだか太平洋戦争のアメリカと日本の縮図を見ているようだ。日本人は、こんな教訓が戦国時代にあったというのに、愚かだったとしかいいようにない。

        「山陽さんは激しい稽古をしたわけじゃないのにボロボロ」 春風亭昇太一席目は『長命』。この話、昇太は前半のエロチックなところが自分には合わないと今まで演らなかったそうだが、後半のおかみさんのところが演りたかったらしい。その昇太のおかみさんも、物凄い化け物のような人物ではなく、どこか可愛さのあるおかみさんなのが面白い。サゲの「オレは長命だ」と言ったあとでガッツポーズをするところは、いかにも昇太らしい。この噺、普通は『短命』という演題にすることが多いが、『長命』とすることもある。きっと、あのガッツポーズが演りたくて『長命』の方を使ったのだろう。

        その場でとSWAの着物に着替えて新作モードに切り替え、自分の祖先のことなどをマクラに振って『空に願いを』へ。走るのが遅いというコンプレックスを持った少年。クラスのイタズラで運動会のクラス対抗リレーのアンカーにされてしまう。雨が降って運動会が中止になればいいのにと思っていると、彼の家雨宮家は、代々雨乞いの儀式を司る家柄だと知らされる。少年の名前は雨宮降太(フリーターとバカにされている)。おじいさんのイグレシアス(のちに、おじいさんの名前が降男だということがわかる。フリオ・イグレシアス)に雨乞いの儀式を教わることになる。この噺、なかなか良くできていて、『ベスト・キッド』を思い出すといえば、わかる人も多いのではないか。

        仲入り後は『崇徳院』。若旦那の病気の訳を聞きに行く熊さんのキャラクターが乱暴でいい。「病気なんて気のせいだからバーッといきましょ」と騒々しく若旦那の寝床に押しかけていく様が爆笑もの。上野の山で出合ったお嬢さんの持ち物を拾ってやると「ありがとうございました」と、落ちてきた短冊を若旦那に渡す。熊「アリババと40人の盗賊?」 「違うよ、『ありがとうございました』と言ったんだよ。その短冊には『瀬をはやみ岩にせかるる滝川の』と書いてあったんだ」 「・・・・呪文? 岩を動かす呪文?」 「そこから離れろ!」

        終演後トーク。「終演予定時刻4分前。長く演りやいいってもんじゃありませんからね。志のさんとは違いますから」と、Vサインで決めた。

        ロビーに出ると、小宮孝泰さんの姿が。「あれ(エレベーター事件)実話なんですか?」 「うん、そう。オネーちゃんといるらしいと言ったのはオレなんだよね」 「どのくらい閉じ込められていたんでしょうねえ」 「う〜ん、4〜50分じやないかなあ」 このあと、2週間後に迫った翁庵寄席のことなど軽く打ち合わせて、私は劇場をあとにした。


April.1,2007 ダイナミックな『たちきり』

3月31日 第19回YEBISU亭 (恵比寿ガーデンプレイス/ザ・ガーデンルーム)

        ワンドリンク付きとのことで、カウンターで飲み物チョイス。当然エビスビールっしょ。でもこれ飲んじゃうと落語に集中できなくなっちゃうから、カバンに入れてお持ち帰り。

        まずは柳家初花三遊亭王楽による謎かけ。あらら、最初っから大喜利なのね。お客さんからお題をもらって即興で答を出す。[さくら] [めがね] そして今日のゲスト[上妻宏光]とお題が出て、この中から謎かけを作る。初花「めがねとかけて、嫌な上司ととく。答は、いつも目につきます」 あとは滑ってた感じ(笑)。

        オープニングコント。中学校の学校寄席といった設定。授業開始のチャイムが鳴って柳家喬太郎が今日は寄席教室ということで、寄席のお囃子さんを紹介することに。出てきたお囃子さんは白鳥ウメさん(おばあさんのカツラを被った三遊亭白鳥)。三味線を持って出てくるが、今日は弟子を連れて来ていると言う。それが上妻宏光。
まずは、上妻に軽く弾いてもらう。喬太郎「ダメだね。心地よいもん」
今度は白鳥に「歌丸師匠の出囃子弾いてもらえる? 大漁節」 白鳥が弾いたのは(口三味線だけど、どう考えても、これは『東京音頭』)。喬太郎「いいねえ、むかつく三味線だもん。落語とはバトルだからね、これからやろうという気になる」
こんなベタなコントがしばらく続く。白鳥が「いつもこんなコント演ってるわけ? いつまでこんなコント演るの?」 喬太郎「(ボクは)この会出ること多いんだけど、花緑兄さんも、たい平も、彦いちも喜んで演っているよ。嫌がっているのは昇太だけ」 白鳥「背も小さいが心も小さい」

        「上妻宏光さん、カッコいいでしょ。恵比寿にいてもおかしくないじゃないですか。そこへいくと、白鳥、喬太郎は合わないでしょ。一度ウチアゲの場所が代官山ってことがありましたが、行っちゃいけないでしょ、私らは」 柳家喬太郎は、そんなマクラをふりながら『東京タワーラブストーリー』。39歳の独身男が、ネットで知り合った23歳の女性とデートすることになる。前半はこの男が先輩にどこへデートに行けばいいか相談する場面。ここでかなりの笑いを取る。東京に住んでいると、このへんのギャグが大いに受けるところ。後半はいよいよ、リカちゃんとひろしの東京タワーデート。JR浜松町駅で待ち合わせて、東京タワーへ。タクシーで行こうというひろしにリカちゃんは歩いて行きたいと主張する。「一歩一歩歩いて感じたいの、土踏まずに」 そして東京タワーもエレベーターではなく徒歩で登りたいと言うリカちゃん。「一歩一歩噛みしめて登りたいの、土踏まずに」 ヘトヘトになって登って行くひろし。そして、登りついた展望台で待っていた事とは・・・・・。落語協会の新作台本募集で応募された噺にしては、まるで喬太郎が作ったといってもおかしくない、喬太郎ワールド。

        まあくまさこの司会によるトークショー『今夜踊ろう』。どこかすっ飛んでいるまあくさんという女性のキャラクターが、トークショーを引っ掻き回している感じ(笑)。この日の出演者喬太郎、白鳥、上妻宏光を相手に仕切っているのだが、さらに白鳥がボケをかますので、話がとんでもない方向へ。なんとか話を正常な方向に持っていこうとする喬太郎が可笑しい。白鳥「初めて北海道へ行きまして、ウチアゲで毛蟹4匹ぼくにくれまして」 まあく「普通、三匹ですよね」 喬太郎「・・・・・」 白鳥「もうカニでお腹いっぱい。それで気がつきました。美味しいものでもたくさん食べると不味くなる」

        オープニングに続いて、ここでも謎かけ。白鳥、喬太郎、それに上妻宏光まで参加。お題は三味線。白鳥「三味線とかけて、まあくさんととく。そのこころは、バチあたり」 喬太郎「三味線とかけて、酒飲みのもう一本ととく、そのこころは、チョーシのキメが気になります」 上妻「三味線とかけて、順番を待っている外国人ととく。そのこころはジョンから(じょんがら)どーぞ」 さすが二ツ目よりうまい。それにしても上妻宏光まで笑いのセンスがあるとはねえ。

        このあと、三遊亭白鳥が『たちきり』を演るという知らせがある。「ボクは古典を作り変えちゃうということをやりますが、これはキッチリ演ります。地元の高田の83歳の芸者さんのために何か落語を作ってくれっていわれたんですけど、そんなの出来ない。それで落語に詳しい人に相談したら、上方に『たちきり』という噺があると教えてくれまして。舞台を上方から高田に移した噺にしまして・・・」 するとすかさず喬太郎「お前さあ、東京だってお演りなっている師匠たくさんいるだろ。ウチの師匠(柳家さん喬)とか、入船亭扇橋師匠とか。楽屋で聴いたことなかったの?」 「オレ、人の落語聴くの嫌いなの!」 不貞腐れてビールを飲みだす喬太郎がまた可笑しい。

        こうして仲入り後に始まった三遊亭白鳥『雪国たちきり』は見事だった。「作り変えていない」といっても、そこは白鳥、雪国高田を舞台にすることによって大きく変わったといっていい。定吉の話す信濃川の綱引き→ささくれ立った竹でバシバシ。直江津の海にみかん船で出て鮫に襲われ食べられる→鮫にささくれ立った竹でバシバシは、まさに大笑いの白鳥ワールド。そしてラストの上妻宏光の三味線が入る若旦那の告白場面。「こんな雪国なんて嫌だなんて言ったら、雪が降ると泥だらけの汚い道も、真っ白にしてくれるじゃないなんて言っていたよな」 この台詞ひとつで雪国の世界が頭の中に浮かんできた。そこへ上妻宏光の津軽三味線が。こんなダイナミックな『たちきり』はかつて聴いた事がなかった。すごいな、白鳥。


このコーナーの表紙に戻る

ふりだしに戻る