November.25.2007 ハイデサッサー、ホイサ!

11月24日 花形演芸会 (国立演芸場)

        開口一番前座さんは橘ノ美香『子ほめ』。頑張ってね。

        瀧川鯉之助『肥がめ』。いかん、いかん。このネタかあ。慌ててコンビニで買ったオムスビを早くペットボトルのお茶で飲み込む。

        隅田川馬石が『締め込み』。湯屋帰りのおかみさんの登場で噺が明るくなる。馬石の女性は色っぽくていい。

        いつも和楽社中で演っている翁家小花がピンで。なかなか喋りも上手い。「変な宗教ではありません。『拍手しないと、地獄に落ちるわよ』なんて言いません」 バチの曲芸から五階茶碗。背も小さいけど手も短い小花ちゃん、一番上に乗せる茶碗も腰を屈めて大変そう。それでもタテモノを額に乗せて横笛を吹く荒業まで披露。『上を向いて歩こう』 お見事!

        「お客さんに呼ばれることがあるんですけれどね、駄洒落好きの人っているもんで、よく聞かされるのが『寄席はよせ』ってやつ。今年、私は100回聞かされましたよ。『これ、使っていいよ』なんていいますけど、使うわけない」と、三遊亭円馬『蒟蒻問答』

        仲入り後は、なぜか色物ばかりの構成。林家二楽の紙切り。鋏試しの『桃太郎』に続いて、お題の『老いらくの不倫』と『アンパンマン』。「いろいろ無茶な注文をいただきますが、闇夜のカラスとか透明人間なんて、まだカワイイもんですよ。先日、酸素と二酸化炭素なんてお題をいただきまして、悩んだあげく元素記号を切り抜いてあげようと思ったんですが、その元素義号が思い出せなかった。理科をもっと勉強しとけばよかったと」 最後は相撲取りの紙切り影絵ストーリー『どすこい! 青春』を『飛び出せ! 青春』の音楽に乗せて。

        U字工事の漫才。スナックネタから、警察の検問、不動産屋まで、栃木弁をフルに笑いにして湧かせる。

       トリはポカスカジャン。ロッキーの邦楽、大伴家持アフリカン、俺ら東京さ行ぐだボサ、津軽ボサ(あれ?歌詞がまた変わった)、はぎ名人民謡(ハイデサッサー、ホイサ)、お酌スキャット、笑点ベンチャーズ。この人たち、どんどん新ネタが増えてるね。


November.24,2007 新作落語は立川流から生まれる?

11月23日 『平成噺座 新作改作落語の会』 (博品館劇場)

        野末陳平の演っている前座・二ツ目の会。初めて行ってみた。開口一番の前座代わりに野末陳平が出てきて前説のようなものを語る。『ミシュランガイド東京2008』を持ち出し、「だいたいフランス人なんて味音痴なんだから。素材なんてわからない。ソースで味ごまかしてる人種。あいつらに旨いものなんてわかるわけない。だいたいここに載っている店、ほとんど一見の客お断りの店だよ、電話したって入れてくれないよ」と煽る煽る。でも、本人これ買ってるんだもん。こっそり行ってそうだね。

        立川こしらは、平均年齢70歳以上という草野球チームで野球をやっているというマクラ。ことらは、もっぱら守備に回され(打撃はジイさんたちばかりの役回り)、セカンド、ショート、センターの三つのポジションを一遍に任されるというムチャクチャな野球チーム。中に東海林さだおさんがいるって、ははあ、かのNeetlesかあ。ネタは『さるかに合戦』。童話の『さるかに合戦』を下敷きにしている。腹が減って倒れている町人に握り飯を与えた侍。町人はお礼にと柿の種をくれる。その柿の種を土に埋め、「早く成長しろ」と刀を突きつけて脅すと柿の芽が出てどんどん大きくなり木になり実をつける。侍は町人に木に登って柿を取って来いと言う。町人は木に登り柿の実を取って侍に放るが、それを受け取りそびれて顔面に当ててしまったから、さあたいへん。無礼者!と暴れだす。慌てて逃げる町人。一旦屋敷に帰った侍は仲間を集めて町人の家に乗り込んでいく。う〜ん、町人にとっては不条理だよなあ。サゲがうまく効いているので、これが言いたかったのかも知れないけど(笑)。

        立川志の吉『シブカジ食堂』。アニキと与太郎が渋谷の食堂に入る。ここは、なんでも短縮言葉で話す店。500円のランセ(ランチセット)を頼むとカラアゲとキンピラと麺とサラダとドリンクとパラダイスが付くという。「パラダイスって何ですか?」 「パンかライスかダンゴかイモかスイカ」 こういうお店だから、カラアゲもキンピラも、あるものの短縮言葉。まともなもんじゃない(笑)。サゲになる、タイトルの『シブカジ食堂』も短縮言葉だったというのがミソ。さすが志の輔のお弟子さん、目の付け所がユニーク。

        「今年、ファイターズに入団が決まった中田は10年に一人の逸材なんていわれていますが、野球の世界では10年に一人の逸材なんてのが、それ以上ゴロゴロしている。そこへ行くと寄席の世界では、10年に一人の逸材って・・・いるでしょうか? まあ、10人にひとりくらいは頑張っているのがいるのがいますから、是非寄席の方にも来て下さい」 春風亭栄助『桃太郎DV』。古典の『桃太郎』を演ってから、それをアメリカの家庭に置き換えたらどうだろうという発想が栄助らしい。しかも、いかにもアメリカン・ジョークな言い回しの父親がいい。チェーンソー振り回す噺されたら子供は、ますます寝られなくなりそうだけど、そのテンションが上がりっぱなしの噺を、どこか醒めた栄助が演ると、不思議にセーブされるから、この噺、ますます面白くなる。

        仲入り後はゲストの立川談笑。古典の改作ならこの人とか、快楽亭ブラック。ははあ、立川流のお家芸か? なるほどこの人の『超(スーパー)落語 立川談笑落語全集』の目次を見てみてると、『げろ指南』(あくび指南・改)、『シシカバブ問答』(こんにゃく問答・改)、『イラサリマケー』(居酒屋・改)、『叙々苑』(百川・改)、『ジーンズ屋ようこたん』(紺屋高尾・改)、『シャブ浜』(芝浜・改)なんてのが並んでいる。その中から『薄型テレビ算』を。もちろん『壷算』の改作。40型の薄型テレビを秋葉原に買いに行く噺で、これは確かに『壷算』よりも数倍上を行っている(笑)。

        終演後のトークは、お客さんからの質問コーナー。当然、落語、落語界のことに質問が集中。「真打昇進はいつごろですか?」 「皇室で演るとしたら、どんな小噺を演りますか?」 「今まで一番過酷だった営業の仕事は?」 「海老名家との関わりはありますか?」 「師匠を変えるとしたら誰にしますか?」など。内容は、ほとんどネットには書けませ〜ん(笑)!


November.18,2007 菌之輔蔓延

11月17日 『錦マニ パンデミック』 (なかの芸能小劇場)

        古今亭錦之輔の独演会。毎回付くサブタイトルのようなものが意味不明なことが多いのだが、今回はパンデミックときた。錦ラーだけでなく、いよいよ世の中に錦之輔落語が蔓延なるのか。「来年、真打昇進が決まりました。それも名前が変わります。なんと今輔ですよ。六代目今輔。普通、こう言うと、『えっ! 本当に! よかったね』という言葉が返ってきそうなもんですが、ボクの場合、『大丈夫?』ですからね。先代の今輔といえば、おばあちゃん落語で一世を風靡した方です。それがボクの持ち味ときたら、くだらないのが売り。チョココロネを高座で本当に食べちゃうなんてのを演るんですから。みなさんね、披露興行来て下さいね。そして一斉にチョココロネ・コールお願いします。ボク、袂にチョココロネ忍ばせて行きますから。怖気ずくかもしれないけど、演ってしまうかもしれない」 「名前が変わるんで色紙のサインも変えなくてはなりません」と色紙を頼まれると書いていたという錦之輔色紙3パターンを公開。今輔襲名を高座で明らかにしたのは、この日が初めて。いよいよ錦ラーという名前は無くなる。次は今ラー? 錦が今(今は菌とも読むなあ)になって蔓延するのか!?

        一席目はネタ下ろしの新作『バクダン』。携帯電話を拾ったことから持ち主の女性と親しくなったという男の話を聞いた男が、自分もやってみようと思いつく。渋谷の駅前に行くと、なんと本当に携帯電話落ちている。これを拾ってみると突然にメールが入る。「センター街のゲームセンターのUFOキャッチャーにバクダンを仕掛けた。10分以内に取り出せ」という。男はゲームセンターで、バクダンを取ろうとするが・・・。オチが二段になっているサービスぶり。

        二席目は柳家金語楼が作ったという『変わりもの』という噺。奉公先の主人が大の変わり者で、当たり前のことを言うと逆鱗に触れる。朝、「おはようございます」と言っただけで首になった男の替わりに奉公を始めた男、とにかく変なことを言おうと、もう意味不明のシュールなことしか言わなくなる。聴いていて筒井康隆あたりが書きそうな話に思えた。寄席で演ってぜんぜん受けなかったそうだが、これ、確かに突然聴かされたら唖然としちゃうよなあ。金語楼は、これで受けたのだろうか?

        ゲストはナイツの漫才。塙のマニアック物真似から。内海桂子が最近の若手芸人にダメ出ししているところ、玉川スミが高座に向うところ、残り少なくなったムースの音、残り少なくなったスプレーの音、携帯電話のバイブレーターの音、ATMの通帳記入、野良猫の喧嘩、野良犬の喧嘩。それからのネタはフジテレビ女子アナ高橋真麻から始まるクイズネタと、SMAPでたらめプロフィール。

        錦之輔三席目は、以前から演っているネタの『サムライスピリッツ』。侍に憧れた椿丹十郎。もちろん噺は現代。いつも着物姿で髷を結って日本刀を腰に差している。街を歩いているとチンピラに絡まれている女性を見かける。一刀のもとにこのチンピラを斬り捨てる。さらに外国人やら予備校生を次々の殺傷。連続殺人事件の犯人になってしまうという噺。拍子抜けするようなサゲが可笑しい。

        くだらないといえば、くだらないのかも知れないが今輔になってもこの路線で行って欲しい。落語芸術協会で一番意欲的に新作落語を作っている錦之輔なんだもの。いよーっ! 六代目! 任せたぜ!


November.17,2007 志の輔版『柳田格之進』の切れ味

11月4日 『関内寄席 立川志の輔独演会』 (関内ホール)

        今最もチケットが取りにくいのが志の輔だろう。毎月、明治安田生命ホールでやっている会など、今やまともに並んでも取れない。横浜、しかも定員千人クラスならと思ってチケットぴあに並んだのだが2階席。関内ホールはどうも音響がイマイチなので行きたくないのだが、こんな機会でもなければ志の輔はもう観られない。

        前座も無しで立川志の輔三席。一席目、マクラで白い恋人に続いて今度は赤福の賞味期限偽装問題を取り上げ、賞味期限とは何かという疑問を呈して、品質表示ラベルから、落語を聴きに行くのには、演目もわからずに行くといったことが多いといった話題へ繋げていく。たっぷりのマクラから『猫の皿』へ。序盤、茶店の主人と旅の商人の間で交わされる会話が楽しい。「団子を貰おうか。一皿何本だい?」 「へい、15本でございます」 「えーっ、なんでそんなに乗ってるんだ?」 「だんご(三五)15」 商人が猫嫌いだという設定の前振りと、なんとか皿が欲しくて猫好きに見せるよう演技するところ、そしてまた猫嫌いぶりを見せる後半。その変貌ぶりが楽しい。

        「結婚式の挨拶で、唖然としたのを聴いたことがあります。再婚した男性の挨拶だったんですが、『変えて(再婚)してみても変わりなかった』って、場内大受けでした」と二席目は、そんな夫婦を描いた『はんどたおる』。どこの夫婦も似たようなものなんだろう。志の輔のこの噺は、とにかく受ける。結婚式の再婚した人の来賓スピーチなも負けない。

        三席目は『柳田格之進』だ。とにかく長い噺である。それを志の輔は前と後をバッサリと切るという作業をしている。いきなり五十両がなくなったと番頭が主人に告げる場面から入り、客をグッと噺に引きずり込む。なるほど、初めてこの噺を聴く者でも、こういう導入の仕方の方が噺への興味がすぐに入りやすい。そして、ラスト。志の輔は後日談をバッサリと切って捨てる。碁盤を刀で真っ二つにするのと同じように、バッサリと斬り捨てる。その心意気やよし。確かに後日談があれば客は納得の晴れ晴れしい気分でなんとなく納得して家路につけるだろうが、そんなものは考えてみるといらないのだ。格之進は、庇い合う主人と番頭のうっとうしさをも振り払うように碁盤を叩き斬る。そして「悪かったの。大切な碁盤を」 そして主人の「今しがた、人生の白い黒いがつきました」でサゲになる。ちょっと理に落ち過ぎたサゲにも思えるが、いまのところ志の輔の『柳田格之進』は無駄が無く凛とした出来になっている。


November.15,2007 お登りさんの失望

11月3日 『マウストラップ〜ねずみとり〜』 (博品館劇場)

        むか〜し、いつかはロンドンへ行って、アンバサダー劇場でアガサ・クリスティの『マウストラップ〜ねずみとり〜』を観るのが夢だった。それがいまだにイギリスの地すら踏めていない。まあ、おそらくこれから先もイギリスに行くことなく生涯を終えるのかなあと思っていたら、博品館で『マウストラップ』がかかるではないか。チケットが7500円と少々高いような気がするが、な〜に先週は、かの『犯さん哉』8500円。安い安い。ロンドンまで行ったと思えばバカ安だ。

        でもー、観終わって少々失望した。いや、大いに失望してしまった。これなら『犯さん哉』8500円の方がよかった。まず、この戯曲、ぜ〜んぜん面白くないのだ。雪に閉ざされた山荘で起こる殺人事件。はたして犯人は? その動機は? ちょうど休憩前に殺人事件が起こることになるのだが、もうこの時点で犯人の見当がついてしまう。だって、○○と名乗る人物が出てきたら、それはもう絶対に○○ではないというのは鉄則でしょ! これって、アガサ・クリスティの戯曲の中でもデキはよくない。『検察側の証人』くらいのものを想像していたのだが、大ハズレ。

        それにしても、こんな戯曲でよくロンドンで何十年にも渡ってロングランしているものだ。きっと、お登りさんの定番コースなんだろう。私もそうなるところだったのだが。

        ホンのデキが悪いくらいなら、まあ我慢するとして、翻訳も古臭い。[目無しねずみ]というのは勘弁してくれないか。[フーテン]というのも今では死語だろう。寅さんでかろうじて残っているだけ。

        役者さんたちも、翻案ものに振り回されてすぎているような気がする。その中で、しっかりとした演技を見せてくれたのは淡路恵子。


November.11,2007 8500円は高いか安いか

10月28日 『犯さん哉』 (パルコ劇場)

        ケラリーリ・サンドロビッチ作・演出、古田新太主演となれば期待せずにはいられないだろう。ところが、始まってみれば悪い噂ばかり。あまりにくだらないという評価が聞こえてくる。「劇評を書くにもあたらない」などと新聞の劇評欄に書かれたりして散々。それに対してケラ側は、最初から、徹底的にくだらない芝居を作ると豪語していた。いわば確信的にこれを作ったわけで、これは頭の中をゼロにして行かねばなるまい。

        古田新太という、そのままの名前の人物の少年時代から中年になるまでの出来事が語られていくのだが、もうこれがコント集のようなもの。ストーリーと呼べるものはなくて、ひたすらナンセンスな舞台が続いていく。その間、古田の衣装はというと、ほとんどブリーフ一丁で通す。かなり引いてしまうしまう人と、そのナンセンスな笑いに反応する人に分かれてしまったようだ。私はというと、結構楽しんでしまって、ゲタゲタ笑っていた。

        ただ、おそらくケラは、これ、かなり書くのに苦しんだのではないだろうか? キーワードにゴーストライターなんていうのも出てくるし、ギャグはかなり子供っぽいのが目立つ。糞尿ネタが出てくるのも子供への退行現象のような気がする。前半はまだ理で笑わせるギャグが多いのだが、第三部に入るともうムチャクチャになってくる。特に古田が出演者全員に、おかしな呪文を唱えさせるあたりは、さすがに私でも引いてしまった感じ。で、ラストは、ああやはりそう来たかという終わりかた。収拾つかなくなると、そうしたいだろうけど、それはあまりに安易だったんじゃないのかなあ。

        入場料8500円。そのことをギャグにしたつもりの台詞もあったけど、確かにこれ、8500円の芝居だったろうかと思うけれど、いやいや、世の中には一万円以上取って、もっとひどい芝居って多いよな。 


November.10,2007 9.11を見つめなおす

10月27日 燐光群
        『ワールド・トレード・センター』 (ザ・スズナリ)

        9.11事件。当日のマンハッタンにある日本人向け情報誌の編集室での出来事を通して描いた作品。ここのスタッフは全員日本人だから、当然日本語で物語は進行する。[日本人の駆け込み寺]という台詞があるように、ここには編集スタッフ以外にも、いろいろな日本人が出入りしている。

        ワールド・トレード・センターと、ストレートなタイトルだが、あの事件のことも語られるが、意外と事件そのものよりも編集室内での日常を描いている部分が多い。唯一の外国人俳優エド・バサロが演じるのはブロードウェイのアンダースタディ(代役)役。編集部内で突然に芝居の発声練習やらエチュードが始まってしまったり、日本語のカタカナの話題やら、省略形(ワールド・トレード・センターなら日本人はワートレと縮める)の話題。外では同時多発テロが起こっているというのに、その件で持ちきりというわけではないというあたりが日常なんだなあと思わせる。

        悪い芝居ではないが、後半、モノローグが多くて、観ていてやや気恥ずかしい気分になったのは私だけだろうか? それにしても、「この事件がアメリカで起きたのではなければ、こんなに問題にならなかっただろう」というのは本当だろう。テロ対策特別法で揺れる国会と重なって、タイミングのよい芝居となった。 


November.4,2007 水と油?

10月20日 毛皮族
        『おこめ』 (本多劇場)

        健康的なエロスを売りにする毛皮族が、暴力的エロスを売りにするポツドールの米村亮太朗を迎えての公演ということで、いったいどうなることかと思って期待して観に行った。

        舞台は二部構成。第一部は戦中戦後に世の中を震撼させた強姦魔小平義男を描いたドキュメンタリー。もちろん小平義男役が米村亮太朗なわけなのだが、米村の狂気が毛皮族の女性たちを相手にすると、その暴力性がスルーしてしまう。なんだかせっかくポツドールから米村を招いた割には物足りない気分になった。かなり後の方の席から観たせいもあって、緊迫感はまるで伝わってこない。毛皮族のホワホワした、エロスともいえない空間に米村が絡み取られてしまった気がしてならない。

        第二部は一転、華やかな舞台になる。なんと『スチュワーデス物語』とジェームス・ボンド・シリーズをミックスしての大パロディ大会。江本純子はかなりのボンド映画マニアらしく、ボンド映画のミニ知識がふんだんに出てくる。様々な大道具、小道具も飛び出し、歌ありダンスありで、それはそれで楽しい。となると、ここでも米村亮太朗の存在が、なんとももったいない使い方になってしまっている。

        いっそのこと、今度は江本純子や町田マリーをポツドールへ迎えてという企画はどうだろう。って、かなりいじわるな発想かなあ。


November.3,2007 広告主様ご招待

10月20日 『東京かわら版400号記念』落語会 (よみうりホール)

        トリが小三治で、白鳥やら三三やらが出るという豪華版の落語会。これは是非チケットを取らなきゃと思っていたら、『東京かわら版』の裏表紙に広告を載せている広告主は無料招待とのこと。労せずして席を確保。しかもタダだあ! うれしいなっと当日受付へ行ってチケットを受け取る。「いつもお世話になっております」との社員からの言葉を貰うと、「えへん。広告主様だかんね」といい気持になる。といっても、毎月一万円の広告主。あまり偉くもないのだ。受け取ったチケットの席に座ってみると、これががっかりな席だった。1階席の、前からも後からもほぼ中央。しかも高座に向ってど真ん中。こういう会場の場合、この席はいちばん観にくい位置になってしまうのだ。というのも、よみうりホールは客席の傾斜があまり無い。こうなると、高座からある程度離れたところに座ると前の人の頭が邪魔になって高座に座った演者の姿が見えなくなってしまうのだ。もう少し右か左の位置取りならば見えるのだが、正面ど真ん中では見えない。これを解決するひとつの方法は高座をもう少し高くすることなのだが、あまり高くすると今度は他の場所から観る人にとっては不自然に写ってしまう。このために、私は自由に席が選べるときは左よりか右よりを選ぶことにしているのだが、貰ったチケットでは文句も言えない。このため、今回はほとんど演者の顔は見えず声だけ聴いていたようなもの。まっ、しょーがないか。こういったホールは落語のことまで考えていない作りなのだろう。

        幕が上がると、三遊亭白鳥と柳家三三がいる。仲入り後に白鳥が演る三題噺のお題をお客さんから募集するためだ。お題募集の前に白鳥と三三のトーク。なんと白鳥、この日の会場を勘違いしてイイノホールへ行ってしまったとのこと。「イイノホールの楽屋へ行ったら、『あっ、白鳥さんだ』と言われるし、楽屋に集っている人達も、どうも小三治師匠がでる会の人達とは思えない。ステージに上がってみたらリングが出来ている。ここ、『詩のボクシング』だっんですね。お茶まで飲んでしまって、慌ててこちらに来ました」 相変わらず天然だよなあ、白鳥師匠。それに三三が返す「だから『東京かわら版』は必要なんです」 東京かわら版にまつわるお題というシバリなのだが場をわかっていない人っているもので、[卵かけご飯]って、これは小三治でしょ。中には[リア・ディゾン]まであって、白鳥「ディア・リゾンって何? えっ? リア・ディゾン? なんだかわからないけど、これがいいなあ」 というわけで、三つのお題は[築地] [赤字] [リア・ディゾン]

        開口一番は円楽党からの二ツ目、三遊亭きつつき『黄金の大黒』。さすがに『東京かわら版』がこの日の会に選んだ二ツ目らしく、いい落語を演る人だ。「羽織持ってるかい?」 「えっ? かおり?」 「違うよ、羽織だよ」 「さおり?」 「だから、はおりって言ってるんだよ」 「そんな女知らねえ」

        神田ひまわり『東京かわら版物語』。釈台に原稿なのかメモなのかを置いての一席。『東京かわら版』の創刊から現在までの歴史を読み上げる一席。演芸開催の情報量も昔とは違うのだろうが、この数年のうちに開催される落語会の数も飛躍的に増えているのは、この情報誌のページ数がどんどん増えていることからもわかる。演芸の世界も面白い時代になってきたということか。

        柳家三三は、なんと珍しいネタ『不幸者』。三遊亭円生→三遊亭円窓と受け継がれて、三三が教わったらしいのだが、いやいや地味な噺なのだ。主な舞台が柳橋の物置部屋のような狭い空間。そこで昔道楽者で今は大店の旦那になった男と、昔、馴染みだった芸者が再会して、いろいろ思い出話をするという噺。サゲが気が効いているのだが、この地味な噺で1000人クラスのホール満員の客を飽きさせずに引き込んでいくところは、三三、なかなか隅に置けない存在になってきた。

        仲入り後は、お待ちかねの三遊亭白鳥三題噺。題して『東京かわら版紀行』。作りやすい噺をと考えたのだろう。『東京かわら版』の編集部がある[築地]の市場を舞台にして、そこでアルバイトしている三三の弟子タカシくん(どうも築地でアルバイト経験のある立川談春を思い出したらしい)と、グラビア・アイドルのミドリちゃん(リア・ディゾンはモデルだと誰かに教えられたらしい。しかし、リア・ディゾンは違った形で現れることになる)の恋愛物語と、その破局。そしてひょんなことからの再会の物語。ラストは、『東京かわら版』を持ち上げるサービスぶりの結末へ。短時間で考えたにしては、よく出来ている。天才なんだな、やっぱりこの人。

        柳家小三治は高座に座るや、「今上がった人と袖ですれ違ったんで、『楽しんだかい?』と言ったら、ハアハア息を切らしている。相撲で勝った人の様」 そこで白鳥の空間を断ち切るように、SONYのビデオカメラを量販店で買ったというマクラを、例のゆったりした話し方で始めて、客を自分のペースに持ち込んでいく。気がついたときにはすっかり小三治ワールドにこちらの気持が切り替わっている。そこから『出来心』へ。あれ? ここでそんな軽い噺をと思ったら『花色木綿』まで行って、いやいや長いのなんの。この噺、こんなに長く演る人はおそらく小三治だけではないか。

        このあと下北沢へ向う予定があったのだが、時間に余裕がある。日比谷公園をプラブラと散歩して霞ヶ関のイイノホールまで行く。確かにイイノホールでは『詩のボクシング』行われていました。



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